別れた男の弟が気になって仕方がない27

1話戻る→   目次へ→

 辛い恋を抱えている子が可愛くて、つい慰めるような真似をしたくなる性癖のせいで、おかしな噂が立ってしまった事がある。
 曰く、抱いて貰うと恋が叶う、らしい。
 たまたま、自分と寝た後で本命とうまく行った相手が数人続いてしまったせいだ。
 もう随分と前になるけれど、特定のパートナーを持たず、頻繁に、続かない相手とわかっていても関係を持っていた時期がある。若かったから持て余し気味の性欲があったし、抱かれる側はやらないし、それなりに大柄なので二人きりの空間で自分相手にむりやり何かが出来る相手なんてそう居ない。という部分で、自分さえしっかり気をつければ大丈夫だと思っていたのだ。
 実際、性病やらの面で被害を被ったことはない。ただ、噂に気付いたら色々と虚しくなってしまった。
 やたらと誘われることが多くなって、最初はモテ期が来たくらいの感覚で喜んでいたのだけれど、積極的に誘ってくるような相手は大概おかしな噂に踊らされて関係を持ちたがっているだけだった。
 それに気付いてしまってからは、さすがにほいほいと誘いに乗る気にはなれなくなったし、なるべく恋人を持つようにもなった。噂はただの噂でしかないと言っても引き下がらない相手も居たから、恋人がいて浮気をする気は一切ないというスタンスを貫くほうが楽だった。
 辛い恋を抱えている子を一時的にでも甘やかしてやりたい性癖があったって、自分を想っていない相手でなければ勃たないだとかの致命的なものではないし、パートナーを持って何度となく繰り返すセックスも悪くない。ただし、そこそこ長く続いて惰性やらが出てくるとうまく行かなくなることも多くなって、そうなってくると元から持つ性癖はそれなりに重要にもなってくるようだった。
 彼の兄とは、恋人と別れた後そこそこの頻度で馴染みの店に足を運んでいた時に、その店の中で声を掛けられ知り合ったのだが、相手は最初から自分を探して訪れていた。さすがに噂も消え去って久しいはずなのに、どこから聞きつけてきたのやら。
 もちろんすぐさま噂を否定して、抱く気はないと追い払った。なのに相手はしつこくて、しかも浮気はしないが通用しないフリーの時期で、なんだかんだあって結局こちらが折れて抱いてしまった。噂に縋ってどうしても、という相手に絆されたわけではない。最初にいささか邪険に追い払ったせいで、相手に何が何でも抱かせてやると思わせてしまったのが多分一番の敗因だ。
 そして一度抱いたら今度は恋人にしろと言い出して、結局それにもこちらが折れて付き合うことになった。とは言っても、しつこく食い下がられて仕方なくというのではなく、これは相手の言い分に納得できたからでもある。
 それは叶える気のない想いを抱き続ける相手をパートナーにして、思う存分甘やかしたらいいという、聞き様によっては随分と放漫でデタラメな理論だった。けれどこちらの性癖を理解した上での提案には違いない。
 叶える気もない恋を抱えて、体だけを満たしてくれる相手と一時的な快楽に耽るような、リスクの高い行為を繰り返していた相手にとっても、安心して甘えていい特定のパートナーが出来るのは魅力的だったのだというのもわかっている。というよりもそういう事を話し合った上で、自分たちは恋人になった。
 実際、恋人関係はかなり順調だったと思う。他に特別に想う相手が居るものの、恋人として誠実に向き合おうとする意思はあったし、一番ではなかっただけで二番目の特別にはなれていた。恋人として付き合った相手の中で、間違いなく一番、愛しいという想いが湧き続ける相手だった。
 もしも自分にそんなおかしな力があるなら、噂通り彼の恋が叶えばいいと思うこともあったし、いつか特別に想う相手よりも恋人である自分の方を好きになって貰えたらいいと考えてしまうこともあった。
 叶うことなんて絶対にないと言い切られていたから、まさか本当に、彼の想い人が彼に振り向くことになるとは思っていなかったけれど。
 そんな彼の兄とのあれこれを思い出しながら、さてどうしようかと思う。絶対に知らないだろうあんな噂を、わざわざ自分から知らせる気もないし、しょうもない自分の性癖だって出来れば口にしたくなかった。けれど付き合わないかと誘った相手に対して、自覚のある性癖を隠したままというのも悪いだろうか。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です