多分、両想いな二人のクリスマス後

多分、両想いな二人のクリスマスイブ の続きですが視点が変わっています。

 ベッドの上にごろりと寝転がり、ゆっくりと握った手を開けば、そこには鈍く光る銀色の鍵が1本。しばらく眺めて、再度それを握りしめて、またベッドの上を右に左に何度か転がった。
 頬が緩んでいる自覚はあるし、時折、緩んだ口元からは「うへへ」だとか「ふはは」だとか、客観視したらドン引きしそうな変な笑いが溢れてもいる。
 平日のクリスマスなんてしないと言われていたのに、大量の食べ物持参で押しかけてクリスマスパーティーを強行した結果、とうとう、あいつの家の合鍵を手に入れてしまった。
 前夜雑に片付けただけの惨状にプラスして、寝坊という慌ただしい朝に、ちゃんと片付けしてから帰れよと言い捨てて出社してったってだけだけど。合鍵を貰ったってよりは、預かったってだけにすぎないんだけど。
 それがこんなに嬉しいのはちょっとどうなんだろう。そう冷静に判断する思考もほんの僅かには残っているが、いやもう好きってことでいいんじゃないのと、半ば投げやりな気持ちが大半って気もする。
 男同士ってのも、最近はそこまでタブーってこともないらしいし。全く脈がないってこともないような気がしないこともない。……ような気がするし。
 いやでも憐れみとか同情とかで、付き合い続けてくれてるだけって気もする。なんせ、友人と呼べるような相手は、もう彼しか残っていないので。それを相手も知っているので。
 中学からの友人である彼とは、もう結構長い付き合いになる。
 降って湧いた遺産相続で手にしたそこそこの資産によって、金に困らない幸せな生活を手に入れたはずだった。なのに気づけば友人も恋人も仕事も無くしてしまった。
 人間不信とあれこれのトラウマでまともに働けてないけど、リハビリ兼ねたバイトはなんとか続いているし、手放さずに済んだ資産による不労所得で一応生活は出来ている。
 あいつは、遺産が入る前も、潤沢に金があったときも、それを無くしたあとも、変わらずに接してくれた唯一の人間と言ってもいい。利用したりたかったりすることもなく、見捨てることもなかった。
 そんな彼は、自分にとっては間違いなく特別な唯一人の友人だけど、相手にとって自分がどんな存在でどんな位置づけなのかは知らない。
 寂しいとかしんどいとかで押しかけても、めちゃくちゃ親身になってくれるわけでもない、けど冷たく突き放すでもない態度で受け入れてくれるから、つい甘えて頼ってしまうのだけど。どん底だった時に、呆れたような溜息と一緒に、力になれることがあれば協力は惜しまないと言ってくれたその言葉に、ずっと縋っているんだけど。
 あの土地から少し離れたらと提案してくれたのもあいつで、ご近所ってほど近くはないけど歩いて行き来できなくはない微妙な距離に同時期に越してくれたのもあいつで、つまりは頼り切るのはダメだけどいざって時には頼っていいって、これはそういう距離なんだろうと、勝手に思っているんだけど。
 実のところ、協力は惜しまないと言った自身の言葉に縛られて、相手をしてくれているだけって可能性さえある。だって責任感強めな男だってことも知ってる。
 多分、間違いなく、好きなんだと思う。でも恋愛感情なのかはわからないというか、そもそも男で友人で、本来なら恋愛対象になんかなるはずもない相手だ。
 それでも、もっと一緒にいたいし、なんなら引っ付いてみたいし、抱きしめたり抱きしめられたりしてみたいと思う。今のところ、キスだのセックスだのまでしたいわけじゃないけど、でも抵抗はないというか、絶対無理とかキモいとかって感情は湧きそうにない。
「うーん……」
 妙なことで考え込んでしまって、思わず唸り声が漏れた。
 だって好きを自覚したって、今あるこの関係を変えたいわけじゃない。変わってしまうのは困る。というか怖い。
 唯一の友人を、この感情のせいで失くすのはゴメンだ。絶対に嫌だ。
 再度手を開いて、鍵を見つめる。やっぱりじわじわと嬉しくて、頬が緩んで、ふへへと変な笑いが溢れる。
 ああ、好きだなぁ、と思う。思うと同時に、これは絶対秘密にしなきゃ、と思った。

次回更新はこの二人の大晦日の話が書きたいので、31日(火)になります。
リアル大晦日で私自身の予定が読めないので、更新時間は未定です。
なるべく16時ごろには更新できるように頑張りますが、無理そうなときはX(旧Twitter)でお知らせします。

 
 
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