あの日の自分にもう一度7

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 ズルいという気持ちが先に膨らんでしまったけれど、あれはお前狙いと言われたに等しくて、でも、直前の何か企んでるみたいな笑みを思うと、からかわれただけって可能性も大きい。というか、本気だろうと冗談だろうと、お前狙いって言われて心臓を跳ねさせていることが一番の問題って気がする。
 更に、化粧をしてもらっていた時のドキドキまで思い出してしまって、顔が熱くなってきた。化粧をしていたら顔が赤くなってもバレないものだろうか。だといいんだけど。
「なぁ、何にそんな照れてんの? 紘汰の女装は可愛いよって、俺、最初っから言ってたと思うんだけど」
「う、るせぇ」
 思ったそばから指摘されてしまって、耐えられないと顔を背けた。女装が似合ってるだとか、女装した自分が好みの女でもおかしくないだとか、それを言われたことに照れているわけじゃない。
「もしかして、ハルちゃん狙いって言ったやつ?」
「言うなって!」
「あーやっぱそっちか。てかそれでそんな照れるとかどうなの。脈アリだったりすんの?」
「ねぇよ。つか龍則、彼女要らないんじゃないのかよ」
「ハルちゃんとお付き合いしたって彼女出来たことにならなくね?」
「彼氏なら作るっていいたいわけか?」
「いやそれもないけど」
「だいたい付き合って何すんだよ。デートする時間取れないとか言っといて」
「えーそんなの、ハルちゃん着飾って遊ぶに決まってんじゃん。それをお家デートってことにするなら、ハルちゃんとならデートも出来て一挙両得、みたいな?」
 冗談でからかっていたわけではなさそうだけれど、どうやら、女装した紘汰と恋愛したいという話でもなさそうだ。ホッとしていいのかガッカリしていいのかわからない。というか、ガッカリってなんだと、その発想にまた慌ててしまう。そんな事を考えたって言うのがやっぱり恥ずかしくて、顔の熱は引きそうになかった。
「ハルちゃん、俺とお付き合い、する?」
「しないっ!」
「断るならせめてこっち向いて、もっとマジな感じで言ってくんないと。そんなで嫌って言われても、ますます脈アリっぽく見えんぞ」
 クスクスと小さな笑いが溢れているから、これはさすがに遊ばれていると言うか、きっとからかわれているんだろう。
「ハールーちゃーん」
「呼ぶなってば」
「俺と付き合ってくれたら、俺の出資額多めにしてもいいよ、っていったらちょっとはその気になるか?」
「え?」
「服とかウィッグとか、あと化粧品も増やしたかったりするんだけど、あれこれ揃えるとなると結構な出費になりそうでさぁ」
 ちょっとこれ見てよと、携帯を正面の位置に置かれてしまって、紘汰は背けていた顔を思わず携帯に向けてしまう。そこには彩りも形状も様々なウィッグ写真が並んでいた。安いものは数千円だけれど、数万の値が付いたものもある。
「俺はこれが欲しい」
 そう言って龍則の指が示したウィッグは、確かにロングでふわふわとしたウェーブが掛かっている。色もグレーなのか銀なのか、さっき言っていた薄い髪色というのが茶や金ですらなかった事には正直少し驚いた。そして値段は少しばかり万を超えている。まぁまぁの高さだ。
「こういうのが好きなの? それとも、俺に似合いそうって話?」
「さっき長めウェーブのウィッグも合いそうって言ったろ。でもまぁ、こういうのが好きってのも事実で、だからまぁ、ちょっと高いけど、俺が多めに金だすのも当然っちゃ当然という気はしてる」
「あー……わかった、気がする」
「わかったって何が?」
「龍則がハルちゃんと付き合って何したいか」
「ああ、俺も好みの女の子を作ってみたい、だな」
 紘汰が告げるより先に、本人の口から告げられてしまった。ですよね。

続きました→

 
 
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