親父のものだと思ってた3

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 お互い実家を出るのは初めてなので、家の外で彼と会う機会がめちゃくちゃ増えている。
 最初は不動産会社巡りで何日も費やしたし、今日だって契約を済ませた後、最低限買い揃えなければならない家電類や家具類を選びに出かけていた。
 口に出しはしないが、デートだと浮かれる気持ちは当然のこと、何より新しく始まる2人の生活が楽しみで仕方がない気持ちは強い。けれど今日は父親から聞いた話を引きずっているのか、いつもより浮かない顔をしていたらしい。
「親父さんと何かあった?」
 昼ごはんを食べる目的で入った店で注文を済ませた後、店員の姿が見えなくなると同時に声を潜めた彼に声をかけられる。
「え?」
「言ったんでしょ、俺達のこと」
 卒業したら家を出るという話はしていたし、彼とルームシェアをするというのも事前に話して許可を貰っていたが、彼と恋人という関係になって同棲するのだと話したのは保証人欄へのサインを頼んだ先日が初めてだった。
 父親に正直に伝えると言った時、彼は最初、心の準備が出来るまでもうちょっと待ってと言った。ニート相手に色々と便宜を図ってくれた恩人に、息子を誑かした裏切り者として、罵られたり憎まれたりする覚悟がまだ出来ていないんだそうだ。
 恋人になってとお願いしたのはこっちなのに。でも、年の差とか子供の世話を頼まれていた立場とかを考えてよと言われたら、そんなことないとそう強くは言えない。誑かされたとは思ってないが、子供の頃からがっつり胃を掴まれているのは事実だし。
 ただ、それだけならまだしも、そもそも恋人になることもルームシェアも受け入れたけれど、ルームシェアはともかく恋人関係が上手くいくかはわからない。などと言われては黙っていられなかった。
 だって逃がす気なんてないのだ。ルームシェアを持ちかけたのも、父親に恋人になったことを正直に話したいのも、簡単には別れられないように、という気持ちが働いているのを自覚している。
 親父のことは絶対に説得するし、親父だろうと恋人傷つけさせるよう事は言わせないからと言い切って、強行した。
「ああ、うん。同棲する話はあっさり受け入れてもらった」
「え?」
「親父、こんな未来も予想済みだったってよ」
「は?」
「こんな未来、っつうか、俺があなたから離れられない未来」
 幼い自分は彼の料理だけでなく彼そのものにも執着を見せたらしいから、彼を関わらせることを躊躇う気持ちはあったらしい。けれど食事をとれなくなった子供のケアを第一にと考えて、彼を家政夫として勧誘してくれたらしい。
「ねぇ、うちの親の離婚事情、知ってたよね?」
「それは、まぁ……」
「俺が可愛そうな子供だから、仕方なく付き合ってくれてる、とか言わないよな?」
「は?」
「親父がさ、家庭の事情にあなたを巻き込んだ結果、息子を押し付ける形になってないか、みたいな心配してて。いやまぁ俺も、あんまり記憶ないけど話を聞いた限りでは確かに母親から虐待されて食事が出来なくなった可愛そうな子供だったみたいだし、そんな面倒な子供の相手をよくしてくれたと思うけど。でもさ、俺、記憶曖昧なせいか自分が可愛そうな子供だと思ったこと無いし。母親代わりの男性が家に出入りしてて、その男性と父親がそういう関係で一緒にいると思ってたから、たしかに普通の家庭とは言い難いかもだけど、それなりに真っ直ぐ普通に育ってきたと思ってて。親父とそんな関係じゃないって知ったからこうなっただけで、俺、ちゃんと親離れっていうかあなたからも離れられるつもりだったし、その、あなたが迷惑するかもしれない面倒な息子、という立場ではないと思ってるというか、思いたいんだけど」
 だらだらと言い募るのを唖然とした顔で見つめていた彼は、こちらが口を閉ざして相手を窺うと同時に、小さく吹き出したようだった。

続きました→

 
 
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