昔好きだった男が酔い潰れた話1

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 高校卒業後、頻度も人数も徐々に減りつつあったが、それでも年に1回か2回、部活の仲間と飲みに行く。互いの近況報告がメインのようでいて、単に気心が知れた奴らと気楽に飲みたいだけでもあった。
 参加メンバーはほぼ固定ではあったが、取り敢えず連絡先がわかっている奴らにまとめて日程を送り、参加できそうならどうぞというスタイルがもう長いこと続いている。だからその日、彼の姿がそこにあってもなんらオカシナ事はなかった。
 どきりと心臓がはねたのは一瞬で、こっそり深呼吸一つで落ち着ける程度には、想いはもう過去のものになっている。会わずにいた数年という年月は偉大だった。
 珍しいねと声を掛けつつ会話の和の中に入っていけば、今回彼を誘うことに成功したのだろう奴が、まるで自分の功績とでも言いたげに胸を張った。忙しくてと最近は滅多に参加しなくなってしまったが、毎度それを惜しむ声がちょこちょこと上がるくらい、影の部長と呼ばれていた彼を慕う部員は多かった。
 自分ももちろんその一人だったし、部長職に就きながらも頼りなく、そうして影の部長などと呼ばれるほど彼が色々な場面で、雑多な面倒事を引き受けてくれていたことは本当に感謝していた。感謝の気持ちが暴走して、彼が部に尽くしてくれていたのを勘違いして、別の大学進学が寂しくて、卒業式後に告白なんて真似をしてしまったのは相当の黒歴史ではあったけれど、その後自分たちの関係が大きく変わる事もなかった。
 たまたまというか必然的にと言うか、何人かが同じ大学に進学したというのも大きくて、卒業直後数年はやはり頻繁に集まっていたし、参加人数も多かったから、部長と影の部長とがギクシャクしていたら、周りに気を使わせていただろうことはわかる。だから注意深く、彼がそう誘導していたのかもしれないとは今になって思うけれど、それに気づいたとしてもそこにあるのは感謝だけで、それが暴走することも勘違いすることも、もうさすがになかった。
 今でも告白した直後の呆然とした顔も、それが困ったように歪む様も、それから意を決したようにゴメン無理と告げた時の顔も、若干美化してる可能性もなくはないが覚えている。けれどそれを思い出しても、恥ずかしさにのたうち回ることも、胸が痛くて泣きそうになることもなくなった。
 何かあったのかな、というのは飲み会終盤になってから気づいた。久々に顔を出した彼の隣は入れ代わり立ち代わりでコロコロと人が変わっていたが、最初に少し話した後は別の場所で別の相手と話していたから気づかなかった。こうして同じ空間にいても、以前より相手を意識しないでいられる事が嬉しかったというのもあって、別の相手との話題にあえて集中していたともいう。
 何気ない風を装うことに慣れてしまって、気持ちが十分に消化された今も、なんとなく距離を置いてしまうのは仕方がない。それが今の自分達の距離感なのだと納得してもいた。
 ふっと湧いてしまった違和感に、隣で話していた相手の話題への返答を忘れて、ほぼ対角線上に座っている彼を見つめる。
「どうした?」
「いや……てかアイツ、今日どんだけ飲んでる?」
「アイツ?」
 言いながら視線の先を追った隣の相手は、すぐにそれが誰を指しているかわかったようだった。
「何? なんかオカシイ?」
 ということは、隣の相手にはこの違和感はないのだろう。だとしたら勘違いということも大いにあるだろう。なんせ自分もそこそこ酔っている。
「どうかな。気のせいかもしれん」
「気になるなら向こう行って大丈夫か聞いてくれば? むしろこっからでも聞いちゃえば?」
「こっから?」
 どういう意味かと思ったその瞬間には、隣の相手が「おーい」と彼の名を呼んでいた。
「お前今日、どんくらい飲んだ~? けっこ酔ってるぅ~?」
「うわばかっ。声デカイ。てかお前が酔っ払ってんだろ」
 慌てて隣の相手の口を、横から抱き寄せるように腕を回して塞いでしまった。
「んっんーんむーっ」
「何言ってるかわからん」
「だってー酔ってるしー?」
 肘でこづかれ手を離してやれば、相手はケラケラと笑う。
「わかってる。でも煩いからでかい声出すなよ」
 さーせーんと言いながらも更に酒の入ったグラスに口をつける様子に呆れつつ、そんな彼と自分自身に烏龍茶を注文したりしていたせいで、結局彼の反応は見逃してしまった。
 そうこうしているうちに飲み会はお開きとなったが、その中で珍しく潰れている奴が居る。彼だった。
 さすがにこの歳になるとそうそう潰れる奴は出ないけれど、若い頃は気心知れた気の緩みからか、酷いことになる場合もそこそこの頻度であった。自分ももちろん飲み過ぎて潰れた経験があるし、持ちつ持たれつの関係の中、それは自分の許容量を知る上でいい経験にもなっていた。
 だから昔みたいに、カラオケかファミレスにでも連れ込んで寝かせて置くかという話にはなったのだが、やはりそろそろ徹夜は堪える年齢だ。いい年したおっさん連中が、ファミレスやらカラオケやらで夜明かしするのも恥ずかしいという意見もあった。
 そんな中、一駅隣に部屋を借りている自分が、タクシーで連れ帰ってやればという話になり、タクシー代のカンパまで始まってしまった。しっかり集まったタクシー代を渡されてしまえば、さすがに嫌だとは言いがたい。
 彼は男としては小柄な方ではあったし、逆に自分は180近い体格だったので、一人でも大丈夫だと思われたようだ。いくら気持ちが消化済みとはいえ、いろいろな意味で大丈夫じゃなさそうだったけれど、大丈夫じゃない理由なんて言えるはずもない。
 結果、どうにか連れ帰った彼を取り敢えずベッドの上に転がして、途方に暮れることになった。

続きました→

 
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