スクールには真面目に通ったし、授業も真面目に受けた。合間合間に自分の話をして、それと絡めるように相手の話を引き出して、ついでに開き直って口説いたりもする。
だって彼が言った、講師と生徒の恋愛禁止は、それだけなら仮にスクールにバレたとしても別になんのペナルティもなかった。講師側に、生徒に手を出すのはやめましょう(色々と問題が起こりやすいので)、程度の注意喚起をしてるのは事実らしいけど。以前、既婚者相手に手を出して揉めた講師がいたとかなんとかで、その講師は発覚後辞めさせられたらしいけど。
それらの情報は受付での雑談中に彼以外の講師だったり事務の人だったりに聞いた。つまり彼以外にもあちこち完全にバレているが、意外とそちらは協力的だった。なんせ、二人きりな個人授業になるように狙いまくるこちらに、他の人が入っていないコマを教えてくれたりする。
何でなのかは知らない。自分と彼と二人セットで、遊ばれてる可能性が一番高いと思う。自分がここを卒業するまでに彼を落とせるかどうかを、実は裏で賭けの対象にしていると言われたって、きっとあっさり信じてしまうだろう。
同僚に裏切られていると嘆く彼だって、別にそれをどうこうしてはいないようだし、こちらをキツく拒むわけでもない。直接的な口説き文句はさすがに窘められるし、ダメとか無理とか言われるけれど、でもそれだけだ。
態度が優しいのは講師だからと言うよりは彼の仕様っぽくて、ただ人当たりが優しいのと心根が優しいのは別だってことはわかっていて、彼はきっと人当たりだけが優しい人だってことにもさすがにもう気づいている。ただ、心根が本当はどうなのかはわからない。だってそこまで踏み込ませてくれない。キツく拒むことはないけれど、やんわりと、けれど確実に、これ以上はダメというラインが存在する。
なんだかんだでコースを半分ほど消化したところ、そろそろ手詰まりかなぁと思う。あれこれ試したけれど、結局デート一つ出来てはいない。彼とこの場所以外で会える手段を引き出せない。
まぁ別に、これ以上深く関わらなくたって、十分楽しい時間を過ごせているし、当初の目的の半分は達成されているとも思うのだけど。でもなぁと、思ってしまうのもまた事実だった。
彼と恋人になりたいって欲求はたいして育ってないものの、あのラインを飛び越えて彼に近づいてみたい欲求が新たに生まれて、それは日々着々と育っているようなのだ。
でもどうしたらいいんだろう?
「最近、前ほどあれこれ言ってこなくなったけど、何かあった?」
「それをわざわざ聞いてくる意味は?」
「飽きたならそれでいいし、押してダメなら引いてみよう的な駆け引きなら引っかかりたくないし、大学やクラブの方で何かあって悩んでるなら話聞いてもいいよってくらいの情はあるよって感じ?」
なるほど。押してダメなら引いてみよう、みたいな事もしてみれば良かったのか。これを言われた後じゃ、今更だけど。
「簡単に言えば手詰まりってだけですかね」
「ああ、なるほど。じゃあいいね」
「全く良くないですね。いったい何に誘えば、あなたとデート出来るんですか」
「いや、何に誘われたって、二人でお出かけとかしないけど」
懲りないねと言われて、さすがに懲りてますよとは返せなかった。懲りてるから、次の手が思いつかないのだ。どれだけ彼の話を引き出し、彼の興味がありそうなものへ誘っても、一緒に行ってはくれない。行ってみたよという事後報告は何度か受けたから、本当に、一緒に出かける気が一切ないのだとわかっただけだった。
「じゃあ課外授業とかしてくださいよ。先生なんだし」
「理解が足りないとか授業についていくのが難しい、って理由での補講希望なら、コースの中にちゃんとあるでしょう」
本当に必要だと思うならと付け足された。これだけほぼ一対一の個人授業を重ねまくった生徒の理解度がわからないはずがないから、そう言われるのは仕方がないだろう。
「ここ以外で会いたいって話でしょ。折り返し地点過ぎてなんも進展してないから、このままコース終了しちゃったらどうやってあなたに会おうって、そういうの考え始めてんですよ」
「整体以外のコースに申し込むとか?」
「鬼ですね。いくら掛かると思ってんだ。てかそもそも別コース専任で教えてないでしょ、あなた」
彼だけを指名して通えるってなら、うっかり考えたかもしれないけど、さすがに親への負担やら、クラブへの言い訳が思いつかない。素直にそう零せば、なんでそんなに僕が好きなのと聞かれて驚いた。
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