雷が怖いので プレイ10

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 ひとしきり笑って、最後に大きく息をつく。はぁあと大きなため息にも似たそれは酷く熱を帯びていた。
 頬から首筋を撫でられるみたいに落ちたその後を、小さなゾワゾワが這っていく。ヒクリと体が震えてしまう。
「お前さ、今日、後三万くらい稼いで帰る気、ねぇか?」
 耳に届く声も、やはり随分と熱が込められていた。こんな声、知らない。
 心臓をキュッと掴まれるような気がしたのは一瞬で、咄嗟に相手の腕の中から逃れようともがいた。
「え……っ」
 あっさり離れていく体を見上げれば、多少の困惑を混ぜながらも優しい顔をしているから、なんだか酷く戸惑ってしまう。いつも通りニヤついた顔を見せてくれていたら、こんなにも動揺することはなかったと思う。
 優しい顔を見せてくれているのだから、もっと安心したって良いはずなのに。なぜか未だ胸の中はざわついて不安定だった。
 戸惑うこちらに相手は仕方がないねとでも言うように、ゆっくりと一つ瞬きしながら、小さく息を吐きだしていく。最後にキュッと口を閉じてわずかに喉を上下させたから、それで何かを飲み込んだらしいのは、わかった。
「ん、じゃあ、今日はここまでにしとくか」
 お前希望の一万円はもう超えてるしと続いた声を慌てて遮る。
「待って。え、なんで、だってさっき……」
 今日まだ続ける気があるなら、ご褒美だって渡すつもりだって言ってくれていた。それは多分きっと、蕩けるみたいに気持ちが良くて優しくて、相手に見惚れてふわっとした幸せに包まれる一瞬をもたらすんだろう。そんなの、欲しいに決まってる。
「一人で練習してきたご褒美が欲しいって?」
 自分からご褒美頂戴と言えずに口ごもったら、察したらしく相手の方で続けてくれた。どっちにしろそれに頷いたら、頂戴と言っているのと変わらないのだけれど。
「三万ほど余計に稼ぐ気があるなら今日渡すけど。でも無理そうだから、今日は給料上乗せだけで、キモチイイご褒美は次回な」
「むり、じゃない、です」
「逃げたくせに何言ってんだ」
「だってなんかビックリして」
 驚いたというのとは少し違う気もするけれど、他にどう言えば良いのかわからなかった。一瞬心臓を掴まれるような気がしたけれど、それが恐怖からだったのかはわからない。だって恐怖するようなナニカがあの言葉の中にあったとは思えない。なぜ咄嗟に逃げ出そうとしたのか、自分でもわかってはいなかった。
「いい判断だと思うけどな。そもそも、三万余計に稼ぐってことの意味とか、俺がなんでここまでにしようって言ったか、お前、ちゃんと理解してんの?」
 言われて必死に考える。簡単に思いつくのは、三万円も上乗せするほどの何か酷い目に合わされるってことだったけれど、じゃあ何でそんな事をされるのかはわからなかった。
 ああでもそうか。あれが酷い目に合わすよって意味だとしたら、怖くなって逃げた可能性も確かにゼロじゃない。言葉の意味を頭で理解するより先に、相手の声の調子やら熱やらから何か不穏なものを感じ取って、体が勝手に逃げたのかもしれない。
「酷いことするって宣言、されてる? もしかして、おしおきまだ、終わってない……とか?」
「酷い目に合わされる、ってのは当たり。でもおしおきとしてじゃねぇよ。ご褒美」
「それ、ご褒美って言わないんじゃ?」
「お前可愛すぎて、このまま続けたらご褒美のつもりがお前追い詰めそうだっつってんの。お前が泣いて、もうこれ以上気持ちぃの嫌だって言っても、この前みたいに終わりにしないで、そのままお前の熱煽って泣かせ続けるくらいは余裕でするぞ」
 最後の方はからかうみたいな口調だった。実際、からかわれているんだろう。そんなことを聞かされて、頷くはずがないと、思っている。
 彼の言葉に従って、今日は終わりにして貰ったほうが、絶対いいのはわかっていた。彼の告げた言葉の危険性はわかっている。でも、自分相手に興奮してくれているらしい相手を、もっと見ていたいと、思ってしまった。
「へぇ……」
 見上げる相手の口端が上がって、感心と驚きとが混ざったような声が漏らされる。ビクッと肩が跳ねて、思わず後ずさった。もちろんすぐ後ろには壁があって、一歩も下がれないのだけれど。
 その壁の、ちょうど頭を挟んだ両側に、相手の手が押し当てられる。ドン、というほどの衝撃はなく動作も比較的ゆっくりだったけれど、逃げる間なんてあるはずもなく、と言うよりは逃げようという衝動が沸く前に、いとも簡単に腕の檻に囲まれてしまった。
 覆いかぶさるように顔が近づいて、ちぅと唇を柔く吸っていく。それだけで全身に痺れるみたいな甘さが広がる気がした。
「迷う余裕があるなら、もっと続けてって、言ってみれば?」
「もっと、続けて……」
 誘われるまま口に出せば、ますます相手の口元の笑みが深くなる。
「どんだけ迂闊で危機感ないんだよ。どんな酷いことされるか、また確かめもせずにそんなこと言って」
「だって、聞いたらきっと、もっと続けてなんて、言えなくなっちゃう」
 迂闊なのも、危険に危険を重ねる真似をしているのもわかっていた。
 酷いことなんてされたくないし、出来れば優しいご褒美だけが欲しいし、恐怖で体が震えて泣きそうにもなっている。それでも、続けての言葉を撤回しようとは思わなかった。
 やっぱり感心と驚きが混ざったような「へぇ」を零した後、再度顔が寄せられる。唇が触れるのに合わせて、相手へ向かって両腕を伸ばした。

続きました→

 
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