入れてみたい、などと言い出しただけあって、どうやら事前に相当慣らしていたらしい。つまり、修司の勃起時のサイズを考慮し、そろそろ入るだろうと確信した上での提案だったようだ。
いつの間にと聞けば、卒論提出済みの大学生はそれなりに暇なのでと返された。当然、修司が仕事に復帰しているのも大きいのだろう。日中そんな準備を一人頑張っていたとしても、帰宅前に綺麗に片付けられてしまえば気づけない。
ただ、慣らしたとは言っても、自身の指やら無機物やらを相手に一人でするのと、想う相手と向かい合って見られながらでは、勝手が違うのも仕方がない。羞恥や緊張から体がこわばり、想定よりだいぶ手こずっているようだった。
修司が萎えてしまったら今日の所は終わりというつもりらしいが、そんな様子を前にしても萎える気配がないものだから、辞め時がわからなくなっているのかも知れない。
体を繋げたくて必死になっている恋人を前にして、萎えるわけがないだろう。
そう頭では思うのだけれど、これまでのことを思えばそうも言っていられないので、現状には正直ホッとしても居た。
「ねぇ、ケイくん」
名前を呼べば、俯いていた頭がハッとしたように持ち上がる。自分で入れるつもりの彼は、騎乗位で繋がろうとして横になった修司の腰を跨いでの膝立ちだったから、俯いていてもある程度その表情はわかっているつもりだったけれど、はっきりと正面から見つめてしまった泣きそうな顔に胸が痛む。もっと早くに、声を掛けてあげればよかった。
「待たせちゃってすみません。でもあともうちょっとで、多分……」
「それなんだけど、交代していい? というか交代して欲しい」
「交代?」
「さっき、まだ覚悟ができてないって言われたけど、俺に、ケイくんを抱かせて?」
「えっ、でも……」
「絶対の保証はないけど、でも多分、抱いてあげられると思う。大丈夫、萎えないよ」
あからさまに狼狽えられたけれど、嫌かと重ねて尋ねれば勢いよく首を横に振ってみせた後、修司の上から体を退ける。追うように上体を起こして、未だ戸惑いの抜けない相手の体を引き寄せそっと抱きしめた。
「何が不安か聞かせてくれる?」
「俺、そんなにわかりやすく、不安そうな顔してます?」
「うん、そうだね。してる」
「そ、ですか……」
「無理には聞かない方がいいのかな。でも、嫌なわけじゃないなら、ここまでにしとこうかって言うつもりはないから、一つだけいい?」
「あ、はい」
「初めてで下手くそかも知れないけど、だからこそ、痛いとか、不快だとか、そういうのは隠さずに教えて欲しい」
それだけは約束してと頼んで頷かれるのを待ってから、相手の体を横たえ立たせた膝の間に体を入れる。
先程ケイがして見せたのを倣うように、手の平にたっぷりのローションを垂らして、けれどすぐにはその手を伸ばさずに手の上で捏ねた。そうする理由はわかっているらしく、不安そうにこちらを見つめて待っているケイが、少しばかり嬉しげに口元を緩めるのがわかる。
「さっき……」
「うん、冷たそうにしてたから」
「ですよね。さっきはさすがに恥ずかしくて、焦っちゃって」
「今は? もう恥ずかしくはなくなった?」
「恥ずかしくないわけではないけど、でも今更というか、自分で上手く出来なかった上に、ここで恥ずかしがって余計な手間増やしたくないから」
「そっか。ね、ケイくんは抱こうとしてる相手が恥ずかしがってたら、余計な手間増やすなよって思うの?」
「えっ?」
驚かれて、内心やっぱりなと思う。だって修司の知る彼は、絶対にそんなことは思わないはずだからだ。
「ケイくんみたいに上手に甘やかして、恥ずかしがってる姿ごと可愛がってあげるのは無理かもしれないけど」
「いやちょっと待って! なにその見てきたみたいな言い方!」
「ははっ」
焦りと羞恥とで慌てる様子に思わず笑ってしまった。不安そうな様子が吹き飛んだことに安堵したのも大きいかも知れない。
「えー、もー、そこで笑うんです?」
「だって見たことなくたって想像はつくよ。相手が恥ずかしがってるのを見ても、手間かけさせんな、なんて絶対思わない。違う?」
「それは、まぁ。でも……あー、いやこれも、逆ならと思うと関係ないのか?」
なにやら葛藤しているその内容も気にかかるが、この雰囲気が壊れる前に触れてしまおうと手を伸ばす。
「ケイくん、ケイくんの中、触るよ」
「あ、は、っんんっ」
はいと応え掛けていた口が慌てて閉じられてしまうのを残念に思いながらも、ぬぷりと飲み込まれた指先で中の様子を探った。
どれほどの時間を掛けて慣らしたのかはわからないが、つい先程までこの何倍もの太さがあるものを飲み込もうとしていただけはある。先程よりも更に緊張で体を強張らせているように見えるが、人差し指をゆるゆると出入りさせてもそう強い抵抗は感じなかった。
ケイはまた、少し困った様子で、不安げに自身の下腹部を見つめている。
「ぁ……」
小さな声が漏れたことよりも、フルリと震えた体に確信を持ちながら、前立腺らしき場所をそのままそっと撫で続けてやれば、すぐに耐えきれないとばかりにケイが声を上げた。
「ま、待って、ヤダ、そこ」
「嫌なの? ここ、気持ちよくなれるとこじゃない?」
「それは、ていうか、俺、ほんとまだ全然覚悟できてなくてっ」
「うん。ケイくんが覚悟できるまで、ゆっくり慣らしながら待てばいいかなって思ってるんだけど」
「ちょっ、」
「もちろん、今日はここまでにしてって言われたら引くよ。でもそこまでは思ってなさそうだし、俺が主導権握ってることが嫌なわけではないんだよね?」
抱いてあげたいって思ってくれただけでめちゃくちゃ嬉しかった、という先程の言葉を疑う気はない。
「ヤじゃないです。こんなの、嬉しくないわけない。でもっ」
「でも?」
「される側と言うか受け身が慣れないっていうか、どうしてればいいのかわかんなくて。あと、ほんとに、汚いとか気持ち悪いとか、思ってないです? ゆっくり慣らすのとかいいから、いっそもう、強引にでもさっさと突っ込んで欲しいと言うか、取り敢えず今日の所は繋がるってのが出来れば充分だって思ってて、だからその、萎えないよってのを信じてないわけじゃないけど、でも、俺の覚悟が決まるまで待ったりしないでいいって言うか、だから、その」
言葉が続かなくなるまで黙って待った。これで不安の全部を聞き出せるかまではわからないが、不安の一端は間違いなく含まれているのだから聞き逃すまいと真剣に聞き入ったせいか、言葉を止めたケイは困り切った様子で頬を真っ赤に染めている。
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