「オメガって健気だよな」
「へ?」
この言い方からすると、自分の行いへの評価ではなく、Ωという存在に対する感想に思えるのだけれど。まさかの発言に思わず間の抜けた声が出てしまった。
「番が作った巣みて、愛しさが増すアルファの気持ちはわかる気がする」
「そ、そう?」
「てわけで、今後巣作り見つけたら、俺も上手にできてるって褒めることにする」
「ちょ、待って。何その結論」
意味がわからなすぎて、くっついていた体を離して相手の顔をまじまじと見てしまう。相手はいい案だと言わんばかりに、満足げな顔をしていた。どうやら本気っぽいことはわかる。
「てか見つからない想定で作ったんだけど。もし次があるとしても、今度こそ見つからないように作るから」
「それはダメ。てかお前、抑制剤効いてるとか言うの止めて、定期的に発情期くるようにしねぇ?」
「は? はぁああ?」
「ドリンク剤飲むかはお前に任せるけど、俺としては、興奮しすぎて大丈夫じゃなくなって、俺のこと求めまくるお前見るのは好き。とは言っとくわ」
「ちょ、ずるい。てか本気、で?」
本気なんだろうとは思うのに、確かめずには居られなかった。
「本気。お前はもっと素直に俺を求めるべき。それと、」
意味深に言葉を区切るから、なんだか緊張してしまう。これ以上、いったい何を言われるんだろう。
「俺も、お前が求められて平気な頻度は知りたいと思ってる」
「頻度? Ωのヒートは3ヶ月に1回って設定が多いイメージだけど?」
頻度という部分と直前に話していた定期的な発情期の話が結びついて、ついΩのヒート間隔について口にしてしまったが、どうやら違ったらしい。
「じゃなくて、俺が、お前を抱きたいって言っていい頻度。どれくらいなら、お前の負担にならずに済む?」
呆れずに付き合ってくれる頻度じゃなくて、体の負担について知りたいのだと言われて、そういやさっき、相手が呆れずに付き合ってくれる頻度が知りたいと言ったことを思い出す。
「え、それは、考えたことなかった、かも」
もっと抱いて欲しいなと思いはしたが、これくらいの頻度で求められたい、なんてことを考えたことはない。当然、自分の体がどの程度なら大丈夫なのかも、考えたりしなかった。
「一緒に住むようになったら毎晩のように求められるのかな、みたいに思ってたことはあって、でもそんなこと全然なくて、俺ばっか期待してたのかと思って悲しかったけど、確かに、そんなに求められたら俺の体が持たないよね。そ、っか……俺の体の負担……」
求められる頻度が上がれば自分の体の負担が増える、という当たり前のことを考えていなかったと知って、相手が呆れたようなため息を吐いている。
「お前さっき、俺より性欲強いかもとかなんとか言ってたけど、多分そんな事は一切ねぇから。突っ込むまでするとなると、お前の体に負担掛かるし、準備だ後始末だでけっこう時間食うだろ。でも一緒に暮らすようになったら、抜き合いで終わらせられる自信が全くなくなって、俺、実家にいる頃と変わんない頻度でオナニーしてっから。お前のこと抱く回数は増えてんのに、オナニー回数減ってないから」
「は? ナニソレ。はぁあ? ちょ、初耳なんだけど」
「俺がオナニーしまくってるとか知ったら、お前、体キツくても抱いていいとか言いそうで」
「うっ、それは、言うかも、だけど。でも、多分俺、そんなに求められたら、体辛いより先に、きっと嬉しいって思うよ?」
「だーから、それわかってっから、教えられなかったって話だっての」
「なんで!?」
「これから先のが断然長いからだ。嬉しくても体に無理させたらダメなんだって」
これから先のが断然長い、という言葉に、またしてもじわりと涙が滲み始める。
第二性なんかなくて、番なんてシステムもないのに。その番だって、αからなら解消できるという設定が大半なのに。
オメガバースなんてない世界で番を持っているのも悪くない、と言った相手は、きっと生涯を共にしようと思ってくれている。
「また泣くのか」
少し呆れた口調だけれど、滲む涙を拭ってくれる仕草はやはり優しい。
「だってぇ」
嬉しいんだと訴えれば、嬉しそうに笑った相手の顔が近づいてくる。
<終>
最後までお付き合いありがとうございました。
近日中に目次ページを作るつもりですが、次のお話の更新は8/26(金)からを予定しています。
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