親切なお隣さん24

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 お茶を淹れて部屋に戻れば、神妙な顔をしてコタツで待っていたお隣さんが、ぱっと顔を上げてありがとうと笑った。
「こっちこそ、さっきはホント、ありがとうございました」
「うん。というか、俺の行動は間違ってなかった……んだよね?」
 兄弟での話し合いに思いっきり割り込んだ形になったともうんだけど、と心配されて、間違ってなかったですよと肯定する。
「もう話し合いとか言える状況じゃなかったすから」
「一応聞くけど、殴り合いみたいなことにはなってないよね?」
 普通に動けてるみたいだけど見えないところにも怪我してないよね? と確かめられて、大丈夫だと返す。
「ならいい。安心した」
 今度こそ本気で安心したのか、お隣さんから緊張が抜けていく。そこまで心配させていたのかと、なんだか少し申し訳ない。
「ちょっと派手に音鳴ってたし、その直前に怒鳴り合ってるみたいな雰囲気もあったから」
 弟の下から逃れようと、バタバタと足を振り回して藻掻いていたせいだろうか。
「何が起きてるのか心配してたんだけど、その、聞いてもいいんだよね?」
 そう促されて、こちらも覚悟を決めつつ口を開く。
「あー……その、ちょっと言いにくいんすけど、弟に襲われかけてて」
「は? えっ!? 襲っ? えっ!?」
 多分お隣さんが欠片も想定してなかった話だろう。
「な、なんでそんなことに? え、やっぱ弟くんって……」
 最後言葉を濁されたけど、聞きたいことはわかった。
「俺を好きでってのは多分ないっす」
「え? ええっ」
「けど、自分を好きでいろ、みたいな気持ちはあったのかも?」
「自分を好きでいろ……?」
 お隣さんの混乱が伝わってきて、こんなときなのになんだか少し笑えてくる。
「俺がアンタを好きで、アンタのためにって色々尽くしてるのが気に入らない。って言ったらわかります?」
「それは、まぁ。でもそれは結局、君のことが好きだからそうなるわけじゃなく?」
「いや、なんていうか、家族は自分に尽くすのが当たり前、みたいな生活してる奴なんで。というかちょっと特殊な環境で育ってると言うか」
「ああ、うん。なるほど」
 そこだけ随分あっさり納得するんだな、と思ったそばから、弟のやってる競技の名前が相手の口から漏れてきて盛大に驚く。ついでに、かなり小さな頃から大会とかで成績残してるらしいね、と経歴まで指摘されて更に驚いた。
「え、ええっ、なんで知って? てかアイツが自分で言いました?」
「ごめん。名前は聞いたから検索かけた。本名でやってるSNSとか何か引っかかるかなって思ったけど、想定外の情報が引っかかっちゃった」
 本名でやってるSNSもあったよと言われて、知ってますと返しながら、そういう知られ方もあるのかとぼんやり思う。ほんのりと胸が痛いのは、知られた結果、相手の弟への評価がどう変わるのかを考えてしまうからだろう。
「もしかして知られたくなかった?」
「あ、いや……あー……」
「ごめん。家族の話避けてるのわかってるのに、勝手に探るようなことしちゃって。ホント、ごめん」
「いやいやいや。謝らないでください。俺としては、今日見せてたアレが弟の本性っていうか、もし万が一、アンタ相手に愛想振りまきだしても、それは俺との仲を壊したいからだって知ってて貰えれば。てかその、俺よりアイツがいいとか言わないでくれれば。というか知っててそれでも俺を助けに来てくれたってだけでもう充分っていうか」
「待って待って待って」
 落ち着いて。一度口を閉じて。と促されて口を閉じれば、出口をなくした何かが胸の底からせり上がってきて、じわりと視界が霞んでいく。
 そんな滲んだ視界の中、お隣さんが慌てた様子で立ち上がるのが見える。そんなに慌てなくても、と笑ってやりたいのに、開いた口からは掠れた息しか漏れなかった。
「ゴメン。大丈夫。おれが好きになったのは君で、弟くんはなんの関係もないよ。だから大丈夫。君の凄いところも素敵なところも可愛いところもちゃんと知ってる。俺が結婚なんて単語を使ってまでずっと一緒に居たいと思った相手は君だけだし、それは今も変わってない」
 君のことが大好きだよ、と囁いてくれる腕の中は暖かくて、しがみつくみたいに抱き返してその胸に顔を押し付けた。

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親切なお隣さん23

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「う、わっ」
 鍵を開けた途端に外側からドアを引かれて、半ば引きずり出される形で廊下に出れば、お隣さんと目があった瞬間にぎゅっと抱きしめられてしまう。
 良かった、と呟くお隣さんの声は、先程までの厳しい口調とは打って変わって弱々しい。
 こちらからも一度ギュッと抱き返したけれど、でもそのまま抱きついてはいられない。だって階段を上がってくる足音が聞こえている。
「ダイジョブなんで放してください」
 トントンと背中を叩いて促せば渋々とだが開放されて、でも庇うみたいに背中側に追いやられてしまう。だけでなく、お隣さんがサッと階段へ向かっていく。
「お騒がせしてすみません。もう大丈夫なので」
 階段の下方へ向かって少し大きめの声でそう告げるのは、先程の騒ぎを聞いていたご近所さん向けでもあるんだろう。応じる声はやはり斜め下に住む老人の声だったが、弟の来訪を知らないからか、どうやら自分たちが喧嘩したと思われているらしい。
 お隣さんはそれを曖昧ながらも肯定してしまったので、珍しいなと驚かれたり、仲良くしろよと諭されたりしているのを苦笑しつつ聞いていたが、さすがにそろそろ寒さが辛い。なんせ風呂上がりで後はもう寝るだけって状態から部屋を飛び出ている。ついでに言えば、足元は裸足で靴すら履いていない。
「あの!」
 自身の身体を抱きしめるみたいにして腕を擦っていたので、振り向いたお隣さんはすぐに察してくれたようだ。
「ごめん。寒いね」
 すぐに会話を切り上げ戻ってくると、抱き寄せるように肩に腕を回し、部屋に戻ろうと促される。その先はもちろんお隣さん宅だ。
 弟とのアレコレで受けた衝撃とその後の寒さとで、やはり随分と緊張していたらしい。玄関に入ったところで、部屋の暖かさと安心感にへたり込みそうになった。
「おおっと」
 すんでのところでお隣さんに支えられてどうにか立っているけれど、でもこのままじゃ部屋には上がれない。
「ありがとうございます。もダイジョブなんで」
 お隣さんの腕から逃れて手近な壁に寄りかかりながら、それよりも足を拭くものが欲しいと訴える。早く部屋に上がりたいとも付け加えれば、わかったと急ぎ足で風呂場方向へ消えていく。
 暫くして戻ってきたときには、温かなタオルが握られていた。
「じゃあこれで足拭いて。服は? どっか汚してない?」
「服は平気、す」
「そっか。部屋、もうちょっと温めてこようか」
「いや良いっす。充分温かいんで。てか今日ってここ泊まっていいっすよね?」
「もちろん。というか何があったか聞いてもいい? それとも聞いて欲しくない感じ?」
 揉めてる気配ははっきり伝わってきたけど内容まではさすがにわからなかったから、知られたくないなら聞かなくてもいいよと、こんな時までちゃんと気を遣ってくれるから、逆に知って欲しくなる。というよりも、いい加減、自分自身も知りたいのだ。
 だってお隣さんと付き合ってるとか恋人だとか、はっきり言い切れる関係だったら。デートやセックスを経験済みだったら。
 自分でお付き合いは無理だと断ったくせにそう考えるのを止められなくて、キス以上を求めてもらえないのが切なくて、自分で自分を慰める夜が虚しくて、まんまと弟にその隙を突かれた形になってしまった。
 お隣さんを自分の家族の問題に巻き込みたくはなかったけど、弟にはかなり余計なことまで知られてしまったから、もうすでに巻き込んでしまったと認定して、今後のことを相談したいって気持ちもある。
 弟はお隣さんを貧乏人って思ってるし、嫌われたと言わせるくらいお隣さんには愛想の欠片も見せてないし、お隣さんよりも兄である自分を落とすほうが手っ取り早いみたいに考えたようだけど、今後どうするつもりかはわからない。想像がつかない。
「巻き込んですみません。けど、聞いて欲しい、す」
「こっちは出来れば聞きたいって思ってるんだから、謝らないでよ」
 話してくれるならお茶でも淹れようか、と言って玄関横に設置されている流しに移動するお隣さんを追って、自分がやりますとその作業を奪った。ついでに、部屋で待っててとお願いする。
 お湯くらい沸かせるのにと不満そうな顔をされたけれど、話すことまとめたいんで時間くだいさいとお願いすれば、仕方がないねとしぶしぶ了承して部屋に向かった。かと思ったら、すぐに戻ってきて上着を渡される。
 玄関近くの台所だろうと、お隣さんがヒートマットやらを用意してくれているのでそんなに寒くはないんだけど。でも見てるこっちが寒くなってくると言われるくらいには、布団に入る直前の薄着だったので、ありがたく借りて袖を通す。
 お隣さんはそれを見届けてから、今度こそ部屋へと引っ込んだ。

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親切なお隣さん22

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「煩っっ。つかんなデカい声で叫ばなくたっていいだろ」
 嫌そうに眉を寄せられたが、大げさなのはこちらの反応ではなく、わざわざ耳をふさぐ仕草までしている弟の方だと思う。
「いや叫ぶだろ。何言い出してんだお前」
「何って、兄貴が男に抱かれたいなら俺が抱いてやるから俺でいいだろって」
「いやいやいや。お前が言ってること、1ミリもわかんねぇから」
「あーもー面倒くせぇな。いいから俺のものになっとけよ」
 なるわけないと口を開くが、それより先に、あんなオモチャより良い思いさせてやるから、と続いた言葉に、出かけていた言葉が喉に詰まった。
「なっ、わっ、お、おまっ、えっ、おもっ??」
 混乱も相まって、何を言えば良いのかもわからない。
「何そんな驚いてんの。彼女居るとも思えないし、あれってやっぱ兄貴が自分に使う用、だろ?」
 語尾に疑問符は付いているようだが、言い方が紛れもなく断定だった。弟はもう、そう確信している。
 あれ、と言いながら弟の視線が向いた先は押し入れで、そこにはアナニーに使うアレコレが仕舞ってあった。中には、無駄遣いと思いながらも、誘惑に抗えず買ってしまったディルドもある。
 だから弟の言うところの「あれ」が何を指すかはわかったが、わかったところで混乱と動揺が治まるはずもない。というか知られたという事実に動揺は間違いなく増した。
「おま、おまっ、なんでっ」
「マジで布団これっきゃないのか確かめた」
「う、うそつけっ」
 無造作に剥き出しで置いていたとかならまだしも、ちゃんとモロモロ一式箱に入れてあるのに。わざわざそれを開けて中身を確かめなければ、あの発言は出てこない。
「なに? 知られたくなかった?」
「当たり前、だっ」
「顔真っ赤なの、恥ずかしいから? それとも惨めなの?」
 泣きそうという指摘と、弟のからかうみたいなニヤけた顔に、鼻の奥がツンと痛んだ。じわっと視界が滲んでいく。
「抱いて貰えなくて一人寂しくオモチャ嵌めてたんだもんなぁ」
 恥ずかしいし惨めだよなぁとしみじみ言われて、胸が苦しい。
 一時的にスッキリはするけど、抱いて貰えないからこんな真似をしているという事実は惨めで、オナニーにアナルを使うのが普通じゃないこともわかっている。だからそんなこと、しみじみと指摘しないで欲しかった。
「いう、なっ」
「だから俺にしなって。ちゃんと優しくしてやるし、気持ちよくもしてやるから」
 そっと目元を拭っていく指先は確かに優しかったけど。
「ぜってぇ無理。ヤダ。お断り、だっ」
 その手を振り払って身を捩る。どうにか弟の下から抜け出せないかと藻掻く。しかしあっさり両手首を掴まれて、仰向けに押さえつけられてしまった。
 覆いかぶさるように見下ろしてくる弟は、呆れと苛立ちを混ぜたような顔をしている。
「はぁ、もう、ホント面倒くせぇな」
 優しくしてやるっつったのに断ったの兄貴だからな、なんて宣言と共に、ガブリと口に噛みつかれた。勢いほど衝撃も痛みもなかったけれど、少なくとも心情的には、紛れもなく噛みつかれている。
「んーっ、んんっ、んうっ」
 唇をしっかり引き結んで弟の舌の侵入を拒みながら、押さえられた腕ごと身をゆすり、バタバタと足を動かし抗う。
「ちっ、もったいぶってないで口開けろって」
 小さな舌打ちと共に促されても従うはずがない。しかし、更にしっかり口を閉じて強気で睨み返すくらいしか出来なかった。
「ちっ」
 弟は再度舌打ちしたあと、掴んでいた両手首を頭の上で一纏めにし、空いた片手で顎を掴んでくる。
 強引に口を開けさせる気だとわかって、必死に首を捩って逃れようとしたその時。
 ドンドンドンと激しく玄関ドアを叩かれて、弟の手から力が緩んだ。
「おいっ、開けろっ! 開けないと警察呼ぶことになるぞ」
 外から聞こえてくるのは間違いなくお隣さんの声で、でもいつになく口調が厳しいと言うか、こんなに声を荒げているのは初めてかも知れない。
 思わず二人して玄関を見つめてしまったが、激しくドアを叩き続ける合間に、開けろ開けろとお隣さんが訴え続けている。
「おい、退け。このままだとマジに警察来るぞ。つか早く止めないとご近所さんが集まってくるぞ」
 まぁ本当にここまで来るのは階下の老人くらいだろうけれど、お隣さんが呼ぶ前に、ご近所経由で警察が呼ばれてしまう可能性だってある。
 弟もさすがに諦めたらしい。溜め息一つ落としたあと、やっと腰の上から退いてくれたので、急いで玄関に駆けつけて鍵を開けた。

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親切なお隣さん21

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「俺の弟ってことで、警戒心ゼロで受け入れたんだろな、ってのは想像がつく」
 ちょっと難ありの弟がいる、という話はチラッとした事があるけれど、どんな弟で何を懸念してるかを詳しく語ってはいない。弟にお隣さん取られるのは嫌だ的なことも言ったけど、どこまで本気にしてたかは謎だし、当たり前だけどそんなことは起こらないと否定的だった。
 家族とのゴタゴタに巻き込みたくないって理由でお隣さんとのお付き合いを拒否ったのだから、お隣さん的には、ここで弟相手に上手く立ち回れるところを見せたかった。なんて思惑もあっただろうか。
 いやでもやっぱりただただ純粋に、寒いからうちで待てばいいよ、という親切心だけって気もする。状況的に、助けてあげたい困ってる子ども認定された可能性は高い。
「俺のこと、弟としか知らない感じなのに、馴れ馴れしすぎて意味わかんねぇっつうか、こっちは警戒心マックスだったつうの。つうか兄貴とやれんなら、警戒してて大正解だったってことじゃねぇの?」
 そこで一度言葉を区切った弟は、何かを思案し始めたかと思うと、やがてボソリと不穏でしかない言葉を漏らす。
「いやでもいっそ何かあったら兄貴との仲壊せてたのか?」
「まず、ナチュラルに仲壊そうって考えるのをやめろ。あとやってないし、そもそも無節操に手ぇだすような人でもないから」
「は? じゃあなんで……」
「なんで?」
「や、なんでもない」
 そう言ってまた何か考え込んでいる。
「で? マジに俺の顔見に来たってのがお前の目的?」
 明日おとなしく帰んならもうそれでいいけど、と言えば、今度はこちらをジッと見つめてくる。でもまだ何かを考え続けているようで、その口が開くことはなかった。
「なんだよ。てかこれ以上話すことないなら寝るぞ」
「なぁ、兄貴って結局アイツとどういう関係?」
「どうって……」
「付き合ってんの?」
 実は片思い? と聞かれて、キスしてんのに? と言い返したものの、付き合ってるわけじゃないのもまた事実だ。
「どうみても兄貴がねだってして貰ってたキスじゃん」
 まぁそれも事実だけど。好きとは言われたけど、結婚なんて話まで出たけど。でも口へのキスを最初にねだったのは自分で、それが習慣化しただけで、相手からキス以上のことを求められたことはない。
「ほら言い返せない」
「うるせぇ。ちゃんと、好きだとは言われてるよ」
「好きっていうだけ? あ、キスもか。で、それだけ?」
 デートしたりセックスしたりは? という追求に、してると返せないのが悔しくて、ついでになんだか少し悲しい。
 キュッと唇を噛み締めながら弟を睨みつければ、やっぱないんじゃんという呆れたような声を出しつつ、どこか嬉しげな顔を近づけてくる。悔しがる顔を間近に見たいんだろうと思って、顔を反らしながら仰け反ったのは失敗だった。
 顔近すぎって押しのけるのが正解だったんだろうけれど、弟相手に手なんか出せない生活が身に染み付いている。
「ちょっ、おいっ、いい加減に、痛っ」
 ぐいぐい寄ってくる弟を避けるためにどんどんと重心が後ろに傾いて、とうとう仰向けに倒れてしまった。倒れた先に布団はなく、畳の上に頭を打ってしまって痛い。
「兄貴さ、やっぱ帰っておいでよ。卒業したらでいいから」
 あと1年くらいなら待ってやるよと、こっちで就職するつもりだと言ったばかりだと言うのに、弟はどこまでも尊大だ。
「なんだいきなり。帰らないって言ってんだろ」
「隣の貧乏人に尽くしたところで何になんの? あんな男に尽くすくらいなら、俺に尽くしてくれてもいいじゃん」
「絶対ヤダ。実家戻ってお前のサポートするくらいなら、お隣さんに尽くす方が何倍もマシだっつうの。つかいい加減そこ退けよ」
 何を考えているのかわからないが、ひっくり返ったその隙に弟に腰を跨がれてしまった。なので現状、身が起こせずにいる。というか強引に抜け出ようとしたときに、弟がどういう行動に出るのかさっぱりわからなくて動けない。
「ヤダ。俺にしろよ。兄貴のこと、俺が抱いてやるからさ」
「はぁあああ????」
 そんな爆弾発言を投下されたら、叫ばずにはいられなかった。

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親切なお隣さん20

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 思わず額を押さえてうなだれてしまったが、弟の視線が刺さって顔を上げる。
「なんだよ」
「別に……つか兄貴、戻ってくるんだよな?」
「昼間父さんにも言ったけど、学費の目処は立ってる」
「それは俺もアイツに聞いた。奨学金? 借りれるんだろ」
 どうやら弟も、お隣さん経由で聞いていたらしい。
「じゃあわかってるだろ。戻らねぇよ」
「すぐにって話じゃなくて。卒業後の話」
「いや、戻るつもり無いけど」
「なんで?」
「なんで、ってこっちで就職したいから」
 流れ的に、実家に戻りたくないって気づけよと思いつつも、そこに言及されてしまうと、最終的には「お前に稼いだ金を吸われる生活が嫌だ」って話になってしまいそうで一応避けた。
 どうせ、実家の金銭面の実情を全く認識してない弟に言っても信じないだろうし。
 惜しみなく金を注ぎ、応援に駆けつけ、外から人を雇って家の中の掃除を頼み、自炊せずに通販を多用している親が、実は金に困っている。なんて言っても、信じられないのは当然だとは思うけども。
 ただそんな言い方を選んだせいで、ここに拘りがあると思われてしまったのは失敗だった。いやまぁ、今となってはそっちの比重のが大きい気もするし、むしろあの発言は、とっさに本音が出ただけだったのかも知れない。
「まさかアイツのせいじゃないだろうな」
「アイツのせいってなんだよ」
「金のために媚びてるんじゃなくて、惚れてるとか言わないよな?」
「好きじゃなきゃ続けないだろこんなこと。てかキスしてんの見ただろ。むしろあれ見てまだ、金のために媚びてるって発想になるお前のがヤバくない?」
 お前好きでもないやつとキスすんの? と聞いたら、ひときわキツく睨まれてしまう。
「マジか」
 思わずそうこぼれてしまったのは、弟には好きでもない相手とキスした経験があるのだと、気づいてしまったせいだ。
「まぁお前、無駄に愛想いいもんな」
「うるせぇ、兄貴に何がわかるってんだよ」
「いや何もわかんないけど。でもわかる必要もないっつうか、お前がそれでいいなら好きにすればとしか」
 なんせ自分だってパパ活経験者だ。好きでもない、それどころか初対面の相手と、キス以上のことだってしている。
 だからこれは、自分ならこういう反応が有り難い、という意味合いが強かった。わかってくれる必要はないし、どうこう言われたくもない。
「あ、でも、一応聞いとくか。お前のその選択に、俺は関係してないよな?」
「なんだそれ」
「お前が俺のために身を張るとか絶対ないって思うから、聞くだけ無駄って気もするけど。でももし、キスさせなきゃお前の兄貴ボコボコにしてやる、とか言われて仕方なく応じた、とかならお前が俺に向かって怒るのも理解できるなと」
 俺が一切関係ないのに理解しろって怒ってんならただの八つ当たりだろ、と指摘してやれば、弟は嫌そうに口を噤んだ。
「兄貴、変わったよな。それもアイツのせい? アイツに惚れたから、俺のことどうでも良くなった?」
「俺がお前に強気であれこれ言えるのは、ここが実家じゃないからだよ。家じゃお前と言い合いになった段階で、どんな理由だろうと俺が悪者じゃん。まぁそれ言ったら、お隣さんがお前の味方につかなかったから、ってのは確かに大きいな」
 ついでに、ずっと気になっていた、なぜお隣さんに愛想を振りまかなかったかを聞いてみた。
「お前なら、いつもみたいに愛想振りまいて、俺が帰ってくる前にお隣さんを自分に夢中にさせてるかと思ってた」
「俺をただ遊びに来た弟だと思ってるだけの貧乏人に、愛想振りまく理由ないだろ。まさか兄貴と出来てるとか思ってなかったし」
 出来てはいない。けど、付き合ってるわけじゃないとか、恋人じゃないとか、言ったら面倒なことになりそうで、そこはあえてスルーした。
「俺の帰りを寒い中待たずに済んだのに、有り難いとか思わなかったの?」
「むしろあの距離感、キモい以外ある?」
 兄貴と付き合ってるってわかったあとでも結構無理、とまで続いた言葉に、思わず苦笑が漏れた。
「あー……」
 出会った最初、相手に向かって「アンタ頭大丈夫?」と繰り返し言った記憶がよみがえる。

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親切なお隣さん19

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 弟が風呂から出たあとは、こちらも急いで風呂を使う。部屋に入ってくるなり何か言いたげにしていた弟のことは、風呂は連続ですぐ使わないと光熱費が勿体ない、という言葉で黙らせた。
 どうせ一組しかない布団に気づいたせいだろう。そしてその件はこちらが風呂に入っている間に、弟の中で何かしら折り合いをつけたらしい。
 部屋に戻っても、一組しかない布団については特に言及されなかった。
「一応言っておくと、布団はそれしかないから」
「見りゃわかる」
 布団の真ん中に胡座をかいて座る弟は、手の中のスマホから視線を上げもしない。それはこちらが布団の端に腰を下ろしても変わらなかった。
「で、お前がここ来た要件ってなに? まさか祖母ちゃんとこ顔出さなかったから俺の顔見に来た、なんてことは言わないよな?」
 弟はスマホを見つめっぱなしで返答がない。小さくため息を吐きながら、ホント何しに来たんだよ、と思う。
「話すことないなら俺は寝るし、寝る時はエアコンも切るからな。起きてたきゃ好きにしていいけど、電気も消すから」
 そこまで言ったらようやく弟が顔を上げてこちらを見たが、その顔は不機嫌そのものだ。まぁそんな顔をされたって、親元から離れた今はもう、弟の機嫌を取ろうなんて考えもしないけれど。
「それもある。っつったら兄貴的にはどう思うの?」
「は? それ?」
「兄貴の顔見に来た」
「本気で言ってんなら、元気にやってんのわかって満足したならさっさと帰ってくれ、だな」
「それだけ?」
「それだけってなんだよ」
「会いに来てくれて嬉しい、みたいなの」
「あるわけないだろ」
 思わず即答してしまったが、ますます機嫌が悪くなるかと思った弟は、何やら考え込んでいる。
「つまり、帰省費用が出せないからって理由で帰らなかったわけじゃない、ってこと?」
「出せなくはないけど、わざわざ金かけて帰る理由がない」
「理由……って祖父さん?」
 祖父さん以外には会いたくないから帰ってこなかったのかと聞かれて、そうだよと返した。
「祖父さん俺が金ないのわかってたし、ちゃんと足代くれてたからな。それに俺を大学に通わせてくれてたの祖父さんなんだから、顔見せにおいでって呼ばれたら行くに決まってんだろ」
 ちなみに正月だけじゃなく、盆にも祖父宅には顔を出していた。祖父の夏休みに合わせて呼ばれていたからだ。
「じゃあ祖母ちゃんとか父さんが帰ってこいってお金出したら帰って来る?」
「いや多分断るかな。っつうか俺に金なんか出さないと思う」
 祖父に会いに行くときは当然祖父宅に泊まらせてもらっていたし、家事なんかは率先して手伝っていたけれど、祖母はやはり少し迷惑そうにしていた。祖父が孫たちのために出した金額の詳細はわからないけど、自分の学費分だけだってそれなりの金額だし、想像が当たってて弟へも援助してたなら、祖母が自分の大学進学にいい顔をしないのも納得は行く。
 自分が素直に就職していたなら、祖父宅はもっと豊かな生活が出来るはずだったのだから。
「別に俺に会いたいとも思ってないだろ。だからお前がマジに俺に会いに来たって言うなら、嬉しいってより意外でしかないな。お前も俺に会いたいなんて思わないと思ってた。つうか今もそう思ってるけど」
「父さんは兄貴が帰ってこないの、結構不満そうにしてるけど。早く大学なんか辞めて帰ってくればいいのにってしょっちゅう言ってるし、今日も兄貴が来てないの知って怒ってたし」
「それ、俺に会いたいわけじゃないだろ」
「なんで? 兄貴と会えると思ってたのに会えなかったから腹立ってんだろ?」
「今日会えなくて腹立ったのは、俺にさっさと大学辞めて帰ってこいって話をするつもりだったから。俺に帰ってきて欲しいのは、就職した俺の給料目当て。それだけだよ」
「そんなことないだろ。まぁ、母さんが兄貴に戻ってきて欲しいのは、家事頼みたいからっぽいけど。つか母さん、兄貴より家事下手じゃね?」
「お前につきっきりであまり家事やってこなかったせいだろ。あんなの慣れなんだよ」
「じゃあ外注してたらいつまでも上手くならないじゃん」
「外注?」
「兄貴大学入ってから、時々掃除する人頼んでるけど。あとコンビニ弁当は出されないけど、あんま料理もしてないっぽいっつうか、通販? とかでなんか色々買ってる」
 最初は当たりハズレでかかったけど最近はそれなり、なんて言っているけれど、それは弟の反応を見て買う商品を絞ったってだけだろう。弟がそれなりに美味いと思うような商品が、どれくらいの価格なのか想像もつかない。
「まじかよ……」
 どこにそんな金がと思ってしまって、頭が痛くなりそうだ。

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