胸の痛みにそっと目を伏せながら、先程まで彼女と楽しんでいた会話を必死に思い出す。何が告白だったのか、彼の言葉を聞いても全くわからなかったからだ。
確かにオメガバースの話をしていた。そして、彼女にも指摘されたが、もし第二性が存在していたらきっと自分はΩだろう。
成長期がこれからくる、などと楽観視出来る要素がまるでないし、身長は同世代の男性平均にはかなり足りないまま成長が止まる未来しか見えない。運動神経だってなければ、頭だってそう良くはない。運動神経を鍛えるよりはまだ可能性がありそうだったので、必死に勉強を頑張った結果、地域でそれなりの高校へ通えているのが現状だ。
でも隣に住んでいる幼馴染の姉弟は違う。お隣さんなので当然彼らの両親ともそれなりの付き合いがあるが、もし第二性が存在する世界ならα家系と呼ばれているだろう優秀さを家族全員が所持している。同じ高校へ通っていたって、彼女のようにたいした試験勉強もしないまま成績上位をキープするような真似はできっこないのだから、頭の出来が違いすぎる。
だから、きっとΩだろうと指摘された時に、彼女ならαだろうと返したし、それを否定されることもなかった。というよりは、彼女もそれは認めるところなんだろう。次にされた質問が、隣同士の幼馴染でαとΩだったらどうしてたか、という内容だったからだ。
もし自分がΩで、隣に住む幼馴染がαだったら。多分間違いなく番相手として意識する。
オメガバースの世界で自分がΩならα男性との間に子を為せるし、オメガバースを描いた作品はいろいろあるが、だいたいは第二性による結婚が許可されているから、想い人であるαと番となって結婚したいと思うことを後ろめたく思う必要はない。
お隣さんと運命の番、だなんてことまでは望まないけれど、Ωの特性を利用した誘惑くらいは仕掛けてしまいそうだ。なんらかのアクシデントで望まぬ相手と番になってしまう話はありふれているし、事故による番からでもいいから、とりあえず相手を自分のものにしてしまいたい。
Ωに誘惑されて本能に抗えずに番になってしまったαを被害者としている作品もあるし、相手の意思を無視して番として自分のものにするのだから、それは事実だと思う。けれどそう思ってしまうくらいには、自分の想いは育ってしまっている。それにどのみちこの世界には番システムなんてないのだから、妄想でくらい自己中に夢見たっていいだろう。
「あ……もしかして、事故でいいから番になりたい、って言ったやつ?」
彼女の問いかけに、運命の番までは望まないけど事故でいいから番になりたい、と返したのは事実だ。でも番になりたい相手はもちろん彼女ではなかったし、彼女の質問だって、自分と彼女の弟である彼を指して「隣同士の幼馴染」と口にしていたはずだ。
口に出さなかった2人の間で通じている前提条件を知らずにいれば、自分からきっとあなたはαだろうと指摘した彼女相手に、「事故でいいから番になりたい」と言ったように聞こえたとしても不思議はない。
「それが告白じゃないならなんなんだよ」
どうやら当たりだ。でも、番になりたいと思った相手は彼女じゃなくてお前の方だよ、なんて言えるはずもなかった。それをわかっている彼女も、違うって言ったでしょとは言ってくれても、こちらの恋情を隠したままの説明が難しいのかそれ以上の言葉はない。
「まさか、告白すっ飛ばしたプロポーズか? 確か番って、結婚みたいなもんだったよな?」
「ち、違うって」
「だから何が違うんだよ。姉貴とじゃ釣り合いとれない自覚があんだろ。でもΩだのαだのの世界なら事故って番になっちまえば、互いに他の相手には誘惑されない体になる、だったかで自分に縛っておけるもんな」
厳しい声に、お前なんかに姉を渡してたまるか、というような彼の気持ちが透けて見えるようだった。
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