甥っ子からの、話があるから泊まりに行きたいという連絡は、お盆休みが始まる頃に受けた。電話越しにも伝わってくる強い意志に、あれからまだそう日も経っていないのに、何かしらの覚悟を決めたのだということがわかる。
彼がどんな結論を持ってきたとしても受け止めるつもりで、ちょうど明日からお盆休みで家に居るよと返せば、翌日の昼にはさっそく甥っ子が顔を見せた。
随分晴れやかな笑顔にホッとしつつ、部屋にあげてお茶を出す。
「良い報告っぽいな」
「うんそう。大学は本気でこっち来るつもりだから、よろしくって言いに来た。というか、一緒に住んでくれる?」
「話が飛び過ぎだ。お前がはっきり覚悟決めて選んだってなら、こっちくるのも一緒に住むのも構わないが、どういう結論になったのか、学費やら生活費やらどうするつもりなのか、話してくれないとわからないぞ」
「ああ、ごめん。学費は父さんが、生活費の一部はじーちゃんが出してくれるって。一人で住むなら家賃プラス2万。にーちゃんと一緒に住むなら家賃の半額プラス3万。残りはバイトするかにーちゃんに出して貰えってさ」
ちゃんとバイトするよと笑う顔は輝いているが、やはりまだ話が先を行き過ぎている。
「うん、ちょっと待って。結局お前はどういう結論になったわけ? 一緒に住むけど、在学中は恋人って関係にはならないよってことか?」
「違うよっ。にーちゃんの恋人になる気満々でこっち来るよ。でも心配しないで。学費や生活費はさっき言った通りだし、さすがに歓迎はしないけど反対もしないってさ」
「言ったのか!?」
「言ったというか聞いた。俺がにーちゃんの嫁になりたいの冗談だと思ってる? って」
やっぱり本気だったのって言われるくらいにはちゃんと信じてたっぽいよと、甥っ子はケロリとした顔で告げた。
「俺さ、俺がにーちゃんの嫁になったら、にーちゃん結婚できないし孫の顔も見せられないけどいい? っていうのも聞いたんだよね。ばーちゃんが言うにはさ、例えばダメって反対したらにーちゃんがお嫁さん貰って子供作って会いに来てくれるって言うなら反対するけど、そんな都合よく進むわけ無いから、にーちゃんが俺でいいなら良いんだって。それより反対しないから、二人一緒に顔見せに帰ってくれたほうが嬉しいってさ。じーちゃんもそんな感じみたい。というかその辺はばーちゃんがなんか説得してくれたぽいかも」
二人共にーちゃんに会いたがってたよと眉を顰めて見せるのは、前回姉の家にお邪魔しながらも、近くの実家には結局顔を出さないまま帰宅したことを責められているんだろう。
「それは考慮するよ。でも今までこんなに疎遠にしてた上、お前との関係まで知られて、どんな顔していいかわなんないな」
苦笑するものの、大丈夫だってと笑顔で断言されてしまうと、それ以上は逆らい難い。この様子だと、来年からは甥っ子に引っ張られて度々帰省させられることになりそうだ。
「あと母さんね。ばーちゃんの話聞いた後だったし、これは俺自身の問題だから、反対されてもされなくても、お嫁さんや孫の顔は見せられないからそれは諦めてって言ったら、知ってたって。相手がにーちゃんだってのは複雑だけど、にーちゃんが良いって言ったならしょうがないから頑張れってさ」
ばーちゃんも母さんもにーちゃんが良いならって言うんだけど、本当に良いんだよね? といささか不安げに聞かれて今更だろと返した。
「言ったろ。お前が俺を選ぶなら、俺も腹くくるって。俺だって今更お前を嫌いになんかなれないんだから」
良かったと笑う顔が可愛らしくて、今すぐにでも抱きしめてキスしたい衝動が湧く。しかし甥っ子の報告はまだ続いていた。
「それと、父さんはなんかすごい事言ってたよ」
「すごい事って?」
「反対しないけど、もし今後年の離れた弟か妹が出来たとしても、おろせとかは言わないでくれって」
「は?」
「ね、本当に は? って感じだよね。言うわけないけど、さすがにビックリした。これやっぱ俺が嫁も子供も無理って言ったせいだと思う?」
「いやそれは……てかうちにしろ義兄さんの実家にしろ、跡継ぎどうこうって話聞いたことないから、そこまで気にしなくてもいいとは思うけど」
さすがに聞けなくてと困った様子で言われたが、あまり迂闊なことも言えないので濁すしかなかった。
「ならいいんだけどさ。後、もし本当に弟か妹出来たら、学費は就職したら少し返すことにするかも。これは俺がそう考えてるってだけの話だけど」
「お前、ホント、凄いな……」
「そんなことないよ。本気でにーちゃんとずっと一緒に居たいんだって言っても、絶対ダメとは言われないだろうなって、わかってただけ。でも本気だって言ったら、それなりに色々言われたけどね」
「色々って?」
「せっかく大学行かせるんだから嫁とか言ってないでちゃんと就職しなさいよとか。当たり前だっての」
嫁ってのはずっと一緒に暮らせる人、って意味で使ってただけなんだよねと言いつつも、にーちゃんが望むなら受験終わった後少し花嫁修業っぽいことしてきてもいいけど、なんて続けるものだからどうしていいかわからない。
「でもまずは受験だよね。絶対受かってこっちくるから、そしたら俺と恋人になってね」
「今すぐ恋人にしろ、とは言わないんだな」
「うん。にーちゃんが好きって言ってくれたから、もうちょっと我慢しようと思って。というか色々言われた中にちょっとそれ関係もあって」
「それ関係って?」
「あんまりにーちゃん困らせちゃダメって話。せめて高校生のうちは節度ある関係でいなさいよって。そのつもりがなくても下手したら犯罪になるんだからって」
抱けって迫ったりしてごめんなさいと言われてしまったら、これはもう、卒業まで手が出せないなと内心苦笑うしかなかった。
あなたは『「今更嫌いになれないこと知ってるくせに」って泣き崩れる』誰かを幸せにしてあげてください。
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