その小さな体のどこに消えてくんだと、驚きと呆れと感動とを混ぜた様子で、でもやっぱ若さかなと言われながら大量の朝ごはんを食べた。昨夜の夕食も美味しかったけど、朝食も負けず劣らずどれもこれもが美味しい。
シャワーを浴びてさっぱりした段階でかなりお酒の影響は抜けていた気もするけれど、あれこれ食べると同時に、スープや味噌汁やジュースやお茶やコーヒーやらも飲みまくったら、食事が終わる頃には体調もだいぶ回復していた。
しかし、朝飯食った後に誘ってみろと言われたことを忘れていたわけではないのだけれど、部屋に戻ってからもそこには一切触れずに、テレビを点けてニュースなどを見だしてしまった相手にどうしていいかわからない。誘えと言われているのだから、自分から何かしかけて行かなければという事なのかもしれないけれど、いざ自分からってどうすればいいんだろう?
結局お腹がいっぱいで満たされきっていたのもあって、隣に腰掛けてぼんやり一緒にテレビを見ているうちに、気づけば寝落ちていたらしい。
昨夜彼に抱かれてしまいたかった気持ちは確かにあるが、まったくエロい雰囲気のない今この瞬間にも、彼に抱かれたくて仕方がない気持ちがあるかといえば、全然そんなことはないというのも大きい。抱いて貰えなかったと落ち込んだ気持ちも、理由を聞いて納得してしまったのと、美味しいご飯をお腹いっぱい食べたのとで、割と簡単に浮上していた。
そろそろ起きてくれという言葉と共に体を揺すられて目を開ければ、笑いを含んだ、それでも柔らかな優しい顔に見下されていて状況がさっぱりわからない。わからないなりに、起きてと言われたのでゆっくりと体を起こしていく。起こしながら、あれ、ソファで寝ちゃってたのかと思う。
「え?」
慌てて振り返り、今自分が頭を置いていた場所を確認してしまった。
「え?」
もう一度呟いて、今度は相手の顔をまじまじと見つめてしまう。だっていつからかは知らないが、間違いなくこの男の膝枕で寝ていた。
「随分気持ちよさそうに寝てたな」
「や、あの、ごめんなさい」
「謝る必要はねぇな。むしろこれ、お前が俺に謝罪を要求したって良い場面だぞ?」
「え、なんで?」
「お前が気持ちよさそうに寝こけてるの可愛くて、チェックアウトぎりぎりまで寝かせてたわけだからな。つまり、俺に今日ここで抱かれたいのかもしれないお前から、その機会奪ったってわけだ」
残念だったなと、全く残念そうではない顔で言われて、ぶんぶんと首を横に振った。もし食後も抱かれたくてたまらない気持ちでいたら、きっとそれを無視はしなかっただろうことはわかっている。
「まぁ、お前が俺に抱かれたい気持ちになってるってのははっきりしたから、もう暫くいい子で待ってな」
ちゃんと俺が気持ちよく奪ってやるからと笑われて、期待に体の熱が上がってしまう。エロい気分はすっかり飛んでいたのに、彼の笑顔一つでその気になってしまうのだから驚きだ。
その後、支度という程のものもなく部屋を出てチェックアウトをしたのだけれど、実はけっこう長い時間寝こけていたらしく、すっかり昼を過ぎていることにも驚いた。ホテルのチェックアウトってのは10時が標準だと思っていたが、レイトチェックアウトと言うサービスがあるそうだ。
なので、結局そのままホテル内のレストランで昼食を済ませてからの帰宅になった。朝ごはんを食べまくったのでさすがにさして空腹でもなく、昼なんて抜いたっていいくらいだったのだけど、これも誕生日プレゼントの一部と思って奢られとけと言われたら頷くしか無い。
改めて、昨日から今日にかけての全てが、彼からの誕生祝いなのだと思い知る。
嬉しいと思う気持ちの中に、なぜか少しだけ、寂しいような気持ちが混ざりこむ。だって本来ならこんな場所には全く縁のない貧乏学生なのだ。今回、優しく甘やかされる時間が多かったから何か勘違いをしてしまいそうだけれど、自分はやたらお金持ちな彼にただ雇われているだけの関係でしかないのに。
気持ちが落ちたことにはやっぱり気づかれてしまったけれど、また連れて来てやるからと言う言葉に、この贅沢な時間が終わることを惜しんでいると思っているらしいと苦笑する。確かに、全部の気持ちが筒抜けなわけじゃないようだ。
家の前まで送るという言葉を断って彼の家に戻り、いつも通りだけれどいつもより確実に厚みのある白い封筒を受け取り、いつの間にかクリーニングが済まされていた昨夜のスーツもプレゼントとして持たされて、自宅アパートまでの道をゆっくりと歩く。
夢のような世界から戻って、気持ちは落ちていく一方だった。
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