大事な話は車の中で

 ちょっとツラ貸せ、などという不穏な誘い文句で連れ出された先にあったのは見慣れぬ車で、助手席側のドアをわざわざ彼の手で開かれた後は「乗って」と促される。
「何この車」
「レンタカー借りた」
 そんなのは見りゃわかるし、当然、聞きたいのはそんなことじゃない。
「なんのために?」
「お前とドライブ行きたくなって」
「やだよ」
 絶対嘘じゃん。と思うと同時に、口からは拒否の言葉が飛び出ていた。
「つれねぇな。お前と、ちょっと大事な話がしたい」
 いいから乗れよと再度促す声は固い。
「俺、お前とは距離置きたいって、言ったと思うんだけど。乗らないし、話し合いに応じる気もないよ」
「あんな一方的な友達やめる宣言、納得できねぇって言ってんだよ」
 まぁそうだろうね、とは思う。思うけれど、話し合ってどうにかなるようなものでもないのに、という気持ちが断然大きいのも事実だ。
「理由、ちゃんと話したじゃん」
 大学で出来た友人の1人である彼とはなんだかめちゃくちゃ気が合って、同じバイト先を選んだり、長期休暇中にレンタカーを借りて一緒に遠出してみたりと、かなりべったりした付き合いをしてきた。
 これはちょっとマズいかも、と思ったのは結構前なのに、それからもズルズルと1年位はそんな関係を続けて、いよいよヤバいと思ってからは、不審に思われない程度にゆっくり距離を開けてきた。つもりだった。
 けれどそれを察した相手は黙って疎遠になってはくれなかったし、離れた分の距離をグイグイ詰めようとしてくるし、それを上手く躱せる何かをこちらは所持していなかった。
 だから先日、これ以上友人関係を続けられない理由をはっきりしっかり告げたのに。恋愛的な意味で好きになったことも、友人として近い距離で過ごすのがもういい加減キツイってことも、全部ぶっちゃけて、もう友人として一緒に過ごすことはしないと宣言したのに。
「友達とドライブ行きたいなら、俺じゃない別の友だち誘いなよ」
「んなこと言ってねぇだろ。お前以外と行ってどうする」
「だぁから、そういうの、ほんと、もう無理なんだって」
 どうしたって期待したくなるけど、彼の中に自分と同じ想いがないことははっきりしている。異性愛者だってことも、今現在狙ってる女の子がいることも、その子の名前と顔と血液型と好物まで知ってる。だって先日まで、めちゃくちゃ気が合う一番の友人、って立場に居たんだから。
「んじゃ俺とデートして。っつったら、大人しくこれに乗るわけ?」
「は?」
「お前が、期待するから乗れないとか言うなら、期待していいから乗れよって言ってる」
「はぁ? はぁあ? 意味分かんないんだけど」
「それを説明するから乗れっつーの。てかお前と大事な話がしたいっつってんだろ。一方的な友達やめる宣言が納得行かない、ってのも、もう言った」
 わかったら乗れとしつこく促す声に、けれど足は動かない。だって混乱は増すばかりだ。
 全く動こうとしない、そんなこちらの様子に焦れたのか、相手が大げさにため息を吐いた。
「だいたい、お前がもし本気で俺と話すのも嫌だって思ってんなら、ツラ貸せにだって付いてこないだろ」
「まぁ、それは……」
 確かにそうだ。一方的な友達やめる宣言が気に食わないのは多分わかってて、だから、ちょっとくらいはその不満を聞くべきかなとは思っていた。ただ、ドライブに誘われるなんてかなり想定外だし、気持ちをさらけ出してしまった今、車という密室に二人きりになるのなんて絶対嫌だ。
「ねぇ、なんで車なの。話がしたいってだけなら別の場所でも良くない?」
「逆に聞くけど、お前、俺のこと自室に入れる気ある? 話あるから部屋来いって言ったら来るわけ?」
「いや、無理」
 即座に否定したら、ほら見ろって顔をされてしまった。
「話の内容考えたら、誰にも話聞かれないような場所がいいだろ。って思ったのと、まぁ、これはお前次第だけど、そのままラブホ直行とかも有りか無しかで言えば有り、って思って」
「は? なんて?」
「だから、」
「あ、いや、繰り返さなくていい」
 最後の方は若干声を落とされていたけれど、聞こえなかったわけではない。聞き返したのは、その内容を理解したくない拒否反応ってだけだ。
 だから再度ラブホと言いかけた相手の言葉を慌てて遮った。
「あー、だから、それくらいの覚悟決めて誘ってっから、とりあえず大人しくここ乗ってくんね?」
 頼むから、と続いた言葉にふさわしい、懇願するような目で見つめられて、ぐらりと気持ちが揺れる。乗れよの命令には逆らえるのに、頼まれてしまうと途端に弱い。だって、好きな相手のお願いだ。
 ああ、でも。できれば、ラブホなんて単語が出る前に、覚悟が決まればよかった。
 顔が熱くて仕方ないし、それは絶対相手にも伝わっている。だってこちらが車に乗る気になったのを察して安堵の表情を見せている。
 悔しいなと思うのに、でももう、足は車に向かって一歩を踏み出してしまった。

頂いたお題は「急なドライブに誘われて動揺する受け」でした。リクエストありがとうございました〜

 
 
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