イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった40

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 ベッドで続き、のつもりでバスルームを出たものの、窓の向こうが暗くなっていることに気づいて、休憩がてら一旦食事へ出かけることになった。
 相手は泊まらないだろうと思いながらのツイン部屋だったが、2つあるベッドを見た相手は、急いで続きをがっつく必要がないと思い至ったらしい。つまり相手は、すっかり一緒に泊まる気でいる。
 できればもう一度イカせたいと相手は思っているはずだし、少し時間を置くことや終えた後にそのまま寝てしまってもいいのは、こちらとしても有り難い。ただ、こちらを酔わせる気で居ることには、食事の途中まで気づけずにいた。
 調子よく次々と酒を勧めてくる相手が、何を狙っているかはわからないでもない。恋人となった相手に、好きだと囁かれながら求められたら、こちらももう、絶対に抱かれるのは嫌だと拒めはしないだろう。
 酔っぱらいでもしなきゃ、抱かれてやるのは難しいかもしれない。でも酔った状態で初めてを奪われてしまうのはなんだか惜しい気もする。
 そう思った結果、後者の気持ちが勝って、途中から相手のペースに巻き込まれて酒を飲むのは止めた。こちらが酒をセーブしだしたことに、相手もどうやら気づいたようで、最後の方はもう酒を勧められることもなくなったけれど、お互い、この後のことには触れずにいる。
 会話の内容は当たり障りのない仕事の話や家族の話、後は共通の友人たちの話などだ。けれど、対面に座る相手の様子は今までとはやはりかなり違う。
 端的に言えば浮かれている。そんな相手にこちらも満更じゃないと思っているから、相手からすれば、こちらも浮かれたように見えているのだろうか。指摘したらやぶ蛇になりそうだったので、相手の機嫌の良さには触れなかった。
 ぎこちないわけではないのに、確実に今までとは違う気配は、多分間違いなく、お互いにこの後の事を意識しているせいだ。意図的に双方とも話題にするのを避けているけれど、避けているからこそ余計に意識してしまうし、相手が意識しているのもわかってしまう。
 酔うのを避けたことで、相手は拒否と思っただろうか。それとも、相手の意図を知りながらも一切釘を差さなかったことで、了承の意を汲んだだろうか。
 相手がその話題に触れたのは、店を出てホテルへ戻る途中の、ドラッグストア前だった。
「ちょっと寄っても、いい?」
 こちらの気持ちを試すような聞き方ではなかったから、どうやら了承を汲み取っていたらしい。
「こだわりないなら、俺が持ってきてるけど」
 言いながら、いやでも相手は使えないかもと思う。こだわり云々ではなく、サイズの問題で。
 ローションはかつてこの身に使われたことがあるボトルを持ってきているが、ゴムは使われたことがないので相手の愛用品を知らないし、自分が使うのと同じ感覚で持ってきてしまった。
「あー……でも、サイズが合わないかも」
「ん、じゃあちょっと行ってくるから待ってて」
 男二人で入店してコンドームを買うのは確かに躊躇われる。わかったと返せば、相手は早足で店内に消えていった。
 目的の品はすぐに見つかったようで、そう待たされることなく、戻ってきた相手と並んで歩く。
「あ、のさ」
 隣から吐き出される声には、なんだか緊張が滲んでいる。
「どうした?」
「今更なんだけど、して、いいんだよね?」
 たしかに今更だなと思ったら、少し笑ってしまった。
「本当に今更だな。その気がなかったら、それ、買いに行かせないだろ」
「うん、まぁ、そうなんだけど。思った以上にあっさり送り出されて、拍子抜けした部分があるっていうか」
 酔わないように気をつけてたのは、酔ったら好き勝手されそうで怖かったからかと聞かれて、そういうんじゃないとは返したけど、酔ってするのが惜しいと思ったからとはさすがに言いにくい。
「そういんじゃないって、じゃあ、どういう理由?」
「えー、いいだろ、それは別に」
「いやだって気になるでしょ」
 相手は当初、酔ってぐでんぐでんになったら了承、と思っていたらしい。なのに酔わないようにセーブしつつも拒否の言葉を出さなかったから、了承なんだとは思ったけれど、想定外の行動だったからかなり理由が気になる、とのことだった。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった39

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「気持ちぃ?」
「きも、ちぃ」
 素直に答えれば嬉しそうに顔が緩んだから、思わず顔を寄せてその唇を奪う。行為の最中、自分から相手に触れに行くことがほぼなかったのだから、相手が驚くのも無理はない。というか、衝動的にそんなことをした自分に、自分自身が少し驚いてもいた。
 それでも、驚きに目を瞠る相手の顔には、思わず小さな笑いがこぼれる。自分の行動に、相手がいちいち大げさに反応してくれるのが面白いのかも知れない。
 いっそこちらも、相手に可愛いと言ってやろうか。チラリとそんなことも思ったが、さすがに恥ずかしさが勝って、言葉は音にはならなかった。しかも、男に向かって可愛いとかよく言えるよなと思ったら、先程かわいいと繰り返していた相手の声が耳の奥に蘇ってしまって、なんだかますます恥ずかしい。
「はぁ、もう、なんなの。可愛すぎるし手が足んないんだけど」
 勝手に恥ずかしがっていたら、呆れたのか怒ったのか、相手が嘆くようにそんなことを口走る。ただ、声音から呆れたか怒ったかだと思いはしたが、告げられた言葉の意味がイマイチわからなかった。
 なのに、また可愛いって言われたっぽいのだけはわかって、恥ずかしさばかり増して頬が熱い。ますます呆れられそうだと、恥ずかしさに軽く伏せていた顔を更に俯けてしまった。
「ね、こっち向いてよ。両手ふさがってるから、恥ずかしがって下向かれたらキスできないでしょ」
 呆れや怒りを感じない優しい声に促されて顔を上げれば、待ち構えていたらしい相手の唇が押し当てられる。しかもすぐさまペロリと唇を舐められたから、思わず背を反らして逃げてしまった。
 ちょっと驚いてしまっただけで、逃げるつもりはなかったんだけど。
「もー、なんで逃げちゃうの?」
「や、わりぃ、つい」
 舐められるとか思ってなくてと言えば、驚きで反射的に逃げたと伝わったらしく、驚かせたならゴメンと謝られてしまった。
「いや、いーけど。つか俺も、逃げて、ごめん」
 謝りながら、再度相手に顔を寄せる。触れる手前で止まって、今度はゆるく唇を解いて待てば、残った僅かな距離はちゃんと相手から詰めてきた。
 伸ばされた舌は唇を舐めることなく、解かれた隙間から口の中へ入ってくるから、応じるようにこちらも舌を差し出し絡めてやる。満足気に笑う気配のあと、ゆるゆると動いていた相手の手が、イカせる動きに変わった。
「ね、そっちも、手」
 気持ちよさに身を委ね掛けたところで、キスの合間に「一緒にイきたいんだけどと」と囁くように訴えられて、慌てて自分も、完全に止まってしまっていた手に意識を向ける。とはいえ、相手に任せてただ気持ちよくなることに慣れすぎているのか、うっかりしているとすぐに手が止まってしまいそうだ。
 けれどそのたび、一緒にイク気の相手に器用に促されて、どうにか自分だけが先にイッてしまう羽目にはならなかった。ようやくイケたときには、気持ち良く果てたという開放感よりも、やっとイケた疲労感のが強い気がしてなんだか釈然としない。
「もの足りないって顔してる」
「そういうお前は満足しきった顔してる」
「だね。それはちょっと自覚ある」
 まぁ、俺ばっかりいい思いしちゃってゴメンね、なんて素直に謝られたら、ため息一つで許してしまうんだけど。今まで散々、相手任せで気持ちよくして貰ってきたことを思えば、こういう日があったっていい。むしろ今後は、自分が頑張って相手がいい思いをすることだって増えて行くんだろう。なんて思っていたのに。
「ね、ベッドで続き、してもいい?」
「え? 続き?」
「続けて触られるの辛いなら、少し休憩挟んでからならどう? だめ?」
 すごく満足はしてるけどもの足りない面もある、だとか。次はもっと気持ちよくイカせてあげたい、だとか。どうしても嫌ならハグとかキスとかだけでもいいからもっとイチャイチャしたい、だとか。
 まぁそんなのことをあれこれ言い募られたら、嫌だダメだと断る気にはなれなかった。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった38

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 代わりに、もう片手も下腹へ伸ばして、握るペニスの下にぶら下がる陰嚢をそっと持ち上げる。
「え、何!?」
「俺、一人でするときはこっちも結構いじるんだけど、お前はあんまここ感じない?」
「んっ、そんな、には」
 まぁそうなんだろうとは思っていた。だって相手にとってもいい場所なら、とっくに弄り回されていたに決まってる。
「の割には、いきなり息上がってないか?」
「だ、だって、嬉しく、て」
「へ? あ、ああ、初めて触ったから?」
 口でされるのをあんなに興奮すると思わなかった、と評していたから、手でされるのも興奮が増すのだと思っていたし、相手だってそう思ったから、手を貸してだの煽ってだの言ったんだと思っていたけど。実際触られてみたら、興奮より嬉しさが勝ったって事かもしれない。
 そう思ったのに、相手はそれだけじゃないと匂わせる。
「それも、あるけど」
「ほかは?」
「どうすると気持ちぃとか、初めて教えてくれた、から」
「なるほど」
 確かに。自分がより気持ちよくなれるやり方なんて、わざわざ教えようと思ったことがない。相手に全てお任せで充分に気持ちよくなれたし、焦らされたり先にイッてしまったりするのは辛いのだから、むしろ気持ちよくなりすぎるのは怖いと思っていた。
 もう一度、嬉しいと言ってふにゃふにゃ笑った相手に、さっきの疑問の答えはこれかも、と思う。学生時代、何がそんなに楽しいんだかと思ったことは多々あるが、嬉しそうだとか幸せそうだとかを思ったことはあまりなかった気がする。ついでに言えば、相手が嬉しそうだと感じたときに、絆されてきた気もする。
 そうか。相手がこちらへの恋情を認めたのはやっぱり大きいなと思う。相手の反応から、こちらへの好意が伝わってくるのはいい。気持ち良さげな顔の中に見えるのが、ただの興奮だったり好奇心だったりでは気持ちが動かないけれど、好意だったり喜びだったりを見てしまうと、こちらももっと何か与えてやりたい気持ちが湧くんだろう。
 好きだと言われたら好きだと返す相手に、態度で好きだと示されたらこちらも態度で好きだと示したくなる、というだけなのかも知れない。
 つらつらとそんなことを考えながらも、手の中の陰嚢を自分が気持ち良いと感じる動きで刺激してやる。
 相手の手が止まって、ほぼ一方的にこちらが相手に刺激を与えているのも、なんだか不思議な感じだ。さきほど口でした時もほぼ一方的に相手を感じさせていたけれど、相手の様子を窺う余裕なんてなかったし、相手が感じている顔を余裕を持って見るというのが、たぶん初めてのせいだろう。
 与える刺激に感じているのか、嬉しさからなのかまではわからないが、気持ちよさげに蕩ける顔に胸の内が満たされる気がした。
 このまま、相手のイク顔もじっくり見てやろうか。なんてことを思いながら、竿を握る方の手を動かすスピードを上げれば、相手にもこちらの意図が伝わったらしい。
 ただ、そのままおとなしくイカされてくれる気はさすがになかったようで、相手のもう片手も腹の間に伸びてきて、陰嚢がその手に包まれやわやわと指先が動きだす。
「こう?」
「ぅっ、……ふ、ぁ」
 やり方は覚えた、とでも言いたげな手の動きに小さく呻いて熱い息を漏らした。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった37

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「照れてる。かわいい」
「やめろっ」
「あのね、わかってると思うけど、いま俺、なるべくこの時間引き延ばそうとしてるよね。で、焦らすなってガチ切れて俺を諦めさせてイクか、ギリギリまで俺に付き合うか迷ってるの、俺だってわかっちゃうんだよね」
 だからこれはもっとイチャイチャしようという誘いで、ギリギリまで付き合う方を選べという訴えなんだけど、と続けたあと、でも本当はもう一つ選択肢があってそれを選んで欲しいのが本音だと言う。
「もう一つ、って?」
 聞けば、一緒に触って、と返ってくる。
「俺が早くもう一度イキたくなるように煽ってよ。手も、貸してくれる気があるんでしょ?」
 なるほど、その発想はなかった。というより、尻穴を弄られる代わりにお前を気持ちよくさせるからと、手と舌を差し出してみせた事も、口を離して立ち上がった最初は、自分が二本のペニスを握って扱くつもりだったことも、失念していた。
 わかったと頷き下腹へ手をのばす。話している間も二本纏めてペニスを握りつづけていた相手の手は、こちらの指先が触れると同時に一旦開いて、こちらのペニスだけを握り直す。つまり、相手のペニスを握れってことなんだろう。
 手にしたそれは、先程口に入れる時に触れたのとは違って、互いの先走りと相手の精液とに濡れてヌルついている。口に入れた時に間近にみた形を思い出しながら、先端から付け根までを確かめるように手を滑らす。
 ゆるゆるとした刺激によってか、相手のも既に充分硬く張り詰めている気がする。これは結局の所、相手だってイキたいのを我慢してただけじゃないのか。煽ってなんて言っていたけれど、強く握って扱いたら、結構あっさり吐精するんじゃないのか。
 そう、思ったのに。
「はぁ……きもちぃ」
 うっとりと熱い息を吐かれて思わず見つめてしまった相手の顔が、言葉通りに蕩けているのを見てしまったら、さっさとイカせて自分もイクのだ、と思っていた気持ちがどこかへ飛んだ。もう少しだけ、この顔を見ていたいと思う。出来るかはわからないが、可能なら、もっと蕩けさせてやりたい。
 それは初めての感情だった。今までだって、気持ちよさそうな顔を見る機会はたくさんあって、イケメンは感じる姿も色っぽいと思うことはあったけれど、でもそれだけだったのに。
 今までと何が違うのか。相手を恋人というカテゴリに置いたから、自分の中の気持ちが変化したのだろうか。でも先程ギラついた気配で色気を振りまかれたときは怯んでしまったし、それに気づいた相手がギラついた気配を消した後だって、うっとりと柔らかな色気を振りまく相手を前にしても、こちらから手を伸ばすことはしなかった。まぁ直前の雄の顔に引きずられて、手を出す気が萎えていたというのはあるかもしれないが。
「もしかして、仕返し、されてる?」
「え?」
「さっさとイキたいのかと思ってたら、随分焦らしてくるから。イチャイチャ楽しんでる顔じゃないし、何、考えてるのかな、って」
「あー……なんでも、ない」
 そんなわけないでしょ、という不満そうな顔をされたので、仕返しのつもりはないと付け加えてみたが、やはり納得はいかないらしい。
 本当に仕返しのつもりなんてなくて、焦らしてやろうと思ったわけでもないけれど。でも、もっと気持ちよくさせてやりたいと思っていた、とも言いにくい。だって正確には、なんでそんな事を思ったかについて考えていた、だからだ。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった36

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 だってイッた後に触られ続けるのは辛いばっかりで、連続でイキたいなんて考えたことがない。もちろん自慰だって吐き出したら終わりだった。
 こうしてイッた後も手を動かし続けて、なお平然としゃべっていられるなんて、正直驚きでもある。いやでも、学生時代にも相手が先に達してしまったことはあったが、こちらがイケるまではちゃんと双方のペニスを同時に扱き続けてくれていたし、もともと刺激に強いのかも知れない。
 相手が先に達するのは稀だったが、その少ない経験の中で、もし果てた瞬間にこちらのペニスだけを扱くようなことをされていたら、自分が先に達してしまった時にはこちらのペニスを開放しろと言えていたと思う。
 思い返せば、イッた後に触られるのは感じ過ぎちゃうんだよね、という言い方だって他人事みたいだ。
「ふぅ……」
 そっと息をついて、くすぶる熱を吐き出した。
 相手の回復なんて待ってられるかとは思ったが、刺激が緩いせいで結局そのまま焦らされている。しかも刺激の緩さから、色々と思考を巡らせる余裕があるらしい。
 だからか、イッてしまったあとで相手の二度目に付き合わされるよりは辛くないだろうという判断なのかも、と思った。あと、この緩やかすぎる刺激的に、この時間を引き伸ばしたいらしいとも思う。
 せっかく恋人になったんだからもっとイチャイチャしよう、とでも言いたいのかも知れない。何もこんな場所でと思わなくもないが、ここで一度中断してベッドで続きをと促されたくはないし、こちらがイッてスッキリしてしまったら、じゃあベッドで更に続きをとはならないだろう自信がある。
 どちらにしろ、相手が二度目を吐き出すまでは終わる気がない、という前提だけど、たぶん合ってる。
 ただ、ここまで大きく果てるタイミングがずれたことはなかったし、今までは一度ずつ吐き出して終わるのが殆どで、稀に自分だけが気持ちよくして貰って終わった経験しかないから、どうしたらいいのか迷ってしまう。
 焦らすなイカせろと頼み込んだら、というよりもキレ気味に訴えれば、もしかしたら二度目を諦めてイカせてくれるかもしれない。そうでなければ、卒研発表の日の夜のように、なだめられたり言い包められたりで相手がもう一度イク気になるまで、こちらもオアズケを食らって焦らされるんだろう。
 こっちの様子を見ながら、こちらの機嫌が大きく損なわれる直前で手を引く考えなんだろうというのは、そこそこ長い付き合いからわかっている。
 キレ気味に訴えるか、相手の焦らしに乗ってやるか。どうしようと思う間にも、緩い刺激にじわじわと追い詰められていく。そんな中。
「はぁぁ〜」
 今までよりも若干強めに、うっとりと吐き出されてくる甘い息が頬に掛かって、思考に沈んでいた意識を相手へ向けた。視線が合うと、熱を持った瞳や薄く開いた唇をゆるっと緩ませ、微笑んでくる。
「なん、だよ」
 柔らかな笑顔についたじろぎながら問えば、ふふっと小さな笑いをこぼされる。
「なんでもない」
「なんでもないわけ、ない、だろ」
「そうだね」
「言えよ」
「んー……」
「言えって!」
 強い口調で訴えれば、柔らかな笑いを、何かをごまかすみたいなへらっとした笑いに変えて顔を寄せてくると、ちゅっと音を立てながら軽く唇を吸っていく。
「ごまかす、なって」
「ごまかす、っていうか、かわいいな、って思ったら、ちゅーしたくなっただけ」
 もう一度、可愛いと言われながら唇が吸われた。可愛いなんてもちろん言われ慣れているはずがなく、しかも本気で言ってるんだろうとわかるから、ドキドキと鼓動が跳ねて顔が熱くなってくる。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった35

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 やはり次は相手のペニスと自分のとを合わせて握って扱くべきだろうか。だとしたらまずは立ち上がるか相手の腰を落とさせるかだが、手っ取り早いのはどう考えたって自分が立ち上がる方だ。
 素早くそう結論づけて立ち上がった先で見たのは、熱に潤む瞳の中に、どこかギラついた気配を揺らしている相手だった。シャワーの湯は止めてあるので、頬が赤く上気しているのは間違いなく興奮だろう。
 思わず見惚れるくらいに色っぽいとは思うが、壮絶な色気を振りまかれて怯んでしまうのは仕方がないと思う。だってこれは、もっと気持ちよくしてやりたいとか、その顔をとろかせてやりたいとか、そういう気持ちを萎えさせるオスの顔だ。
 呆然と立ち付くしていると、それに気づいた相手が気持ちを鎮めるように大きく息を吐きだした。目の中のギラつく気配が消えて、うっとりと柔らかな色気だけを残すから、こちらも思わずホッと安堵の息を吐く。
「すごい、興奮した」
「見りゃわかる」
「そっちも、俺の咥えて興奮したの?」
 すごい勃ってる、という指摘にどう返していいか迷って口を何度か開閉させてしまった。
 しっかり勃っている自覚はちゃんとあるが、相手のを咥えて興奮したと言えるかは微妙だ。というかそれを認めたくはない。どちらかというと、相手にしてもらった時の色々を思い出しながらしていたせいで興奮しているのだと思うが、でもそれを教える気にもなれない。
「ね、触ってもいい? というか、イッてもいい?」
 言葉に詰まっているこちらに焦れたのかもしれない。どういう意味だと聞く前に、伸びてきた手に腰を引かれて抱きしめられる。それと同時にもう片手が二人の腹の間に突っ込まれて、慣れた仕草で勃起した二本のペニスを纏めて握られた。
「ぁっ」
「はぁ……ごめん、先に、謝っとく」
 うっとりと吐き出される息と、それに似合わない不穏な内容に、何をする気だとまたしても怯んでしまう。
「な、なにを?」
「ゆっくりできない、から」
 言うなり、握られたペニスが勢いよく擦られだして腰が震えた。
「ぁ、ああああっっ、やっ、つよっ、ぁあっ」
 つまり最初っからイカせるつもり満々のスピードと強さで、という意味の「ごめん」だったらしいと、悲鳴に似た声で喘ぎながらも頭の隅で理解する。
「ぅっ、やっ、ぁあ、ぁっ、む、むりぃ、ぁあっ」
「も、ちょっとだけっ」
 強すぎる刺激にこれじゃイケないと訴えるが、その訴えを聞いてくれる気はないらしい。そしてもうちょっとの言葉通り、少しして相手が小さく呻きあっさり達してしまった。
 ただ、手の圧もスピードもガクッと落ちたが、止まってしまったわけじゃない。ゆるゆると撫でるみたいに動かされて、じんわりとした気持ちよさが、今度は逆にもどかしい。
「ん、なぁ、それじゃ、イケなっ」
「うん」
「うん、じゃ、なくてっ」
「だって、久しぶりだし一緒にイキたかったのに、失敗しちゃったから」
 口でされるのあんなに興奮すると思わなかった、なんて、まるでこっちのせいみたいに言うのはずるい。
「俺のせい、かよっ」
「お前のせい、って言ったら、もーちょい待ってくれたりする?」
 次は一緒にイッてくれる? なんて言われたって、相手の回復を待てるわけがなかった。というか、そういうつもりでゆるゆると手を動かし続けていたとは思わなかった。

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