雷が怖いので47(終)

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 繋がりを解かずに頬や髪を優しく撫でられる。それを感じたまま、上がってしまった息を整えているうちに、霞みきっていた思考も視界も開けてくる。
 ぼんやりと見上げる先で、柔らかな瞳が楽しそうに、満足げに、優しくこちらを見下ろし笑っていた。
「それで、俺の全部を受け取った感想は?」
「そん、なの、……」
 凄く嬉しいに決まっている。まさか彼の口から好きだという言葉が告げられるとは思っていなかった。彼の声で、お前が好きだと、そう言ってくれるのを聞けるなんて。
 彼が聞かせてくれた好きが、繰り返し耳の奥でこだましている。体ではなく心が、ようやくそれを認識して、じわじわと喜びが広がっていく。
「なんか、嘘、みたい」
「なにが嘘?」
「あなたはきっと俺を好きだって、そう確信はしてたけど。でも、それをあなた自身が認めるのは、もっとずっと先だろうなって、考えてた」
「お前が好きだよ。お前の全部を俺のものにして、ここまで嬉しくなってたら、さすがにもう自分の気持ちをごまかせないだろ」
「良か、った」
 へへっと笑ったらお前にゃ負けたよと苦笑されて、指先が目元にじわりと浮かんでしまっていた涙を拭っていった。
「ごめんな。本当はあの日、お前の愛のあまりのでかさに気づいてから、お前を手放せない未来も少し見え始めてた。でもその未来に抗ってしまった。もっと早くに、お前の想いもこの先の人生も受け取ってやる決断ができてたら、お前に家族を捨てさせるような真似をさせなくて済んだかも知れないのに。お前が俺を選んでも、それで家族から縁を切られずに済む方法を、探してやれたと思うのに」
 お前の行動が早すぎたと、心底申し訳なさそうに悔やんだ顔を見せるので、こちらも本気で申し訳ない気持ちになりつつ口を開く。
「それなんだけど、あの、いつかもうちょっと落ち着いたらでいいから、俺と一緒に、俺の家族に会ってくれない、かな?」
「お前の家族に何を言われたって、もう、お前を手放すことはしてやれないのに?」
「それでいいよ。というかそれが重要というか」
「ちょっと待て。お前、これから先の人生を共にしたい男性が居るって言って、勘当されたんだよな?」
「違いますよ。というか、そこに関してなら、人生の伴侶に男を選んだくらいで親子の縁を切るほど狭量じゃないって怒られました」
「信じられないな。せっかく育てた息子が、明らかに道踏み外してて、それを許す親がいるのか? お前の親が、お前を愛人になれとそそのかして、大金チラつかせてお前の体を汚したような男に、そのまま息子を差し出すようには思えないんだが?」
「あー……さすがに愛人やってたとまでは、言えてない、です。親が十分なお金を出せなかったせいでそんなバイトしてたって思われたくなかったし、実際、お金の問題だけで続けてたわけじゃないし。だから出会いと経緯はちょっと誤魔化しちゃった。けど、俺の事は基本的には信じてくれてるんで、俺が本気で考えて選んだことは、応援、してくれるんですよ」
「ますます意味がわからないぞ。お前は何を話して、何が原因で勘当までされる事になったんだ」
「勘当されたってより、勘当してもらってきた、が正しい、ですかね」
「して貰ってきた?」
「そう。だって親から大事にされてる俺じゃあなたは貰ってくれないけど、逆に、親に捨てられた俺なら、あなたはきっと受け取ってくれると思ったから」
 だからさと、本当に本当に申し訳ない気持ちで、正直に真相を打ち明ける。
「どうしてもあなたを頷かせて、俺との関係を大学卒業後も切らずに居てほしかったから、やれることはなんでもやろうって思って。あなたが手強いから、なりふり構ってられないって、言ったでしょう。親にもそう言って、だから縁切ってって頼み込んで、勘当して貰っただけです。それで勘当を解いてもらう条件は、俺があなたをしっかり捕まえて、あなたと一緒になれて本当に幸せって状態を、家族に見せること。なんですよね」
 ごめんなさいと謝ったら、なんとも言えない顔で、本当にそんなことを親が了承したのかと再度確認された。
「うん、した。実は、頑張りなさいって言われて、こっち帰ってきました」
「お前といい、お前の親といい、俺の想像しうる範囲を大きく逸脱した行動にびっくりだよ」
「生きてきた世界が違いすぎる?」
「そうだな」
「でももう、俺は全部あなたのものだし、あなたも俺のもの、ですよ。違いは埋められなくても、そういう世界もあるって認識くらいなら、出来ますか?」
「ああ。きっとお前は嘘を言ってない」
「それで十分。さっき、あなたが俺への気持ちを認めるのはもっともっとずっと後になると思ってたって言いましたよね。そういう覚悟だったんで、俺の家族に会いに行くのも、いつか、あなたの気持ちがもっと落ち着いてはっきりしてからで、いいんです。あなたが、俺が勘当されたことを気にしてくれたから、ちょっと、焦って話しちゃっただけで」
「いや。少し、安心した気もする。でもそういうことなら、近いうちにお前の家族に会いにいくよ。ただその前に、お前が俺との関係をどう説明したのか、聞いておかないとな」
 急がなくていいよと言ったら、お前が全部俺のものになったってことの重要性がわかってないなと、意味深に笑われて首を傾げた。
「そこに気づかないお前だからこそ、俺も、俺を全部お前にやってもいいって思えるんだけどな」
「どういうこと? 俺が気付いてない重要なことって、何?」
「それは追々、教えてあげる。色っぽい話じゃないし、今はそれより、体が落ち着いたならバスルームに移動しようか」
「も、ちょっと、このままが、いい」
「洗い流すの勿体ない?」
「うん」
「お前の奥深くまで、全部俺に染まった事実は、洗い流したところで変わらないけど?」
「うん」
「もっとして、ってのはなしだぞ? それとも、奥まで綺麗にされるのを怖がってる?」
「もっと、されたい」
 甘えるようにねだってみたら、小さなため息の後で、明日使い物にならなくなってもいいならと返される。これ以上を煽るなら、気持ちに任せて抱くことになるぞという忠告に、それは忠告なんかじゃなくて、まるで甘美な誘惑でしかないと笑ってやった。

<  終  >

ここで終わるか凄く迷った末、あまりに長くなった話なので、もう終わっていいかなとエンドを付けました。なお、本人が気付いてない重要なこと=相手の資産に関する話です。
あまりの長さに更新時間が守れず、最後まで大遅刻ですみません。そして本当に長々とおつきあい、どうもありがとうございました〜!

END直後のオマケ話を読む→

 
 
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「雷が怖いので47(終)」への13件のフィードバック

  1. 恋愛長編小説でしたね。お疲れさまでした♪

    その後が楽しみ。もちろん引っ越して来るよね?
    で、就職先関係とか、実家への挨拶とか、2人のあれやこれやを妄想中(^o^)

  2. お疲れ様でした(*≧∀≦*)
    すごいいい話でした!
    感動してます、
    更新日が楽しみだったので、endは寂しいですが
    次回作も楽しみにしております。が
    お話を生み出すのは、すごいパワーがいるので、
    体に気をつけて過ごしてくださいね(〃ω〃)

  3. るるさん >
    まさかここまで長くなるとは思いませんでしたが、ちゃんと両想いまで運べてエンド付けれて良かったです。
    引っ越してくるか、まったく新しい場所でになるかはわかりませんが、たぶんすぐ一緒に暮らし始めるだろうとは思います。
    きっと相手は就職前に名字変えさせたい(養子)とか思ってるので、挨拶にしろ就職にしろこっから先もまだまだ色々ありそうだなと、書く予定はないものの私も色々と考えてしまってます。
    最後までお付き合い頂いた上、コメントまでどうもありがとうございました〜(^^♪

    匿名さん >
    コメントありがとうございます。感動してもらえて嬉しいですヽ(=´▽`=)ノ
    更新を楽しみにして頂けていたのもとても嬉しいです。9時半更新が午前中更新になり、更にそれすらちょくちょく守れないグダグダな更新になってしまったのが、今回一番の反省点だなと思ってます。そんな中、最後までお付き合い本当にありがとうございました。
    次回作からは更新時間を元に戻せるようにも頑張りつつ、また思いつくまま色々書いていきたいと思いますので、今後もどうぞよろしくお願いしますね(*^_^*)

  4. 完結おめでとうございます!
    登場人物の情報がほとんど無い状態で、会話や思考だけでこんなにお話の世界に入り込むことができるんだって感動してます。
    男の子が本当に健気でかわいくて萌えまくりました!
    素敵なお話をありがとうございました。
    そして長い連載お疲れ様でした。٩(๑❛ᴗ❛๑)۶

  5. あかねさん、コメントありがとうございます。
    おかげさまでようやく完結しました!
    人物の情報量が少ないのはなるべく文字量減らして簡易に萌えをという思惑だったはずなんですが、名前すら無いままこんなに長い話になってしまっても、ちゃんと萌えて楽しんでもらえて、感動までして貰えて、本当に嬉しいですヽ(=´▽`=)ノ
    予想外に長引いてしまいましたが、最後までお付き合いどうもありがとうございました〜

  6. はじめまして。今日一気に読みました。前々からブログ村のタイムラインに上がるこのタイトルが素敵だなあと思っておりまして、今日やっと読みに来ましたら丁度良く完結もされていて、幸運でした!
    押し問答がとても論理的で、レイ様の頭の中が見えるようで、久しぶりに面白いBLを読んだと思いました!
    SとMについて今一度考える良い機会になりました!^ ^
    完結おめでとうございます。お疲れ様でした。

  7. 睡魔さん、はじめまして(^^♪
    かなりいい加減に付けてしまったタイトルですが、素敵と言って貰えて嬉しいです。
    そして結構長くなってしまった話を一気に最後まで読んで下さってありがとうございます!
    彼らの押し問答は本当に、私自身がグルグルグダグダあれこれ考えてしまった部分がかなり出てしまっていると思います。頭の中が見えるようだと言われて、今、少し照れくさいです。でも面白く読んでもらえたなら良かったです(^v^)
    SMの世界はとても魅力的なのですが、双方同意のプレイでなければただの暴力にもなりかねないし、なかなか扱いが難しいなと挑戦するたび感じます。難しいと思いながらも、ついつい手を出してしまうんですけどね。
    コメントどうもありがとうございました。また気になるタイトルを見かけたら、読みに来てやって下さい〜

  8. 初めまして。長編完結お疲れさまです。
    偶然目に入ったタイトルに惹かれて読み始めたら止まらなくなり、最新のお話まで一気に読んでしまいました!それからは更新されるのを今か今かと楽しみに待たせて頂きました。

    こんな素敵なお話を生み出して下さって本当にありがとうございます。すごく好きです!大好きです!
    あまりの語彙力のなさに自分でがっかりします…すみません(´∀`;)

    新作も心待ちにさせて頂きますね♪

  9. ゆかさん、初めまして。
    タイトルに惹かれて読み始めてくださったとのことで、やはり最初の取っ掛かりとして、タイトルって重要なんですね〜
    そこそこ長さのある話ですが、途中でもういいやと思われずに、最後まで読んでもらえて嬉しいですヽ(=´▽`=)ノ

    正直、萌えた!の一言でも反応貰えたら嬉しくて仕方がないところを、すごく好き、大好きと言ってもらえて、こちらこそ読んで下さって、コメントまで残して下さって、本当にありがとうございます!!

    新作も頑張って書いていきますので、よろしくお願いしますね(^^♪

  10. はじめまして。
    ブログ村でこちらのサイトを見つけて、一気に読ませてもらいました!
    たくさんの話の中でもこの話が一番好きで、何度も読み返してしまいました(∩´∀`∩)
    視点の主の子の健気さも相手の男性の優しさも、どストライクすぎて完全にヤラれましたΣ(ノ∀`*)

    最後の、気持ちに任せて抱くことになるぞ、って件…あの彼が気持ちに任せて抱いたらどんな感じなんだろうって気になってしまいました(笑)

    この話を書かれてから時間が経っているので今更な気もしますが、その後の彼らの話が読んでみたいです!

    素敵なサイト様に出会えて、本当に幸せです♡
    これからもがんばってくださいね(*ˊᵕˋ*)
    ありがとうございました♪

  11. あけさん、はじめまして(*^^*)
    そこそこ文字量ある話を一気に読んで下さってありがとうございます。
    しかも他の話も色々読んで下さったみたいですし、この話も何度も読み返して下さったとのことで、本当に嬉しいです(∩´∀`)∩ワーイ

    ずっと好きって気持ちがわからないと言っていた相手が、それを認めた上で感情任せに抱いたらどうなるんでしょうね?
    確かに気になるところです(´∀`*)

    この後の彼らもあれこれ妄想することはできるので書けないということはないのですが、「エッチ済みの恋人」というのが私の中では割と大きな一区切りになっているんですよね。
    まだエッチしてないとか恋人になってない話に続きをと言われれば、エッチしたり恋人に向けて関係発展させたりを考えるのですが、既にエッチ済みで恋人だと何を書いていいかわからないと言いますか。
    本編で触れた今後起こりそうなことって考えると、両親に挨拶とか、消えない証を貰うとか。童貞捨てたくなるとか、子供欲しくなるとかは微妙なところですが、絶対に起こらないとは言い切れない。きっと卒業祝いもするし、多分一緒に住むようにもなると思うし、彼らの新しい生活を追いかけようと思えば幾らでも追えてしまうのですが、逆に言うと終わりもないので、自分から今後彼らに起こるだろう何かを選んで書くということはきっとしないと思います。
    ただもし、この二人で読みたいもっと具体的な要望(それこそエンド直後のエッチとか?)があるようでしたら言って下さい〜

    こちらこそ、サイトに気付いて貰えて、感想コメントまで頂いてしまい幸せです♡
    更新は今後も続けていく予定ですので、またお時間がある時にでもぜひ覗きに来てやって下さいませ(^^♪

  12. こんばんは。
    はじめまして。
    ブログ村より参りました。

    お話がたくさんあってまだ全部は読めてないのですが、どれも素敵なお話でドキドキしっぱなしです。
    特にこのお話は一番のお気に入りです(*^-^*)
    このお話に出てくる二人の男性…お互いを想う気持ちが切なくて、でも最後に通じ合った時には私も何だか嬉しくなっちゃいました(笑)

    彼の気持ちに任せて抱かれた主はさぞかし可愛いんだろうな…って思うと、ぜひ書いていただきたかった!(笑)
    このお話を書かれてからずいぶん時間が経っていますが、もしよかったらご検討くださいませ♪

    素敵なお話をありがとうございました!
    他のお話も楽しみに読ませていただきます。
    これからもがんばってください(*^-^*)

  13. ゆきんこさん、はじめまして(*^^*)
    色々読んで下さっているみたいでありがとうございます。あれこれ書き散らしてますが、素敵でドキドキすると言って貰えて嬉しいです(∩´∀`)∩ワーイ
    このお話も、気に入って頂けて良かったです。
    書いてる時はそれなりに大変でしたが、相手が好きって言ってくれる所まで頑張って書いた甲斐があります。

    そして、エンド直後の、相手の気持ち任せに抱かれる視点の主を書いて欲しかったのお言葉もありがとうございます。
    ちょうど具体的な要望があれば書くよ的な返信を別の方にしたところですし、近いうちに書いてみようと思います。
    私自身、続きを書くにはもう一度この話を読み返さないとなので、少しお時間頂くかもしれません。

    こちらこそ、読みに来て下さってコメントまでありがとうございます!
    今まで書いたものも、今後増えていくものも、どうぞ宜しくお願いします(^^♪

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