雑談で、今日の夕飯は七草粥のつもりで七草セットを購入済みだと話した際、妙に食いついてきたのは同期の同僚だった。
食いついてきたと言うか、自分にも食べさせろとしつこかったと言うか。
断固お断りしたいような苦手な相手ではなかったし、スーパーで見かけて勢いで買ってみたものの、米とのバランスを考えたら結構な量が出来てしまうのはわかっていたし、まぁいいかと了承した。出来上がる量を考えたら一緒に消費を手伝ってくれる相手が湧いて出たのは、こちらとしてもラッキーだったかも知れない。
米からお粥を炊くつもりで準備をしていたため、出来上がるまでに結構待たせてしまったが、粥の提供代として帰りがけのコンビニでいくつか惣菜を買わせていたのもあって、いざテーブルの上に並んだ夕飯はそこそこ豪華だった。
「おお〜すげぇ〜」
生の七草入れた七草粥なんて何年ぶりだろうと言う相手に、それは自分も同じだと返す。
実家にいたころは母が用意していたのを食べるだけだったし、就職して家を出てからは7日に七草粥なんて、存在自体を忘れている年だってそこそこあった。
今回は、先日たまたま買い出しに出かけた先で、七草粥用に売られたセットを見て、思いつきと勢いで買ってしまって、買ったからには作るかとなっただけでしかない。
「まず勢いでだろうと買っちゃうってのが凄いって。絶対買わねぇもん、俺なら」
せいぜいフリーズドライとかお茶漬けの素とか、と言った相手は、自分よりも7日に七草粥を食べるということに関して、多少こだわっているようだ。今年も一応、お茶漬けの素は用意してあるらしい。
「でも独身男が一人で生の七草から七草粥作って夕飯に食う話とかしてんの聞いたら、絶対ご相伴に預かってやろって思うよな」
「そう聞くと、ただただ図々しいな」
「本音は、下心で家に上がってみたかった」
「本気なら、」
ただただキモいなと続けようとして、けれど咄嗟に口を閉じた。口調は冗談っぽかったくせに、ふと見た相手の顔が、特にその目が、真剣そのものだったせいだ。
「本気なら?」
静かに繰り返されて、一気に緊張感が増す。
「本気なら……」
こちらも繰り返しながら、眼の前のこの男と交際したりの未来について、少しばかり考えてみた。
何が何でもお断り、ってほどの嫌悪感はないような気もするけれど、そもそも同性との交際経験がない。異性との交際経験ですら、ほぼほぼないに等しいと言うか、学生時代に彼女と呼べる存在が居た時期が多少ある程度で、つまりは恋愛だのセックスだのは今の自分にとってあまり現実感がない。
「現実感なさすぎてイマイチ」
大きくため息を吐いてそう正直に告げてやれば、相手はつまらなそうに口を尖らせた。
「何だよ現実感て。いまの、ちゃんと結構本気っぽい雰囲気出てたろ?」
「冗談丸出しだったら、ただただキモいって即切りだったわ。現実感がないってのは、今更誰かと付き合ったりっていう自分自身が想像しずらいって話」
「誰かと? 俺だから、っつうか男だからダメ、とかってわけじゃなく?」
「あー……同性とか、相手がお前とか、その辺はそんなでも」
「絶対無理ってことはない感じ?」
「まぁ、そう」
マジか、と呟いて考え込んでしまうから、もしかしなくても本気の本気で、下心込みで来てたのかなと疑いの目を向けてしまう。全然、気づいてなかった。
「あー……まぁ、下心ゼロじゃなかったのは事実だけど、生の七草と生米から炊いた七草粥食いたかったのが一番で、お前とギクシャクしたり変に拗れたりで仕事に支障きたすのはめちゃくちゃ困る。と思ってる」
「それは同感」
というわけで、とりあえずなかったことに、となったわけだけれど。その後、彼を多少なりとも意識するようになってしまったのは仕方がないと思う。
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