弄っていた髪から指を解けば、ようやく、ゆっくりと神崎が頭を上げる。泣いていたのか、赤くなった目元が少しばかり濡れていた。
まっすぐに見詰めてくる瞳を、同じように見詰め返す。答えを急がせる気はなく、神崎が口を開くのをジッと待った。
「嫌じゃ、ないです。でも、そんな風に思う自分を、嫌だって、思います」
やがて、ゆっくりと吐き出されて来る言葉は、神崎の中の矛盾した感情をはっきりと語っていた。
「それを聞いてなお、俺は、お前に触れたいと思うし、キスしたいと言うのを止められない。ホント、酷い先輩だな」
自嘲気味に笑えば、神崎は首を振って否定を示す。
「ハルさんは、俺に凄く甘くて、優しい、ですよ」
「本気でそう思ってる?」
「はい」
「キスしたい、と言ったら許す?」
「……はい」
「なら、目を閉じて」
神崎は黙って目を閉じ、心持ち唇を突き出してみせる。遠井は神崎の頬をそっと両手で包みこむと、ゆっくりと顔を近づけていった。
軽く触れるだけのキスを何度か繰り返す。やはり嫌悪感なんてカケラもわかなかった。小さく震える唇には愛しさが募るばかりだ。
頬から首、そして肩を撫でるように下ろした右手を、今度は背中に回して引き寄せる。残された左手で髪を梳きながら、上唇と下唇を交互に啄ばみ、固く結ばれた唇が解かれるのを待った。もっと強引にその唇を割ってしまいたい衝動は、未だ戸惑いを残して震える唇の手前、どうにか押しとどめている状態だ。けれどそんな遠井の思いなど、神埼はどうやら気づいていないらしい。
そう強い力ではなかったけれど、神崎の手が遠井を押しのけるように胸を押した。一度顔を離して様子を窺う。うっすらと頬を染めた神崎は、困惑の色濃い瞳をしていた。
「嫌?」
「嫌、っていうか……」
苦しい、と神崎は告げた。ずっと息を詰めていたのかと思って、思わず小さな笑いをこぼす。
「あんだけ固く結んでたら、そりゃ息だってしにくいよな」
言いながら唇をなぞる。
「ち、違っ」
胸が苦しいのだと言って、神崎は益々頬を赤く染めた。
「どれ」
胸に手を当てその鼓動を確かめる。
「ああ。確かに。けど、俺とどっちが早いかな」
「え……?」
「ちゃんと触って」
促すように告げれば、胸に当てられていた手が動き、遠井の鼓動を探し始めた。
「ほら、わかるだろ?」
やがて手の動きが止まるのを待ち、問いかける。どこか信じられないといった表情で遠井を見つめた後、神崎はわかると言いたげに頷いて見せた。
「言ったろ。俺だって、苦しいくらいドキドキしてる。それに、」
もっと神崎をドキドキさせてやりたいのだとも、ちゃんと告げたはずだった。再度告げて、胸に当てていた手を少しばかり移動させ、胸筋を確かめるように包み込む。
女性のような膨らみはないが、手の平を押し返す張りのある筋肉に興奮が増していく。どちらかと言えばグラマーな女性が好きだったはずなのにと思ったら、思わず笑ってしまった。
「やっ、……」
辛そうに顔を歪めて見せた神崎に、慌てて手を放す。興奮に任せて、知らず力を込めすぎたのかもしれない。
「悪い。痛かったか?」
フルフルと弱々しく頭を振った神埼は、悔しそうに唇を噛み締める。解かせるように指でなぞって、軽いキスを一つ。
「どうした? 何が嫌なのか、教えてくれないか」
「お、女の子じゃ、ないから……」
呟くような声が、胸なんかないのにと続いた。今にも泣かれそうで、申し訳なさが押し寄せる。
「うん、ちゃんとわかってる。でもゴメンな。それでも、触りたいんだよ」
「ど、して……」
楽しくなんかないだろうと問う言葉に、首を横に振って見せた。
「楽しいよ。すごく」
「嘘」
「嘘じゃないって」
笑って、もう一度その胸に触れる。やはり神崎は眉間に皺を寄せたけれど、振り払うような仕草を見せないのをいいことに、ゆっくりと撫でさすり、時にそっと揉みしだく。
「ふっ、ぅ……」
やがて小さな吐息がこぼれ落ちる。
「気持ちい?」
聞かずとも答えはわかっていた。快楽でこぼすような吐息ではなかったからだ。頭を振って否定を示す神崎の動きを追って、耳元に顔を寄せた。
「あぁっ、んん……っ」
胸を弄りながら耳朶を食めば、今度は幾分高い声音が響く。
「こっちは気持ちイイんだろう?」
そんな囁きと共に、耳周りに舌を這わせ、軽く吸い上げてやる。
「やぁ、あっ、……クッ、うぅ」
声を噛まずに聞かせて欲しいと頼んでも、きつく瞳を閉ざした神崎は、苦しそうに唇を噛み締めるばかりだった。目尻には涙が滲んでいる。可哀想にと思う反面、堪えられないほどに感じさせてやりたい衝動が襲った。
胸を弄り続ける指先には、ツンと尖りはじめた乳首が触れる。弾くように掻いてやれば、驚いたように神崎の体が跳ねた。閉ざされていた瞳も、その衝撃にパチリと開く。
不安気な顔に優しく笑いかけながらも、まさぐる手を休めることはない。そんな遠井にどう返せばいいのかわからないようで、神崎は困り顔のまま何も言えずに口ごもる。その口から漏れる吐息だけが、だんだん熱を帯びていく。
「こっちも感じ始めた?」
さすがに意地が悪いかと思いながらもそう問いかけ、先ほどよりも更に硬くなった突起を、指で摘まんで転がした。
「ひっ」
小さな悲鳴があがる。もう、痛いかとは問いかけなかった。代わりに唇をよせ、服の上からだが構わず、宥めるようにそっと吸い上げる。
「ま、待って!」
ようやく部屋の中に神崎の、幾分慌てた声が響いた。
「ん? どうした?」
「服……」
困ったようにそれだけを告げる神崎に、脱がしていいのかと問えば、ここで? と問い返される。
「なら、移動するか?」
返事を待たずに立ち上がり、促すように手を差し出した。さすがにどこへと問われることはなかったが、その手を取ることもない。
誘う言葉を掛けたい気持ちを抑えて、神埼がその手を取るのを待った。本気で嫌ならとっくに逃げ出しているだろう。彼に必要なのは、覚悟を決めるための時間だと思った。
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