意気地なしの大人と厄介な子供5(終)

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「お前、昨日のこと、どこまで覚えてる?」
「俺がエロいことしていいよって誘ったから、一緒にベッド使えなくなった?」
「記憶、あんのか」
「あるね。で、叔父さんはなんて言ってた? 俺に酒飲ますの禁止とか言われた?」
「は?」
「電話してたのは知ってる」
 相手が誰かまでははっきり知らないけど。でもギリギリ嘘はついてない。
「起きてたのかよ。つか聞こえてたのかよ」
 否定されなかったってことは、相手は叔父さんで間違いないらしい。チョロい。
「何話してたかまでは聞こえてないよ。でも、俺が酔っ払ってエロいことしよーって誘った話、したのかな、って」
 これを肯定されたら、それはそれでちょっとショックって気もする。この人があれこれ誘ってくれるのは、母か祖母あたりに頼まれた叔父経由での様子見、という面があるだろう予想はあったけれど、こんなことまで伝えているって言うなら、どこまで報告されているんだろう。
 まさか、叔父さんの代わりでいい、と言ったことまで教えたのだろうか。そもそも叔父は、どこまでこの人の想いを知っているんだろう。
「なぁ」
 静かな声に呼びかけられて、嫌な想像に俯きかけた頭を起こした。
「お前、俺のこと好きだったりすんの?」
 恋愛的な意味で、と大真面目な顔で聞かれてしまって言葉に詰まる。言われて気付いたが、それは考えたことがなかった。
「あいつは、お前の叔父さんは、お前が俺を誘うのは俺に惚れたから、って見解だったけど、俺はどうにもお前に惚れられたなんて思えないんだよな」
「え、叔父さんと電話してたのって、そういう相談? 俺がどんな理由で誘ったと思う? とかを、わざわざ叔父さんに聞いてたの?」
「あー……いや、まぁ、話の流れでそうなったっつうか」
「怪しい」
 どんな話の流れだ。というか内心焦っているっぽいのが見て取れるから、叔父と何を話していたのか気になってしまう。
「そこはあんま突っ込むなって。お前が、叔父さんの代わりでもいい、とか言うから、あいつが何か変なことお前に吹き込んでないか確かめたかっただけっつーか」
 突っ込むなよといいつつも、そこで口を閉じて黙秘するのではなく、ゴニョゴニョと言い訳するみたいに教えてはくれる。
 こういうとこ、いいな、とは思う。けれどそれを恋愛感情かと言われると、正直よくわからない。
「変なことって?」
「俺が昔あいつに惚れてた話、とか」
「え、叔父さん知ってんの!?」
 言えば、しまった、という顔をされてしまった。ちょっと迂闊すぎないか。知ってたけど。
 けれどすぐに諦めたらしい。というか若干ヤケクソ気味に、昔告白して振られたよ、と教えてくれた。
 こういう迂闊さも、諦めの速さも、この人の好ましい部分だと思っているけど。でもやっぱり、これらを恋愛感情とは呼ばない気がする。
「マジ、で……」
「マジも大マジ。で、言ってないからお前が自分で気づいたんだろってさ」
 お前のその反応的にもマジなんだなぁと言った後、相手は話は終わりとばかりに食事の続きに戻ってしまう。
「えー……」
「なんだよその不満そうな声」
「いやだって、俺に恋愛感情あるかとか、なんで誘ったのとか、気になってるわけじゃないの? 俺まだそこ、何も答えてないんだけど」
 突っ込まれて聞かれても、返せる答えがあるわけじゃないけど。でも叔父には聞くのに、本人からの回答は必要ないって態度はどうかと思う。
「答えてないけど、俺に惚れてる態度じゃないのは見りゃわかる」
「なんで誘ったかの方は?」
「お前、俺が乗らなかったから次は別の男誘ってみよう、とか考えてる?」
「は?」
 なんで突然、「別の男」なんていう、対象さえはっきりしてない存在が出てくるのかわからない。呆気にとられてしまえば、そんなつもりが一切ないことは、さすがに相手にも伝わっただろう。
「思ってないなら別にいい」
「え、何がいいの」
「お前が俺を誘った理由、むしろ知らないほうがいいかなって」
「ああ、理由聞いて、うっかり説得されると困るから?」
「そう。酔ってないお前に計算づくで口説かれんのはちょっとなぁ」
「つまり、素面で誘ったらちゃんと据え膳になる?」
 酒を飲み慣れてない若者が酔って誘ったのではダメ、ということだろうか。だとしたら、「大人のけじめ」なんて単語が出てきたのも頷ける気がする。なんて思ったのもつかの間。
「一回りも下の子供なんか食わねぇよ」
「ちょっ、年齢差はどうしようもないじゃん。てか酒飲める年齢を子供扱いおかしくない?」
「いやお前、こんなおっさん誘ってないで、初めてはちゃんと好きになった相手と経験したほうがいいって、マジに」
 セックス興味出てきたってならまずは好きな相手作れよと言われて、そういや、こちらの恋愛経験値がほとんどといっていいほど無いことを知られているんだっけと思う。
「あ、もしかして、俺が惚れたら手ぇ出す気になるって話だった?」
「そんな話はしてねぇよ」
「あれ? 違うのか。てかもし俺が惚れたらどうなるの?」
「どうしても経験してみたい時の安牌くらいには思ってていいけど、それ以上は勘弁してくれ」
「あんぱい?」
「安全牌。要するに、お前にとっては危険が少なくて誘っても問題なさそうな相手」
 自分に好意を持っていて、通う大学の職員だとか、叔父の友人という立場もあるから、そう酷い扱いはされないだろう。的な打算は間違いなくあって誘ったから、相手への恋愛感情のなさ以前に、そういうのも伝わっているのかも知れない。
「どうしても経験したいってお願いしたら、安牌として抱いてくれるってこと?」
「まぁそうなるな」
「やっぱ俺のこと抱けるんじゃん」
「だぁから、出来るからって、それを俺に選ばせんなって言ってんだよ」
 再度、ちゃんと好きなやつ作れと繰り返されて、なるほど、と理解と納得を示すような言葉を返しながらも、相手に惚れた場合にどうなるかの明言を避けられたことが引っかかっている。わかりやすくて隠し事が苦手そうな人が、ここまで濁すことの意味を考えてしまう。
 勘弁してくれと告げた時の相手はどうだっただろう。心底嫌がっている感じではなかったと思うけれど、でもはっきり迷惑そうな顔だった気もする。
 惚れたって言われたら結局絆されるってわかってるから、という想像がどこまで当たっているかの自信がない。そこに自身の期待が混ざっている自覚があるせいだ。
 本気で惚れた結果、本気で嫌がられるのは嫌だなぁ。と思う気持ちと、でも、惚れなきゃ進展もないんだろうなという理解もあって、胸の内でだけこっそりため息を吐いた。

22時追記:
頂いたリクエストは「大学生くらいの受けと一回り以上年上の攻めで、いい歳してこんな年下の子に手を出すのは流石に…と葛藤している攻めと、大人って大変だな…とそんなモダモダしてる攻めを観察してる受け」だったんですが、年齢部分くらいしかクリアできてないですよね。
書いてるうちにモダモダするタイプの攻めじゃなくなってしまったというか、攻め視点入れたのが多分失敗でした。

攻めが葛藤するのはこの後で、恋愛初心者タチ悪ぃ〜って思いながら振り回される未来がきっと待ってる。あと受けは、大人って大変ってよりは、恋愛経験積んだ大人(=失恋とかを経験した上で30過ぎても独り身な大人)って面倒くさいな、とか思いそうです。
で、まぁ、リクエスト完了した! という気持ちにイマイチなれてないので、これはまた後ほど、他のリクエストを書いた後で再チャレンジしたいつもりでいます。
もっとモダモダした攻めをちゃんと書きたい。

 
 
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