軽い頭痛と胸焼けで意識が浮上し、ベッドの中で大きなため息を一つ。
また、やってしまった。
昨夜は隣で飲んでいた一人客と意気投合し、飲みすぎて、いろいろあって、今に至る。
酔っても記憶が飛ばないのはありがたいが、覚えているからこそ、やらかした翌朝の自己嫌悪も酷い。
昨日の相手はふらっと入った居酒屋で捕まえた、というのも自己嫌悪を加速させる。間違いなくノンケだったし、かなり戸惑ってたし、酔いに任せて本当に悪いことをしたと反省する。
反省したところで過去は変えられないし、こんなことは二度とやらない自信もないのだけど。
再度大きくため息を吐いてから、ゆっくりと体を起こした。
酔った勢いで縺れ込であれこれ致したわけだから、ベッド周りはまぁまぁ酷いことになっているがそれはいい。
問題は昨夜連れ込んだ相手の姿がないことだ。
記憶は飛んでないので、今回連れ込んだ相手がちょっと難あり物件だってこともしっかりと覚えている。
家も仕事もないって話だったから、多分金もそんなに持ってないはず。なんて相手をよくまぁ自宅に連れ込んだと、我ながら呆れる。
「はは……っ痛……」
乾いた笑いをこぼせば、連動して二日酔いの頭が痛んだ。
「ああ、起きたくない……」
そんな現実逃避を口に出してはみたものの、寝室の外を確認しないわけにはいかない。人の気配はなさそうだから、多分、相手はもう逃げ出したあとなのだろうけど、はたして何を持ち出しているだろう?
あまり部屋を荒らされてませんように。
そんな願いを込めつつ寝室を出たところで、廊下の先にある玄関ドアに鍵が挿さる音が聞こえて、思わずそちらを凝視する。
なぜかしっかり閉まっている鍵が、なぜか外から開くのを呆然と見つめてしまえば、ドアが開いて一人の男が入ってきた。
昨夜連れ込んだ男だが、当然、意味がわからない。
「あ……」
何が起きてるのかわからず相手を見つめてしまえば、相手は気まずそうな顔で明らかに戸惑っている。
「え、なんで?」
「なんで?」
「なんで外から? え、帰ってきた? って、コンビニ?」
「あー……」
次々と溢れてくる疑問を口からこぼせば、相手はますます気まずそうだ。
「その、昨夜のこと、どこまで覚えてますか?」
誰だって聞かないから俺のことはわかるんですよね? と確認されて、一応と返す。
「えと、同意はあったというか、誘われたのは俺の方で」
「ああ、うん。わかってる。てか酔っても記憶飛ばない方だから、多分そこそこしっかり覚えてる」
言えばあからさまにホッと安堵された。
「あの、朝飯食べれますか?」
「え?」
「買ってきたんですけど」
言いながらコンビニの袋を掲げられて、なるほど中身は朝食か、と思う。
「食べながら話しませんか?」
いっぱい運動したらお腹減っちゃってとはにかまれたけど、その運動ってのはやっぱ昨夜のセックスだろうか?
「ああ、うん」
戸惑いながらも了承を告げて、とりあえず一緒にリビングへと移動した。
インスタントの味噌汁まで2人前買ってきていた相手は、二日酔い辛そうだから座っててくださいと言いおいて、率先してお湯を沸かして味噌汁を作っている。
やることをやった仲ではあるが、知り合ったのも家に入れたのも昨夜だというのに。ただ、随分好き勝手動くんだなという気持ちはあるものの、正直言って何もする気力がわかない程度に体がしんどいので、黙って待っているだけで朝食が運ばれてくるというのはありがたい。
「おまたせしました」
「ああ、うん」
「じゃあいただきます」
差し出された味噌汁とおにぎりを受け取れば、相手はさっさと食べ始めていて、どうやら相当お腹が空いていたらしい。それを横目に、自身も小さくいただきますと告げて、まずは味噌汁にそっと口をつけた。
「それで、今後のことなんですけど」
胃の中に温かな汁が流れ込んでホッと息をつけば、それを待っていたかのように相手が口を開く。
「え、今後?」
「あっ……」
戸惑えば相手は少し考える素振りを見せたあと。
「えと、昨日の話、どこまで本気ですか?」
「えー……と、どんな話?」
「仕事見つかるまで、ここに居てもいいって」
「あー……」
仕事見つかるまで居ていい。と言った記憶はない。でも毎晩だって泊まっていいよと言った記憶ならある。ただ、けっこう無茶苦茶な条件を付けたことも、忘れてなかった。
「うん、似たようなことなら言った。けど」
「やっぱなしですか?」
「あ、いや、そうじゃなくて、条件が」
「あ、はい。頑張ります」
「いやいやいや。頑張りますじゃなくて。てか頑張られても困るというか」
だって相手は間違いなくノンケだし、あんなに戸惑ってたわけだし。まぁ途中から吹っ切ったっぽいし、最後の方は相手もそこそこ楽しんでたような気もするけど。
でもあんな条件を口にしたのは酔ってたからだし。本気じゃないし。
「え?」
「サラリーマンは毎晩セックスなんてしません」
「えっ!?」
「つか君ノンケでしょ。めちゃくちゃ戸惑ってたのに、俺がむりやり抱かせたよね? 俺を抱けたら泊めてあげるって言ったから仕方なく頑張ったんだよね? 俺を毎晩気持ちよくしてくれるなら毎晩だって泊まっていいよとは言ったけど、それをマジに実行されたら困るのは俺だなって」
肉体的にもキツイけど、それ以上に、精神的に多分かなりキツイ。ただでさえ、宿無しで困ってるノンケを酔った勢いで連れ込んで無理やり抱かせた負い目に自己嫌悪しているのに、更に弱みに付け込んで関係を続けさせようだなんて。
「えと、じゃあ、週末とかに1週間分頑張るとか……?」
「待て待て待て。なんでそうなる」
「泊めてもらえなくなるの困る……ってのもそうなんですけど、えと、あー……ちょっと楽しみにしてた、から」
「楽しみ?」
「またあなたを抱けるんだって」
思わず本気か確かめてしまったが、本気ですと即答されて言葉にしばらく詰まってしまった。
「確かめたいんだけど」
「なんですか」
「ノンケだよな? 年上のおっさんとか、どう考えても範囲外だろ?」
「まぁ確かに最初は驚きましたけど。でも無理なら誘いになんか乗ってないし、結果的に俺もしっかり楽しんだわけだから、気づいてなかったというか今までそういう機会がなかっただけで、どうやら範囲内だったみたいです」
言い切られてやっぱりしばらく言葉が出なかったけれど、結局、セックスは週末に、それ以外は出来る範囲の家事負担という条件で、彼の仕事が決まるまでの同居が決定した。
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1月ももうそろそろ終わる頃ですが、今年も年始から楽しく読ませていただいております!
短編をたくさん投稿していただきありがとうございます。特にこちらの「酔って宿無し年下男を連れ帰った話」、このあと仕事が決まっても同居続けてもいいかなってくらいに受が絆されないなかぁとか、攻めの年下くんがめっちゃ受けのことお世話したり甘やかしたりするかなぁと攻め視点を想像したり、とても楽しませていただきました。受け、二度とやらない自信もないくらいには、それなりにやらかしがあるのかなぁと心配になります(笑)
有坂様の中長編も大好きですが、短編もあれこれ想像を膨らませることができてめちゃくちゃわくわくします。年始からたくさんお話を書き、今年もまた投稿を続けてくださり心から感謝しております。日々の楽しみ、癒しをほんとうにありがとうございます。今年もひっそり力いっぱい応援させていただきます!
年始年始はかなり冷え込み、あちこちで大雪になったりそろそろ花粉も飛んだりですが、体調崩されないようあたたかくしてお過ごしくださいませ!
今回の更新期間は短編でなるべくR18にならないように、を心がけて書いているのですが、短い話も楽しんでもらえてて良かったです。コメントありがとうございます!
この話の視点の主は酒のやらかしに懲りてないので、同居を許可しておきながら同居人の存在を忘れて、酔って別の男を連れ帰ったりしそうだなって思ってたりです。
宿代替わりのセックスは週末にって約束を楽しみに待ってた攻めが可哀想……笑
まぁさすがに大人しく別の男の連れ込みを受け入れたりはしない(追い返して自分が抱く)と思いますけど。
この同居期間中に、ちょっとはお酒のやらかしに懲りればいいですよね。お仕置きされまくればいい!
なんて、その後を色々考えるのは私もかなり楽しいです。
コメントを頂いて、最近の鼻詰まりはもしかして花粉……? ってなりました。もう花粉飛んでるんですか!?
そういやたまにくしゃみも出てる……
これも花粉が原因なら納得ですね。
まだまだ寒い日も続きそうですが、Mさんもお体気をつけてお過ごしください〜