追いかけて追いかけて17

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 一緒にシャワーを浴びず一人でシャワーを済ませるということが、イコールで、相手は事前にシャワーを使わない。だなんて事がわかるはずがない。当然入れ替わりで相手もシャワーを浴びに行くのだろうと思っていたから、行かないよと言われたら戸惑うし、戸惑っている間にベッドの上に転がされていたし、こちらの戸惑いに相手はなんだか楽しそうに笑っているし、これは確かに狡くて悪い大人の顔って感じがすると思った。
 もっと狡く悪く立ち回っていいと言ったのは自分だ。深めの呼吸を繰り返しながら恐る恐る驚きと戸惑いで硬直している体の力を抜けば、こちらを押し倒す形で見下ろしている相手はますます楽しそうに笑っている。
「納得できないのにそんな態度見せてると、本当に好きなようにされちゃうよ?」
「していいって言ったの、自分なんで」
「ああ、そういう方向で納得しちゃうのか」
 信頼されてるなぁとしみじみこぼす顔は優しいから、信頼を裏切られる恐怖なんてない。
「してますよ、信頼。でも聞いていいなら、教えてください。なんで俺だけシャワー使わせたのかって」
「そうだね。中洗おうとするのなしで、一緒にシャワー浴びても良かったんだけどね。あんな強烈な誘い文句貰った直後に一緒にシャワーはこっちの理性がちょっと危なかった。から、一人で使ってもらったのは俺のためのインターバル。で、俺がシャワーを使いに行かないのは、そういった時間はもう必要がないから。逆に、君を一人でこの部屋に残すほうが問題」
 余計な思考を回しそうな手持ち無沙汰な時間はあげられないと言われて思わず納得した。
「ああ……」
 なるほど、とまでは口にしなかったけれど、こちらの納得は相手も感じたらしい。ふふっと優しく笑う顔は満足気だ。
「一応、どうしてもシャワー浴びてきてくれって言われたら、従うつもりはあるんだけど。というかあったんだけど、でも、大丈夫そうだよね?」
「はい」
「コンドームは絶対に使うし、触れとか舐めろとかは言わないけど、でももし、シャワー浴びてくれたら嫌悪感が減るかも、みたいな気分になった時は正直に教えて」
 じゃあ、触るよ。という宣言とともに近づく顔に待ったを掛ける。
「あの、多分、汚いとか思わないから、触るくらいは俺もしたい、んですけど……」
 シャワー浴びてくれたら、舐めるのだってチャレンジくらいはしてみたいんだけど。とは思ったけれど、さすがにそこまで言っていいのかは迷ってしまって止めた。シャワー浴びて貰っても、いざ目の前にしたら口を付けるのは無理かもしれないし、そうしたら相手の期待を無駄に上げるだけで終わってしまう。
 なんか、相手が男に抱かれたこともあるって知ってしまったせいか、相手任せで触れてもらうことばかり考えていた欲求に、自分からも触れてみたい欲が混ざり始めているのかもしれない。
 さっき、もし童貞貰ってって言っていたら、抱かれてくれる気が少しでもあったんだろうか。なんてことをチラリと思いながら、照れくささで伏せていた視線を相手へ向けた。思考時間はそう長くなかったと思うけれど、相手の反応のなさに、あっさり不安になったというのもある。
「あ、あの……」
 目が合った相手は、なんとも言えない微妙な顔をしていたから焦る。多分きっと、相当変なことを言ってしまったらしい。
「うん、ごめん。ちょっと待って」
 苦しげにそう言ってから、相手は大きく息を吐く。そのあとは笑顔を作ってくれたけれど、思いっきり苦笑交じりだから、なんだか本当に申し訳ない気分になる。
「あの、あの、変なこと言って、」
「あー違う違う」
 オロオロと謝罪を口にしかけたら、遮るように否定された。
「俺の体に興味があるわけじゃないんだろうって思ってたから、意外だっただけ」
 そんなことないですと、はっきり否定は出来そうにない。だってつい今しがた、似たような事を自分で考えていた。相手に触れてみたいなんて気持ちは、触れとも舐めろとも言わないって言われて初めて自覚した。そんなこと言わずに触らせてって思ってしまった。
「あと、触りたいって言われて、ちょっと理性が揺れただけ」
 煽る気ないのはわかってんだけどねと、やっぱり苦笑交じりに笑う顔が近づいてきて、軽いキスが一つ。
「もちろん、触ってくれたら嬉しいよ」
 こちらから手を伸ばしていいし、どこに触れたっていい。そうやってこちらから触れたがるのは、とても嬉しいことだと相手は言った。

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追いかけて追いかけて16

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 やがて仕方ないなと言った様子で、狡いのは承知で言うけど出来れば最後まで抱きたいと思っている、と言われたけれど、何が狡いのかがわからない。こっちだって、出来れば最後まで抱かれたいと思っているのに。
「俺も、そう思ってますけど……」
「うん。でも男同士のセックスって、それなりに準備必要だからね」
「それはまぁ、仕方ない、ですよね」
「そう。仕方ない」
 同意しながらも相手は困ったように笑って、どこまでわかって言ってるのと続けた。
「どこまで、って?」
「お腹の中、洗うことまで考えてる?」
「あぁ、それか……」
 酷く言いにくそうに告げられた内容に、そうか抱かれるならそういう事をしなきゃいけないのか、と思う。
 一応知識としては持っていた。ただ、妄想の中ではそういった現実的な手順なんて踏まないし、本格的なアナニー経験だってない。ペニスを弄りながら、アナルも一緒に撫でてみたり、指先を軽く埋めてみたりはしたけれど、ローションだのワセリンだのを使ってはっきりと自分で中に触れたことはなかった。
 ローションとゴムさえしっかり使えば、なんとかなるようなイメージもあるがどうなんだろう。
 ついでに言うなら、あの日、突っ込む気満々で来ていた後輩だって、お腹の中が綺麗かどうかなんて一切気にした様子がなかった。ただあの後輩に関してはなんの信用もないからな、とも思う。ローションとゴムを持参してたのはもちろん知ってるが、結果だけ言えば、洗っても居ない腸内に生指を突き立ててきたし、同居人の到着がもっと遅かったら、そのまま生ペニスをその場所に突っ込んでいただろう。頭に血が上っていたからって、衛生観念の欠片もない。
 ああ、余計なことを思い出しすぎた。
「知識はあるっぽいけど、まぁ、普通に考えて抵抗あるよね」
 嫌そうに顔を歪めてしまったのを、完全に別の意味で受け止めた目の前の相手が、小さく息をつく。
「一緒にシャワー浴びながら、必要な準備だよって言いくるめたら、もしかしたら納得してお腹の中洗わせてくれるかも。という期待のもと、出来れば事前に何も教えずに、バスルームに連れ込みたかったんだよね」
 失敗したけどねと言って相手はやっぱり苦笑する。
「抵抗感って意味なら、中を洗うことそのものより、あなたの手で洗われるってのが物凄く抵抗感じますけど。どうしても必要な準備だから中洗えってなら、自分でしますよ?」
「でも経験もなく一人で綺麗になんて出来ないでしょ。それとも経験有る? アナニーとかしてたりする?」
「いえ、ないです、けど」
「じゃあダメ。中途半端な洗腸ならしないほうがいいし、そうなる可能性のが高いから」
「しなくていいんですか?」
「うん。反応と態度次第で手順変えるって言ったろ。嫌がることさせる気ないもの。ただ、口で説明したら嫌だって言われることも、実際の反応見ながらお願いしたら、つい頷いちゃったり受け入れちゃったりする場合もあるよねというか、まぁ、悪い大人でごめんね?」
 色んな下心ありまくりでどうしても狡くなっちゃうんだよと自嘲気味に笑われて、やっぱり首を傾げてしまう。
「そんなの、お互い様で良くないですか。恋人にもセフレにもなれないのに、誘いに乗って抱いて貰おうとしてる俺だって、たいがい狡いし悪いと言うか、酷いことしてるって自覚、ありますけど」
 むしろ自分のほうがよっぽど狡くて酷い真似を相手にしている気がするのに。
「ああ、俺に酷いことしてるって、思ってるんだ」
「そりゃまぁ」
 この誘いに乗ること以外にも、本当にいろいろと酷い真似をし続けてきている。自覚は有る。
「だから、別に狡いだの悪いだの気にしなくていいです。俺が嫌がって怖がって拒否することを強要する気がないのはわかってますし、納得できないと頷けないことも多いと思うんでこの後も手間かけさせちゃうと思いますけど、でも、俺が流されて頷いて受け入れることに関しては罪悪感とかいらないです。むしろもっともっと狡く悪く立ち回って、俺に気づかせないまま、あなたの好きなようにして欲しい」
 言えば、最初少し驚いた様子で、次にはおかしそうに、でもどこか嬉しそうに、柔らかく笑って見せる。優しい笑顔を見せられると、それだけで少しホッとする。
「うん。すごい誘い文句だった。でもわかったよ」
 じゃあ一人でシャワーを浴びておいでと残し、彼は脱衣所を出ていった。

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追いかけて追いかけて15

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 部屋に入ったらの言葉通り、扉が閉まったと同時に振り返った相手に何度も繰り返しキスされた。最初だけはただ触れるだけのキスだったけれど、一度僅かに離れて触れる度に少しずつそれは変化して、彼の舌を口内に受け入れる頃には背後の扉に完全に背を預けてしまっていた。
 個室居酒屋や車の中ではそこまで意識しなかったけれど、並んで立てば二人の身長差は歴然だ。ひょろりとして見えたって目の前に立たれれば当然圧迫感はある。でも相手と背後のドアとの間に挟まれて、こちらの僅かな抵抗などは完全無視でやや強引にキスを続けられていても、嫌悪感はわかない。その事実に安堵しながら、重力に従い流れ込んでくる相手の唾液を喉の奥に落とした。
 それが合図だったとでも言うように、ようやく相手の顔が離れていく。濡れた唇を相手の指が拭っていくのに合わせて、途中から閉じていた瞼をどうにか押し上げれば、優しく慈愛に満ちたような目とかち合ってしまって戸惑うしかない。
 執拗なキスを繰り返していた興奮だってないわけじゃなくて、頬はかすかに上気していたしキスの名残で濡れた口元は嬉しげに口角があがっている。でもやっぱり全体的な雰囲気が、あんなキスの後だと言うのに生々しさが薄くて酷く優しい。
「あの……」
「俺の唾液飲まされても、嫌じゃなかったね?」
「それ、確認必要ですか?」
「あまり必要ないね。でも、なんでそんな顔をしてるのって、思ってるみたいだったから」
 拒否されなかった安堵と受け入れてもらえた愛しさだよと言った相手は、ありがとうと続ける。一体なんのありがとうかわからない。そう思ったら、俺を欲しがってくれてありがとうと言い直された。どんだけ顔に出てるんだ。
「じゃ、次は一緒にシャワーを浴びようか」
 言いながらこちらの手を取った相手が部屋の奥へと促してくるが、もちろん咄嗟に対応できるはずもなく、口からこぼれたのは疑問符の乗った音だけだ。
「は?」
「洗ってあげるよ」
「え、いや、ちょっと」
「大丈夫。俺も勃ってる」
 え、勃ってるんだ。という驚きに捕らわれている内に、あっさりバスルームの脱衣所だったわけだけれど、これは相手の手際が良すぎるってことでいいんだろうか。
 服を脱がそうと伸びてくる手から逃れるように身を捩って、ちょっと待ってと訴える。待って貰えないかと思ったけれど、相手はこちらに伸ばしていた手を引っ込めた。
「一緒にシャワー浴びるのの、何が問題?」
「何って……」
 聞かれても何が問題なのかはわからなかった。そもそも何で抵抗しているのかも良くわからない。一緒にシャワーを浴びるという手順が自分の中に存在していなかったから、ただ戸惑ったというだけな気がしてくる。
「手順がわからない、のが、嫌……みたいな?」
「あー……なるほど」
 それもなんだか違う気がすると思いながら口に出してみたけれど、相手はそれに納得がいった様子だ。けれど少し考える素振りを見せた後、相手は困ったように苦笑する。
「らしいと言えばらしいけど、そっちの反応と態度次第で次の手順大きく変わるような事だから難しい、かな。言葉で先に説明することで、身構えられても嫌ってのも大きい」
「それ、言ったら身構えるようなことをする予定があるって、言ってますよね」
「そうだね」
 すでに身構えちゃったよねと苦笑を深くした相手は、どうしようかなと言った後で口を閉ざした。

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追いかけて追いかけて14

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 手頃なホテルを見つけるまでの間、相手の話術に引き出されるに任せて、互いの性体験を暴露しあった。もちろん、今までそういった話題が二人の間で語られたことはない。ノリは実験内容やらを語ったり、相手の仕事の話を聞いているのとそう大差ないのがどこか不思議で、でもだからこそ、下世話な好奇心による猥談とは全く違うのだと思わされる。
 男相手の経験はもちろん、女性相手の経験もほぼないと相手に知っておいてもらうこと。逆に相手はちゃんと、男性とも女性とも交際経験があって童貞ではないどころか処女でもないと自分が知っておくことは、多分必要なんだろう。
 さすがに男を抱いたことも抱かれたこともあるってのは衝撃で、しかもその相手は同一人物だってのもなんだか驚きだったし、童貞貰って欲しいかと聞かれたのは予想外もいいところだったけど。ただ、彼が男性とお付き合いをしていたのは彼が高校生の頃だというし、抱かれた経験がないわけじゃないという程度の話だったから、抱かせて欲しいなんて事は言わなかった。というか、される想像はしたことがあっても、相手を抱く想像はしたことがない。
 うっかりそうこぼせば、実験前の注意事項確認みたいな雰囲気から一転して、興味津々に何をされる想像をしていたか根掘り葉掘り聞いてくるから、思いっきりたじろいで正直に答えることなんて出来ないままアタフタする。そうしている間に車はスルッと建物の中に吸い込まれて、ラブホに着いたのだと意識するとともに忘れていた緊張が蘇り動揺が加速した。
 先にさっさと車を降りた相手を視線だけで追えば、ゆっくりと正面を回ってきたたかとおもうと、助手席側のドアを容赦なく大きく開ける。
「緊張しちゃって出てこれないなら、さっきみたいにキスしてあげようか?」
 にこっと笑う顔は優しいというより楽しげで、降りなきゃ本気でキスされると思って、思いっきり首をブンブンと横に振った。
「じゃあ出ておいで。十数える間に出てこないとキスするよ」
 いーち、にー、と数え始めた相手に、慌ててシートベルを外して車の外に転がり出る。そんなに慌てなくてもいいのにと、慌てさせた本人が言うのはなんだか少し理不尽だ。
「慌てちゃって可愛いから、やっぱりちょっとキスしていい?」
 いたずらっぽく笑うのがどこまで本気かはわからない。でも許可したら間違いなくされてしまうのはわかるから、こちらが返せるのはダメですの言葉だけだ。
「さっき以上に誰かに見られる心配なさそうだけど」
 平日の午後という時間帯のせいか駐車場もガラガラではあるけれど。もしこのタイミングで他の客と会ってしまうような事が起きたら、どれだけ運が悪いんだって話だけど。
「スリルとか求めてないんで、するなら二人っきりになってからが、いいです」
「それは確かに。じゃあ、部屋に入ったらいっぱいキスしよう」
 ふふっと笑った相手が背を向けて歩きだす。くんっ、と体を引かれてこちらも歩き出してから、手を繋がれている事に気づいた。いつ繋がれたのかわからないのが驚きで、でも相手の手の温かさになんだかホッとしているのも事実だった。
 ああ、いつの間にか緊張も消えてる。酷い動揺も、狼狽も、随分と落ち着いている。
 本来の性格もあるのだろうけれど、いつも以上に気遣われているのがわかる。この人を好きになって良かったって、思ってしまう。
 色々と危惧するべき事項を投げ捨てて、誘いに乗ってしまったけれど、誘って貰えたことが今更しみじみと嬉しい。恋人にもセフレにもならないと言い切った後でも、欲しいならあげるよって言ってくれたのが嬉しい。
 欲しがったのは確かに自分で、でも実のところ、何を貰えるのかははっきりわかっていなかった。いったい何が貰えるんだろう。どんな妄想で抜いてたかは結局ほとんど口に出来なかったけど、想像の中の彼のように、優しく笑いながらたくさんのキスを落として、この肌に触れてくれるだろうか。
 少なくとも、取り敢えず部屋に入ったらキスはする。いっぱいする。他にどんなことをしてくれるのか。貰えるものは何もかも、全部もらって帰りたいなと思った。

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追いかけて追いかけて13

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 声を掛けていいものか迷っていたら、顔を上げないまま、相手が一応の確認だけどと話しかけてくる。
「もし俺が、欲しいならあげるよって言ったらどうするの。恋人になるのは嫌だけど、セフレにならなる。って意味には聞こえなかったけど」
 それともセフレになるのかと聞かれて慌てる。そんなつもりは欠片もない。
「なりませんよっ」
 思いっきり否定すれば、だよねと諦め混じりの苦笑がこぼれて、それからようやくハンドルに伏せていた頭を上げた。こちらに振り向いた顔は、視線が合うとふにゃっと柔らかに歪む。困ったような泣きそうな、なのにどこか優しい笑みを浮かべているから、申し訳ないと思うのに、同時にドキドキしてしまうような、不思議な感覚に襲われた。
「わかったよ。君と今後も継続できる関係を探すのは諦める」
 それは納得して引くという宣言にほかならない。なのに安堵するより胸が痛んだ。
「そんな顔をされると、このまま連れ込んでもいいのかなって気になるんだけど、どうしようか」
 そんな顔という指摘に、顎と眉間に思いっきり力を込めてしまっていたのを自覚する。グッと奥歯を噛み締めてしまったのも、眉間に力を込めてしまったのも、咄嗟のことで無意識だった。
「どーするって、何を、ですか。連れ込むって、どこに?」
 指摘されても力を抜くどころか、ますます眉間にシワが寄ってしまう。
「駅まで送るのと、ラブホ行くの、どっちがいい?」
「はぃ?」
「欲しいならあげるよ。というより、欲しい気持ちがホントなら、貰ってよ」
「でも、セフレにはならないって、言ったばっかで」
「うん。個人的に会うのは今日で最後のつもり」
 つまり最後に一回だけ触れ合ってみないかという誘いらしい。触れてしまうことで未練が産まれたり後悔しそうなら断っていいよと言われたけれど、そっちこそどうなんだと聞きたい。
 期待されたり未練を残されたり後悔されたりしても何も出来ない。というよりそもそもする気がない。彼との関係を断つ気持ちが変わるとは思えないし、触れたらますます、もう二度と会えない、会ってはいけないという気持ちが強くなるはずだ。
 本気なの。どういうつもりなの。期待じゃないの。大丈夫なの。後悔しないの。色々と聞きたかったけど、でも結局何も聞かなかった。誘いに乗るなら、相手の本音やら思惑なんて、きっと知らないままの方がいい。
「なら、ラブホ、へ」
 緊張から掠れて震える声が恥ずかしくて、顔どころか全身がのぼせたみたいに熱かった。
「了解。ね、車出す前に、先に一回キスしていい?」
「え、……なん、で」
「真っ赤になって可愛いから」
「うぇ?」
「後ちょっと緊張しすぎ」
 いいとも悪いとも言わないうちに、相手がこちらに身を乗り出してくる。そういや相手はまだシートベルトを着けていないんだった。
 ちゅ、と軽く触れた唇はすぐに離れたけれど距離はちっとも開かず、すぐにまた触れ合ってしまう。一回じゃないのかと思いながらもどうしていいかわからず受け入れ続けてしまえば、何度も軽いふれあいを繰り返した後で、目を閉じるように促される。
「そろそろ目、閉じて?」
 まだ終わらないのかと思いながらもやっぱり何も言えずに従えば、今度は少し長く唇が触れ合って、最後にちょっと強めに下唇を吸われた。
「んっ……」
 驚いた割に、なんだか甘えるみたいな鼻息が漏れてしまって恥ずかしい。なのに、やっと少し距離が開いたのを感じて瞼を上げれば、相手は満足げに笑っている。
「いいね。もう少し続けようか?」
「一回って、言った」
「うん。一回じゃ全然足りなかった」
 悪びれずに告げて再度距離を縮める相手の顔を避けるように顔を横に向ければ、当然のように頬にその唇が落ちてチュッとリップ音を響かせた。
 窓越しに見えた景色に、車の中とはいえ外から丸見えだってことを今更ながら強く意識してしまって焦る。
「も、ちょっと、やですって」
 相手を押しのけるように腕を突けば、じゃあ終わりと言ってあっさり身を引いていく。
「てかこれ、外と変わらないんですけど。俺、まだ1年以上この大学通うんですけど」
「大丈夫。誰も通ってなかったよ」
 確かに今いる駐車場は大学の裏側だし、メインの通りからはだいぶ外れているし、駐車場そのものも閑散としているし、時間帯の問題か人っ子一人見当たらないけれど。
「そういう問題じゃなくて」
「そういう問題だって。あのまま出発するより、キスして良かったって思わない?」
 俺は思うよと断言されて、否定は出来なかった。確かに相手を意識しすぎることもなく、緊張ものぼせるみたいな羞恥も消えて、これからラブホに行こうとしてるってのがなんだか嘘みたいな雰囲気だ。
「それより、そろそろ本気で移動するけど、目的地は俺にお任せでいいの? 気になるとことかある?」
 気になるところなんてあるわけがないと言えば、電車から見えたりするホテル気になったりしないのと問い返されてしまった。いや確かに、通学中に車窓から見えるラブホってのはあるけれど。夜間にギラッと光っていると気になるものだけれど。
「せっかくですし、あなたのオススメに連れてって下さいよ」
「そんなのないから希望を聞いたんだけど」
「お任せで連れてってくれるのはオススメじゃないと?」
「お任せされたら適当に道流して、目についた入りやすそうなとこ入るだけ」
 お任せでと返せば、わかったの言葉と共にようやく車にエンジンがかかった。

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追いかけて追いかけて12

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 困ったなと思う。困った顔を見せたからか、彼は更にゆっくりと、言葉を選び選び続けていく。
「恐怖感や、嫌悪感で、というなら。彼と俺とは違うということを、君なら、理解してくれるだろうと思ってた。君が、男同士で恋人になる、ということに否定的なのは知ってるし、君を好きだと思う気持ちから、君に何かを強要する気なんて一切ない。それをわかった上で、それでも君がもう、俺と過ごす時間が苦痛だとか、生理的に無理だとか言うなら、君のその気持ちを受け入れて、君と会うのはこれっきりにする。今日は、そういうつもりで、来たんだけど。でも、俺はもっと何か根本的な所で、間違えてるらしい。だって君は、俺と彼とが違うってことを、しっかりわかってる」
 そうだろと言いたげに、真っ直ぐに見つめられて、同じように真っ直ぐ見つめ返すのは無理だった。しかし逃げるように顔を正面どころか少々逆側へ向けてしまっても、彼の強い視線は注がれたままだし無視できない。視線に焼かれてでも居るみたいに、彼の視線に晒された肌がチリチリピリピリ反応している。意識しすぎだと思えば思うほど、恥ずかしさがこみ上げるし、まるで彼の視線に感じてでも居るみたいに、チリチリと焼かれていた肌がゾワッと粟立ってしまう。
「はぁああ」
 耐えきれなくなって、大きく息を吐きだした。触られたわけでもないのに。見られただけで期待に体が疼くなんて。
「だから会いたくなかったのに」
「えっ?」
 ぼそりと零した声に相手が焦ったのはわかったけれど、自分自身に手一杯で、熱くなった頬を両手で覆って俯いた。とても相手の顔を見てなんて話せない。
「俺、あなたと付き合う気、本当にないんですよ。恋人になんて、なりたくない」
「知ってるよ」
 聞こえてきたのは思いの外単調な声と小さな溜め息だった。一体どんな顔でそれを言っているんだろうと気にはなったが、もちろん、顔を上げてそれを確かめる気にはなれない。
「恋人にならなくていい。関係の名前なんて、友人でも、先輩後輩でも、なんならちょっとした知り合いでも、なんだっていい。俺はただ、君と過ごす時間が無くなってしまうのが、惜しいだけだよ」
 今度は自分が、知っていると返す番だった。
「知ってますよ。でもそれ、俺の気持ちが変わるの待ってるってとこ、あります、よね? 俺はあなたへの好意を隠せないし、いつか想いが育ちきって、あなたが男でも付き合いたくなるかもって期待、あります、よね?」
「そりゃあ、多少は、ね」
 今度ははっきり、苦笑されているのがわかる。
「ただ、そうならなくたって構わないとも、思ってるよ。だって君と過ごす時間は、とても楽しい」
 恋愛感情を抜いても君との会話は有意義だという言葉は多分本気で、それは自分だって同じだった。それを疑う気はないし、それを嬉しいとも思う。でもやっぱり、いつか恋人になってもいい気になるか、このままの関係が続くかの二択しかないんだなと思う。キスに嫌悪感がないだろって、実践して見せたのは相手のくせに。
「あなたが見落としてるのは、俺があなたとの恋人関係を否定したまま、あなたを欲しがる可能性、ですよ」
 ああ、言ってしまった。
「……えっ?」
「理由も告げずにあなたを一方的に切ったのは、後輩の男に襲われた事を知られたくなかったとか、それが何かトラウマになってあなたを避けたくなったとか、そういうんじゃないんですよ。あなたに会ってしまったら、キスして欲しいとか、俺に触って欲しいとかって気持ちが、きっと抑えられないって思ったから、です」
「……は?」
 きっと呆然としているんだろうなというのが、漏れる声と気配からありありとわかる。当然だろう。その顔を見てやりたい気持ちは湧いたけれど、きっと笑ってしまうだろうから止めておく。
「それを説明して、だから会えませんって言って、あなたが納得して引いてくれるなんて思えなかったから、理由、言えなかっただけです」
 返す言葉もないらしく、気まずい沈黙が車内を支配する。彼の言葉を待つべきなんだろうか。いっそ、知りたかったことはわかったでしょうと言って、車から降りてしまおうか。迷いながら、そっと溜め息を吐き出すと同時に、ゴンと鈍い音が響いてビクッと肩が跳ねてしまった。
 何が起きたのかと、さすがに顔を上げて彼の方へ顔を向ければ、相手はハンドルに頭を押し付けるように項垂れている。先程の音は、どうやらハンドルに頭を打ち付けた音だったらしい。

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