オメガバースごっこ8

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※ ここから攻めの視点になります

 あまりの発言に睨みつけている自覚はある。
「ひっ」
 喉を引きつらせたような小さな悲鳴が漏れてきて、すっかり怯えた顔になってしまったが、そんなすぐには気持ちが切り替えられない。ただ、怯えながらもこちらをジッと見つめたままの瞳に、怖がらせたいわけじゃないのにとは思った。
 むしろ目指す方向とは真逆だ。ここがオメガバースの世界で、相手が本当に自分の番だったら、しっかり守って安心と信頼を得られるアルファで有りたいと思っていたし、オメガバースなんて無いこの世界でも同様に、スパダリとまでは行かなくたって、共に歩んでいく相手として頼られる存在でいたいと思っている。お前を選んでよかったと、ふわふわ笑っていて欲しい。
 なのになんでこうなった。
 相手にとっては自分が初めての恋人で、何から何まで初めてだと知っているから、性急にあれこれ求めすぎないようにと、どれだけ自制してきたと思ってるんだ。というか自分で体を慣らすまでして抱かれたい気持ちがあったなら、少しくらい相談なりそれとわかる誘いなりして欲しかった。
 だいたい、ただ抜きあうだけだった行為に、キスだとか愛撫だとか好きだの可愛いだの想いを伝える言葉を足した恋人っぽい触れ合いに、未だ慣れずに戸惑っているくせに。そのくせ、終えた後には随分と満足気に笑っていたくせに。
 相手が現状に満足しているようだったのと、男同士のカップルが必ずしも挿入有りのセックスをしているわけではないらしいことや、姉の指示で読んだ、オメガバースではなく普通の高校生同士の初々しいカップルが出てくるBL本を参考に、体を繋げるのは受験を終えてから、相手の様子を探りつつゆっくり進めていけばいいんだと思っていた。特に、初めての行為に痛いと言って泣いたり、上手く出来なくて落ち込んだりのBL本が、先へ進みたい気持ちを鈍らせていたとも思うから、姉の気遣いだとわかっていても恨み言の一つでも言ってやりたくなる。
 ああでも、相手経由で姉には自分たちの進展もあれこれ筒抜けなんだろうと思っていたが、思ったほど姉に知られては居ないのかも知れない。だって早く抱かれたい的な気持ちがあることが姉に伝わっていたら、絶対にそれとなく知らせてくれていただろう。
 恋人になる前から抜き会う関係だったことを姉に知らせては居なかったから、エロ絡みは言えないってことだろうか。相手の不満は姉経由で届くと思っていたのが大きな間違いだったとしたら、受験を控えて頻度が落ちたから、それで不安になった可能性もあるかも知れない。
 だとしたって、行動が飛躍しすぎだと思うけれど。発情期っぽい体を作った、って、なんだよそれ。
 そう思うのに、彼の考えたことが理解できてしまうから悔しい。
 交際を申し込んだあの日、お前が本当にオメガなら良かった、なんてことを言ってしまったせいなんだろう。
 発情期もなく勝手に濡れることもなく、相手を求める本能に抗えなくさせるフェロモンの放出もないから、ローションを仕込んですぐにでも挿れられる体をつくり、精力剤の飲用で強引に興奮し、同じ精力剤を飲ませてこちらにも興奮しろと求めている。
 渡されたドリンク剤をギュッと握りしめた。初めてを、そんな形で終えたくなんてない。
 色々なことがグルグルと頭の中を駆け巡っているが、相手はずっと息を潜めて、こちらの次の行動を待っている。その様子から、渡されたドリンク剤を飲み干して、相手に覆いかぶさっていくのが正解なんだろうとは思った。
 応じてやりたくて、でも、応じたくない。

続きました→

 
 
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