あの日の自分にもう一度

 だってしこたま酔っていた。お前は絶対イケるとおだてられて、某お店のコスプレコーナーになだれ込み、その場で店員巻き込んで一式着替えて化粧までして写真を撮りまくった。新たな自分が誕生した瞬間だった。
 ノリノリで女装したのは自分を含めて数人いたのだが、着用した服や化粧品類は全員で割り勘だったから、そこまで懐が傷んだわけじゃない。しかも自分が着た服となぜか使った化粧品全てが譲られたので、むしろ出した金以上のものを得てしまった。
 そして今、全く酔っていない状態で、服と化粧品一式を前に延々と思案している。酔ってもないのにこれを着て化粧をする、というハードルはかなり高いが、でも、だって。
 携帯の中に残されたあの日の自分は、自分で言うのも何だが、なかなかに可愛かった。しかもめちゃくちゃ笑顔だ。
 あの日の興奮とあの妙な快感を、できればもう一度味わいたい。
「あ、飲めばいいのか」
 ぽんと手を打って、財布を手にコンビニへ向かった。そうだ。シラフでスカートを履くにはあまりにハードルが高いが、あの日のように酔ってしまえば、そのハードルはグッと下がる。
「飲み会でもあんの?」
 ウキウキで買い物かごにアルコール飲料や軽いツマミ類を次々と放り込んでいたら、ふいに声をかけられ振り返る。
「よっ、奇遇」
 片手を上げて見せたのはあの日一緒に飲んでいた一人で、こいつは女装はしなかったが、嬉々として人の顔に化粧品を塗りたくってくれた。
「どうした?」
 相手を見つめたまま口を開かない自分に、相手が訝しがる。
「あー……お前、今日、暇?」
「なに? 俺も参加していいやつ?」
 行く行くとさっそく乗り気な相手に、曖昧に頷いてレジへと向かった。
「幾ら出せばいい?」
「いや、お前は出さなくていいよ」
「いやさすがにそれはダメだろ」
「いいって。てかお前に頼みたいこと、あんだよね」
「え? 何を?」
「それは帰ってから」
「え、なにそれ怖いんだけど」
 どんな飲み会なのかと聞かれても、この場で正直に話すのは絶対に無理だ。
「じゃ止めとく? この酒飲むなら、途中では帰さないけど」
「ますます怪しいな。危険はないんだろうな?」
「お前にはないな」
「は? じゃあお前は?」
「どうかなぁ……」
 他人を巻き込もうとしている時点で、危険はなくはないだろう。あの日の事が忘れられなくて、一人で女装しようとしてたと、この男に知られることになるのだから。
 あれは酔った勢いのお遊びだ。皆でギャイギャイ騒ぎながらやるから許されるのであって、ドン引きされた上で仲間内に言いふらされたら、自分の今後の立場がどうなるかはわからない。
 でも化粧は多分重要だ。でもって絶対、自分よりもこの男の方が腕がいい。
「行く。参加する」
 勢いよく参加表明した相手に、思わずフフッと笑ってしまう。
「お前、優しいなぁ」
「いやだって、何か危険があるかも知れないとこに、お前参加させて知らんぷりはないだろ」
「まぁ、お前が心配するような危険ではないんだけどな」
 肝心な部分をのらりくらりと躱しながら、相手のことを自宅へ誘導する。自宅も飲み会会場になったことが有るので、相手もどこへ行くのかとは聞いてこなかった。
「はい、上がって」
「おじゃましま……って、なぁ、ほんとに飲み会? 何時から? まだ誰も来てないの?」
 玄関先に靴が溢れてないのと、静かすぎる室内に、相手がまたしても不審げな声を出す。
「あー、うん、飲み会、ではない」
「は?」
「一人飲みのつもりだった」
「この量を?」
「まぁ全部飲むかはともかくとして、理性ぶっちぎれるほど酔いたくてさ」
「何があったんだよ。え、俺はお前の見張り役かなんかで呼ばれたの?」
 救急車呼ぶのとかやだよと言うので、さすがにそこまで酔う気はないよと否定する。
「お前に頼みたいのはさぁ……」
 こっちこっちと寝室のドアを開けて、ベッドの上に無造作に広げられたままの服と化粧品を見せてみる。
「これって」
「そう。あの日のやつ」
「え、で、これが何?」
「化粧、して欲しいんだよ。お前に。この前みたいに」
「それは、まぁ別にいいけど」
「あ、いいんだ」
 引かれるかと思ったと言って安堵の息を吐けば、いやだって俺もかなり楽しんだしと返されて、ますます安心した。
「え、つまり、もっかい理性ぶっちぎれるほど酔って女装するって言ってんの?」
「そう」
「なんで?」
「なんで、って、いやだから、俺も楽しかったから……」
「じゃなくて、酔う必要ってあんの? むしろ酒なんか飲まないほうが出来上がりのレベル、絶対上がるだろ?」
「酔ってもないのに女装とかハードル高ぇよ」
「えー、あんだけ証拠写真残して、今更だって」
 女装すんなら飲む前にやろうぜという誘いに、気持ちがぐらりと揺れる。
「前回よりも絶対に可愛くしてやるから」
 そんな言葉に負けてシラフのまま着替えてしまえば、確かに前回以上の美少女が出来上がってしまった上に、何故か相手の方が、次はもっと衣装をどうのと言って上機嫌でノリノリだ。
「いやお前、次はって」
「え、またやるんだろ?」
 もうしないとは言えなかったし、このメイクの腕を手放したくないなと思ってしまったのも事実で、気づけばメイク係に指名しろよの言葉にも頷いていた。

有坂レイさん、今日の単語です ・誕生・スカート・アルコール で何か作ってください
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理解できない54(終)

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 急いだから毎晩のように時間を掛けて慣らし広げていたけれど、今日もこれからたっぷり抱いて貰えそうだし、だとしたらそこまで熱心に慣らし行為を続けなくたって大丈夫だ。
 しかしまたしても、相手の返答はこちらの想像のはるか上だった。
「もっと広い物件に引っ越しは必要だろうけど、お前さえ良ければ、このままずっと」
「は?」
「俺が家出る前に、お前を一緒に連れて行く可能性があったことや、連れて出る理由がないって言ったこと、覚えてるか?」
「うん」
 確かに言われたのを覚えている。独り立ちしたいのについて行きたいと言うのは矛盾していると言われて、その通りなのに辛かった。
「もともと、お前と恋人になれたら、実家出て二人で暮らしたいって思ってた」
「え、でも、俺の自立は? 一人暮らしの練習兼ねて、家事とか仕込まれてたんだよね?」
「俺と暮らすのにも家事スキルは必要だから仕込んでた。それと、保護者代わりの俺にくっついて家を出るのと、恋人として俺と暮らすのは別物だと思ってるよ。一人暮らし経験があったって、学生が親掛かりで生活してるのを自立とは呼ばないし、実家暮らしだった奴が結婚を機に家を出る、みたいなのだって立派な自立だろ」
「そ、そっか……」
「一緒に暮らしてくれるか?」
「う、うん。もちろん」
 嬉しいと笑えば、相手も良かったと言って笑う。
「あ、でも」
「どうした?」
「おじさんとかおばさんに、どう説明するの?」
「説明なら済んでる。一緒に暮らして問題なけりゃ、広いとこ引っ越すって言ってある」
「あ、そうなんだ……」
 自分が知らないところで、自分に関する話が色々とされているのだろう事は知っていたけれど。
「今一緒に暮らしてるの、一人暮らしの練習させるって言ってたはずだから、そんな話になってると思わなかった」
「あー、まぁ、あまり俺の方の事情は話さないでくれって言ってあったからな」
「そっちの事情って?」
「色々有るけど、直近だと、俺と暮らすためにって気を遣って俺に合わせた生活しそうだったから、上手く行ったらそのまま暮らすつもりなのは隠してもらった」
「色々って、他は?」
「他は……そうだな、お前と恋人になれたら実家出て二人で暮らしたいと思ってた事とか?」
「待って。え、待って。恋人になったら、って、俺達が恋人になったこと、言ってるの?」
「言ってる。というか俺の気持ちはお前を引き取りたいって話した時から知ってるよ。だから俺の恋愛感情も、こっちの事情の一つだな」
「まじでっ!?」
「マジで」
 驚きはしたが、頭のどこかで納得もしていた。恋人って関係になってから先、ずっと寄り付かなかった実家に頻繁に戻ってきた上に、こっちの部屋で長時間二人きりで過ごしていたのを、何も言われなかった。
 アフターケア的なものとして認識されているのかと思っていたが、正しく恋人という認識をされていたらしい。まさかこれも何か彼の事情絡みで、知ってるって隠されてたんだろうか。
 恋人になってからも、おじさんやおばさんの態度が何か変わったようには思わなかったし、知っててあの態度だったの!? という新たな驚きが湧いてしまう。しかも息子の恋愛感情を知ってたなら、やっと成就したって事なのに。てかおじさんもおばさんも、この関係をどう思っているんだろう。
 彼は当然知ってるだろうけど、聞いたらこれも教えてくれるんだろうか。これもそっちの事情の一部だったりするんだろうか。
「お前の健全な成長が第一で、お前の意思を尊重するとか、気持ちを意図的に自分に向けさせないとか、高校卒業前のお前に手を出さないとか、俺自身の意思なのはもちろんだけど、お前を引き取る上での親からの条件でもあったんだ」
「なにそれ初耳。てかえー、ええー……イメージ変わる」
「親の? 俺の?」
「どっちも、だよ」
 えー、ええー、と何度も戸惑いの声を上げてしまえば、相手は知りたきゃ全部話すよと言って、額にチュッとキスを落とす。
「さすがにもう、知られて困ること多分ないし」
「前はあったの?」
「あったよ。知ったらお前の気持ちがどう揺れるかわからない話は出来ないだろ」
「知ったら気持ちが揺らぎそうな話なら、今なら聞いても揺れない、とは限らないんじゃ?」
「お前の気持ちが俺に向かって育ちきったと思うから、もういいよ、って話。ただまぁ、時間かかりそうだから、取り敢えず起きて朝飯食おう」
「でも朝ご飯食べたらセックス……」
「食べながら、セックスしながら、セックス終わってからのどれかでいいだろ。まぁ食べながら話してそのままセックスになだれ込んで、お前が感じすぎて話できない状態になったら一旦中断して、終わったら話の続き。ってなりそうだけど」
 どうやら、セックスを先延ばしにして話をする気はないようだけれど、こちらが知りたいことを全部聞くには相当時間が掛かるとも思われているようだ。そしてそれは多分当たっている。さっきチラッと聞いた話だけでも、新たな驚きや疑問が次々と湧いて出たのだから。
 じゃあそれでと了承を告げて、まずは一緒に起き上がってベッドを降りた。

<終>

視点の主の気持ちを育てるのに苦労して随分と長々書いてしまいましたが、最後までお付き合いどうもありがとうございました。

 
 
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理解できない53

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 彼に掴まれていた手は開放されて、彼が動くのに合わせて腰に回していた腕は外れてしまった。けれど代わりとばかりに、今度は相手の腕が腰に回ってきて抱き寄せられる。
「好きは偉大だって、俺も思ったよ」
「え、理由は?」
 思わず聞き返しながら、言わないとか教えないとか返ってくるのを覚悟したのに、相手はそんな事は言わなかった。それどころか、ニヤリと笑ってみせるから、むしろ相手はその理由を教えたいのかも知れない。
「好きな子が、好きって思ってくれてるのがわかるセックスが、めちゃくちゃ最高だったから」
 待ったかいがあったよと、嬉しげに笑まれてなんだか少し恥ずかしい。酷いセックスをしたと思ってもいるし、またしても昨夜の痴態があれこれと蘇ってしまって、羞恥はじわじわと募っていった。
「あんな酷いセックスすんの、初めてだったんだけど……」
 フイッと視線を逸らして、悔し紛れに言ってしまった言葉も、相手を苦笑させただけだった。
「それ、その酷いセックスが、嫌だったとか、もうしないとか、そういう話じゃないんだろ?」
「うん。あのさ、」
「ん、なに?」
「その、あんな幸せなセックスも、初めてだった」
 素直に良かったって言うだけが、なぜか難しい。でも、デレッと緩んだ嬉しげな顔を見れば、ちゃんと言えてよかったとも思う。
「そっかそっか。じゃ、またしような」
「また、って今夜も?」
 明日は当然休みだし、本来なら今日こそが抱かれるだろう日だったのだ。次回が来週末までお預け、なんてことはさすがにないと思いたい。しかし相手の返答は、こちらの想像のさらに上を行っていた。
「いや、朝飯食った後」
「えっ、早い」
「嫌? そういや体調は? どっか痛いとか気持ち悪いとかあるか?」
 無理させるつもりはないから素直に言っていいと続いた言葉に、体調的な問題は何もないと返す。
「ちょっとビックリしただけ。むしろ夜よりありがたいかも」
「なんで?」
「一日食べられないより、いいかなって。あ、でも、更に今夜もするかもか……」
「待て待て待て。朝も昼も夜も、お前も一緒に食うんだよ」
 試させてって言ったろと言われて、昨夜の会話を思い出す。そういや、恋人同士のセックスに食事制限が必要なのか試したいと言われて、今日抱かれるつもりでいたのを早めて、昨夜抱かれたんだった。
「試した結果、食事制限必要なしなの?」
「確定ではないけど、特に汚れることもなかったし、お前があれだけ感じられて、今も体調的な問題がないってなら、必要ないんじゃないかって気持ちは強いな。ただ、夕飯抜いた状態でしたから、朝飯食った状態でも試したい、ってのはある」
「ああ、試させてっての、まだ続いてるのか」
「そう。もしちゃんと食べた状態だとお腹苦しいとか、セックス集中できないとか、感じられないとか、そういうのあるなら考えないとだろ」
「考えるって何を?」
「平日の夜にムラっときた時、そのままお前を抱いていいか、抜きあうだけに留めるかどうか?」
「あー……ああー……そういう話か」
 恋人とイチャイチャしてたら、そのまま抱きたいとか抱かれたいとか、思ってしまうことはきっとある。日付と時間を指定されて、それに合わせてしっかり準備しておくセックスが当たり前だったから、恋人同士って部分が大事だと言われてもわからなかった。
 そうか。恋人同士なら、そうやってセックスまでする場合も、本当に起こるのか。突然このまま抱きたいと言われても断らざるを得ない場合はあると思っていたし、それに応じるなら常に抱かれても平気な体を用意しておかなきゃならないし、相手もそれがわかっているから、言いたくても言えずに居る可能性を考えたりもしていたけれど、今後はいきなり今日は抱きたいって言われる事があるのかも知れない。
 そして自分だって、特に問題がないってわかってれば、安心して気持ちのままにそれを受け入れられる。いつ抱きたいって言われてもいいように体を準備しておかなくていいのだから、相手が心配するこちらの負担は確実に減る。
「そう。そういう話」
「てか問題なければ平日の夜にも抱いてくれるかもなの? って、俺、いつまでここで暮らすの?」
 二度目のセックスが無事に済んだら、自宅へ戻されるんだと思っていた。そしてまた、週末にここへ通うことになるんだろうと思っていた。

続きました→

 
 
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理解できない52

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 感じすぎた汚い喘ぎ声がみっともないだとか、相手にこそ感じて欲しいだとか、そういう部分を本当に気にしなくていいなら、弱いとこばっかり責められるのだって、ただただひたすら気持ちがいい。
「ぁ゛っ、ああ゛っ、い゛ぃっ、ぎもち゛ぃっ」
 ヤダヤダ言う代わりに、気持ちがいいのだと伝わるように、なるべくイイと口に出すようにしてみたけれど、時々やっぱり不安になる。なんとも思っていない相手なら、どれだけ酷い姿を見せようと多分きっと気にならないのに、相手が彼だと、本当にこんな姿を見せてていいんだろうかと思ってしまう。
 はっきりと、可愛いとも、愛しいとも、もっと見たいとも、言われているのに。以前の自分なら、張り切って喘ぎまくった気がするのに。
「ん゛、んん゛っ」
「大丈夫。可愛いよ。お前がきもちぃと、俺も嬉しいんだから」
 躊躇って耐えるように口を閉じてしまえば、すぐにそうやって甘やかな声が不安を拭いに来る。大丈夫だと繰り返してくれる。
 縋るように見つめてしまう相手の顔は甘やかな声に違わず柔らかで、幸せそうで、そしてどこか楽しげだった。繰り返してくれる言葉が嘘じゃないことも本気だってことも伝わってくるから、ホッとして、嬉しくて、結局また泣いてしまうの繰り返しだ。
 そうやって泣いて喘いで甘やかされてを繰り返しながら、何度か追い詰められるまま絶頂した。ここ一週間は毎晩射精していたし、最後の一回なんて絶対、精子がちゃんと出てなかった気がする。
 相手も、一回で終わるつもりだったんだけどと言いながら、結局一度ゴムを替えて二回イッたし、終えた時はかなりクタクタだった。お尻を慣らされながら気持ちよくイッて後は寝るだけ、みたいな状態からのスタートだったのも大きいかも知れない。更に言うなら、余韻を堪能するみたいに相手が抱きしめてくれているのも、やたらと眠気を誘う。
「眠いなら寝ちゃっていいぞ」
 髪を梳くように頭を優しく撫でられながらそんなことを言われてしまえば、意識はあっという間に眠りに落ちた。


 次に意識がはっきりしたのはしっかり朝になってからだが、さすがに相手の腕の中での目覚めとはならなかった。とはいえ、狭いベッドでくっついて寝ていたのは確かなようで、背中に相手の気配が有る。
 もぞっと寝返りを打てば、見えたのは相手の背中だった。どうやら背中合わせに寝ていたらしい。
 起きちゃうかな? と思いながらもそっとその背に身を寄せる。広い背中に額を押し当て、方腕だけ腰に回して抱きしめる。
「ん……」
 相手が身動ぐのに思わず息を詰めてしまったが、そのまま起きてしまうことはなかったようだ。
 そろりと息を吐きだして、目を閉じる。そうして昨夜へ思いを馳せた。
 あんなに酷いセックスは初めてだったと思うのに、あんなに幸せなセックスも初めてだったなと思う。
「好き、って偉大だ」
 呟いて、はぁあと大きく息を吐きだせば、目の前の背中が小さく震えた。ギクッとして、慌てて腰から外そうとした手は、それより先に相手の手に掴まれてしまう。
「お、起きてたの。というか、起こして、ゴメン」
「いや。いいよ」
 返された声は、笑いをこらえているのが丸わかりだった。
「笑わないでよっ」
「仕方ないだろ。幸せだと、こぼれてくるもんなんだって」
「嘘だっ」
「嘘じゃないって。朝っぱらから可愛すぎんだって。やってることが」
「子供っぽいってバカにしてる」
「してません。で、好きが偉大だって思った理由とか、聞きたいんだけど」
「言わない」
「笑って悪かったよ。でも、随分可愛いこと言ってんな、って思っただけなのは本当だからな」
「でも教えない」
 ただの意地で言い張れば、しょうがないなぁと言いながら、相手が寝返りを打ってくる。

続きました→

 
 
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理解できない51

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 ちゅっちゅとまた顔のあちこちにキスが落ちて、その合間にまた謝られてしまい、なんだかソワソワする。だって痛いことや苦しいことを強要されたわけじゃないし、相手のせいで泣いてるわけでもない。
 ヤダヤダ言いながら泣いていたら、相手を責めるみたいになるのはわかっている。わけのわからない理由だったり、上手く行かない情けなさだったりで泣いてるこっちこそ、謝るべきだと思うのに。
「ほんとうに、」
「待って」
 再度ごめんと続きそうな言葉を聞きたくなくて止めてしまった。
「あやまること、されて、ない」
「いや、したよ」
「してないっ」
 譲らない気持ちでキツめに言葉を吐けば、相手も譲る気がないのか、したんだよと繰り返されたけれど、でもその声は随分と弱気だった。というよりも、申し訳無さが伝わってくるような声音だった。
「じゃあ、何、したの」
「さっき、無理やり笑おうとしたろ。あんな顔、させるつもりなかったんだよ」
「上手く笑えなかったこと?」
 あからさまに相手の動きが変わったのだから、あれが原因と言われればわからなくもない。でもあれだって結局、上手く笑えなくてごめんなさいって、こっちが謝るべき部分な気がするんだけど。
「違う。笑おうとしたこと」
 ヤダヤダ言いながら泣いてたらダメだって思ったんだよな、という確認に、まぁそうかもと思いながら頷いた。
 頭の中で笑えって声がしたから、なんて言われて理解されるとも思わない。それどころか、上手く行かないセックスも笑っときゃなんとかなると、染み付いた過去の所作がとっさに出てしまっただけな気がするから、そんなの正直に言えるはずがなかった。
 いやでも、もしかしなくても、気付かれているのかも知れない。そうやってごまかそうとしたことも、つまりは上手く行かないと思いながら抱かれていたことも、既に筒抜けなんだろうか。
「金銭も絡んでない、礼を返すためのものでもない。これは恋人同士のセックスなんだから、笑ってなきゃなんて思わなくていいし、俺にいい思いをさせてやらなきゃとも思わなくていいんだ」
 ああこれ、やっぱ伝わってそう。それに、そんな風に思わせるセックスしてごめん、だったなら、ちょっとわかってしまう。
「それに、お前が感極まって泣いてるのも、感じすぎてヤダヤダ言うのも必死に喘ぐのも、俺からすりゃ全部かわいい。これが恋人って関係が上手く行ってなきゃ見れない姿だってのは、身を持って知ってるんだ。だから心配しなくても、お前が何か頑張らなくても、俺は充分過ぎるくらいいい思いしてるよ」
「あ、あのさ、」
「うん、何?」
「前にした時より、いい?」
「当然だろ」
 即答されたし、嘘でもなさそうだ。正直に言えば、穴の具合も聞いておきたいところだったけれど、前回よりいいセックスが出来てるって断言されたからもういいかと思う。
「ほんとに、気持ちよすぎるって、みっともなく喘いでても、いいの?」
「いいよ。可愛いし、愛しいし、もっといっぱい見たいって思うよ」
「そ、っか」
 なら良かった。
「あの、また、泣いちゃうけど、」
「それも可愛い。辛いのとか痛いの我慢して泣いてるなら困るけど、これはそうじゃないだろ?」
 ホッとしたらまたじわりと浮かんで来てしまった涙を、相手の指がそっと拭っていく。
「ん、違う。なんか、なんかよくわかんないけど、涙腺ぶっ壊れたみたいで」
「いいよ。お前にわかんなくても、俺は多分わかってるし」
 なにそれズルい。
 思ったまま口に出せば、相手は少しおかしそうに笑いながら、好きな相手とするセックスが初めてだからだろと教えてくれた。待ってた甲斐があったなとも。
「好きな人とする、初めてのセックスは泣いちゃうものなの?」
「俺だって今、泣きそうなほど嬉しいと思ってるよ」
 相手が泣いてないのは、これが初めてじゃないからなのか。というほんのり残念な気持ちとともに聞いてしまえば、全く泣きそうではない柔らかな笑顔で言われてしまったけれど、少なくとも嬉しいは事実だろうと思えたから、ちっとも泣きそうじゃない部分は不問にしておこう。それよりも。
「じゃあ、さ」
 続きをしてとねだる言葉は吐かずに、自らゆっくりと腰を揺すった。

続きました→

 
 
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理解できない50

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 涙が止まらず動揺している内心はともかくとして、一旦萎えたとはいえ一度は「もうイカせて」って言う直前まで昂った体は、すでに充分、相手のペニスに馴染んでいる。しかも相手は乱暴で自分勝手な動きなんて一切しないどころか、ここぞとばかりに弱い場所を狙ってくるのだ。
 指で慣らして貰っていたこの一週間、あまり感じたくないというこちらの希望を聞いて弱い場所はあまり弄られずに居たけれど、だからこそ、弱い所はばっちり把握されている。でも、そうじゃない。
「やっ、やっ、そこっ」
「何が嫌?」
「俺じゃない、おれ、じゃなくて」
 ただでさえダラダラと涙を零す酷い状態なのに、そんなに弱いとこばかり狙われたら、一体どんな痴態を見せることになるだろう。それよりも、彼にこそ気持ちよくなって欲しかった。
 若干急ぎ足ではあったけれど、経験のある体は異物を飲み込むコツをちゃんと知っているし、毎晩ちょっとしつこいくらい弄り広げられていたのだから、多分間違いなく、以前抱いて貰った時よりも優秀な穴が育っているはずなのだ。ちゃんと前回よりも気持ちがいい穴になっているか、彼の反応で確かめたいのに。
「でも一緒に気持ちよくなりたいだろ?」
「そ、だけど、おれは、も、いい。も、きもちぃ、からぁ」
「俺が、お前がどうしようもなく気持ちよく感じてるとこを、もっと見たいんだって」
「そんな、ずるい」
 自分だって、相手が気持ちよく感じている姿が見たいに決まってるのに、ずるいってなんだよと笑われてしまって納得がいかない。あと、弱いとこばっかりされたら、気持ちよく感じると言うよりも、みっともなく感じまくる姿になってしまいそうだ、というこちらの不安は全く相手に通じていない。
「ちがう、の。やっ、ぁあっ、だめっ、それいじょ、あ゛、ぁあ゛っ」
 追い詰められて上がってしまう声に、別の涙が浮かんでしまう。どうしよう。前回よりいいセックスだったって思って欲しいのに、なんだかちっとも上手く行かない。
 笑いなさいと頭の中に声が響いて、むりやり上げた口角はプルプルと震えてしまった。しかも予想外の反応があって、相手の動きが途端に緩やかになった事にドキリとする。セックス中の笑顔を失敗したからって怒るような人じゃないのはわかっているけれど、不快に思われたのは確実だ。本当に、上手く行かない。
「あの、おれ、その……」
「ごめんな。お前が可愛くて、無理させたな」
 ごめんなさいと続けるはずだったのに、先に相手に謝られてしまった。しかも、相手の言葉の意味がよくわからない。
「かわいく、て?」
「ん、可愛くて。または、愛しくて」
「あの、ずっと泣きっぱで、あんな汚く喘いでた、のに?」
「あれ、お前が気にしてたのって、そこ?」
 弱いとこばっか弄られるのが苦しいって話じゃなくて? と続いた言葉に、それはキモチイイと返したら、思いの外唖然とされて慌ててしまった。
「や、あの、気持ぃけど、気持ちよすぎてみっともなく感じちゃうから、その、あんま、見せたくないのは、ホントで。それより、俺で気持ちよくなって欲しかった、から」
 ヤダヤダ言ってごめんなさいと今度こそ謝れば、悪いのは俺の方だよと、困ったような顔が寄せられた。

続きました→

 
 
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