ゆさゆさと揺すられ意識が浮上すると共に、「おにーちゃん起きて」などと耳慣れない単語と随分可愛らしい声が聞こえてくる。可愛らしいというか媚びた感じというか、つまりはわざとらしさの滲んだ声だ。
妹なんて生まれてこの方一度だって居たことがないのに、これはいったいどういう事だろうか?
夢の中で夢から目覚める的な状況で、ようするにこれはまだ夢の中なのかもしれない。
「おにーちゃんってば!」
再度呼ばれて揺すられて、おにーちゃんとはやはり自分らしいと思いながらも未だ重い瞼をどうにか押し上げた。
「おはよ」
そう言ってにこりと笑うのは恋人によく似ているが、ストレートの髪と胸元に柔らかそうな膨らみを持つ可愛らしい女性で……
ああ、これは夢でも何でもない現実だ。
「うっわ。ちょっ、何やってんだお前」
合鍵は渡してあるので、勝手に部屋に上がり込んでと言うつもりはないが、週末の朝っぱらから女装姿で強襲される理由がわからなくて慌ててしまう。
「あれ、もうばれた」
そう言いつつも、相手は随分と楽しげだ。
「そりゃわかんだろ。てか何? どういう事?」
これ何入ってんのと言いながら胸元へ伸ばした手は、おにーちゃんのエッチという言葉とともにはたき落とされ掴むことが出来なかった。まだ続くのかこの設定。
「つかホント、説明欲しんだけど」
言いながら取り敢えず体を起こせば、同時に相手も、寝ているこちらを覗き込むように折り曲げていた腰を伸ばす。なので結局、相手を見上げる距離にそう差は出来なかった。
「さて今日は何の日でしょう?」
そんな出題されたところで、わからないものはわからない。何かの記念日ということはないはずだ。
「あれ? わかんない?」
「わかんねぇって」
「4月1日だよ?」
「だからそれが……ってまさかエイプリルフール?」
「大当たり〜」
にこにこ顔で返されたけれど、エイプリルフールってこういうイベントだったっけ?
「つまり、これはどんな嘘?」
「なんと恋人が妹に?」
「疑問符ついてんぞー」
「まさか妹と恋人だったなんて?」
「だから疑問符付いてるって」
しかし妹と言い張っているだけで、恋人という事実は変わらないらしい。
「あー、つまり、禁断の近親相姦セックスプレイを楽しみましょう的な?」
決して倦怠期ではないはずだが、いつもとは違うプレイで刺激をと言うなら、それはそれで大歓迎ですよ?
「ちっがーう。いや別にお前が俺の女装姿でも勃つってならやるのは構わないけど、そうじゃなくて」
「あ、やっていいんだ。じゃあぜひ、おにーちゃんって呼ぶのもそのままで」
言ったら驚かれた上に若干引かれた気がする。お前が恋人って設定にしたくせに。
「まぁそれは後で楽しむとして、そうじゃなくて、何?」
「あー……だから、せっかくエイプリルフールが土曜日でお前と会えるから、何かしら言って驚かしてやりたかっただけだよ。でも何か嘘つくって考えても、嫌いになったとか別れましょうとか、万が一本気にされたらシャレにならないもんばっか浮かんでくるから発想を変えてみた」
要するに、普段絶対やらないような事をしてみせたら驚くと思ったらしい。そりゃまぁ驚きますよね。まだ恋人になる前、女装とか意外と違和感ないっていうか似合いそうって言った時にめちゃくちゃ嫌そうにしていたから、恋人になった後も女装してみてなんて言った事なかったけど、寝起きに想像以上のもん見せられたらそりゃあ驚くし慌てるに決まってますよ。
「焦ってるお前見れたから満足した」
「そりゃ良かった。じゃ、次は俺を満足させてよ」
どういう意味かと首を傾げる仕草も、カツラと服装のせいかいつも以上に可愛らしい。
「禁断の近親相姦プレイ」
「え、マジでやるのか?」
「やりますよ。というかお前すっかり素に戻ってるけど、裏声でおにーちゃん言うの忘れないでね?」
逃さないよと言うように、手を伸ばして相手の手首をギュッと掴んでやった。
エイプリルフールネタを書かずに居られなかった。
次回更新(別れた男の弟が気になって仕方がないの続き)は2日の夜か3日の午前中になります。4日からはまた通常通り更新予定です。
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