ズルイ ズルイ ズルイ。
こんな状態に陥っても、慌てて醜態を晒すような男じゃないから。相手を宥めるための言葉を選べる大人だから。
悔しさに美里は唇を噛み締める。
声を震わせはしたけれど、怯えているわけではない。
結局、雅善に敵いはしないのだ。
美里は一度瞳を閉じて、心の中で3つ数えた。それは、多くを望まず諦めるための時間。
「俺は、今も結構冷静だと思うけどな。てわけで、諦めろよ」
そう口に出しながらも、諦めるのは自分のほうだと美里は思う。
心が手に入らないなら、せめて身体だけ。
その考えが酷く醜いものだという自覚もある。それでも、もう、止まらない。
握りこんでいたモノを放した美里は、雅善が一瞬ホッとしたように力を抜いた隙を逃さず、更に奥へと手を伸ばした。
「イッ!!」
知識だけで知っている男同士で繋がるための場所へ、半ば強引に指先を埋め込めば、雅善の口から苦痛の声が漏れる。
「慣らせるようなもの、ないのか?」
背後の棚に並ぶ薬品類に目を走らせながら問うが、遠目にラベルを見た所で美里にはそれらの薬品が何であるかはわからない。
「はっ、何言うとんの。アホなんも大概にし」
「力じゃ敵わないってのに、余裕だな」
更に強引に突き立てた指に、上がる悲鳴はキスで塞いだ。
背けようとする顔を顎を掴んで押さえ込めば、口内へと吐き出される苦痛の声。構うものかと指も舌も乱暴に動かせば、胸に鈍い衝撃と痛みが走った。
雅善が括られた両拳で美里の胸を突いたのだ。
「ムチャクチャ痛い。最悪や。このヘタクソ!」
吐き出す声はさすがに怒りに満ちている。しかし、ヘタクソなどと罵られた美里の方も、充分に怒りを煽られていた。
一旦身体を離し、男にしてはやや小柄な身体を抱き上げる。そうしてから、部屋の奥に置かれた机の上に雅善を腰掛けさせた。
足元に絡まるズボンと下着を引き抜き、問答無用で両足を大きく開かせれば、雅善の顔が羞恥で赤く染まる。それに構わず、美里は開かせた足の間へと顔を寄せた。
「なっ……!」
慌てた雅善が力を込めた両足は、それを押し返す美里の力の前では無力だった。
「あ、あかんて、美里。カンニンや!」
「大声出すなよ。慣らすもんないんだ、仕方ないだろ?」
「わ、わかった。わかったから、ちょおストップ。ストップや!」
美里の掴む膝から下をバタつかせる雅善に、さすがの美里も動きを止めて、雅善を窺うようにわずかに視線を上げる。
必死の表情で雅善は机の隣にある小型冷蔵庫を開けるようにと訴えた。
「そこに、ラップ掛かった500mlビーカーあるやろ」
言われるままに冷蔵庫を開けた美里は、丁度目の前の位置に置かれたそれに手を伸ばす。中には半透明の液体らしきものが、ビーカーの半分量ほど入っている。
「なんだよ、コレ」
「単なるデンプン糊や。一応、食べたとしても毒やない」
「で、これをどうしろって?」
「ちょお触ってみぃ。そしたらわかる」
美里はフッと小さなため息を吐き出すと、仕方なく手の中のビーカーからラップを外し、ほんの少し傾けて、手の平の上へとその液体を垂らした。
思っていたよりもずっとトロミのあるソレは、ゆっくりとビーカーの内壁を伝って落ちてくる。
「ここまでされたら、本気で合意してるんだと勘違いするぞ?」
コレを潤滑剤代わりにしろと言っているのだと理解はしたが、雅善の思惑が図りきれず、美里は眉を寄せて見せた。
「止めてもムダやって言うなら、仕方ないやんか。ワイかて、自分の身体は大事にしたいねん」
「悪かったな、ヘタクソで。なら、お望み通り使ってやるよ」
言い捨て、美里はトロミの付いた液体を乗せた左手を、舌の代わりに深部へと押し当てる。
「んんっっ」
咄嗟に口を閉じた雅善の鼻から漏れる、甘い響き。
あらわになっている太腿は、一瞬にして粟立った。潤滑剤の力を借りて、今度は比較的すんなりと、雅善の深部はビリーの指を飲み込んでいく。
「……っ」
声を洩らすまいとしてか、雅善は括られた両拳を口元に押し当てている。視線が合うと、困ったように瞳が揺れた。
その瞳を見据えながら、ゆっくりと内部に埋めた指の抜き差しを繰り返せば、逃げるように瞳を閉じて、いっそう固く口を結ぶ。
ゆがめた眉の上、額に薄く汗が滲んでいる。上気した頬も、耐える表情も、時折零れ落ちる吐息も。
無理を強いている自覚があってなお、美里の熱を煽ってやまない。
逸る気持ちを押さえ、極力丁寧にその場所を解したビリーは、ほとんど抵抗を示すことのない雅善の両足を抱え上げた。
バランスが取れずに、雅善の身体が傾ぎ、背後の壁に打ちつけた頭が鈍い音をたてる。
「悪い……」
呻く雅善に声を掛ければ、涙の滲む瞳で睨まれた。
またヘタクソと罵られるかと覚悟したが、雅善が口にしたのは別の言葉だった。
「逃げへんし、この手、解いて貰えん?」
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