親父のものだと思ってた2

1話戻る→   目次へ→

 こちらからの付き合ってほしいという訴えにはめちゃくちゃ嬉しそうにしたくせに、結論から言えば恋人にはなれなかった。といっても、今はまだ、と言われたので望みがないわけではない。
 散々お世話になった相手の息子に何のけじめもないまま手を出せない、というのが一番大きな理由らしいが、そもそもこの家の中での彼の立場はずっとお母さん代わりみたいなものだったから、この家の中で恋人っぽい振る舞いを求められるのはあまりにいたたまれないんだそうだ。
 じゃあ家の外ならいいんじゃないの、というわけで誘ったデートには来てくれたけれど、男同士でイチャイチャできるそうな場所というのは限られているし、相手もあからさまに回避してくるので、どうしたって少し年の離れた友人と遊び歩いただけって感じになってしまう。映画館の暗闇で手を握れたのが唯一といってもいいくらいのそれっぽい接触だったけれど、それだって集中できないからと2度目はなかった。こちらから重ねた手に、指を絡めて握り返してきたくせにだ。
 間違いなく脈はあるが、端々に相手の負い目らしいものが見えていたし、強引に口説き落としに行っても多分失敗すると思って、これは長期戦だと諦めるのは早かった。
 代わりに、就職活動を目一杯頑張った。父親の再婚云々関係なく、卒業と同時に家を出てやるつもりだったし、ダメじゃないよと言った彼を可能な限り雇うつもり満々だったからだ。
 彼の方も、馴染めそうなバイト先探しを頑張っていたようで、こちらが卒業する頃にはとある店舗で1年以上を過ごしていたし、家に来る頻度も週4くらいだったのが週2と半分に減っている。
 まぁこっちだってもう手のかかる子供ではなくなっているのだし、未だに週2とは言え通って、作りおきの食事やらを用意し細々した家事をしてくれるのは、彼と会える時間が確実にあるという点を含めてとても有り難かった。
 そんなこんなで、多分両思いのまま宙ぶらりんの関係を数年続け、卒業を控えた2月の終わり頃にやっと交際がスタートした。卒業してからと言われなかったのは、卒業後にルームシェアをしないかと持ちかけたからだ。
 彼を雇う気満々だったけれど、一人暮らしのアパートで家主不在時に別の男が出入りするより、一緒に住んで相手の家事負担が多くなるだろう分をこちらが多めに払う方が、どう考えたってメリットが多い。
 父親には、ルームシェアという名の同棲であることを事前に伝えたが、特に反対されることはなかった。驚く様子もなくあっさりわかったと言って保証人の欄にサインをしてくれたので、むしろこちらが戸惑ったのを覚えている。
 その時、父親にどんな顔を見せていたのかわからないが、少し申し訳無さそうな顔になった父親に、最初からこうなるだろう可能性があることも覚悟して彼を家政夫として勧誘したのだという話を聞いて、驚いたなんてもんじゃない。ただ、聞いた事情はそれ以上にあれこれと驚きの連続だった。
 両親の離婚の詳細については殆ど知らずに来たが、離婚原因に自分と彼が絡んでいたことも、その時に初めて知らされた。どうやら母は家事がかなり苦手な人で、特に料理は酷かったらしい。
 子供の預かり先がみつからず親戚の家を頼った際、彼の料理を食べさせて貰った自分が、母親にも同じものを作って欲しいとねだったのが彼女を追い詰めたようで、父が気づいた時にはかなり酷い状態だったそうだ。主に、こちらの食事事情が。
 食事を与えないこともあれば、故意にあれこれと調味料を入れまくってとても食べれるような味じゃないものを無理やり食べさせたりしたようだが、こちらにそんな記憶は残っていない。
 離婚当時の記憶が曖昧なことは父親も知っていたが、原因がそれだろうこともわかっていて、よほど辛かったのだろうからとずっと事実を伝えられずにいたらしい。
 食事という行為に怯える息子に、父がどうにかしたいとあれこれ試した中で、反応したのが彼の料理だったそうだ。嫌がる母親に何度も同じものを作ってとねだったくらい、もう一度食べたかったオムライスとハンバーグを貪り食って、辛かった記憶を綺麗サッパリどこかへ投げ捨てたのだから、彼の存在はまさに救世主といえそうだ。

続きました→

再開1本目からタイトルに「2」がついてますが、前回の更新期間に続きをとコメントを頂いていたので、とりあえず彼らが恋人として初Hを済ませるくらいまでは書きたいなと思っています。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です