好きだとか可愛いだとか繰り返されながら、慈しむみたいな手付きで肌の上を撫でられて、なのに体は簡単に昂ぶっていく。これが彼に、恋人に、愛される行為なのだと、巧みに意識させられ続けているからだ。
いつの間にやら仰向けに転がされて、自らの意思で足を開いて、恋人に秘所を差し出している。薄いゴムとたっぷりのローションを纏わせた指は、欠片だってこの体を傷つけない。
乾いた指をむりやりねじ込まれる痛みを思い出して竦んでいた体は、気持ちの準備が整うまでは入れたりしないと宣言されて、その言葉通り、ひたすらアナルとその周辺をぬるぬるな液体まみれにされて、クチュクチュと撫で突かれている間に弛緩した。むしろ早く入れて欲しいとだんだん体が焦れていたから、彼の指がようやく、想像していたよりずっと簡単にするりと体内に入り込んだ時には、いろいろな意味で安堵の吐息を漏らした。
わきあがる羞恥も快感に変わることを教え込まれながら、小指一本の細さから焦れったいくらいにゆっくりと慣らされて、じわじわと拡げられていく。大好きな男の手によって、より深く愛されるための体に作り変えて貰う。
彼は酷く辛抱強く、また、どこまでも優しい愛に溢れている。想像通りな気もしたし、想像以上でもあった。
彼も既に裸なので、股間で反り立つペニスだって丸見えだったけれど、チラチラと視線を向けてしまうこちらに苦笑はしても、早く君の中に入りたいなとうっとり口にしながらも、慣らし拡げる行為を急ぐことはなかった。あまりの焦れったさと、早く入りたいの言葉に触発されて、こちらから早く入れてと頼んでも、上手に躱して宥めてこちらの言葉に流されてくれることもなかった。
彼と恋人になるというのは、彼に愛されるというのは、こういうことなのだと身をもって知らされていく。刻み込まれていく。
長い時間をかけてようやく彼と繋がったときも、圧迫感はあっても痛みは予想よりも遥かに少なかった。大事な恋人に痛い思いなんてさせたくないからと繰り返された、先を急ぐこちらを宥める言葉を思い出して胸が詰まる。
「いっぱい焦らしちゃったもんね。俺も、嬉しいよ」
愛しい子とやっと繋がれたと言って、ふにゃっと崩した笑顔に胸の中で膨らんだ何かが弾ける気がした。
「すき、です」
「うん。俺も好き。やっと、言ってくれたね」
このタイミングだなんて可愛すぎだよと笑いながら、流れてしまった涙を彼の指先が拭っていく。
「好き」
「好きだよ」
「好きです」
「俺も。すごく好き」
「だい、すき」
「ありがとう。嬉しい。愛してる」
ふにゃふにゃと嬉しそうに笑う顔にどんどん涙腺が刺激されて、次から次へと涙があふれて止まらない。好きだ好きだとこぼすのも止められなくて、でも、どうしようという焦りも胸の中で広がっていく。
これは一度限りの思い出になるはずの行為なのに、彼がこんな風に愛を注いだ相手が少なくとも二人いることに、バカみたいな嫉妬をしている。これから先、彼が別の誰かを愛して、その相手にもこんな風に優しく愛を刻み込むのかと思うと、やりきれない焦燥に胸が熱く焦がれていく。
これは抱えてはいけない感情で、決して表にこぼしてはいけない想いだとわかっているのに、好きだ好きだとこぼすことを覚えてしまった体は、自覚してしまった抱えた想いを隠すことが出来なくなっていた。
「や、やだっ、も、いや、だ」
好きだ好きだと甘ったるく繰り返しこぼしていた口から、唐突にそんな言葉を漏らされて、相手が驚き焦ったのがわかる。
「ん、なに? どうしたの? 何がいや?」
探るようにぐっと顔を寄せて覗き込まれ、近づいた体に両腕を伸ばした。簡単に捉えた、意外と筋肉のついた細い体をぎゅうと抱きしめ、逃げるようになけなしの腹筋に力を込めて、その胸元に顔を寄せて隠す。
「ぅ゛う゛っっ」
「ちょっ、無茶しないで」
強引に動いたせいか、繋がった場所の圧迫感の変動に小さく呻けば、焦った声とともに少しばかり浮いた背中に彼の腕が回されて、宥めるみたいに何度も背を撫でられた。
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