雷が怖いので プレイ30

※ ここから先、相手へ告白済みです
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 第四土曜日にデートみたいなお出かけをするようになって数ヶ月、その日は初めて、迎えに行くから家で待つようにと言われていた。いったい何の演出なのか、今日は何か特別な日だったりするのか、さっぱりわからないまま時間ぴったりにアパート前に停まった車に乗り込んだ。
 本日の目的地はやっぱり聞いたことのあるホテルで、今日は泊まりだよと言われたけれど、『今日は』ではなく『今日も』だと思う。確かにあの日、雰囲気のいいお店で食事を楽しんだ後で彼に抱かれたい、というような希望を口にしたけれど、まさか月イチの頻度で連れて行かれるとは思っていなかった。
「明日の予定、何か入ってる? 夕方まで連れ回しても平気か?」
「大丈夫です。でもあの、毎月こんな豪華なお出かけ、しなくていいんですけど」
「それはまぁ、こっちの事情もあるから、お前は気にせず楽しんでよ」
「そっちの事情、って?」
 んー……と渋るような迷うような様子を見せられて自分も迷う。彼がこういう態度な時は、自分にとってはあまりいい話じゃないけれど、特別隠すようなことでもない、という場合が多いからだ。
 どうせ好奇心で聞いて痛い目を見るのは自分だし、話してもいいと思っている事はなんだって聞きたい。だから結局、迷ってもやっぱりいいですと聞かずに済ますことは殆どなかった。逆に、先を促すように、話せないような事情なのかと問いかける。
「いや。たんに今日明日とあの部屋を貸すことになってるだけ。迎えに来たのも、お前と鉢合わせたら面倒なことになりそうだと思ったからだ」
 一応聞くけどと前置いて、いくら積まれたら俺以外ともプレイできる? などと続けば、どんな面倒が起こるのかを想像するのは容易い。多分相手も、こちらが気づくこと前提で話しているのだろうけれど。
「いくら積まれたって嫌ですけど」
「って言うと思ったから、迎えに来たんだろ」
「で、そういうあなたは、いくら積まれたら参加するんです? 副業、なんですよね?」
 心臓がキュッと絞られるような痛みを感じて、バカなことを聞いているなと心の中で自嘲する。でも以前、金を積まれてプレイに参加することがあると聞いてから、ずっと気にはなっていた。彼の体の傷を見て、少しばかり過去を知ってしまった今は、その思いはますます強くなっている。
 断ることも多いようなことを言っていたから、過去はともかく現在は意に沿わない行為を嫌々させられているとは考えにくい。それは彼が彼の意思で値段をつけて、納得の上でプレイしているってことだ。
 彼が自分以外の相手にどんなプレイをするのかなんて知りたくない気持ちも強いけれど、どんなことをどの程度の値段で受け入れているのか、それを知りたい気持ちも同じくらいに強かった。自分自身は彼任せで、ほとんどが与えられるままにただ給料を受け取っているし、彼が買えるほどの金銭を積めるわけがないのに、彼の値段が知りたいだなんて、本当は思うべきじゃないんだろうけれど。
 そんな自己嫌悪にそっと苦笑を噛み殺していたら、隣の運転席から、参加しないよとの言葉が飛んできた。
「え?」
「俺も最近はいくら積まれても全部断ってる」
「は?」
「お前抱くようになったし、副業とは言ったが、金が必要で応じてたわけでもないしな」
 思わずジッと運転する横顔を眺めてしまえば、ちらりと優しい視線だけが応えてくるからドキリとする。多分きっと、自分が彼を好きになってしまったと言ったせいで、こちらに気を遣って断ってくれている部分もあるんだろう。
 彼が自分以外ともプレイすることがあるのはわかっていても、自分の感知できないところでして欲しいし、なるべく気付かせないで欲しい。痕跡に酷く動揺したせいでキツイおしおきを食らったり、今現在彼が一対一で関係を持っているのは自分だけだと言われて安堵した過去がある。彼もそれを覚えているから、断れる誘いは全て断ってくれるようになったと、そう考えるのが妥当な気がする。
 恋人になれる相手じゃない。どれだけ好きだと思ったって、相手から同じ想いは返らない。でも、差し出したこちらの『好き』を、思いのほか大切に扱ってくれているとも思う。
「ねぇ、俺はこれ、喜んで、いいの?」
「嬉しいか?」
「そりゃあ、嬉しいです、よ」
「そうか。俺が他でプレイしないのは、やっぱり嬉しいと思うんだな」
 そこに納得されるのかと驚く気持ちはないわけではないが、そんなどこか少しズレた返答は、いくぶん安堵の滲んだ声で告げられた。

続きました→

 
 
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