closeの札がかかった扉を開ければチリンと軽やかな音が鳴る。
「いらっしゃい。待ってたよ」
来訪に気づいて厨房から顔を出したのはこの店の二代目で、ニコニコと楽しげな顔にこちらの頬も緩んでしまう。
「こんにちは。えと、今日はありがとうございます。楽しみに、してます」
少しばかり緊張しながらもペコリと頭を下げれば、誘ったのこっちなんだからむしろ来てくれてありがとうだよと、やっぱり笑顔で返される。期待してていいよ、とも。
「じゃ、用意するから座って待っててくれる?」
テーブル席のがいいかなと続いた言葉に軽く頷いて、一番奥のテーブル席へ向かって歩く。両親と訪れるときの定位置だ。
物心ついたころから年に数回、親に連れられて訪れていたこのカフェは、両親が学生時代によく利用していたという思い出の場所らしい。近くに両親が通っていた大学があって、春からは自分も通うことになっている。
進学先をその大学に決めた最大の理由が、この店だってことは誰にも言ってないけど。でも二代目はもしかしたら気づいてるかもしれない。なんせ、高校に上がって行動範囲が広がってからは、何度か一人でこっそりと訪れていたから。
それに、合格が決まった先日、春からはもっと頻繁に通えるようになるって、わざわざ知らせに来てもいる。しかも浮かれて、ちょっとどころかかなりテンション高めだった。思い出すたび、少々恥ずかしいくらいに。
でもそんなテンション高めの報告をしたおかげで、こうして合格祝いを貰ってるんだけど。
「お待たせ〜」
そんな言葉とともに、次々と皿が運ばれてくる。お皿はどれも見たことがあるのに、メニューにない料理ばかりが盛られているから驚いた。
「すごいですね。てか多すぎません?」
どのお皿も、一品一品そこそこの量がある。せっかくの特別メニューを残したくはないけど、どう見ても一人で食べ切れる量じゃない。
「ちょっと張り切りすぎたとこあるのは認める。けどまぁ、二人分だと思えばそこまででもないだろ」
そっちの若さに期待してる部分もあるけどと言いながら、これで最後だよと大きめのグラタン皿が中央に置かれた。
「二人分」
「さすがに今日はね。一緒に食べようって思ってさ。わざわざ定休日に来てもらったの、そのためだもん」
取皿使ってねと言われて、初めて、カトラリーケースの横にお皿が数枚積まれていることに気づく。一緒に食べよう、なんて言ってもらえると思ってなくて、いっきに鼓動が早くなる。
どうしよう。嬉しさと期待で緊張が増してしまう。
「飲み物なにかいる?」
「いや、水で良いです」
じゃ、座っちゃうねと言って、相手が対面の席に腰を下ろす。こんな風に向かい合って食事をするなんて当然初めてで、思わず相手を凝視してしまえば、その視線に気づいた相手が照れくさそうに笑った。
「お酒飲める年齢なら、ここでワインの1本も開けたいとこだよな」
「俺のことは気にせず、別に飲んでもいいですよ?」
「いや、いいよ。お酒飲めるようになったら、また祝わせてよ」
「それはもちろん、嬉しい、です。けど……」
「けど?」
言っていいのか迷えば、言葉尻を拾って訪ねてくる。
18歳になって成人したけど、ほんの数年前までは20歳で成人だったわけだし。急かすつもりはないんだけど、でも高校卒業も目前だし、そろそろ言葉が欲しい気持ちもある。
「えっと、それは期待していい、やつなんですかね?」
「メニューの話? 食べたいものあるなら、言ってくれれればなるべく希望に沿うように頑張るけど」
「あ、いや、そういうのじゃなくて」
なんだろ? と首を傾げる相手にはなんの含みもなさそうで、わざとはぐらかしてるようには見えなかった。前からだけど、意識してくれてるのバレバレなのに、こっちの気持ちには鈍いところがある。
「あー、その、いつ告白してくれるのかな、って」
「えっ???」
めちゃくちゃ驚かれたことに驚いた。なんでだよ。
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