部活の練習に参加復帰する少し前から、リハビリ混じりの自主練に彼も付き合ってくれるようになった。ただただ走ったり柔軟したり筋トレしたりの日々を抜けて、競技の感覚を取り戻していくための訓練には、経験者である彼の協力がありがたかった。
医者には、日常生活に問題ない範囲までの回復は可能だと言われたが、競技者として活躍できるほどに回復出来るかはわからないと言われている。
正直に言ってしまえば、怪我を理由に競技をやめる事も考えたのだけれど、活躍できるほど、というのはレギュラー陣に混じって今までと同じように試合参加するのは難しいかもしれない、という意味であって、もう競技が出来ないと言われたわけじゃない。
どこまで復帰できるかわからないからもういいと、何の努力もせずに諦めて辞めてしまったら、競技そのものは好きだからと楽しそうに試合を見に来てくれていた彼に幻滅されそうな気がしたから。という理由がそこそこの比重を持っていることを、自覚していた。
だから、自主練に付き合ってくれる彼が楽しげにしているのが嬉しかったし、結局試合に出られる程には回復しないまま引退を迎えてしまったことがなんとなく申し訳なかった。
「ごめん……」
「え、いきなりなんの謝罪?」
引退後、最初に顔を合わせた時には思わず謝罪が口をついてしまったが、相手からすれば意味がわからないものだったらしい。
「夏の大会終わったから」
「あ、負けちゃったのか。え、でも、試合出てなかったんだよね?」
試合に出られないのは確定だったので、相手はもちろん観戦には来ていなかった。
「だから、お前にも散々自主練付き合ってもらったのに、試合出られないまま引退になったから、ごめん、って」
「えー……っと、聞いても意味がわからないんだけど」
困惑顔は本気で意味がわからないと言っているようだ。
「いやだから、俺が復帰できるようにって、お前もあんなに協力してくれてたわけだろ。なのに、結果出せなかったから」
「ああ、なるほど。いやでも謝られても困るというか、そもそもお医者さんの見立てだって強豪校で活躍できるレベルに回復するかわからないって言われてたわけだし、確かに試合復帰できたらいいよねって応援はしてたけど、その応援に応えられなかったなんて理由で謝らないでよ。それに回復が思うように進まないのも俺的にはちょっと有り難かった部分あるし」
「有り難かった?」
「あー……いやだって、俺とじゃ実力に差がありすぎだったところを、俺相手でもそこそこ形になると言うか、その、お前からしたら俺レベルに落ちたって感じだろうからあんまり喜んじゃダメだとは思ってるんだけど、でも、自主練誘ってくれたの本当に嬉しくて。それに、お前が怪我して前みたいに活躍できなくなったのを残念って思う気持ちはもちろんあるんだけど、隣に住む幼馴染としては、お前の怪我があったおかげで昔みたいにお前と一緒に遊ぶ時間が一杯出来たのも、すごく嬉しかった」
だから謝らないでよと告げる彼は、どこか照れている様子で笑っている。嘘でもお世辞でもなく、本当に、嬉しそうだと思った。
怪我をした後、ずっと残念だと惜しがられるばかりで、リハビリを重ねても思うように動かない体に苛立つことが多く、だからこそ、自主練に付き合ってくれる彼の楽しげな様子に救われていた部分は大きいのだけど。それをはっきりと、嬉しかった、という言葉にされたことで、抑えが効かなくなる。
「え……」
気づいた時には相手の唇を奪った後で、目の前には呆然とこちらを見上げる彼の顔がある。
とうとうやらかしてしまった。とは思ったが、後の祭りでしか無い。
「お前が、本当に俺のオメガなら、良かったのに」
どうせやらかした後なので、やけくそ気味に、長いこと抱えていた想いも吐露してしまう。
「は……?」
「ファーストキス、勝手に奪ったのは、本当に、ごめん」
「ふぁーすときす……」
単語を繰り返すようにつぶやいた後で、ようやくその事実を認識したらしい。一気に顔を赤くして狼狽える姿を、間違いなく、可愛いと感じている。
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