サーカス8話 調教再開

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 二度と逃げ出せないような、声の漏れない防音設備の整った部屋を用意して欲しい。その要求に、オーナーは簡単に応じてくれた。
 ビリーはもちろん、ガイに逃げ出す意思がないこともわかっている。それでもそれを求めたのは、セージの目から逃れたいからだった。
 ガイが今後の調教に激しく抵抗する可能性も高かったし、あまりに騒がれては、さして壁の厚くないビリーの部屋ではやはり都合が悪い。ビリーはガイを、新しく用意された部屋へと連れ出した。
「ここが、お前の新しい部屋だ」
「ワイの、部屋……」
 見上げる視線が、さすがに不安で揺れている。それはそうだろう。薄暗い石造りの部屋の中にあるのは、小さな机と簡素な椅子。壁の一部には、何本もの鎖がぶら下がっているのが見える。
 ベッドは当然用意されていないが、カーペットなどという洒落たもののないこの部屋の床に布団を敷くのでは、夜は相当冷え込みそうだった。
 どちらかというと、館の部屋に似ている。窓からさす明かりがある分、多少はましと言えるだろうか。
「残りの調教は、ここでする。お前がどんなに泣いても喚いても、声が外に漏れる心配はないから安心するんだな」
 血の気が失せた表情で、それでもガイは頷いて見せた。
「わかった。ほいで、ワイは、何をしたらええの?」
 返す言葉は、とうに覚悟はできていたとでも言うように、サラリと零れ落ちてくる。こういうところが、セージはもちろんの事、ビリーすら心揺すられる要因となるのだろう。潔くて、頭がいい。
「まずは、自分で身体の中を洗って来い。自分一人で、抱かれるための準備が出来るようになるんだ」
「自分、で……」
「そうだ。やり方はわかっているだろう?」
「ほな、行ってくる」
 ガイはホッと息をつくと、部屋の隅に造られたシャワールームへと足を向けた。
 お前はホント、物わかりが良くて助かるよ。掛けようかと思った声を、ビリーはなんとか飲み込んで、部屋に唯一の椅子に腰掛けた。
 あの日、ガイが体内に注入された薬を洗い流す行為を、ひたすら嫌がって暴れた理由。身体を無理矢理に拓かれる痛みに耐えることは出来ても、排泄を強いる屈辱的な行為で感じてしまう自分を、ビリーには知られたくなかったのだろう。
 あの時ビリーは薬のせいだと思ったが、それだけではなかったことを、館でのガイの様子を問い合わせて知った。あまりの嫌がりように、確かめないわけにはいかなかったのだ。
 開放感のもたらす快感。苦痛だけの日々の中、ガイの身体がガイの意思に反して、それを身につけたのだと言うことは容易に想像できる。けれど、さしておかしな反応ではないのだと言って聞かせるよりも、ビリーは気付かなかった振りをする道を選んだ。
 ただガイが、自分自身が感じると言う行為全てに嫌悪を示すとしたら……
 それはガイが準備を終えて戻ってきたときに明らかになるだろう。たとえ泣かれたとしても、調教の手を緩めるつもりも、そんなものに絆されない覚悟も決めたビリーだったが、やはり出来ることならあの日のような涙は見たくないと願ってしまう。
 ビリーはジッと、シャワールームの扉を見つめ続けていた。
 
 
 シャワールームから出てきたガイを壁際へと呼んだビリーは、まずはその首に首輪を嵌めた。
「ペットらしくていいだろう?」
 お前の態度次第では、鎖に繋がれた生活をさせる。と脅しをかけながら、ビリーは続いてガイの両手首に皮製の手枷を巻き付けた。そうしてから、壁から下がる鎖を繋いで、かかとが少し浮く程度に吊り下げる。
「何を、する気やの……?」
 困惑気味のガイに、ビリーは小さく笑って見せる。
「そんなに脅えなくていい。おとなしくしていれば、痛いことは何もしない。ただ、激しく動かれると、俺が疲れるからな」
 痛い思いをさせないというのは、約束してやれる。それが、ガイにとって救いになるとは限らないが。それでもガイはビリーの言葉を信じたようで、ほんの少し微笑み返しながら。
「ワイのこと、抱くわけとちゃうの?」
 自分へと向けられた笑顔にも、その口から吐き出された言葉にも、ビリーは軽い衝撃を覚えた。
「抱かれたいのか?」
 反対に問い返す。問い返されるとは思っていなかったのか、ガイは考えるように口を噤む。
「まぁ、今抱いたとしても、お前は痛みくらいしか感じないだろうからな」
 答えを待たずにそう告げたビリーは、ガイの左足にも同じように拘束用の皮ベルトを取りつけた。鎖を繋いで持ち上げれば、ガイは右の足先だけが身体を支える、心許ない姿勢となる。
 ビリーの前で裸体を晒すことにはさすがに慣れてしまったガイも、恥ずかしそうに頬を染めた。それでも、ビリーの次の行動を待つように、口を閉ざしている。そうして強制的に開かせた足の間に、ビリーは潤滑剤を垂らした右手を差し込んだ。
「ビリー!?」
 さすがに慌てたような声が上がる。
「酷くはしないと言っただろう? イイ思いがしたかったら、身体の力を抜いておけ」
 声を掛けながら、ゆっくりと指を一本埋め込んだ。潤滑剤の助けを借りて入り込む指に、ガイの肌が粟立っていく。
「ああぁ……っ!」
 堪え切れずに零れる声から甘さを引き出すように、ビリーは慎重にガイの中を探る。それにはさして時間は必要なかった。
「イヤ、ぁ……」
 苦しげな吐息とあふれ落ちる甘い声。いやいやと頭をふる仕草によって、額に掛かる前髪が揺れている。この状況では、そんな些細な髪の動きにすら快感を誘発されるようで、ガイの体は小刻みに震え、彼の体内に沈む人差し指を締めつけた。
「こういう時は『イヤ』じゃなくて『イイ』だ。自分の体が本当に嫌がっているのか、喜んでいるのか、わからなくはないだろう?」
 まだ、追いつめるには早い。強い刺激になりすぎないようにと注意しながら、優しく。熱く絡みついて来る、ガイの体の奥を探る指先をそっと動かした。
「はぁあ、ああァ…」
 歓喜の声に混じって、ジャラジャラと金属の擦れる音が混じる。与え続けた快楽によって、唯一の支えである右足の膝もがくがくと小刻みに震えていた。
 与えられることに慣れていない身体に、途切れることのない快楽を与え続ける。それもまた、一種の責め苦であることはわかっている。それでも、ガイにはこれを、快楽として認識してもらわなければならなかった。
「まだ、わからないか?」
 ガイにならこの一言で、要求されていることがなんなのかわかるだろう。もちろん、ビリーが望む言葉を口にするまで、この責め苦が続くのだと言うことも。
「あ、あぁん……ん、イ、イ……」
 小さな刺激を与えれば、いくぶん声を落とした甘い吐息。その後、恥ずかしそうに頬を赤く染めて、唇を噛み締めた。
「イかせて欲しいか?」
 彼の体の限界を感じて、優しく問う。
「………………イかせて」
 しばらく逡巡した後の小さな呟き。やはりこれも、言えなければ終わらないのだと理解しているのだろう。
「よく言えたな。ご褒美に、気が遠くなるほどイイ思いをさせてやろう」
 ビリーは言いながら、張り詰めた欲望に唇を寄せた。上目づかいに様子をうかがえば、驚いたように目を見張るのが見える。
「や、イヤゃ、ぁ、ああ…ビリー!! やめっ、ビリー!」
 口の中に含んだ途端に、激しい抗議の声があがり、金属の擦れ合う音が大きく響いた。さすがにこれは、ガイの中の予測を大きく超える行為だったらしい。
 そんな抵抗にかまうことなく吸い上げる。埋めたままの指先で少し強めの刺激を与えれば、一際大きな嬌声を響かせてガイの身体が痙攣し、案の定そのまま意識を手放してしまった。
 首輪以外の拘束具を取り外してやったビリーは、そっと布団の上へとガイを運び降ろす。疲れを滲ませながら目を閉じるガイの、額に掛かる髪をそっと掻き上げる。
 何度も優しく髪を梳いてやってから、最後に軽いキスを一つ。涙の流れた後を残す頬へと落として、ビリーは部屋から出て行った。

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