想定外すぎる相手の反応に、頭の中が混乱している。未経験の童貞だから、という躊躇いや羞恥とは明らかに違うと思った。
しかも慌てて身を離したこちらの態度に、今度は相手が慌てだす。
「ごめん、待って、違う」
泣きそうな顔は必死で、それだけでもやっぱり意味がわからなすぎて混乱が増すのに、伸びてきた手がシャツの裾をキュッと握って、まるでこれ以上距離を離すなと言われているみたいだった。
「でも……」
「ヤじゃない。嫌じゃなかった、から。ほんと、違うから……」
そんな言葉とは裏腹に、声も体もかすかに震えているし、今にも涙がこぼれそうな瞳も不安そうにユラユラと揺れっぱなしだ。
こんな相手を見たことがない。昔は、というか多分うちに来だした初期の頃は、戸惑ったり困ったりした様子の苦笑顔が多かった気がするし、慣れない子守に余裕がなかったのかもっと全体的に無愛想だったような気もする。でも、その当時から今日までずっと、泣きそうな顔を向けられたことなんてなかった。
理由は明白だ。
だって自分は保護されるべき子供だった。そして幼いころからずっと、彼の不興を買って、彼が家に来てくれなくなることを恐れてもいた。
父親の恋人と思い込んでいたから、彼を支えるのは父親だと思っていたのもあるし、不用意に踏み込んで父親とのアレコレを相談されたらたまらないとも思っていた。
ようするに、彼の前では極力、扱いやすく素直な子供の立場を貫いていたのだ。困ったときは自分を頼ってほしい、なんて様子を欠片も見せない子供相手に、不安なんて晒せるはずがない。
恋人になって、年齢差があろうと相手に甘えて抱かれたい気持ちよりも相手を抱きたい意思があることを知られて、キスやハグを繰り返して、多分、自分たちの関係は大きく変わっている。
目の前にいるのは父親の恋人かも知れない母親代わりの男ではなく、絶対に手放したくないと思った自分の愛しい恋人だ。しかも恋愛未経験の童貞で、恋人との性的な触れ合いに全く慣れていない男だ。
相手の反応の不可解さはあっても、目の前で泣きそうに震える恋人を放り出せるわけがない。
離れた距離をにじり寄って、そっと相手を抱きしめた。
「嫌じゃなかったなら、いい」
耳元で囁やけば、ホッとした様子で相手の体から力が抜けて、おずおずと背に回された手に抱き返される。
「驚かせて、ごめん、ね」
「いいよ。ただ、嫌じゃなかったって言われたら、またしたがると思うけど、大丈夫?」
キスとかハグみたいに繰り返したら慣れてくれるだろうか。互いの性器を握って扱いて気持ちよくなる、というのは思っていたよりハードルが高そうだから、まずは他者の手に触れられて気持ちよくイケるようになって欲しい。
「直接触って気持ちよくしたい、って気持ちは多分、譲れそうにないんだけど」
「わかってる。大丈夫。というか気持ちだけなら、俺だって、お前をもっと気持ちよくしてやりたいって、思ってる、よ」
「そ、っか。……うん、なら、楽しみにしてる」
やっぱり相手のペースに任せて、相手がじわじわと慣れるのを待っていたほうがいいんだろうか。早く先に進みたい気持ちがないわけではないが、相手任せにしたらいつか自分が抱かれる側になりそう、という理由が大きかったわけだから、相手のペースに任せながらも自分が抱く側になる道を探るべきかも知れない。
などと、気持ちは今後どうすべきかという方へ向き始めていたのに。
「なぁ、理由、聞かないの?」
どうやら明らかにおかしな態度を見せたことを、相手も気にしているらしい。
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