オメガバースごっこ6

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「ここじゃ言えない。だからお願い、早く部屋に入れて」
 急かせば余計に怪しまれたような気がするが、それでも、部屋に入れるまでは何も語らないとわかっているようで、自室に向かって歩いていく。
 ホッとしつつもその後ろを追いかける体は、事前の仕込みが効きすぎているようだ。体が奥の方から熱くて、なんだかぼんやりする。玄関からの距離なんてたかが知れているのに、彼と同じ歩調で追いかけられずに時折足がもつれるし、部屋の前に着く頃には息も上がっていた。
 部屋のドアに手を掛けながらこちらが追いつくのを待っている相手の顔は、不審なものを見る目というよりは怒りを抑えているような怖さがある。
 事前に何をしてきたか、これから何をする気か、相手も気づいてしまっただろうか。それでその顔なら、抱いて貰うのは無理かもしれない。
 意気込んで押しかけたくせに、あっさり挫けて泣きそうだった。しかも、それに気づいたらしい相手がそっと顔を逸らすものだから、部屋の前に着くと同時に開けられたドアの先に、踏み込むのを躊躇ってしまう。
「部屋、入れろって言ったのお前だろ」
「だ、って……その……」
 回れ右して帰りたい気持ちと、ここまでしたのだからちゃんと彼の返事を聞くべきだと思う気持ちとで、迷っている。
 その場で立ち尽くしていれば埒が明かないと思われたのか、腕を捕まれ部屋の中へ引き込まれてしまった。
 二人ともが部屋に入ると同時に、くるりと体ごと振り向いた相手にドキリと心臓が跳ねる。といってもトキメキとは程遠く、怒ったような怖い顔が近づいてくるのに耐えられずに、ギュッと目を閉じ身を竦ませた。
 背後でパタンとドアが閉じる音が聞こえて、相手が振り向いた理由はすぐにわかったものの、でも、ドアが閉じた後も目の前から彼が遠ざかる気配がない。だから閉じた目も、竦んだ体も、動かせないまま固まり続けていた。
「おいこら」
 目ぇ開けろよと促す言葉が降ってきて、仕方なく瞼を押し上げながら声がした位置へ顔を向ければ、思った通りに怖い顔をした相手に睨まれている。とても相手の顔を見上げてなんかいられず、すぐにまた俯いて視線を外してしまったが、その場から動くことはやはり出来なかった。身が竦み続けているからだけでなく、背後のドアと相手の体に挟まれていて、相手の両腕はこちらを閉じ込めるみたいにドアにつかれているせいでもある。
「一応聞くけど、風邪引いて熱出てるのに、約束したからって無理して来たわけじゃねぇんだよな?」
 すぐに俯いてしまったことを咎められることはなかったけれど、一応聞くと前置いたことや口調から、こちらの様子のおかしさを風邪などと思っていないのは明白だ。
「ち、がう」
「わかった」
 何がわかったんだろうという疑問は、顎に触れてきた手に上向かされると同時に唇に齧りつかれて、あっという間に霧散した。
 抜きあう最中に興奮して、口の中を探り合うような深いキスをしたことはある。けれど抜き合う前に交わすキスは、特に最初の一回は、優しく唇が触れ合うだけのものばかりだったから、強引に唇を割って入り込んだ舌が好き勝手に口の中を舐め荒らしていくことに恐怖する。なのにそれと同時に、期待と歓喜が身の内で膨らんでいくのがわかった。
 何が相手を誘発したのかわからないけれど、このまま相手の興奮を煽っていけば、きっと抱いて貰えるはずだ。
 少々激しすぎるけれど。それを怖いと思う気持ちもあるけど。
 それでも相手のキスに身を委ねるように、徐々に体から力を抜いていく。この激しさも、深いキスだけ与えられるのも初めてだけど、諸々の仕込みも手伝ってか、意識を向ければちゃんと気持ちが良い。
 最初の恐怖が薄れて、気持ちが良いばかりになって、キスから開放された時には腰が抜けてへたりこみそうなほど感じていて、相手の腕に抱えられてどうにか立っているような有様になっていた。

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オメガバースごっこ5

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 恋人になって好きだと言い合って、ただただ互いの性器を扱きあって抜くだけだった行為は、キスや愛撫や睦言が加わって随分と甘やかに変化したけれど、それだけだった。当然のようにそれ以上の関係も求められると思っていたので、正直違和感が強いのだけれど、女の子としか交際してこなかった相手に抱いて欲しいと自分からねだる勇気はない。
 それでも会話の端々からこちらの不安とか不満とかは伝わったようで、なぜか同じ大学を目指すことになり、入学後はルームシェアという名の同棲を始めるという方向で、ルームシェアに関しては既に双方の親の了承を取得済みだった。
 どうやら彼の中では、今以上の行為は卒業後に一緒の生活を始めてから、という認識になっているらしい。相手の両親は仕事が忙しく、今だって相手の家で二人きりになれる時間は充分すぎるほどあるのに、なぜ卒業後なのかがわからない。ついでに言うと、一緒に暮らし始めてから、やっぱり抱くのは無理と言われる可能性に恐怖しても居る。
 いくらBLを読むようになって男相手も有りという認識に変わったって、物語と現実が違うのはわかっているし、女性の体を知っている相手が、リアルの男相手にどこまでする気になれるのかわからないから怖い。しかも相手のBL知識の多くはオメガバース関連で、Ωの体はかなり特殊だ。
 お前が本当に番のΩなら良かった、という言葉の中に、結婚したり子供を作ったりが可能だからという意味はないと言っていたけれど、発情期には勝手に濡れて抱かれることを欲する体になる辺り、抱く側になる男からすれば女性以上に便利な穴に思えるんじゃないだろうか。少なくとも、ローションなどを使ってしっかり拡げないと入らない、自分のお尻の穴とは完全に別物だろう。
 同じ大学に入学するという目標を掲げて相手は受験に身を入れ始め、抜きあう行為も少しずつ減っているから、同じように受験に身を入れなければと思うほどに焦っていく。
 だから、最近勉強一色だけどクリスマスくらいは恋人っぽいことしようぜ、という誘いを貰った時に、勇気がないなどと言ってずるずる先延ばしにするのを止めた。つまりは、抱いて欲しいと自分からお願いすることにした。
 拒否されたら当然ルームシェアは見直すつもりだし、いっそ、同じ大学に進学することから考え直した方が良いかも知れない。
 相手にとっての恋人っぽいクリスマスは、クリスマスを理由に部屋にこもってエロいことをする誘いではなかったようで、どうやら屋外デートの誘いだったらしい。付き合う前も後も、デートらしいデートはしたことがないというか、デートをするぞと言って出かけた経験がなかったので、それはそれですごく魅力的ではあったけれど、受験でなかなか時間が取れないからこそ、二人きりでゆっくり過ごしたいとお願いすれば相手はあっさり了解してくれたし、その意図を汲み取って抜きあう気にはなっていたようだった。更に言うなら、相手の家で過ごしたいという申し出に、久々に手料理を振る舞う気だとも思っていたようだ。
 彼が入院を終えて自宅療養をしていた頃は、買い物袋を下げて訪れることが多かったからだろう。鞄一つで訪れたことに不思議そうにした後、一緒に買い物に行くってことかと聞いてきた。
 ゆるく首を振って多分そんな余裕はないと言えば、不思議そうにしていた顔が少し歪んで、何を考えていると幾分低くなった声で問われてしまう。
 こちらの様子の怪しさが、さっそくバレているらしい。

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オメガバースごっこ4

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 こじれる前に互いの気持ちを確認しあえ、というのは彼も同様に告げられていたようで、翌日の放課後には彼の自室に招かれて、渋い顔をした相手と向き合っていた。
 相手はベッドに腰掛けていて、こちらは勉強机の椅子を借りているので、そこまで広い部屋ではないが距離がすごく近いわけでもない。エロいことがしたくて呼ばれたときは最初からもっとずっと距離が近いので、これは明らかに話し合うために設定された空間だ。
 その顔と距離とで、彼は彼で何やら色々言われたらしいと思う。実姉なぶんだけ容赦がなかった可能性もある。
「俺がずっとお前のこと好きだったって、全く気付いてないって言われたんだけど、ホント?」
 彼が何を言われたのかを聞く前に、さっさと自分の方の事情を晒してみた。彼姉はその事実を知っていたからこそ、彼に対してキツい物言いをした可能性が高そうだったからだ。
「は?」
 彼女が嘘を伝えてくる理由がないし、事実なんだろうとは思っていたけれど、初耳だと言わんばかりに呆気にとられた顔をされてしまった。やはり彼女は、こちらの気持ちを勝手に教えたりはしなかったらしい。
「本当に気づいてなかったんだ。何言われたか知らないけど、多分、俺の気持ち知らないまま恋人になったことに対する不安とか不満とか混じりだと思うから。もし何か怒られたんだとしても、あんまり気にしなくていいと思うよ」
「いや、怒られては……てか、え?」
「怒られてないんだ。じゃあ呆れられた? 俺はかなり呆れられた感じのメッセージ貰ったんだけど」
 一緒だねと苦笑して見せたが、相手はようやく最初の動揺から立ち直った様子で、何かを探るように真顔でジッと見つめられてしまう。
「ホントだよ」
「いつから?」
「お前に初めての彼女が出来た時に、かな」
「って、それ……」
「うん。中学の時だし、その頃はまだ腐男子じゃなかった。男同士の恋愛物語があるの知ってたけど、読んでみたいと思ったのは、自分が男に惚れたせい」
 ついでに、彼姉には最初から知られていて腐友になったのだとも言っておく。
「それで、か」
「それでって?」
「あの時、事故でいいから番になりたいって言ってた相手は最初から俺で、姉貴はそれ知ってたから、自分への告白じゃないって言い切ってたんだな、って」
「よく覚えてるね、そんなの」
「さんざん疑った結果、姉貴からは番を持ったアルファ認定されるようになったからな。こっちは姉貴をお前から守った気でいたのに、お前を番にしたんだからってあれこれ言われるようになって、すげぇ面倒くさいことになった、って思ってた時期もある」
「でも今は、俺を本当の番にしたいくらい、俺を欲しいって思ってくれてるんだよね?」
「ああ」
「BL読むようになったし、俺とあんなこともするようになってるし、男同士で付き合うのもそんなに抵抗ないなって思うようになったから、俺の好きにちょっとくらい応えてやってもいいかなって思った。とかではなかったんだよね?」
「ああ。てかずっと俺を好きだったとか初耳だっつの。嘘つきめ」
 好きなやつは居ないし、男が好きで腐男子なわけでもないって言ってたよなと睨まれて、そこは素直にごめんと謝った。
 ただ、そういう事はさっさと言えよと言われたのには、言えるわけ無いだろと言い返す。
「だいたい、お前だって俺に好きとか一言も言ってないし。言ってほしいとも言われてないし。ずっと、うっかり口に出さないように気をつけてたことを、恋人になりましたってだけで簡単に口に出せるわけ無いだろ」
 わかった、と言った相手が立ち上がって近づいてくる。椅子に座るこちらを見下ろす顔は真剣だった。
「好きだよ。BL本の影響はあると思うけど、だとしても、新しく彼女作ろうなんて考えられないくらいに、お前のこと、好きになったよ」
 柔らかな声が降ってきて、いっきに体中の熱が上昇していく気がする。きっと顔も赤くなっているんだろう。
 フッと小さな笑いをこぼして、声だけでなく表情までが柔らかくなって、その顔が近づいてくるのを見ていられない。ただ、ぎゅっと目を閉じてしまったら、触れてくるはずだった唇が口の上に落ちることはなかった。
 どうして、と思いながらおずおずと瞼を上げれば、少し悪戯めいた目と視線が絡む。
「お前も言えよ」
 促されるまま好きだよと伝えれば、やっと唇が塞がれた。

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オメガバースごっこ3

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※ ここから受けの視点になります

 前から本当の想い人が誰かを知っていた想い人の姉には、付き合うことを了承したその日のうちに報告した。こちらの想いを守ってくれながら、高校入学を機に大きく距離が離れてしまった彼との間に立って、あれこれと協力してくれていたのを知っていたからだ。
 彼女は、想いを叶える気も叶うなどと考えたこともなかった自分に、オメガバースの世界ならという仮定の中で、彼と番になるという幸せな妄想を与えてくれていた。
 それだけでも充分すぎるくらいに有り難かったのに、彼がけっこう大きな怪我をして入院までしたときには、暇ができたなら読んでおけとBL本を送りつけてきたのだ。どこまで狙った判断だったのかはわからないが、彼との関係が大きく変わったのはあの日で、あれがなければ彼からの交際申込みはなかっただろうと思う。
 ただ、彼との間に性欲処理的な関係が出来ていたことは伝えておらず、何があって交際に至ったのかを詳しく説明することができなかったのと、自分にとってもかなり唐突な申込みだったし、彼が何を思って付き合おうなどと言い出したのかわからなくて、彼女に伝えられたのは付き合うことになったという事実だけだった。
 だから、彼女が良くわからないから直接相手からも話を聞き出すと言いだした時に、可能ならなぜ付き合おうと言い出したのか聞いて欲しいとお願いした。BL本を読んでくれるようになったから、感覚が麻痺している可能性というか、ちょっとした好奇心や思いつきで言い出したのかもという不安をこぼした自覚もある。
 ここがオメガバースの世界なら番、という認識を自分たちが持つことになった瞬間には彼女も立ち会っていたし、彼女が送ってきたBL本はオメガバース関連ばかりだったし、Ωにとっての良いαについて色々考えさせてしまったようだし、彼女ならこの不安を理解してくれるだろうと思った。それに、ここが本当にオメガバースの世界で自分たちが本物の番だったら良かったと言われたことからも、自分たちの交際に今後もオメガバースはついて回りそうだと思っていたせいも大きい。
 そんな彼女から、呆れ返ったメッセージが届いたのは報告したその日の深夜とも言える時間で、こちらの想いに相手が一切気づいていないことを教えられた。
 そういや、好きだと言われることがなかったので好きだと返すことはしなかったし、こちらの想いに対しても、嫌じゃなければ付き合えという程度の確認しかされていない。ただこちらとしては、とっくの昔に気付かれていたせいでの、やや強引な交際申込みなのだと思っていたから驚いた。
 浮気は許容できないから彼女が出来たら終わりとは言いながらも、誘われれば断ることなく抜き合いに応じていたのだ。恋人として触れているわけではなかったから、甘い雰囲気やらはなかったけれど、相手の中に行為への嫌悪がないことや、それなりに楽しんでいることが充分に伝わってくるような時間を重ねていたから、当然、相手にだってこちらの想いは漏れ伝わっていると思っていた。
 一切気づいてない状態で、あの強気の意味がわからない。いやまぁ、結構な数の告白を受けてきたらしい彼からすれば、自分からの交際申込みを嫌がられる想定が低いのかもしれないけれど。なんせ、こちらは腐男子バレもしていれば、彼との番設定を受け入れても居るのだ。その前提のない男に交際を迫るよりは、格段にハードルが低いのは認める。
 彼女からのメッセージは、彼が交際申込みに踏み切った理由とともに、変にこじれる前にちゃんと互いの気持ちを確認し合うように勧める文言で〆られていた。
 どうやら、彼の怪我の世話をし、競技復帰を支え、それを苦に思うどころか一緒に遊ぶ時間が増えて嬉しかったと伝えたことで、怪我を惜しまれてばかりだった彼の気持ちを掴んだらしい。
 言われてみれば、それを伝えた直後に唇を奪われて呆然としたんだった。その直後に彼が発したセリフが「本当にΩなら良かった」だったせいで、すっかり忘れていたようだ。

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オメガバースごっこ2

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「俺の怪我を喜んだのがあいつだけだったから」
 バカ正直に、独占欲に気づいたからなどと伝えるつもりはなかったので、代わりにその独占欲に気付かされた彼の言動を伝えた。
『喜んだ? すごく残念がっていたと思うんだけれど』
「俺が怪我したせいで、あいつに色々世話して貰ったり自主練につきあわせたりしたの、迷惑だったとか一言も言わねぇどころか、一緒に遊ぶ時間が増えて嬉しかったとか言いやがるから」
『ああ、なるほどね』
 健気に尽くされて絆されちゃったか、と続いた言葉はどこかからかいを含んで聞こえていたから、その通りだと思うもののなんだか少し腹立たしい。想定の範囲内ではあるが、身近で発生したネタを楽しまれている気がする。
「で、あいつの方はどうなんだよ」
『どう、って?』
「無理強いしたつもりはないし、俺と付き合ってもいいって思ったから了承したのはわかってるけど、あいつが俺と付き合う利点って何?」
『え?』
「姉貴と楽しくやりとりするためのネタ扱いされるのも多少は覚悟してたけど、速攻電話掛かってくるとは思わなかったし、さっきも言ったけど、あいつを手放したくないっつうか、番契約がないこの世界であいつを自分のものと言える状態にしたくて、今現在俺が取れる手段として恋人になってもらった、って形になってるはずなんだけど、それ、あいつどこまでちゃんと認識してる?」
 お前のことが欲しいと、確かに口に出して言ったはずだ。
「BL本の読みすぎで感覚おかしくなってる自覚はないわけじゃねぇけど、付き合いで読んでるっつうか、時間あったし世話にもなってるからあいつの好きなものを俺も知っておきたい、くらいの気持ちだから、俺に、腐男子の仲間入りした意識はねぇんだよ。オメガバース持ち出して口説いたけど、腐男子同士で本の中の世界を試してみよう、みたいな感覚だと、俺の方は結構困る」
 絶対に、何が困るのかという追求があると思っていた。なのに電話の先で黙り込んでしまった姉は、大きなため息を聞かせてきた後、もっとちゃんと二人で話し合いなさいと諭すように言った。そんなこと、付き合いだしたと聞くなり茶化すような電話をかけてきた相手に言われたくはないのだが。
「姉貴がすすんで首突っ込んできてんだろ。まぁ、俺の方に協力してくれないのは想定内だからいいけど。じゃあ他に、あいつが俺に聞いてくれって頼んだのは?」
 聞きたかったのは交際申込みに至った決め手だけかと続けた声は、自分でも分かる程度には棘があったけれど、そんなものに怯むような姉ではない。
『頼まれたとわかってるなら、尚更、ちゃんと二人で話し合いなさいよ。あと、電話したのは、早急にあなたに伝えて置きたいことがあったからよ』
 何かと思えば、今後恋人として関係を進めていくつもりがあるなら、BL本を参考にしたりせずリアルの男同士の行為についてきちんと勉強しておけ、という話だった。当たり前過ぎて呆れてしまったが、その当り前という認識があるかどうかがとても重要で、どうしても確認して置きたかったらしい。
「しかし、よく実の弟相手にそんな助言する気になるな」
『それはあなたが、オメガバースを持ち出して口説いたからでしょう』
 発情期がないのも、勝手に濡れないのももちろんわかっている。本当にオメガなら楽にセックスできるのにと考えたことがあるのは事実だし、本当にオメガなら良かったという発言をしたのも事実だけれど、セックス中に、お前がオメガなら楽に突っ込めるのに、などというデリカシーの欠片もない暴言を吐く予定はない。
 ただ、楽だったろうな、と考えずに居られるかはちょっと自信がないのと、それを相手に気取られないよう隠しきれるかという部分は少し危ない気もする。姉が心配して口を出してきたことを考えたら、そこは気合を入れて充分に気をつけるのが良さそうだ。

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オメガバースごっこ1

ここがオメガバースの世界ならの続きです。

最終話→   目次へ→

 お付き合い開始の了承を半ば強引にもぎ取った夜、姉から直接電話が掛かってきた。
 今までも散々、仮にここがオメガバースの世界なら番を得たアルファなのだから、という理由であれこれ口出しはされてきたけれど。まさか番ではなく恋人という形で、本当に付き合い出すとまでは思っていなかったんだろう。
 自分たちの関係について、何かを問うような連絡は初めてだったので驚く。同時に、抜きあうような関係になった事は一切知らせなかったくせに、付き合うことになったのは速攻で知らせたらしいことに、なんとも言えない気持ちになった。
 もちろん、いくらBLな内容で盛り上がる関係だったとしても、自分のエロ体験を幼馴染として育ってきた年上の女性相手に語れるわけがない彼の気持ちはわかる。エロ体験の相手が弟の自分では尚更躊躇うだろう。
 それはわかるが、エロが絡まない体験談も、どうせなら控えて欲しかった。姉からすれば身内とは言え他人事だろうし、身近なところで起こったリアルな題材に、ただただ興味と興奮を向けてくるだけに決まってる。
 ついでに言うなら、自分自身の交際をネタに姉とキャッキャとはしゃげるのだとしたら、少しばかり落ち込みそうだった。相手が腐男子で男同士のあれこれに耐性があるというか、交際申込みに不審そうな顔をしながらも比較的あっさり頷いてくれたのは、物語の中の経験を自分も体験できる的な下心混じりだとわかっているからだ。
 彼女が出来たら終わりと明言されてはいたが、誘えば抜き合いに応じてくれたし、その行為に嫌悪がないのはわかっていたし、相手からの好意をそれなりに感じていたから、押せば落ちると思っていたのは事実で、彼が腐男子であることはこちらにとっても好都合ではあったのだけれど。でも、それを速攻で腐仲間と楽しむネタにされるのは、精神的に少し堪える。
 しかも相手はあの姉だ。オメガバースの世界なら、という前提ではあっても、身内が同性の番を得た設定をあれだけ楽しんでいたのだから、リアルにお付き合いが開始されたところで反対されるとは欠片も思っていないが、あの調子でリアルの関係に口出しされてはたまらない。
 確信を持って言えることだけれど、弟の自分よりも腐仲間として可愛がっている相手の肩を持つに決まっているし、番を得たアルファ教育だったものが、スパダリとかいう超人教育に変貌してしまったらと思うと憂鬱すぎる。
『それで、決め手は何だったの?』
 交際を持ちかけたのは間違いなく自分の方で、彼がオメガではないただの男であることも理解しているし、むしろ本当には存在しない番契約では、彼を自分のそばに縛って置けないのがわかっているから恋人になった。という簡単な説明をしたあとの問いかけに、小さなため息を吐き出した。
 これを言ったら、なぜ突然付き合おうなどといい出したかの理由が、姉から彼に流れるんだろう。むしろ彼の方から、姉に理由を聞いて欲しいと頼んだ可能性さえある。
 これはきっと、そういう電話だ。
 BL本の読み過ぎで感覚がおかしくなってるのではと不安そうにしていたし、正直なところ、その可能性は自分でも完全に否定は出来ないのだけれど、それでもあの時、彼を本当の意味で自分のものにしたいと思ってしまった。番という絆で自分に縛っておくことができるオメガバースの世界を羨んだくらいに、彼を他の誰かに渡したくないと思ってしまった。
 オメガバース世界の番なら、発情期だとかフェロモンだとか本能だとかで簡単にセックスまでたどり着けるのに、なんていう下世話な発想とは違う独占欲に気づいたら、取り敢えず恋人という形で手に入れてしまおうと思うのは当然だろう。なんせ相手は浮気とか二股とかを相当気にしていると言うか、絶対に無理という態度なので、恋人にさえなってしまえばそう簡単に他の誰かに持っていかれることはない。

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