口を閉ざしてしまえば、また項に相手の唇が落ちてくる。さすがにもう肩を跳ねるほどの驚きはないが、許容して流されていい場面ではないのもわかっている。
「待って待って待って」
「いや? やっぱ無理?」
「むりっていうか展開わかんなすぎる。なんでいきなりそんな気になってんの?」
「逆に聞くけど、お前、BL本読んで抜いたりって経験、ないの?」
「なっ……に、言って……」
突然何を言い出してんだと思う傍ら、相手の言いたいことはわかった気もする。つまりさっき読んでた本にはエッチなシーンも含まれていたから、それで催したって意味か。
え、マジで?
「お、経験ありそう」
「え、でも、さっきの、そんなエッチな話じゃなかった、よね?」
本のシチュエーションを思い出しつつ彼相手の想像で抜いてしまうことはあるから、厳密には経験無しとは言えないかも知れないが、それを正直に伝えるつもりはないので、経験の有無については無視した。
ただ、エッチ展開も物語の一部という捉え方をするせいか、エッチなシーンを目にしたからってそれで直接エッチな気分になることはあまりないし、それはさっき読んでいたものよりもっと過激なものを読んでも同じだから、異性の恋人を持てる彼が、男同士の、しかもそこまで過激でもない描写であっさり催しているのが信じられない。
「てかゲイなわけないし、腐男子ですら無い、のに?」
「あー……それは半分くらいお前のせい」
「え、なんで俺のせいなの?」
責任転嫁酷いと言ったら、じゃあ半分の半分くらいと言い直されて割合が減ったけれど、割合の問題じゃない。
「だーから、腕ん中に俺を番と思ってる相手が居て、そいつが本の中のオメガに同調して片想い辛いって泣きそうになってたり、想いが通じてホッとしてたり、抱いて貰ってんの羨ましがってたら、なんつーか、ちょっと俺も手ぇ出してみたいつーか、試してみてもいいかな、って思ったんだよ」
お前相手ならイケそうな気がした、らしい。
彼女とは破局していてフリーの状態で、好きな相手が自分に興味を持ってくれている、というのは単純に嬉しかった。多分間違いなくチャンスだ、とも思う。けれど、じゃあ試していいよって言えるほど、奔放な生き方をしていない。いいよと言って進んだ先で、やっぱ男相手は無理だわ、なんて投げ出されてしまったらとも考えると怖かった。
どうしていいかわからず、というよりもいいよと言っていいか迷って躊躇っていたら、背後から小さなため息が聞こえてくる。こちらがもたもたしているうちに気持ちが冷めたというか、諦めてしまったのかも知れない。
「なぁ、もしお前が、腐男子だからってリアルに男相手にどうこうするのは別だとか、俺の番になったのは俺を納得させるための口先だけの話だってなら、悪いけど一旦自分ち帰ってくんね?」
「え?」
「だって、さすがにお前居るのに一人で抜くのは気まずいじゃん」
「え、そこまで切羽詰まった話なの!?」
催したと言っても、男同士であれこれ致す話を読んで試してみたくなった、というのが一番の目的かと思っていた。
「身も蓋もない話をすると、入院生活で溜まってる」
「ほんっとーに身も蓋もないな」
いやでもそれでちょっと納得してしまったところはある。そういう状況だから、たいして過激でもない、しかも男同士の描写で催してしまったし、たまたま一緒に居たせいで試してみてもいいって気になったのか。
相手の感覚としては、男友達とAV見てたら抜き合ってた、みたいなのに近い可能性がある。だからお前はBL本で抜いたりしないのって、最初に聞かれたんだろう。
「もうぶっちゃけて言うと、男同士抵抗ないならちょっと俺に付き合って」
「って、俺に何させたいの? それなりに知識はあるけど、お前と違って彼女も彼氏も居たこと無い完全未経験者だし、突っ込みたいとか言われても絶対無理だよ?」
「突っ込ませろなんて言わねぇわ。ちょっと触ってみたいのと、後まぁ、嫌じゃないなら手ぇ貸して。俺の握れそうなら握って」
そんだけでいいから協力する気があるなら体こっち向けてよと、やっと、ずっと体に回っていた相手の腕が解かれた。
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