フラれたのは自業自得2(終)

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 シャワーを止めて、大きなため息を吐き出した。随分はっきり思考がまわるようになったけれど、結局、酔っ払って当初の予定すら遂行出来なかった情けない自分を突きつけられただけだったなと思う。
 いい加減、後輩の本音を確かめるべきなんだろう。後輩自身、想いはあっても男同士で恋人という関係にまで踏み込むのは躊躇う、と思っている可能性だってないわけじゃない。こちらの想いもちゃんと晒して、過去に逃げたことも謝って、それから、今後どうするかを二人で決めなきゃいけない。
 彼はどういうつもりで、ここへの宿泊を決めたのだろう。もし同じように考えてくれているなら話が早いんだけどと思いながらそっとバスルームの扉を開けば、先ほどと違って部屋には明かりがともされていた。
 すぐさま確認したベッドの上、上体を起こして座っていた後輩も、こちらに顔を向けている。
「起こしたなら悪い」
「いえ。酔いは覚めました?」
「ああ」
「なら、聞きたいこと、あるんですけど」
 硬い声と真剣にこちらを見つめる瞳に、彼には覚悟ができているようだと思った。良かった。
「俺もある。でもちょっと待って」
 なんせ腰にタオルを巻いただけの状態だ。バスルームに飛び込むみたいにしてシャワーを浴びてしまったせいだ。
 ちゃっかりホテル備え付けの寝間着で寝ていた後輩に、そこの引き出しにありますよと言われるまま、しまわれていたもう一着を取り出し着込んだ後、ベッドではなく椅子を移動し正面から後輩と向き合うように腰をおろした。
 一度深く息を吸って、吐いて、こちらも覚悟を決めて口を開く。
「で、お前の聞きたいことって?」
「言ったこと覚えてるかわかりませんけど、先輩がフラれたのは俺のせいって、どういう意味っすか」
「なんとか覚えてる。でもお前のせいじゃない。俺の、自業自得だ」
 ごめんと言って、一度深々と頭を下げた。
「でも、俺が関わっては、いるんですよね?」
「まぁな」
「俺は本当に、ただ家が近いからってだけで、呼ばれたんですか?」
「違う。さっき行ったレストラン、お前、初めてじゃないだろ。家族の記念日で行って、凄く美味しかったからまた行きたいって、言ってたよな」
「ああ。それ覚えてたから、誘ってくれたってことすか」
「それも違う。俺は無意識に、お前とここに来たいと思ってた。彼女とのデートの多くで、俺はそういうことをしてたっぽい。今日フラれたのは、俺がそんな自覚もないまま、彼女との関係を深めようとしたからだ。いい加減自覚しろとあれこれ言われて、本当にクリスマスを一緒に過ごしたい相手は、彼女じゃなくてお前だってわかったから、お前を呼んだ」
「えっ……」
 さすがにかなり想定外な返答だっただろうか。すぐには続く言葉が見つからないらしい相手は、じわじわと頬を赤くそめていく。
「あの、それ、……って、俺のこと……」
 はっきり頷いてから、お前が好きだと言葉にした。
「ほんと、に?」
「ここで嘘言ってどうする。本当に決まってんだろ」
「だっ、て……」
「お前には謝らなきゃならないことばっかりなんだが、取り敢えず、ずっとお前と向き合うの逃げてて悪かった。自分の本当の気持ちすら押し込めて無視して、自覚するのにここまで掛かったけど、もう、俺の気持ちもお前の気持ちも無視しない。だからお前の気持ちも教えてくれ。お前、俺と、どうなりたい?」
「ちょ、待って。急展開すぎてついてけない」
「ああ、悪い。俺だってお前への気持ちを自覚したばっかりで、今すぐお前とどうこうなりたいとか、はっきり言える状態じゃねーんだ。ただ、もう逃げない。ちゃんと考えるから、お前も考えてくれ。で、お互いが納得行く形を、探したい」
 本気だということが伝わるように、しっかり相手を見据えて、言葉を選びながらゆっくりはっきり喋るのを、相手も真剣に聞いてくれていた。なのに、言い終わって相手の反応を窺えば、暫く考えるような様子を見せた後で、クスッと小さく笑うから、あれ? と思う。
「じゃあもし俺が、男同士で恋人なんて世間的に面倒なことはしたくないけど、先輩の体が魅力的だからセックスだけはしたいんです、とか言い出したら、セフレになるって言うんすか?」
「う゛ぇっ? マジかよ」
 さすがにそんな展開、欠片も想像できなかった。
「あー……まぁ、お前が本気でそうしたいってなら、考える、けど」
「それ、考えた結果、やっぱ無理でしたーってなるだけっすよね?」
「ならねーよ。ただ俺が、お前とセフレになりたいとは、現段階で全く思ってないだけだ。応じる方向で考えはするけど、お前も少しはこっちに譲れよ」
「譲るって、たとえば、俺は先輩を抱きたいけど、先輩も俺を抱きたいなら、俺が抱かれる側になるとかですか?」
「おまっ、ほんっと、……」
 再度マジかよと言いかけて、でもあまりに相手がニヤニヤと笑っているから、一度言葉を切って呼吸を整える。
「あんまからかうなよ。本気にすんだろ。お前が何言い出したって、ちゃんと考える。無理だって逃げないし、お前を好きだって気持ちを投げ出して終わりにしたりしない。だからお前も、本気で考えて、本気を伝えろ。頼むから」
 言えば相手は両手で顔を隠すように覆うと、背中を丸めて引き寄せた膝に頭を埋めてしまう。
「もーっ! もーっ!!」
 なんだよ。牛かよ。って突っ込みを入れたい気持ちが湧いたが、照れてるらしいとわかってそっと苦笑を噛み殺すに留める。
 ひとしきりモーモー喚いたあと、顔をあげた相手は頬を膨らませて怒っていたけれど、下げた眉尻や水分量が増して揺らめく瞳と合わされば、ただひたすら可愛いばかりに思えた。
「なに笑ってんすか」
「んー、やっぱ可愛いなぁって思って」
「ちょ、っと! 俺が可愛いのなんて今更ですー」
「なら一段と可愛い」
「それ、寝起きボサボサの今じゃなくて、会った時に聞きたかったセリフなんすけど」
「ああ、さすがにあれはちょっとビビったわ。男のお前がああいう化け方すると思ってなかったし」
「全く褒めてないですよね。ビビるとか化けるとか、ホント失礼」
「だってあれ、マジに女と間違うレベルだったぞ」
「だからわざとですってば。彼女の代わりに連れてくなら、女の子に間違うくらいでちょうどいいだろうと思って頑張ったのに」
「ん。ありがとな。凄く可愛かった」
 言って欲しかったと言うから言ったのに、相手はまたしてもモーと吠えた。その後大きく息を吐いてから、ごそごそとベッドに横たわる。
「なんか色々疲れたんで寝ます」
「おう」
「先輩は? もう寝ないんですか?」
「いや、寝たい」
 なら早く来てくださいと急かされて隣のスペースに潜り込めば、部屋の明かりを落としたあと、相手がもぞもぞと擦り寄ってくる。
「おいこら、どーゆーつもりだ」
「俺が好きならいいじゃないですか、別に」
「よくねぇよ。俺まだお前の返事、一切聞いてないんだけど」
「俺がしっかり考えて答えだすの、待ってくれるんじゃないんですか?」
「だからって、こんなんただの生殺しだろ」
「わかっててやってんですよ。だってなんか悔しいから」
 手ぇ出してきたら軽蔑しますねと言われて、出すわけねーだろと返せば、知ってますと言ったあとで大人しくなった。
 この体勢であっさり眠れるなんて、こちらが期待するほどには、やはり意識されていないのかもしれない。人との距離感がちょっと近いだけで、特に自分相手には甘えやすかったとか、その程度の可能性も高そうだ。
 好きだと自覚してしまった相手を腕の中に抱えて、そう簡単に眠れるはずもない。けれど暫くそんな風に、恋人に発展しない未来をあれこれ模索しているうちに、いつしか眠りに落ちていた。
「考えたんですけど、先輩と恋人としてお付き合いしてみたい、です」
 だからまさか、寝起きにそんな言葉を聞かされるなんて思ってなかったし、そろそろチェックアウトだって部屋を出ようとしたら引き止められて、やたらもじもじと躊躇う相手にキスをねだられたのも衝撃だったし、その唇に触れてしまえば男同士で恋人なんて躊躇いは簡単に吹っ飛んだ気がした。

 
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コメント

  • キャー!またまた可愛いふたりだわ♪む腐腐(^-^)

    小掃除のうさが、すっかり晴れました。
    よいお年を(^-^)/~~

    by るる 2017年12月29日 10:30 AM

  • わーい。コメントありがとうございます。
    ふたりを可愛いと言って貰えて嬉しいです😄

    るるさんも、良いお年をお迎え下さい〜

    by レイ 2017年12月29日 3:57 PM

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