せんせい。9話 解く

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 一瞬ためらい、けれど結局、美里は無言のまま手を伸ばし、雅善の両手を縛めるネクタイを解いてやる。雅善は痛みを取るかのように数回手首を振った後、躊躇うことなくその手を美里の肩へと置いた。
「……ガイ?」
「なるたけ、ゆっくりしてな」
 雅善はフワリと微かな笑みを零す。余裕を見せつけられるようで、胸の奥がまた軋んだ。
 慣れているのか?
 もしかして、初めてではないのだろうか?
 浮かぶ疑惑は、肩を掴む手が微かに震えているのに気付いて、口にすることはしなかった。
 再度両足を抱え上げ、引き寄せられるままに胸を合わせ、耳元で響く雅善の呼吸を計りながら、ゆっくりと自らを突き挿した。
「ぁ……っ」
 声を押さえるためにと咄嗟に顔を埋めたらしい肩口が熱い。下半身のうずきとあいまって、堪えられそうになかった。
 服越しに感じる熱い息。そこから漏れるくぐもった苦痛の叫び。背中にキツク食い込む指先。
 それらに申し訳なく思う苦しさと、確かに繋がっていることに対する喜びと。
「好きだ。ガイのことが、好きなんだ……」
 溢れる気持ちが言葉に変わる。
 よりいっそうキツク抱きつかれながら、美里は雅善の中へと想いの丈を吐き出した。

 ぐったりと力を抜いてしまった雅善の中から抜き出てから、疲れを滲ませる頬をサラリと撫でる。ゆっくりとした動作で持ち上げられた雅善の手が、頬に触れる美里の手首を掴んだ。
 戸惑いを滲ませる美里の瞳を、雅善の視線が真っ直ぐに捕らえる。
「ワイも、美里のこと、好きやで」
 ゆっくりと吐き出される言葉。
「えっ!?」
「好きやった。もう、ずっと前からや。子供の自分に、アホみたいに惚れとったなんて、全然気付かんかったやろ?」
 苦笑を零す雅善に、美里は返す言葉がない。
「好きな相手やなかったら、こんなん絶対許したらん。けどな」
 言葉を切った雅善の顔が、泣きそうに歪んだ。
「ワイはやっと採用して貰うた臨採で、美里は生徒の一人で、どんなに好きかて、特別にはできんのや」
 今日のことは全て許すから、明日からはただの生徒になって欲しい。個人的にこの化学準備室へと遊びに来ることは禁止する。
 そう告げた雅善の身体を、美里は思わず引き寄せ、やさしく抱きしめた。雅善の切なさと、自分の切なさが混じりあって、胸の中を悲しみに似た気持ちが満たす。
「校外でも、だめなのか?」
 せっかく互いに同じ想いを抱いている事に気付けたのだ。このまま諦めたくなどなかった。
「あかんよ。ワイの住んどること、ここからそんなに遠ないし」
 どこに人目があるかわからないから。
 言いながら、雅善は宥めるように美里の背中をそっと何度も撫でた。
「だからって諦められるかよ」
 苦々しげに吐き出しながら、美里は身体を離し、雅善の顔を正面に捕らえる。そっとメガネを取り上げても、雅善は文句をその口に上らせることはない。
 顔を近づけ、その唇に、触れた。雅善と交わす、最初のキス。
 喜びと悲しさの混ざる表情でされるがままになっている雅善に、角度を変えながら何度も振れて確かめる。
 この口が自分を好きだと言ったのだ。今日だけ、今だけ。なんて、ものわかりのいい大人にはなれない。
「俺が卒業するまでは、人の目が気にならないくらい遠い場所でデートしよう。電話やメールで、繋がろう。それなら、校内でだけは、俺は物わかりのいい生徒を演じてやってもいい」
 言葉は尊大でも、美里は雅善の許容を求める立場でしかない。
「なぁ、頼むよ……」
 迷った後で、結局頭を下げた。
「ホンマ、かなわんなぁ」
 雅善の零した小さな呟きに、許されたことを知った。

 

 

 

**********

 自宅の最寄駅からは大分離れた場所にある小さな駅を降りた美里は、駅前のロータリーに停車する一台の車に、迷うことなく向かって歩く。
 雅善が車持ちだったので、二人で過ごす時間は車の中がダントツに多い。
 本当は助手席に雅善を乗せて自分が運転したいのだけれど、免許の取得は受験が終わってからと決めている。親にも友人達にもそう宣言していたことを最初は少しばかり悔やんだけれど、ハンドルを握る雅善をのんびり観察するのも楽しいので、もう暫くはこの状態に甘んじて居ようと美里は思う。
 互いの家に行き来することも、街中を並んで歩くことも、今はまだ出来ないけれど。来年の春、桜が咲く頃にはそれらの夢も叶うだろう。
 美里が近づくのに気付いて口の端を持ち上げる雅善に、自分も同じように笑いかけてから、残りの距離を急いだ。

<END No.3>

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