多分、両想いな二人のクリスマス後 の続きですが再度視点が変わってます。
冬至にもクリスマスにも押しかけてきたのだから、当然、大晦日だって押しかけてくるんだろうと思っていた。もっと言うなら、こちらが正月休みに入ったら連日押しかけてくる可能性だって考えていた。
人間不信を極めているが、寂しがり屋のお調子者という性質が、そうそう変わるわけでもないんだろう。色々あったあの土地から離れてからは、自宅に籠りっぱなしではなくなったし、バイトまでするようになった。
いい傾向だと思うし、あの土地から離したのは正解だと思うし、彼の力になれたことを嬉しく思う気持ちもある。
もっと力になりたいし、もっと頼ってほしいし、もっとこちらに依存してしまえばいい。
そんな気持ちが湧きそうになるのを極力抑え込んで、友人としての距離をどうにか保っている。多分、保てている。はず。
だって、いずれはまたたくさんの友人を作って、可愛い彼女を作って、今度こそ幸せな家庭を築くだろう。今はまだ傷が癒えていないから、友人として彼の隣に立てるのが自分しかいない、というだけだ。
そもそも、同じ中学出身で部活が一緒だった、というだけの縁で細々と繋がっていた友人なのだから、今の自分たちの距離こそが異常と言っていい。
元から気が合って一緒にいた親友などでは決してなく、どちらかというと彼は憧れの存在だった。自身の性的指向に気づいてからは、まぁ、そういう対象としてオカズしたこともなくはないが、そこまでだ。相手が自分を選ばないことは確定だったし、それ以上を望んだことなんて、少なくともここに越してくるまではなかった。
今だって、極力そんな願望からは目を背けているし、気をつけてもいるけれど。相手が自分を選ばないのは、今だって同じと信じているのだけれど。
彼との近しい友人関係を経験してこなかったせいで、今の彼が向けてくる態度やら発言やらが、友人として普通なのかどうかがイマイチ判断つかなかった。いやまぁ、経験してても判別が付いたかは怪しいけれど。
時々、誤解しそうになる瞬間が、ある。相手の信頼やら好意やらに、恋愛的な意味合いが含まれているのではと、感じてしまう瞬間が。
でもまぁきっと、気のせいなんだろう。もしくは自身の願望がそう錯覚させているだけだ。
今までは大勢の友人やら恋人やらが担っていた彼との関わりが、ただ一人残った友人に集中しているのだから、きっと仕方がない。彼の傷が癒えてまた恋人ができたら、誤解しそうになる瞬間やら、恋愛的に好かれているなんて錯覚は、きっと無くなる。
そう考えたら、大晦日になんの連絡もなく、突然押しかけてくるわけでもない現状は、好転の兆しという可能性もあるだろうか。新しい友人でも出来て、大晦日はそちらと過ごすのかも知れない。
なんていうのが、現実逃避だってことはわかっていた。
元々の関係なら、大晦日に誰と過ごそうがお互い知ることなんてなかったけれど、今の関係なら、別の誰かと過ごす場合は何かしら連絡がくるだろう。今現在、彼に一番近しい友人である自覚はあるし、そんな存在を無碍にしない性格なのもわかっている。
確認した時刻は既に夕方の5時を過ぎていて、外は遠くがうっすら赤みを残しているだけで、随分と暗くなっていた。
”今日は来ないのか?”
そんな短なメッセージを送れば、返信はすぐに来た。
”行きたいとは思ってんだけど”
”風邪でも引いたか?”
”いや、元気元気”
体調でも崩したのかと思ったが、そういうわけではないらしい。
”じゃあ今から行くわ”
「は?」
こちらが返信する前に追加でそう送られてきて、思わず声が漏れた。
”は?”
取り敢えず素直な気持ちとして、漏れた声そのままを送ったものの、それに対する返信はない。
まさかこちらが誘うのを待っていた?
いやでも来ないのかと聞いただけで、誘ったと言える内容ではないか。だとしたら、もっと遅くに押しかけるつもりが、こちらから連絡したせいで来訪が早くなっただけか。
その可能性が高そうかな、と思う。一緒に年を越そうとか言って日付が変わる少し前に押しかけてきて、またそのまま泊まっていく気だったのかも知れない。
そう思ってから、最初から、一緒に年を越すつもりだろうと考えていたことを自覚した。相手がまた泊まっていく想定だった。
だってそれは、友人としてそうオカシクはない大晦日の過ごし方だろう?
あまり自信はないけれど。彼以外の誰かと、そんな年越しをした経験もないけれど。
しばらくしてチャイムが鳴った。迎えに出れば、そこには明らかに中身は酒瓶とわかる縦長の袋を持った相手が立っている。
「はいこれ。てか酒は持ってきたけどツマミとかってどうなってる? 夕飯とかどうすんの?」
「お前こそどうしたいんだ。ちなみに買い出しとか行ってないから大したもんはないぞ」
「そうなの? 今日とか何してたわけ?」
「ここ数日は大掃除と仕事」
「仕事!?」
「終わらねぇんだよ」
「なんていうか、家でも作業できる系の仕事、大変だな。呼んでくれれば掃除なり買い出しなり手伝ったのに」
「勝手に来たらこき使ってやろうとは思ってた」
「そりゃ残念」
「どっちの意味で?」
「えっ?」
こき使えなくて残念だったなというよりは、来ればよかったと言っているように聞こえてしまったから、ついそんなことを口走ってしまったけれど。驚かれて、余計なことを言ってしまったと反省する。
「いや、なんでもない」
「やっぱ年越しそばは食べたいし、今から一緒に買い出し行く?」
「そうだな」
じゃあここで待ってると言われて、急いで上着やら財布やらを取りに部屋へと戻った。
今年も一年間お付き合いいただき、どうもありがとうございました。
来年も変わらず書き続けそうなので、お付き合いよろしくお願いいたします。
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■
HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁