こいつ家まで送るからという言葉に促されて、一足先に飲み仲間たちに背を向ければ、すぐに冷やかし混じりの声がいくつも追いかけてくる。
「なぁ、せっかくだし、もうちょっとあいつらに見せつけてやろうぜ」
耳元に顔を寄せてこそっと囁く声は酷く楽しげだ。
なるほど。どうやら随分とのんびりしたこの歩調も、隣の男にとっては見せつけている行為の一つらしいと気付く。
「見せつけるって何をどうやって?」
振り向いてやることはせず、そのまま前を向いて問いかけた。
「手、お前から、繋いでよ」
「えー……」
「手くらい良くない? 恋人っぽくない?」
「まぁ手くらいいいいけどさ。なんで、俺から?」
「お前からってのが重要なんだろ。さっきお前が本当だって言った時のあいつの顔、凄かったもん」
ちょっと溜飲下がったわと笑う声は軽やかだ。確かに自分も彼の反応で、気が晴れた部分が多少はある。けれどだからこそ、なんとなく後ろめたい気持ちも湧いていた。
彼が思った以上に反応してくれたからこそ感じるのだとわかっていつつも、随分と子供っぽい仕返しをしてしまった気がしている。彼が後輩の男を好きになったって、そこにはなんの罪もないのに。
「そりゃあ今日も顔合わせた直後に、あいつに好きだって言ったしね、俺。それが数時間後には別の男と恋人宣言とかわけわかんないよね。俺自身、わけわかんないし」
「そう言いつつも、お前が皆の前で、俺と恋人になったって認める発言してくれたの、凄く嬉しかった。だからさ、お願い。手も、お前から繋いで?」
「なに甘ったれてんの。お前が、俺を、慰めるんじゃなかったの?」
「そうだよ。こうやってお前に甘えるのも、俺からしたら慰めてるのと同義なの」
まぁどうしても無理ってなら俺から手ぇ繋ぐけど、と続く声を聞きながら、黙って相手の手をとった。ふふっと笑った相手は、嬉しさとおかしさを混ぜあわせたような気配を滲ませている。
「あいつら、今のこれ、ちゃんと見てたかなぁ~」
「さあね。あいつらだっていつまでも俺ら見送ってたりしないんじゃないの?」
ゆっくりとした歩調とはいえ、話しながら歩き続けていたわけで、既にそれなりの距離は開いている。手を繋いだところで、背後から掛かる冷やかしはなかった。だからきっともう、自分たちのことは見ていないんじゃないだろうか。
「お前がさっさと手ぇ繋いでくれないからー」
「俺のせいにすんなバカ。手、離すぞ」
「ヤダ。離さない」
軽く繋いでいた手がぎゅうと握られた。
「あいつらに見せつけるとか関係なく、俺が嬉しいから、もうちょっと繋いでて」
「あの角曲がるまでな」
「えー。お前の家までこのままじゃダメなの?」
「ダメだろ。というか繋いでから言うのも何だけど、男同士で手ぇ繋いで歩くとか、普通にないよね」
「恋人だよ?」
「恋人でも、おおっぴらに手を繋いで歩くってのはない気がする。あとここ地元だし、知り合いいっぱいいすぎて、誰かに見られたらと思うとなんか嫌だ」
「見られて困る知り合いなんて居る? お前が男も有りだって、知り合いならだいたい知ってんじゃないの?」
親ですら知ってるって言ってたろという言葉は間違っては居ないが、問題はそこじゃない。
「相手がお前なのが問題なんだろ」
「うわー傷つくわー」
「うっせ。後、男もありっての、誤解だから。あいつだけが特別だったって思ってる奴のが多いと思う。というか親はそういう認識で諦めてる。だから、取り敢えずで恋人にはなったけど、あいつら以外に認める気はないし、エロいことも本当無理だからな」
「そんな釘刺さなくたってわかってますー。まったく、可愛げないんだから」
「可愛げなんかなくて結構。てかその可愛げのない男相手に、慰めたいとか言ってるお前が普通に異常なだけだからな」
角を曲がって、握られていた手を振り払った。
「普通に異常って矛盾してるだろ。まぁ、可愛げないお前が可愛いから、それも矛盾なんだけどさ」
振りほどいた手はあっさり肩に回されて、かえって距離が縮んでしまう。
「俺は結構本気で、お前を幸せにしてやりたいって思ってるよ」
覚えててと告げる声は思いのほか真剣で、さすがにドキリと心臓がはねた。
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