※ ここから受けの視点になります
読み終えたばかりの本を再読することになって、けれど想い人の腕の中でという状況に集中しきれないし、うるっとなって胸が詰まることはあっても、さっきみたいにボロボロと涙を流すようなことにはならなかった。背後の彼がこの状況にどこまで集中できたのかは知らないが、ページを捲る手が滞ることはなかったし、呼吸もずっと安定していたようだし、つまりは泣いてる気配は欠片もなかったっから、自分だけが泣くような羽目にならずにホッとしても居る。
最後まで読み終えた相手がパタリと本を閉じるのに合わせて、小さく安堵の息を吐いた。これでもう、ここから抜け出すことも許されるだろう。
そう思って腰を浮かしかければ、本を脇へ放った相手の腕が、それを阻止するように腹へと回ってくる。
「ひえっ」
抱えられたお腹や相手の胸がペタリと押し付けられた背中の熱に、驚きと緊張と羞恥とでおかしな声が出てしまった。こんなの、意識せずには居られない。
「お前さぁ、もしかして好きな相手、いんの?」
「ふぁっ!?」
は? と声を上げたつもりが、相手の息が耳に掛かったことで焦ってしまい、またしても口からは変な声が漏れる。けれど相手はこちらの様子なんてどうでもいいらしい。
「姉貴じゃない、別の誰かに片想いでもしてる? もしかして姉貴はそれ知ってて、だからお前のことはただの腐友とか言ってんの?」
耳の横という至近距離で語られる、想い人の声にうっとり聞き入っていられるような状況でも内容でもない。
どうしてこうなった。まさか気持ちがバレてしまったんだろうか。いやでも「誰か」と問われているから、相手にはまだ気付かれていないかもしれない。まだごまかせるだろうか。相手が彼であることさえ知られなければいい。とにかくこの状況から抜け出すのが先決だ。
「なんで、そう、思ったの」
焦って変な声が出てしまわないようにと、ゆっくりと声を吐き出していく。吐き出す息が少し震えてしまったけれど、それ以外は多分普通に喋れている。
「だってお前がさっき泣いてたのって、主人公が片想いに苦しんでるようなシーンだったろ。そこに泣くほど感情移入できんの、お前にもそういう相手が居るからかな、って」
言い当てられて動揺が加速するが、一緒に読んでいた今回は泣いていないのに、どのシーンで泣いたかバレている意味がわからない。
「泣かなかった、のに」
「いやわかるって。涙は流さなかったとしても、呼吸はかなり乱れてたし。つか相手ってまさか男? だから腐男子やってんの?」
「そんなわけあるかよ」
とっさに嘘を口走れば、どっちが、と問い返されてしまう。
「どっち、って?」
「男が好き、ってのと、だから腐男子やってる、っての」
「どっち、も」
事実。という肝心の部分だけ口を閉ざした。男が好きだから腐男子をやってるわけではないが、男を好きにならなかったら気にかけなかったと思うし、手を出す機会もなかったジャンルではあると思う。
「じゃあ片想いしてるってのは?」
「それも」
事実。とはやはり声に出さない。
「本気にすんぞ?」
なんで脅されるみたいにそんなことを言われなきゃならないのかわからない。
「てかさっきからなんなの。俺のことなんてどうでもよくない?」
もしかしたら、彼の姉以外にはっきりと片想い相手が居る、という方が安心できるのかなとは思う。恋愛感情などないという訴えを心底納得してはいなかったから、彼は昔のように自分に構って一緒にいる時間を増やしたのを知っている。
でも想う相手がいることを、想う相手本人に告げたくなんてなかった。それが自分だなんて思うはずがないから、彼ではない誰かを想っていると誤解されるに決まっている。
相手を追求されたくないし、無責任に応援されたくもない。いやでも可能性として一番高いのは、こちらの恋情になんて全く興味がない、という対応をされることだろうか。相手が彼の姉ではない、ということにさえ納得できたら、こちらの想いなんて彼にとっては多分どうでもいい。
俺のことなんてどうでもよくない? と告げながらも、それを肯定されたら間違いなく辛いと思ってしまうのだからどうしようもない。
「お前に好きなやつが居るなら、さすがに手ぇ出しにくいだろ」
はあぁぁと重いため息を盛大に吐き出してしまえば、お腹に回っていた腕の力が少しだけ強くなって、次にはそんな言葉が耳に吹き込まれてきた。
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