雷が怖いので32

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 洗われながら焦らされた体は強い刺激を欲しがっていたから、すぐにでも言われた通り彼の肌にグリグリと性器を擦り付け達してしまいたい気持ちはもちろんある。でもそれと同じくらい、この時間が長く続けばいいのにとも思った。
 結局どれくらいの時間、彼の体を洗っていたのかはわからない。ただ、おぼろげな知識を辿りつつ、それなりにあれこれ試せたとは思う。まぁ途中からはイマイチ記憶が曖昧だけれど。
 興奮しきった中で射精を耐え続けたのと、湯の中ではなくとも風呂場の温度と湿度でやはりのぼせていたのが原因だ。
 最後は、もうイきなさいとかなり厳し目の命令調で言われ、それに従ったことは覚えている。しかしそこで意識が飛んだらしく、気づけば寝室に寝かされていた。
 もうカーテンの隙間から漏れ入る明かりはなく、代わりに部屋の隅に置かれた細身のスタンドライトが淡い光を灯している。
 今度は隣に彼の姿はなく、裸だった。ゆっくりと上体を起こして部屋の中を確認すれば、ベッド脇に二つのスツールが並んでいて、片方に畳まれた服が、もう片方にペットボトルの飲料水とグラスが置かれている。
 用意周到ぶりに驚きながらも、ありがたく水を飲み干し服を着た。
 どうやらあんなにびしょ濡れだった服が乾燥機で乾くだけの時間を、寝て過ごしていたようだ。きっと一緒に掃除するといった廊下も、彼が一人で終わらせてしまっただろう。
 取り敢えず彼を探そうと部屋を出た。
 結構大きな家だけれど、基本防音室でのプレイばかりでそこにはシャワーブースもトイレもあったから、リビングと今いた寝室と先程使った風呂場しかこの家の中の構造を知らない。防音室とリビングだったら、リビングのほうが彼がいる可能性は高いだろうと、取り敢えずはリビングへ向かう。
 軽く扉をノックして様子をうかがえば、すぐに入っておいでと返事が聞こえた。良かった。やっぱりこっちで合っていた。
 リビングへ入ると同時に、ソファに座っていたらしい彼が立ち上がるのが見える。
 こっちにと促されてテーブルセットの椅子に座れば、じっと顔を観察される。
「体調はどうだ?」
「特には問題ないです。でももう少し、水が飲みたい」
「わかった。腹は? 何か食べれそうか?」
「食べます!」
 勢い良く返したら、ぷっと小さく吹き出された後、大丈夫そうだなと言ってくしゃりと頭を撫でられた。
「じゃあ何か用意するから待ってな」
 キッチンスペースに向かった彼は、冷えたミネラルウォーターの大きなボトルとグラスとを手に戻って来たが、それらをテーブルに乗せるとまたすぐキッチンに入っていく。
 ほどなくして出てきた夕飯は、ハンバーグをメインにした、まるでレストランの食事みたいだった。電子レンジが稼働していたから、レトルト惣菜か冷凍食品なのだろうけれど、皿に綺麗に盛り付けられたそれらはめちゃくちゃ美味しかった。
 夕飯を食べ終えて一息ついたところで、相手から、今日の分の給料を払ってもいいかと言われて、これはさっさと帰れってことかなと思いながら頷く。時刻は既に22時を大きく過ぎていて、途中二度も寝てしまったせいもあるけれど、こんなに長時間この家に居続けたのは、実のところ初めてだ。
 差し出された封筒は、目に見えて分厚かった。
 今日は本当に色々とあったから……とは思うが、同時に、やはり少しだけ胸が痛い。彼に初めて抱かれた事の報酬は当然入っているだろう。もしかしたら、好きという気持ちにも、やっぱり値段を付けられているのかも知れない。
 要らないと言って突き返しても、受け取ってくれるかはわからないけれど、でも、黙って受け取ることだって出来そうにない。できれば、返してしまいたい。
「あの、中、確かめても、いいですか?」
 渡された封筒の中身を、彼の前で確認したことはない。だから相手も一瞬驚いたようだけれど、すぐにどうぞと返され、手にした封筒から中の札束を取り出し枚数を数える。
 一万円札が、二十三枚、入っていた。
「これ、内訳、どうなってるんですか?」
「内訳?」
「気分で決めてるってのは聞きましたけど、でも、ある程度は、あるんですよね? 何が幾ら分、っていうの」
「あー……お前の初めてを、俺が幾らで買ったか知りたいって事?」
「あ、はい。そうです、ね」
「そうだな。最初の、ベッドの中で過ごした時間全部で、十万。お前の肩に噛み付いて傷を残したのが十万。その他、プラグ入れてここまで来たのとか、玄関先でイくの我慢できたのとか、単純時給分とか、諸々合わせて三万。くらいの感覚、だな。傷の分は払うけど、風呂場でのその他には今日は値段つけてない。もしあれに値段つけるなら、プラス二万か三万、くらいか?」
「傷に、十万……?」
 痕、残るとしてもうっすら程度って言ってたよね? なのに十万?
 彼の中の値段設定に驚きすぎて、一瞬目的を忘れた。
「金銭感覚違いすぎるとか思ってんのかもだけど、俺にとってはお前の体に残るかもしれない傷痕付けるってのは、相当な意味があると思ってくれていい。俺の体は傷だらけだけど、俺の経済力の基礎部分は、その傷と引き換えにした分がかなりある。正直、お前のその傷も、傷の残り具合によっては、もっと追加してもいいと思ってる」
「でも俺、この傷、多分、嬉しい……から。ちゃんと痕が残って欲しいって思ってるくらいだから。あなたの傷とは、きっと、意味が違う」
「それは、受け取れないと、そういう話?」
「うん、そう。それと、ベッドの中で過ごした十万分も」
「仕事として俺に抱かれるのが、嫌だから?」
「今日のは、出来れば、仕事じゃなかったって思いたくて。あの時間を、いつも通りのバイトって思いたくない、から。次回からは、ちゃんと、バイトとしてここに来た日に抱かれた分は、お金、貰います」
 相手は何かを考えるように口を閉ざしてしまう。
「あ、あの、お風呂場の、値段つけてないっての、むしろ嬉しかったし。もしかして、好きなんて言ったら、好きって気持ちにも値段つけられて、バイト代に上乗せされるのかって思ってたから、そういうのもなくて、良かったって思ってるくらいなんで。だから、その、俺、本当に、あなたから必要以上に、お金貰いたくないくらい、あなたのことが、好きになっちゃってて、せっかくいっぱい給料入れてくれたのに、その、わがまま言ってごめん、なさい」
 どうしてもお金は返したくて、でも怒らせたかもと焦る気持ちもあって、口からはぼろぼろと気持ちがこぼれ落ちていく。
「お前の気持ちは、わかった」
 差し出された手に封筒と引っ張り出したお札を一度全て返したら、そこから改めて三枚の万札を封筒に入れてそれを戻された。

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