積極的にどうこうなりたいわけじゃなかった結果

 告白されたのは卒論提出を終えた1月の終わりだった。相手は同じゼミのひとつ下の後輩で、教授に卒論を手渡したその直後に、先輩ちょっとと呼ばれて、人気のない廊下の片隅に連れ出された。
「俺、先輩のことが恋愛的な意味でずっと好きでした」
「ああ、うん」
「驚かないんですね」
「いや驚いてるけど」
 だって、なんで今? という気持ちはかなり強い。
 ただまぁ相手からの好意には気づいていたし、わざわざこんな人気がない場所に連れ出されての話ってことで、途中でもしやと思っていたのも事実だ。
「全然驚いてるように見えないですけど。てかやっぱ、知ってました? よね?」
「あー……まぁ」
 ですよね、と言いながらその場にしゃがみ込んでしまった相手は、どうやら落ち込んでいる。
 仕方がないので自分も腰を落として、うつむく相手の様子をしばらく眺めていた。
「あの……?」
 やがておずおずと顔を上げた相手が、なぜいつまでもここに居るんだと言いたげに見つめてくるから、まさか話は終わったのか? という疑問が浮かんでくる。
「で、話ってそれだけ?」
「あ、そうですね。知ってたのに知らない振りしてくれててありがとうございました」
「え、他には?」
「ないですけど」
 即答されて、マジかよと思う。
 え、好きって言って終わり? それだけ?
「あ、告白なんかしてすみませんでした……?」
「それ疑問符ついてないか?」
「いやなんか怒ってはなさそうだったから」
 怒ってます? と聞かれて、怒ってないと返したが、正直釈然としない。
「先輩……?」
 無言で相手を見つめてしまえば、居心地悪そうにしながらも心配そうな声が掛かった。
 というか普通、告白したら相手の返事を求めるものじゃないのか? もしくは告白と同時にお付き合いの打診とかするもんじゃないのか?
「いやオカシイだろ」
「え、何がですか?」
「何がって全部だ全部」
「あ、はい、すみません」
「いや待て。なんの謝罪だそれ」
「えと、好きになってすみません。ずっと知ってたのに、普通に接してくれてたんですよね? ずっと気持ち悪い思いさせてましたよね?」
「待て待て待て待て。え?」
「え?」
 こちらが戸惑えば、相手も同じように戸惑っていて、しばし沈黙がこの場を支配する。
「あー……まぁ俺も秘密にはしてないが積極的に開示してはいないというかで、つまりは知らなかったってことだよな」
「え、何をですか?」
「俺が男もイケるって事実」
「は? え?」
 本気で驚いているようだから、本当に知らなかったらしい。
「あーまじか。知らなかったからか。マジか」
 確かに、あんなあからさまな好意を寄せてくるわりに何も無いのはオカシイなと思うこともなくはなかった。どうやら、こっちから積極的にどうこうなりたいわけでもないしまぁいいか、と放置してしまったのがこの結果らしい。
「てかなんで今?」
「え、なんで?」
「なんで、告白する気になったんだろって思って」
「それは先輩が卒業するから」
「俺が卒業後地元戻るって知ってるよな?」
「はい」
「卒論出したし、ゼミに顔出すこともなくなるんだけど」
「ですね」
 こちらの言葉に即答で肯定が返るのを見ながら、なるほど、と思う。
「つまりマジで言い逃げ? ただ好きって言いたかっただけ?」
「あと確認、ですかね」
「確認?」
「ずっと知ってて知らない振りしてくれてるのかなって思ってたから。知ってて普通に接してくれてたならお礼言わないとって思って」
 言えて良かったですとようやく相手に笑顔が見えて、ちょっとイラッとしてしまう。
「なあ、俺、男もイケるって教えたとこなんだけど」
「あ、はい、ビックリしました。だから俺の気持ち知ってても平気だったんですね」
「マジで? なぁマジで?」
「えっ? えっ?」
「男もイケる相手に告白したってわかっても、それ以上先、何も求めないわけ?」
 そこまで言えば、ようやく相手も何かを察したらしい。
「いやでも先輩、もう卒業ですよね?」
「そうだな」
「ゼミにも顔出さないですよね?」
「そうだな」
「遠距離恋愛とかするタイプじゃないですよね?」
 その指摘にはグッと喉が詰まってしまったが、それでもなんとか「そうだな」と肯定を返す。
「えと、何を求めていいんですか?」
「っ……それ、は……」
 積極的にどうこうなりたい相手じゃなかったはずなのにと思いながら。
「とりあえず付き合うか」
「え?」
「卒業までの期間限定で」
「えっ!?」
 相当驚かれたが、嫌なのかと聞けば即答で嫌じゃないですと返ってきた。
 卒業後のことは卒業してから考えればいい。

 
 
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