席へ戻れば既に親友の恋話は終わっているようでホッとする。一緒に戻った相手も、特に何を言うでもなく隣の椅子に腰掛けた。
体調を気遣う言葉には大丈夫と返しながらも、さすがにこれ以上アルコールを摂取する気にはならずに烏龍茶を頼んだ。
そこから更に二時間ほどダラダラと居座って、ようやく重い腰を上げて店を出る。
「あのさ、最後にちょっと、お前らに聞いて欲しいことがあるんだけど」
店の外でじゃあなと別れの挨拶を告げる直前、そう言い出したのは先程取り敢えずで恋人となった友人だった。周りは酔いのテンションで、なになに~と好奇心いっぱいに耳を傾けている。
「実は俺、こいつと付き合うことになったから」
ふいに伸びてきた手に引き寄せられて、肩にがっしり腕が回った。酔いなんかとっくに覚めているのに、あまりに驚きすぎて言葉が出ない。ただただ、肩を抱かれているせいでかなり近くに寄っている相手の横顔を、呆然と見つめているだけだった。
「はぁあああ?」
「何? なんで? いつから? あ、まさかさっき吐きに行った時?」
「意味わかんねぇんだけど。突然過ぎ」
やはり周りの反応も驚きと戸惑いばかりだ。タチの悪い冗談か二人でドッキリを仕掛けているのかなどと言う声も聞こえてくる。周りの声はちゃんと耳に届いているのに、けれどそれらの言葉に反応は出来なかった。
そんな中、はっきりと名前を呼ばれて、ようやく隣の男からその声の主へと視線を移動する。呼んだのは初恋相手の親友だ。
少し青ざめて見えるくらいに動揺している様子に、様々な思いと過去のアレコレがふつふつと湧いては消える。
その動揺の意味はいったいなんだろう。聞いてみたいような気もするし、けれどもうどうでもいいという投げやりな気持ちもある。
結局、どうしたのとすら声を掛けられないまま、相手の言葉を待つしかなかった。
「本当、なの?」
「嘘なんかじゃねぇって」
答えたのは隣の恋人で、親友はお前には聞いてないと冷たく言い放つ。肩にまわった腕に力がこもるのがわかった。チラリと見た横顔は親友を睨んでいるようで、そういやムカついてるって言ってたもんなと思う。
だからきっと、これは宣戦布告なのだろう。
取り敢えずでいいから恋人になれといった相手の言葉に頷いてしまった自分は、既にこの隣にいる男の側の人間だ。
今この場面で、恋人は恋人でも取り敢えずのごっこ遊びみたいな恋人だという真相をぶちまけてしまったら、お前が傷つくのが嫌だから慰められてくれと言った隣の男を裏切ることになってしまう。
「本当だよ」
「うおおおおマジかー」
「え、これ、おめでとうでいいの?」
「いいんじゃん? めでたいんじゃん?」
肯定したら、即座に周りが祝福ムードになって驚いた。仲間内で、男同士で、なのに躊躇いもなくおめでとうだの幸せになれよだのの言葉が掛けられるというのは、なんともこそばゆい。慰められろなどと正面切って言ってくる隣の男を含めて、本当に、いい仲間に恵まれていると思う。
親友だけは呆然と立ち尽くしたまま祝福の輪に入っては来なかった。女の恋人が出来たと言った時には普通におめでとうと言われていたから、さっき彼が男を好きになったかもしれないと言い出して酷く動揺してしまったように、彼もまた女であれば気にならなくても相手が男となれば別なのかも知れない。
もちろん、真相はわからないけれど、そうだったらいいなと思う。もしそうだったら、ざまーみろだ。だってずっと好き好き言っていた相手が急に手のひらを返して他の男の物になったのに、それすらすんなりと祝福されてしまったら、あまりに彼を想い続けた自分が惨めじゃないか。
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お互い意地になって、三つ編みみたいに捻じれないことを・・、って、もう、▲(さんかく)関係になってるか(ため息)。
どの地点で、誰が、壁をぶち壊すのか。 スリルありますね、この恋愛(きゃあ)。
mさん、コメント有難うございます~
初恋の親友を煽ってしまいました。笑。
恋人になった男は、視点の主が親友相手で幸せになれると思ったらあっさり引きそうな気がするので、今後はこの親友の動き次第ですね~
親友がもたもた迷ってたら、視点の主の気持ちは恋人ごっこの相手に流れちゃうと思います。