俺が眠らせてあげるから・その後の二人の初エッチ2

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 入れてみたい、などと言い出しただけあって、どうやら事前に相当慣らしていたらしい。つまり、修司の勃起時のサイズを考慮し、そろそろ入るだろうと確信した上での提案だったようだ。
 いつの間にと聞けば、卒論提出済みの大学生はそれなりに暇なのでと返された。当然、修司が仕事に復帰しているのも大きいのだろう。日中そんな準備を一人頑張っていたとしても、帰宅前に綺麗に片付けられてしまえば気づけない。
 ただ、慣らしたとは言っても、自身の指やら無機物やらを相手に一人でするのと、想う相手と向かい合って見られながらでは、勝手が違うのも仕方がない。羞恥や緊張から体がこわばり、想定よりだいぶ手こずっているようだった。
 修司が萎えてしまったら今日の所は終わりというつもりらしいが、そんな様子を前にしても萎える気配がないものだから、辞め時がわからなくなっているのかも知れない。
 体を繋げたくて必死になっている恋人を前にして、萎えるわけがないだろう。
 そう頭では思うのだけれど、これまでのことを思えばそうも言っていられないので、現状には正直ホッとしても居た。
「ねぇ、ケイくん」
 名前を呼べば、俯いていた頭がハッとしたように持ち上がる。自分で入れるつもりの彼は、騎乗位で繋がろうとして横になった修司の腰を跨いでの膝立ちだったから、俯いていてもある程度その表情はわかっているつもりだったけれど、はっきりと正面から見つめてしまった泣きそうな顔に胸が痛む。もっと早くに、声を掛けてあげればよかった。
「待たせちゃってすみません。でもあともうちょっとで、多分……」
「それなんだけど、交代していい? というか交代して欲しい」
「交代?」
「さっき、まだ覚悟ができてないって言われたけど、俺に、ケイくんを抱かせて?」
「えっ、でも……」
「絶対の保証はないけど、でも多分、抱いてあげられると思う。大丈夫、萎えないよ」
 あからさまに狼狽えられたけれど、嫌かと重ねて尋ねれば勢いよく首を横に振ってみせた後、修司の上から体を退ける。追うように上体を起こして、未だ戸惑いの抜けない相手の体を引き寄せそっと抱きしめた。
「何が不安か聞かせてくれる?」
「俺、そんなにわかりやすく、不安そうな顔してます?」
「うん、そうだね。してる」
「そ、ですか……」
「無理には聞かない方がいいのかな。でも、嫌なわけじゃないなら、ここまでにしとこうかって言うつもりはないから、一つだけいい?」
「あ、はい」
「初めてで下手くそかも知れないけど、だからこそ、痛いとか、不快だとか、そういうのは隠さずに教えて欲しい」
 それだけは約束してと頼んで頷かれるのを待ってから、相手の体を横たえ立たせた膝の間に体を入れる。
 先程ケイがして見せたのを倣うように、手の平にたっぷりのローションを垂らして、けれどすぐにはその手を伸ばさずに手の上で捏ねた。そうする理由はわかっているらしく、不安そうにこちらを見つめて待っているケイが、少しばかり嬉しげに口元を緩めるのがわかる。
「さっき……」
「うん、冷たそうにしてたから」
「ですよね。さっきはさすがに恥ずかしくて、焦っちゃって」
「今は? もう恥ずかしくはなくなった?」
「恥ずかしくないわけではないけど、でも今更というか、自分で上手く出来なかった上に、ここで恥ずかしがって余計な手間増やしたくないから」
「そっか。ね、ケイくんは抱こうとしてる相手が恥ずかしがってたら、余計な手間増やすなよって思うの?」
「えっ?」
 驚かれて、内心やっぱりなと思う。だって修司の知る彼は、絶対にそんなことは思わないはずだからだ。
「ケイくんみたいに上手に甘やかして、恥ずかしがってる姿ごと可愛がってあげるのは無理かもしれないけど」
「いやちょっと待って! なにその見てきたみたいな言い方!」
「ははっ」
 焦りと羞恥とで慌てる様子に思わず笑ってしまった。不安そうな様子が吹き飛んだことに安堵したのも大きいかも知れない。
「えー、もー、そこで笑うんです?」
「だって見たことなくたって想像はつくよ。相手が恥ずかしがってるのを見ても、手間かけさせんな、なんて絶対思わない。違う?」
「それは、まぁ。でも……あー、いやこれも、逆ならと思うと関係ないのか?」
 なにやら葛藤しているその内容も気にかかるが、この雰囲気が壊れる前に触れてしまおうと手を伸ばす。
「ケイくん、ケイくんの中、触るよ」
「あ、は、っんんっ」
 はいと応え掛けていた口が慌てて閉じられてしまうのを残念に思いながらも、ぬぷりと飲み込まれた指先で中の様子を探った。
 どれほどの時間を掛けて慣らしたのかはわからないが、つい先程までこの何倍もの太さがあるものを飲み込もうとしていただけはある。先程よりも更に緊張で体を強張らせているように見えるが、人差し指をゆるゆると出入りさせてもそう強い抵抗は感じなかった。
 ケイはまた、少し困った様子で、不安げに自身の下腹部を見つめている。
「ぁ……」
 小さな声が漏れたことよりも、フルリと震えた体に確信を持ちながら、前立腺らしき場所をそのままそっと撫で続けてやれば、すぐに耐えきれないとばかりにケイが声を上げた。
「ま、待って、ヤダ、そこ」
「嫌なの? ここ、気持ちよくなれるとこじゃない?」
「それは、ていうか、俺、ほんとまだ全然覚悟できてなくてっ」
「うん。ケイくんが覚悟できるまで、ゆっくり慣らしながら待てばいいかなって思ってるんだけど」
「ちょっ、」
「もちろん、今日はここまでにしてって言われたら引くよ。でもそこまでは思ってなさそうだし、俺が主導権握ってることが嫌なわけではないんだよね?」
 抱いてあげたいって思ってくれただけでめちゃくちゃ嬉しかった、という先程の言葉を疑う気はない。
「ヤじゃないです。こんなの、嬉しくないわけない。でもっ」
「でも?」
「される側と言うか受け身が慣れないっていうか、どうしてればいいのかわかんなくて。あと、ほんとに、汚いとか気持ち悪いとか、思ってないです? ゆっくり慣らすのとかいいから、いっそもう、強引にでもさっさと突っ込んで欲しいと言うか、取り敢えず今日の所は繋がるってのが出来れば充分だって思ってて、だからその、萎えないよってのを信じてないわけじゃないけど、でも、俺の覚悟が決まるまで待ったりしないでいいって言うか、だから、その」
 言葉が続かなくなるまで黙って待った。これで不安の全部を聞き出せるかまではわからないが、不安の一端は間違いなく含まれているのだから聞き逃すまいと真剣に聞き入ったせいか、言葉を止めたケイは困り切った様子で頬を真っ赤に染めている。

続きました→

 
 
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俺が眠らせてあげるから・その後の二人の初エッチ1

本編から半年後の初挿入で修司×ケイ。本編主人公はケイですが、こちらは修司視点。

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 人間不信と深刻な不眠を抱えてどん底だった生活からすくい上げてくれた男を恋人にして半年、あっという間に半同棲じみた状態となった後は相手の手厚いサポートを受け、仕事にはなんとか復帰している。
 夜間、暗くした寝室で同じベッドに入ればやはり簡単に寝落ちてしまうけれど、日中や明かりをつけた部屋でなら、隣り合って横になっても条件反射で眠くなるような事もなくなった。
 そんなわけで、恋人として触れ合うときにベッドへ連れ込まれることも増えている。
 横向きに向かい合って寝転がる二人の距離は近く、修司の腕に緩く背を抱かれながら、ケイの手はゆるゆると修司の股間へ刺激を与えていた。その顔はひどく楽しげで、簡単に反応を示すようになった修司に、安堵と満足とを覚えているのが見て取れる。
 人間不信と不眠とを抱えるようになった原因が、恋人だった女性の裏切りだったこともあり、ケイと恋人になって共に過ごす時間が大幅に増えたあとも、二人がキス以上の行為へ進むまでにはかなりの時間を要した。その間もケイはずっと辛抱強く修司に寄り添ってくれたし、いつだって修司の抱えるトラウマを気遣ってくれたし、諦めることもしなかった。
 なぜこんなにも想って貰えるのか今ひとつ理解が出来ないものの、その想いは疑いようもなく修司へと向かっていたし、なんともありがたいことだと思う。だからこうして腕の中、興奮やら期待やらで薄っすらと頬を染めながら楽しげに股間を弄ばれていたって、胸の内は安堵と愛しさで満ちている。
「ね、修司さん、お願いがあるんだけど」
 こういう場面でケイが口にする「お願い」は、新しい何かを試したい場合が多い。既に経験済みの行為をねだるなら、お願いなどとは言わずに、はっきりして欲しい行為を口に出すからだ。
「いいよ、言ってみて?」
 彼がしたいと望むことを、出来る限り叶えてやりたい気持ちは大きい。とはいえ、トラウマのせいで思うようには行かないことも多いのだけれど。なんせ、触れたいという望みはすぐに叶えられても、彼の手に反応するようになるまでには結構な時間を要した。
 反応しない体を申し訳なく思う修司を気遣ってか、不快なわけじゃないならそれだけで嬉しいのだと笑うケイの強さに、どれほど救われたかわからない。
「その、……っ」
 緊張の滲んだ声を喉につまらせる様子を見て、どうやらケイ自身が難しいと思っている「お願い」らしいと思う。その予想はきっと外れないだろうけれど、最初から上手く行かなくてもいいのだということも、既に共通の認識になっているはずだ。
「すぐには叶えてあげられないかもしれないけど、ケイくんの望みは知っておきたいし、叶えてあげたい気持ちはちゃんとあるよ?」
「それがわかってるから、ちょっと言いにくいのもあるというか」
「ん? どういうこと?」
「俺のためにって無理して欲しいわけじゃないってのだけ、先に言っときますね。生理的に無理って思うなら、そう言って下さい」
「ああ、なるほど」
 生理的に無理ならという言葉で、だいたいの想像がついてしまった。ついにそれを言われる日が来たと言うべきかもしれない。
「体を繋げるセックスがしたくなった?」
「う、あ、はい。てか、修司さんも、俺といつかはそうなるつもり、ありました?」
「ケイくんがしたいって言い出したら、応じるつもりは最初からあったよ。だからこの先、ケイくんがどこまで俺としたいって思うかはわからなくても、やり方を調べるくらいのことはしてる」
「それ、調べた上で応じられそうと思ったって、思っていいの?」
 お尻の穴を使う事に生理的な嫌悪感は本当にないですかと再度確認されてしまったが、随分と真剣な顔をしていたから、彼にとっての最重要項目はそこなのだなと思う。まぁそれも当然かも知れないけれど、出来ればどこを使うかではなく、自分よりも断然可愛らしい容姿の年下男性に押し倒される葛藤の方を考慮して欲しかった。
「嫌悪感はないし、覚悟もまぁ、出来てるよ」
「え、覚悟?」
 不安そうに曇った顔に、余計なことを言ったかも知れないとは思ったが、でも全くの覚悟なしに応じられるようなものではないこともわかって欲しい。
「そりゃ、いくらケイくんが相手でも、覚悟もなしに抱かれるのは無理だよ」
「えっ?」
「えっ?」
 随分と驚かれてしまったことにこちらも驚いて、しばし二人見つめ合った。どうやら盛大な勘違いをしていたことにはすぐに気づいて、なんとも気恥ずかしい。
「あー……その、抱いてっていうお願いとは思わなくて……」
「いや俺も、抱いてってお願いする気はなかったから、間違いではない、です」
「あれ、やっぱり俺が抱かれる側?」
「じゃなくて。その、俺が、自分で、抱かれようと思ってたと言うか」
「え?」
「修司さんが汚いから嫌だって言わなかったら、これ、俺の中に入れてみてもいいですかって、聞こうとしてたんですよね」
 ここまでのやりとりでだいぶ萎えてしまった股間をゆるりと撫でられて、なるほどと思う。なるほどとは思ったが、それを当てるのはきっとどう頑張っても無理だった。そんな事を提案されるなど、欠片も考えたことがなかった。
「その発想はなかったな。普段の言動からして、てっきり、俺が抱かれる側になるんだと思い込んでた」
 元々ケイがキャストとして働いていた添い寝屋は女性専用の店だし、男の修司が客として対応してもらえたのは、その店のオーナーが学生時代から何かと構ってくれていた先輩だったからという、少々特殊な事情がある。
 そこで培った経験は修司との付き合いの中でも大いに発揮されているようだったし、修司のほうが4つも年上だというのに、あらゆる場面でスマートにリードされてしまって、どれだけ可愛い顔をしていたってそこにいるのは自分と同じ男で、しかも自分よりもずっと恋人を甘やかすことに手慣れているのだと感じることは多かった。相手の理不尽な我儘さえも受け入れ従うことは、恋人を甘やかすのとは全く違うのだと、思い知らされても居る。
 年齢的には修司のほうが上だけれど、男としては相手の方が完全に上な気がしていたし、女のように扱われこそしていなくても、躊躇いもなく可愛いと告げられることもあったから、いずれ体を繋ぐような行為をすることがあったら、間違いなく自分が受け入れる側を求められるのだと疑いもしなかった。
「うっ、それは、すみません。でも、修司さんの安心しきった寝顔とかホント可愛いし、それに俺も男の人と付き合うのは初めてで、甘え方がわからないというか、どうやったら手ぇ出して貰えるのかわからなくて、結局、自分から手ぇ出しちゃうっていうか」
 羞恥からか顔を赤くして、しどろもどろに言い募る様が可愛くて、同時に申し訳なくも思う。
「受け身すぎてゴメンね。俺がケイくん任せにしすぎるせいで、抱いて欲しいなんて、言えなかったよね」
「それはいいんです。修司さんのそういうとこに付け込んでる自覚はあるし、修司さんが俺がしたいって言うこと受け止めてくれようとするの、俺のこと好きって思ってくれてるからだってわかってるし、負担にならないように気をつけなきゃとは思うけど、もっと俺に積極的になって欲しいとは思ってないです。大丈夫。そういうとこも、俺にとっては修司さんの魅力の一つです」
 一転して熱心に語ってくれるそれは、紛れもなく彼の本心なんだろう。本当に、ありがたいことだと思う。彼と出会わせてくれた先輩には、感謝してもしきれない。
「それでその、どうですか? 試してみても、いい?」
 また少し口ごもりながらも期待を込めた目で見つめられ、ダメだなんて言うはずがない。
「それはもちろん構わないんだけど」
「だけど?」
「その、抱いてっていうお願いでも、俺は嬉しいよ?」
「う、あ、その申し出はありがたいんですけど、それは俺の方の覚悟がまだ出来てないと言うか、その、上手く出来なかったときのダメージがかなりデカイんで」
「ああうん、そうだ。確かに」
 最初から上手く繋がれる保証はどこにもないどころか、失敗する可能性のほうが高いんだった。
「気持ちだけじゃどうにもならないことが多くてままならないなぁ」
「抱いてあげたいって思ってくれただけで、めちゃくちゃ嬉しかったんで、今はそれで充分です。でもいつか、抱いて下さい」
「それは、もちろん」
 じゃあもう1回大きくするところから始めますと笑いながら、股間に当てられた手が動き出す。目の前にあるオレンジがかった柔らかな前髪を後ろへ向かって梳くように撫でて、現れた額にそっと口づければ、んふふっと小さな笑いだか吐息だかが漏れ聞こえてきた。

続きました→

 
 
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俺が本当に好きな方・その後の隆史と祐希

本編の主人公は祐希ですが、こちらは隆史視点。

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 一歩ほど前を歩く恋人の背中から緊張が滲んでいる。こんなにも意識していますと言わんばかりの姿を見せられると、いますぐ抱きしめたいくらいに可愛いなと思う。
 けれどあまりの緊張に、なんだかこっちまで緊張してしまいそうだとも思った。緊張なんてしている場合ではないのに。
「どーぞ」
 部屋のドアを大きく開いた祐希が、なぜか先に部屋に入るよう促してくるのに軽く首を傾げながらも、問い詰めることはせずに入室する。
「え、っと、じゃあ、お邪魔します?」
 玄関をくぐる時にも告げたはずの言葉を、なぜか再度口に出してしまったが、もちろんツッコミもなければ笑い声もない。背後から聞こえてきたのは、パタンとドアが閉まる音と、それに続いて大きく吐き出される、祐希の溜め息の音だった。
 振り返って、緊張しすぎと笑ってやるべきだと思うのに、隆史自身が伝染した緊張感に包まれていて身動きが取れない。振り返ることもせず立ち尽くしながら、こんなはずじゃなかったのにと焦る。
 だって親友として何度も訪れている部屋だ。まさか恋人としてお邪魔した途端、ここまで緊張してしまうなんて想定外も甚だしい。
「隆史?」
 様子のおかしさに気づかれた。不安そうな声で呼ばれて焦りが加速するものの、今振り返ったら祐希の不安を煽ってしまう気がして躊躇う。上手く笑ってやれる自信がない。
「もしかして、緊張してんの?」
「そりゃするだろ。てか祐希だってしてんだろ、緊張」
「うん、してる」
 あっさり互いに緊張を認めあったものの、その先が続かず部屋の中に重い沈黙が落ちる。
 こういう場面になったら、自分がリードしてやるつもりだった。祐希の緊張は想定内で、もっと言うなら、男同士でなんてと言って躊躇うのを宥めて安心させてやるのも、彼氏となった自分の務めと思っていた。なのに一緒になって緊張にのまれてしまうなんて、なんという体たらくだろう。
 いっそ膝をついて項垂れたい。
「なぁ、俺、今、彼氏としてクソダサい?」
「んふっ」
 割と本気で尋ねたのに、背後から聞こえてきたのは笑いを噛み殺すような声と、ふわりと緊張が緩む気配だった。緩んだ気配に釣られて、ようやく体ごと向きを変えて祐希と向かい合う。
 その顔を見れば、バカにした笑いでないことはすぐにわかったが、だからといって喜ばれるような事を言ったつもりもない。
「祐希?」
「あー、その、ダサいとは思わないけど、らしくないなとは思ってる。でも、安心もしてる」
「安心って?」
「余裕な感じでスマートに押し倒されたら、それはそれで色々と複雑な気持ちになるだろ。男としても、その、恋人として、も」
「なぁそれ、ダサいとは思ってなくても、童貞臭いとは思ったってこと?」
「ん? んー……」
「思ったんだな!?」
「怒んなよ。俺も童貞だって知ってるだろ」
「祐希も童貞だなんて関係ないし。だってそれ、彼女とはしてないって言ったの、信じてなかったってことだろ」
「信じてなかったわけじゃないって。ただ、隆史は童貞でも自信満々に押し倒してくると思ってたし、俺が戸惑ったり躊躇ったりするのを大丈夫だからって蹴散らして、俺はそれにのまれて、なし崩し的にしちゃうんだろうなって思ってたから」
「いやちょっと待って。なし崩し的にしちゃうって何? 祐希だって俺とそうなりたい気持ち、あるよな? じゃなきゃ、親居ないからって家に誘ったりしないだろ?」
 したい気持ちがあって、それでも躊躇ってしまう気持ちを汲んでやるのと、したいわけじゃないけど恋人の求めに応じなければ、なんて思っている相手の躊躇いを蹴散らすのでは大違いだ。
 当然前者のつもりでいたが、恋人という関係になってから先、相手に触れたがるのは圧倒的に隆史の方だという自覚はある。悟史は二人の関係を認めてくれたけれど、それでも未だ、悟史に対して罪悪感めいたものを抱えているらしい事も、わざわざ指摘して蒸し返すような真似はしないけれど感じている。
「まさか、俺がしたがるからさせないと、みたいなこと思ってんの? 俺が焦れて場所わきまえずに手ぇ出してくる前に、自分で機会作ったってこと?」
「場所わきまえずに手ぇ出されるのは困る、みたいな気持ちはなくはないけど」
「やっぱり!」
「だけど!」
 大仰に嘆いた隆史に釣られたのか、祐希の語気も強かった。キッと真っ直ぐに見つめてくる瞳の中に僅かな怒りが揺れている。
 けれど、怒らせたと思った次の瞬間、短な距離を一歩で詰め寄ってきた祐希に抱きしめられていた。
「したくないわけ、ないだろぉ」
 耳の横、照れ混じりのか細い声が響いて、思わずギュッと抱き返す。
「うん。疑って、ごめん」
「隆史が緊張してて、俺を、俺とこれからする事を、凄く意識してくれてるのわかって、嬉しかった」
「うん、俺も。祐希が俺とこれから何するか考えて緊張してるの、意識されまくってるって思って、嬉しかった。あと、可愛いなとも思った」
 いますぐ抱きしめたいと、確かに思っていた。やっと、抱きしめられた。
「なぁ、キスしたい。から、顔」
 言いながら腕の力を抜けば、抱きつく腕の力も緩んで、間近に祐希と見つめ合う。
 照れくさそうに、けれど嬉しそうに。ゆるりと目蓋が降ろされるのを見ながら、そっと唇を押し当てた。

 
 
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