好きな人には好きな人がいて、たまたま知ってしまったその片恋相手が男だったから、実は自分が好きな相手も男だと告げて、代わりでいいから抱いて欲しいと頼んだ。
同様に叶う見込みのない恋だということ、抱かれるセックスに興味があること、でも出会い系やらを使って相手を探すのは怖いこと、などを訴えためらう相手を頷かせることに成功し、そこから始まったセフレみたいな関係はもう何年も続いている。
正直、けっこうな泥沼だと思う。
好きな相手の代わりだから、それこそ愛情を感じてしまうくらい丁寧に優しく抱いてくれることも有るし、本当に好きな相手ではないから、好奇心を満たすみたいなプレイじみたこともする。
愛されていると錯覚するようなセックスは期待しそうになるから正直苦手で、セフレだからこそ知れる一面だと思えば、好奇心と快感とを追求するみたいなセックスのほうが好きだった。
おかげで、すっかり淫乱扱いなのがちょっと悲しい。
最初っから、セックスに興味があって安全に抱いてくれそうな男を探してる、なんて誘い方をしているし、初回からそこそこ感じたと言うか既に自慰である程度開発済みだったのもあって、多分、セックス大好きって思われてる。
まぁ実際嫌いじゃないんだけど。だって彼に抱かれて果てた後のあの時間は、片恋相手に片恋のまま抱かれる虚しさとか切なさとかを引き換えにしたって充分お釣りがくるくらい、多幸感に満ちている。
泥沼だなぁとは思っているが、積極的に抜け出す気はさらさらないし、このまま何も変わらずに続いてくれるならそれで良かった。
恋は叶わなくてもとりあえず体は満たされているから、それで充分だったのに。
でも相手の好奇心は、現状維持を望まなかったらしい。
ある日抱かれに行ったら、知らない男を紹介されて、3人でしようと提案された。
信頼の置ける男だから、とか、危ないことは絶対しない、とか、二人がかりで責められたらいつも以上に気持ちよくなれるよ、とか。
絶対嫌だと思ったのに、絶対嫌だとは言えなかった。でも絶対嫌だと断って逃げ帰るのが正解だった。
初めてから全部、気持ちぃセックスしか経験がなくて、好きな人にしか抱かれたことがなくて、すっかり淫乱な体に開発れたんだって自分自身思ってて、だから、知らなかった。
緊張してるから、というので誤魔化せないくらいの嫌悪感に襲われて、途中で泣きじゃくって初見の男を拒否した挙げ句、抱かれたいのは彼だけなのだと、とうとう口走ってしまった。
片恋相手が誰かはずっとはぐらかして教えなかったのに、こんな場面でと思うとますます泣けてくる。
楽しく氣持ちくセックス、が目的の場で、ぐすぐすと泣き続けていたらどう考えたって興ざめだろう。
あっさりお開きになったし、少し落ち着けと、寝室に一人取り残されてしまった。
ちょっと送ってくると言って男と一緒に寝室をでていった彼は、どうやらそのまま相手の男と一緒に家を出たらしく、しばらく待っても帰ってこない。
どっかで、せっかく呼んだのにこんな結果になったことを詫びているのかも知れないし、こんな結果になったことを愚痴っているのかも知れない。青天の霹靂的な告白をしたはずだから、今後の相談、という可能性もあるだろうか。
ノロノロと着替えて部屋を出る。合鍵は持っているのでそれを使って施錠し、そのあとそれは集合ポストの彼の部屋番号のところに突っ込んだ。もう、使うことはないだろう。
それは別れの意思表示でもあった。さすがにセフレなんて続けられない。
そう、思ったのに。
夜になって部屋を訪れた相手は、随分と慌てた様子で深々と頭を下げた。
「試すみたいな真似して本当に悪かった」
「試す? 何を?」
「セックス、気持ちよくしてくれる男相手なら、誰にでもああなのかと思って……」
そうだったなら良かったのに。
残念、お前にだけだよ。
そう言いたくて、でも、開いた口から音が漏れることはなかった。代わりに、ひゅっと小さく喉がなる。
さっき散々泣いたのに、また、泣いてしまいそうだ。
「俺だけになら、すごく、嬉しい。お前の本命が俺で、本当に、良かった」
いつのまにか好きになってた、とか。お前の片恋相手がわからなくてヤキモキした、とか。セフレじゃなくて恋人になって欲しい、とか。付き合って欲しい、とか。好きだ、とか。
そんな言葉を彼の腕の中で聞きながら、結局またけっこう派手に泣いたけれど、これは嬉し泣きだからあまり慌てないで欲しい。
今回の更新期間もお付き合いありがとうございました。
1ヶ月ほどお休みして、3/3(月)から更新再開予定です。
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