捨て猫の世話する不良にギャップ萌え、なんだろうか

 早起きは三文の徳とは言うが、たまの休日は思う存分眠って置きたい。とは思うものの、妙にスッキリとした目覚めによりどうにも二度寝出来そうにはなく、仕方がないので諦めて起き上がる。
 早いと言っても早朝と呼べるほど早い時間ではないが、それでもこんな休日はめったに無いので、いっそ朝の散歩にでも出かけようかと思いたち適当にあちこち歩いてみた後、ファミレスに寄ってモーニングメニューを堪能した。
 睡眠時間確保には失敗したが、なかなか良い出だしだ。などと自己満足で帰路についた途中、珍しい人物が珍しい店舗へと入っていくのを見かけて、とっさにその後を追って同じ店舗へと踏み入ってしまった。
 ご近所さんのその男とは小学生の頃に何度か遊んだことがある。といっても確か5つほど年齢が離れていて、中学も高校も同時期に在籍したことがない。小学生の時に遊んだと言ったって、遊び相手のメインは彼の兄であって、幼い彼はオマケでしかなかった。
 その兄とも、中学くらいまではそれなりに交流があったが、別の高校に進学してからはわざわざ連絡を取り合って遊んだりはしなくなっている。そもそも高校卒業後に実家を出たと聞いた気がするから、弟以上に顔を合わせる機会がない。
 まぁ弟の方だって、姿を見かけることなどなかなかないのだけれど。なんせ母が仕入れてくるしょうもない噂通りなら、せっかく入れた高校を早々に退学になりかけるような、荒れた生活をしているようなので。
 そんな男が、開店まもない書店に入っていくだなんて、ちょっと良からぬ想像が働いてしまうってものだろう。万引の現場を目撃するようなことがあったら、さすがに止めてやろうと思っていた。
 兄とだってさして仲が良かったわけではないが、彼の家庭環境や生活が荒れるに至った事情を漏れ聞いてしまう立場として、同情めいた気持ちがあるのは認める。一緒に遊んでいたころは、素直な一生懸命さで、兄の背を追いかけてくるような子だったのを覚えているせいもある。
 しかし、周りを気にする素振りを見せながら彼が向かった先は、はやりの漫画やらが並んだ棚ではなく、ペット関連の書籍が並んだ一角だった。そのままこっそり盗み見ていれば、どうやら猫の飼い方についてを立ち読みしているらしい。
 随分と真剣な表情で読み進めていく姿を見ていたら、思わず名前を呼びかけていた。
「ひっ……」
 相当驚かせたようで、大きく肩を揺らしながら小さな悲鳴を漏らした相手は、それでもすぐに振り向いて、怖いくらいにこちらを睨みつけてくる。
「誰だ、お前」
 そう聞かれるのも仕方がない。なので名前を告げて、兄の友人だったと伝え、小学生の頃に一緒に遊んでいた話と共に当時のあだ名を教えてみた。どうやら記憶の片隅に引っかかるものがあったようで、一応は名前を知られていることには納得できたらしい。
「で、何の用だよ」
「用、っていうか、気になっちゃって。猫、飼うのか?」
「んなわけねぇだろ」
「じゃあ猫好きなの?」
「うっせ」
 手にしていた本を思い切り平台の上に叩きつけると、早足にその場を去っていく。
「あ、こらっ、売り物だぞ」
 慌ててその本を手に取り、破損がないことを確かめてから元の場所と思しきところへ戻している間に、相手の姿はすっかり見えなくなってしまった。
 そんなことがあってから数日、母親が仕入れてきたしょうもない噂話で、彼が虐待していた子猫が保護された、という話を聞いた。
 あんなに熱心に猫の飼い方を立ち読みしていた男と虐待とが結びつかない。どうせ、猫にかまっている姿を誰かに見られて、あの調子で対応した結果虐待と思われた、とかじゃないのか。
 ありえそうすぎて苦笑するしかない。
 それからなんとなく、猫が保護されたという場所を気にかけるようになって更に数日、ぼんやりと立ち尽くす彼の姿を見つけて、我ながら懲りないなと思いながら名前を呼んでみた。
「またあんたかよ」
 少しうんざりした顔は以前に比べて明らかに元気がない。というよりもなんだか疲れた顔をしている。
「で、今日は何?」
「ここに居た子猫は保護されたって聞いたけど、お前、虐待なんかしてないよな?」
「そ、っか……」
 一瞬驚いた顔をしたけれど、でも何かに思い当たったのか、一つ息を吐き出すとくるりと向きを変えて歩き出す。その腕を思わず掴んで引き止めた。
「あー……虐待したつもりはねぇけど、まぁ、あいつらが無事保護されたってなら、俺が虐待してたんでも別にいーわ」
「もしかして、居なくなった子猫心配して、探してた?」
「うっせ。てか放せよ、腕」
 強引に振りほどくことも出来そうなのに、おとなしく立ち止まっている彼をこのまま放したくないと思ってしまった。
「えっと、……あ、じゃあ、飯でも食いに行く?」
 我ながら、何を言っているんだと思ったけれど、呆れられて仕方がない場面で、なぜか相手はふはっと笑いをこぼす。
「じゃあ、ってなんだよ。てかそれって当然奢りだよな? 金ねーし、奢りなら行ってやってもいいけど?」
「もちろん奢る」
 食い気味に肯定すれば、相手はますますおかしそうに笑い出してしまったが、笑う顔に昔の面影が重なって、なんとも言えない気持ちになった。
 頭の片隅では、これ以上深入りしないほうが良いとわかっているのに、その反面、いっそもっと深く関わってしまいたい気持ちが湧いている。

有坂レイさんは、「朝の書店」で登場人物が「夢中になる」、「猫」という単語を使ったお話を考えて下さい。https://shindanmaker.com/28927

描写ないけど視点の主は高校卒業後就職している社会人です。

 
 
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