せんせい。番外編 END No.3オマケ

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 自分達の関係を隠しながら重ねるデートの行き先は、やはり、どちらかというと都心部から離れた場所が多い。絶対に知り合いとは出会わないような、ちょっと寂れた観光地。
 行き先を決めるのはたいがい雅善だったから、雅善自身はそんな場所でもそこそこ楽しんでいるようだったし、ただただ雅善との時間を持ちたい美里にとっては、行き先なんてさして重要ではなかったし、雅善が楽しんでいるなら尚更どうでも良かった。
 問題があるとすれば、あの化学準備室で襲ってしまった時以来、雅善を抱いていないことだろう。
 美里にとって、これは大きな問題だった。確かにあの時、雅善は自分を好きだと言った。しかも、自分が雅善をそういう対象として好きになるよりももっと前から、子供だった頃から、ずっと好きだったと言ったのだ。
 なのに、たまに軽いキスを許してくれる以外、なんだかずっとはぐらかされていると思う。
 校外で会ってくれるなら、校内ではただの一生徒として接するのでも構わない。そう言って半ば脅し取ったデートの約束だからだろうか? それとも、最初の1回があまりにヘタだったせいで、2度目を警戒させているのだろうか?
 どんな理由にしろ、雅善に触れたいという気持ちが収まるわけではなかった。
 
 
 曲がりくねった山道を、車は軽快なスピードで登って行く。ところどころ開いた場所から覗く景色は、そろそろ秋の終りを告げていた。
「ガイ、どこか景色の良さそうな所で、一旦車止めないか?」
「ああ、ええよ。写真でも撮ろか?」
 肯定の言葉を返す前に、車はグンとスピードを落とした後、道の脇に作られた簡易な駐車スペースへと停まった。
「ええ天気やし、まわりの木ぃたちもキラキラしとって綺麗やな~」
 うっとりと呟きながら伸びをして、シートベルトを外そうとする雅善の手を、美里はそっと掴む。
「美里……?」
「キス、したい」
「ここで?」
 小さく笑う雅善を、美里は真剣な目で見つめたまま。
「そう、ここで」
 答えながらシートベルトを外し、返事も待たずに身体を浮かす。
「キスだけ、やで?」
 ゆっくりと瞼を下ろしながら囁かれる言葉に、わかったと返す気はなかった。軽く触れるだけのキスを何度も繰り返し、やがて雅善がそろそろ止めろと言いたげに肩を掴むのを合図に、深いキスへと変えた。
「んんっ!?」
 驚きか、拒絶か。美里の口内へと吐き出された言葉はくぐもった呻きとなり、雅善の指はそのままキツク肩へと食い込んだ。
 美里自身も、肩へと走る小さな痛みに眉を寄せたものの、だからと言って雅善を開放する気にはなれない。
 逃げる舌を追いかけ捕らえ、存分に舐め啜りながら、ズボンから引きずり出した服の裾から潜り込ませた片手で、直接雅善の肌に触れた。怯えるように、雅善の肌が戦慄くのがわかる。
「キスだけやて、言うたやろ」
 唇を放せば、戸惑いを滲ませながら吐き出された声が震えた。
「キスだけじゃ、足りない。抱かせろとは言わないから、もう少しだけ、雅善に触らせてくれよ」
「ここを、どこだと……」
「車通りのほとんどない、山道の道路脇に停めた車の中。ちゃんとわかってる。ムチャしたりしないから」
「既に充分ムチャしとるって」
「うん。ゴメン。でも、止められない」
 吐き出される溜息。こんな風に、雅善に溜息を吐かせるのは何度目だろう?
 自分よりもずっと小柄で、童顔で。並んで歩けば、同級生か、悪くすれば自分の方が年上に見られることだってありそうなのに。やっぱり相手は既に成人して数年を経た大人で、ずっと好きだったと言ったその言葉はきっと本当で、最後の部分で拒絶しきれないのを知りながら、そこへ付けこんで甘えてしまう。
 甘やかして、甘えさせたい気持ちはあるのに、身体だけ大きくてもダメなのだと、この数ヶ月で嫌になるほど思い知った。
 どうすればいいのかなんてわからない。わからないことだらけで、気持ちばかり相手を求めて、持て余す情熱を一人では処理し切れない。そんなことまで、ガイには見透かされているような気さえする。
「ゴメン、ガイ。でも好きなんだ」
 情けなさに泣きそうだった。覆いかぶさるようにして、美里は雅善を抱きしめた。
「わかっとる。ワイも、好きや」
「なら、なんで……」
 はぐらかすのか。抱かせてくれないのか。
 言いたい気持ちと、尋ねるのが怖い気持ちが混ざって、結局言葉には出来なかった。返される言葉はなく、代わりに、宥めるように雅善の手が背中をさする。
「ワイを、抱きたいか?」
 やがて、ゆっくりとした口調で問いかけの言葉が掛けられた。
「当たり前だろ!」
 背中に置かれた手は名残惜しかったが、身体を放して雅善を見つめれば、雅善は酷く優しげに微笑んでいた。
「ワイのがずっと年上で、身体は小さくてもれっきとした男で、ずっと美里を抱きたいて意味で好きやった。て言うたら、どうする?」
「えっ……?」
「キス以上の事がしたいんやったら、そういう可能性も考えとき」
 雅善のシートベルトが外れて戻って行く。それを呆然と見つめながら、美里はその言葉の意味を理解しようと考える。
 もしかして、抱かせろ、と言われたのだろうか?
 その想像を裏付けるように、雅善の手が美里のズボンのフロントに掛かって、美里は思わず上ずった声で尋ねてしまった。
「俺を、抱く気なのか?」
「まさか。ただ、ワイかてホンマに美里を好きなんやって、ちゃんと教えたろと思てな」
 ジジッと小さな音を立てて、ジッパーが下ろされる。下着の中まで躊躇いなく進入した暖かな手の平に包まれて、身体はすぐにも反応し始めていた。
「が、ガイ!?」
 身体を屈め、引きずり出した怒張に顔を寄せて行く雅善に、美里は驚きの声を上げる。上目遣いに美里を見遣った雅善の顔は、なんだか笑っているように見えた。
「ううっ」
 熱い口内に含まれて零れる吐息。信じられないという気持ちでいっぱいだったが、現実は確かな快楽を伴ってここにある。
 雅善が自分のモノを咥えている。その事実だけでも達してしまいそうなのに、丁寧に這わされる舌とか、軽く当てられる歯とか。耐えられるわけもなく、美里はあっさり音を上げた。
「ダメだ、ガイ。もう……」
「ええよ」
 そう言われたって、その口の中に吐き出すことなんて出来ない。なのに、力で払いのけてしまうにはあまりにも惜しい誘惑だった。
 結果、必死で耐える美里の我慢も、促すように吸われれば限界を超える。全てを口で受け止めてから、ようやく、嫌そうに眉を寄せつつ顔をあげた雅善の喉が上下した。
 飲まれた……
 嬉しさよりも、むしろ羞恥と戸惑いが美里を襲う。言葉を失くして、呆然と雅善を見つめる美里に、雅善は余裕を見せつけるように口の端をあげて見せる。
「これ以上は、美里が卒業するか車の免許取ってからや」
「免許……?」
「抱かれた後でも無事に運転できる自信はさすがにあれへん。てこと」
「でもさっき!」
「今すぐ、これ以上のことしたいんやったら、ワイが抱くよて言うただけや。ワイかて色々我慢しとるんやから、あんま煽るようなことすんなや」
「生殺しも同然の仕打ちだな」
 手を伸ばせば届く近さに居る好きな相手と、当分の間キスだけの関係でいろと言うのか。
 我慢なんてしなくていいのにと言いたかったが、それがイコール、自分が抱かれる側になることを指すなら、さすがに躊躇いがある。
「好き、て気持ちだけやったら不満ですか?」
 やや下方から覗きこまれての問い掛けに、不満なんてないと言えるほど強がれない。きっとまた、焦れて、触れたくなって、多少強引にでもその身体に手を伸ばしてしまうだろう。
「受験生を誘惑するんは気ぃひけるんやけどな、あんま煮詰まられても困るし、ほな、たまにはまた口でしたるから、それで我慢せぇへん?」
「それは……でも、俺だってガイを気持ち良くさせたい、し」
 苦痛に歪む顔じゃなく、快楽に喘ぐ表情が見たい。自分の手によって雅善の快楽を引きずり出してやりたいのだ。その口から、気持ちイイと言わせたい。
「それは卒業後か免許取ってから」
「触るだけでもダメなのか!?」
「ワイを、ムチャクチャ感じさせて、ドロドロにしたい。て顔しとるからアカンな」
 ニヤリと笑う顔に、やはり全然敵わないと思う。
 服を調えるよう促されて従えば、出発する気なのか雅善はシートベルトを装着する。仕方なく、同じようにシートベルトを締めて、動き出す景色に視線を送りながら。前言撤回で、受験終了前に車の免許を取りに行ってしまおうかと考えた。

 
 
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