親父のものだと思ってた4

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 お前にも同じかそれ以上感謝してるよと言った相手は、子供からの純粋な信頼にはかなり救われてきたし、面倒な子供を押し付けられたなんて考えたことがないよと柔らかに笑う。
「言ったよな。息子を誑かした裏切り者って罵られたり憎まれたりが怖いって。そもそも俺がただの家政夫で、お前になんの執着もなかったら、お前に告白されるようなことになってなかったと思ってる」
 長い時間かけて俺のものになるように仕組んでた、って言ったらどうする?
 なんて少し意地悪に笑われたけれど、めっちゃ俺のこと好きじゃん。両想いじゃん。やったね。って笑い返してやれば、ルームシェア撤回って言い出すかと思ったと、あからさまにホッとされた。そんなこと言うわけない。
 自分たちが両想いだろうことはわかっていたけれど、思っていたよりずっと、彼の想いは自分に向いているらしい。
 俺のものになるように仕組んでた、なんて言われたら、嬉しい以外の感情なんてわかないのに。むしろ、その無言のメッセージをしっかりと受け取って、ちゃんと彼の思惑通りに彼に手を伸ばした自分を褒めてやりたいくらいだった。
 ますます浮かれる要素しかない同棲生活が楽しみで仕方がない。
 一緒に生活するようになったら、あんなことやこんなことも解禁されて、恋人らしいイチャイチャだって出来るようになるはずだ。
 そんな期待を膨らませて引っ越しを終えた夜、一足先に入居していた相手が作ってくれた夕飯はオムライスとハンバーグだった。
 自分にとってこの2つはやっぱり特別なメニューで、誕生日やらクリスマスやらの季節イベントや、入学やら卒業やら何かに合格しただとかのお祝いメニューには、だいたいこの2つが用意されている。こちらからねだることなく用意してくれたってことは、この同棲開始が彼にとっても特別な日として認識されているのだとわかって嬉しい。
「美味しそう。めっちゃ嬉しい」
 やっと一緒に暮らせる記念日だもんなと、わざわざ口に出してお礼を言えば、相手は照れた様子を見せながらもそうだよと肯定してくれた。
 可愛いなぁという気持ちのまま伸ばした手は、逃げられることなく相手の体を抱き寄せる。ますます照れたようで、赤くなった顔を隠すみたいに少し俯きながらも身を寄せてくれた相手を暫し抱きしめながら、内心ガッツポーズを決めていた。
 だってこんな風に相手を抱きしめたのは初めてだ。
 彼が食事を作りに来てくれるようになった初期の小学生時代は、抱きついたことも抱き返されたこともあったけれど、中学にあがってからはそういった甘え方はしなくなった。年齢が上がれば実親にだってそんな甘え方をしなくなるものだろうけれど、加えて、思春期を迎えて父親の恋人なのだと認識したら軽々しく抱きつけるわけがなかった。
 なので、成長したこの体で、彼を抱きしめたことなんてなかったのだ。
 彼のほうが数センチ低いと思うが、自分たちの背はそう変わらない。学生時代に彼女がいたことはあるのだけれど、小柄な相手だったから、自分とそう変わらない体格の相手を、愛しい気持ちで抱きしめるのも初めてだった。
「キスしていい?」
「もうしてる」
 背が変わらないので、密着していれば相手の顔が自分の顔の横に来る。相手側に顔を向けて頬に唇を軽く押し当てながら問えば、許可なく触れたことに対する不満らしきものが滲んだ声が返った。
「口にしたい」
「そ、れは……」
「だめ?」
「……じゃない、けど」
「けど?」
「ご飯の味がわからなくなりそうで今はちょっと……」
「なにそれ。キスされたら俺を意識しすぎてってこと? それでご飯の味がわかんなくなんの?」
 理由が可愛すぎないか。年齢差があるのと相手も男なのだから、あまり可愛いとか言わないほうが良いんだろうと思っているけど、胸のうちに湧き上がってくる感情を抑えることは出来なかった。

続きました→

 
 
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