弟は何かを企んでいる4

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「ぐぅ゛ぅ……」
 小さな唸り声に、やっぱり笑ってしまいながら。
「さすがに玄関でやる想定はないぞ」
 そう口に出しては見たものの、頭の隅では、絶対無理ってこともないかなぁなどと考えてしまう。なぜなら、体の準備を済ませた後で、一度出かけることが容易だからだ。
「一旦準備して、ちょっと散歩でも行く?」
「想定ないんじゃなかったのかよ」
「考えたら有りだった」
 ううっ、と悩むような呻くような音が聞こえて、どうやら葛藤している。てことは、弟的にも玄関先エッチは有りらしい。
 気持ちよく蕩けて喘ぎまくるのを見るのが好きそうだから、玄関先で声を押し殺しながらやるのなんて、そこまで興味ないかなとも思ったんだけど。むしろ衝動的にがっつかれるセックスとか、快感に喘ぐのを堪えるセックスで、興奮が増すのはこっちの方、という自覚はある。まぁ、たまのスパイス程度になら歓迎、ってやつだけど。
 というかこの良くわからない状況はなんだろう?
 最初は、ただいまと言ったのが嬉しかった的なハグかと思ったけど、唸られてちょっと自信がない。そして、今すぐ押し倒したい衝動を堪えている、にしては少々長すぎる気がする。
 だって、ラブホに入ったらまずは抱かれるこっちの体の準備から、というのは既に慣れきった手順だ。
 お腹の中を綺麗にしてなくたって、感じられないわけじゃないけど。でも心理的な抵抗感と言うか、抱かれている最中の安心感がけっこう違う。
 口に出して言ったこともあったような気がするし、弟もそれを理解してるから、お腹を洗うための時間を渋られることはなかったし、早くしたいなら、むしろさっさと準備してって話になるはずなんだけど。
 なんだこれ? このまま待ってたほうがいいのか? という気持ちはあるものの、弟の反応を待つのも限界だった。だって空調も効いてない玄関先だ。そろそろ暑さがキツイので移動したい。
 てか真夏に玄関エッチはやっぱ無しだな。早く空調を利かせた部屋の中、弟の匂いが染み付くベッドの上で、宣言通りにドロドロに甘やかされたい。
「準備してくるから、手、どけて?」
 背後から胸の前に回っている腕をポンポンと叩いて、開放するように促してみる。けれど。
「うう〜、こんな、つもりじゃっ」
 ぎゅっと抱きしめる腕の力が強まって、なぜかそんな泣き言が聞こえてきて首を傾げる。
「こんなつもりって?」
「こんな、家ついてすぐ盛る、みたいなのじゃなくて」
「じゃなくて?」
「まずは初めての俺の部屋、色々見て貰って、それから一緒に映画でも見ながら、お茶飲んでまったりしつつイチャイチャして、みたいな」
「え、マジで?」
 想定外過ぎるスケジュールに、あまりに驚いて声が裏返りそうだ。部屋に着いたらベッドに連れ込む気満々なんだと思ってた。だって家でヤりたいって話しか聞いてない。
「おかしいかよ」
「あー、まぁ、お前が自分のベッドで俺を抱きたいってだけで、俺と暮らしたいわけじゃないのはわかった。てか親がいるから出来なかったお家デート的なこと全般やりたいってことな」
「まぁ、そう」
 その中でも一番やりたいのが、自分のベッドで抱きたい、だってことか。
「そういうのは先にちゃんと言っとけって。まぁ、言われてても、初日は無理って言ってそうだけど」
「え、無理?」
「無理だろ」
 なんで、と問う声は不安と不満とを混ぜて揺れている。こっちとしては、むしろなんで可能だと思ったのか聞きたいくらいなんだけど。
「いやだってお前、最後にラブホ行ったの一ヶ月半前ってわかってる?」
 引越し前は弟が準備だ何だで忙しかったし、引越し後はこっちがお盆休みをもぎ取るために、仕事を前倒しで詰めて忙しかったせいだ。毎日のように顔を合わせているのにヤレない、が原動力だった部分もあるかもしれないが、最低でも月に1度は致していた関係なのに、1ヶ月半ぶりに二人きりになって、エロいことお預けでお茶なんてお互い無理に決まってる。
「え?」
「遊びに来た初日にお茶してイチャイチャしたかったなら、前日ラブホ泊まってやった流れで遊びに来ました、くらいにしないと無理だって。あと、お家デートしたいって誘われてないどころか、俺のベッドで抱きたいとか、ベッドにマーキングしてって言われて来てるんだぞ。休み前半はベッドの中で抱き潰されて、後半はお前に世話して貰いながら回復に努める、みたいになるかなって思ってたよ。てか、……」
 抱き潰してくれるわけじゃないの? と出かかった言葉を慌てて飲み込む。だってなんか、自分ばっかりがっついてるみたいで恥ずかしい。

続きました→

 
 
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