黙って口を閉ざせば、勝ち誇ったような顔をされたが、そういや相手の男は何歳くらいなんだろう?
そこまで年上に見えないのは口調が割合雑なのと、今みたいな顔がどこか子供っぽさを滲ませているせいだ。しかしそれを尋ねるより先に、相手から質問が投げられた。
「で、見事にバイトはクビらしいけど、お前これからどうすんの?」
「そんなの、新しいバイト先探すとこからやり直しに決まってんでしょう」
「どんなバイト探してて、月に幾らくらい稼ぐ必要があるんだ?」
「どんなって、そこそこの時給でできれば土日祝日のみ出勤で……あっ」
ぺらぺらと喋りかけて慌てて口を閉ざす。危機感薄すぎと言われたばかりなのにと思ったら、さすがに恥ずかしくて顔が熱くなった。
「何赤くなってんの。エロい系バイトでも探してた?」
「ち、違いますっ! というか、あなたに話す必要ない話題じゃないですか、これ」
「あー……危機感?」
頷いたら、今更過ぎと笑われて悔しい。
「危機感覚えたってなら別に話さなくたっていいけどさ、俺がお前を雇う可能性あるよ、っつったらどーする?」
「え?」
「俺ね、これでも結構稼いでんだよね。だから大学生の小遣い稼ぎ程度なら付き合えっかもなーって、割と本気で思ってんだけど」
月に幾らくらい稼ぎたいのと再度問われて、最低五万でできれば八万くらいと返せば、その程度でいいんだと余裕の表情を見せられた。マジか。
というかどんな仕事で雇ってくれる気でいるんだろう?
「えっと、なんの仕事、されてるんですか?」
「ん? 俺の仕事を手伝ってって話じゃない。もし本気で俺に雇われる気があるなら、勤務先はここ」
「え、じゃあ、家政婦的な?」
一人暮らしなので最低限の家事はするけれど、この家結構広そうだし、とても自分の手に負える気がしない。しかしそれはあっさり否定された。
「残念。ハウスキーパーは既に入れてる」
にやりと笑われて、あれこれやっぱり迂闊過ぎたかもと思ったが、どうやらもう遅すぎた。
「簡単に言うなら愛人契約? と言っても、エロいことはそっちが出来る範囲内でいい」
さすがにすぐには意味が飲み込めなくて、相手の顔を見つめたまま必死で告げられた言葉を脳内で繰り返す。
愛人契約? エロいこと? この男相手に? 俺が?
考えたところで、頭のなかに疑問符が増えていくだけだった。
「あ、やっぱ意味わかんねーか」
「や、だって、そりゃ、……俺、男だし。てか男に手なんか出さないって証明のそれなんですよね?」
それと言って指を向けたのは、もちろん録画しっぱなしというビデオカメラだ。
「違う。それは子供に手を出さない証明用。俺自身は男も女も対象になる、いわゆるバイってやつ」
「俺、も、対象に、なった……?」
「ショタ趣味なんてなかったはずなんだが、大学生って聞いたら、さすがにちょっと興味湧いたな。あと、お前けっこー面白い」
「面白い、ですかね?」
「面白いな。というか、即座に無理だとも言わねーし、この変態とか罵っても来ないとことか、かなり面白い」
聞いても、それのどこが面白いのかさっぱりわからない。そんな気持ちはそのまま言葉になって吐き出された。
「意味がわからない」
「じゃあ単語変えるか。この状況で愛人になれって誘われてんのに、頭に疑問符並べながらぼけっとこっち見つめてくるとこがめちゃくちゃ可愛い」
本当に危機感ねぇなと笑われて、慌てて椅子から立ち上がった。
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