知り合いと恋人なパラレルワールド8

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 悩んだ末、出合い系やハッテン場などを試すのは怖すぎるが、ゲイバーを覗きに行くくらいはしてみる気になった。バーで飲む程度なら、そうそう危険な目に遭うこともないだろう。
 もちろん、この人になら抱かれても良いと思えるような相手と出会えたら、その時は理由を話して、経験を積ませて貰えるよう頼むつもりだった。けれど初めからそんな都合の良い出会いがあるとは思えないし、今まで興味がなく全くと言っていいほど知らない世界に、やはり単身乗り込むのは不安で怖い。
 だから先輩を好きになった事を知らせた友人たちに、初回だけで良いから一緒に来てくれと頼んでみた。
 止めておけと諭してくる友人と、それはちょっとと嫌がる友人と、面白そうだとむしろ食いつき気味の友人とがいたので、面白そうだと言ってくれた友人と出掛ける日を決める。好奇心旺盛でノリの良い友人が居てくれて良かった。
 なのに待ち合わせた時間に、待ち合わせ場所の駅改札に現れたのは、その友人ではなく先輩だった。しかも遠目にもわかる機嫌の悪さだ。
 最初これは偶然で、先輩もどこかへ出掛けるため駅に来たのだと思った。しかし先輩はまっすぐこちらへ向かって来ると、正面に立って睨むように見上げてくる。
「帰るぞ」
「えっ?」
「お前に話がある」
「いやでも、俺、これから友達と出掛けるとこで……」
「知ってる。それと、そいつは来ない」
 嘘だと思うなら電話してみろと続けたので、きっと本当なのだろうと思う。けれど、どうしてと思う気持ちが強く、先輩に睨まれているのもあって、携帯を取り出すことも先輩へ言葉を返すことも出来なかった。
「悪い。機嫌が悪いのはお前のせいじゃない」
 固まるこちらに気づいた先輩が、バツの悪そうな顔でそう言った後、気を静めるように深く息を吐きだしていく。先輩を包む空気が少し和らいだ。
「どうしても行ってみたいなら俺が付き合う。ただし、お前が俺の話を聞いた後でな」
 だから一旦帰ろうと促す先輩の声は、無理に頑張っている様子が滲むものの、優しい甘さで響いた。
「わかり、ました」
 どうにか言葉を絞り出せば、先輩はホッと小さく息を吐いて安堵の表情になる。その顔に釣られてか、こちらもなんだか少し安心した。
 先輩がどこまで知っているのかはわからない。先輩の機嫌が悪いのが自分のせいなら、ゲイバー行きを咎められるのだと予測がつくが、そうでないなら聞かされる話の予想もつかない。しかも話を聞いた後でなら、先輩自身がゲイバー視察に付き合うとまで言っていた。
 何を聞かされるのだろう。あまり悪い話ではないといいなと思いながら、先輩の半歩後ろを並んで歩く。
 やがて辿り着いた先輩の部屋の中は、頻繁に訪れていた以前と変わらず、なんだか懐かしいなと思う。先輩が戻ってきてからはとんとご無沙汰だった。
 なんだか泣きそうになるのは、先輩が入れ替わっていた時期を懐かしんで、と言うわけではなさそうだ。戻ってきた先輩に当初はやんわりと、自分たちも付き合ってみないかの失言後ははっきりと、拒絶されて訪問できずにいた辛さを思い出してしまうのと、その場所へ入れて貰えている喜びとが混ざった、なんとも複雑な気持ちからな気がする。
「俺の話、聞けるか?」
 目の前の小さなテーブルに、取り敢えずといった感じでコーヒーの入ったカップを2つ置いてから、対面に腰を下ろした先輩が聞いてくる。少し心配そうな顔をしているから、泣きそうなのがバレているのかもしれない。
「はい」
「ならまず結論から言うが、お前が向こうの俺を忘れられなくて、俺を諦める気がないってなら、俺はお前と付きあおうと思う」
「えっ?」
「せっかく距離置いてやってんのに、ゲイバー行って男との経験積まれたんじゃ、俺が距離置く意味なんかないからな」
「な、なんで……ってかどういう意味か」
「わからないか?」
「わかりませんよっ!」
 つい声が大きくなった。先輩は落ち着けと言ってから、じっとこちらを見つめてくる。
 待たれていると思って、深呼吸を一つ。そうしてから続けて下さいと促せば、先輩は軽く頷いて口を開いた。
「お前、元々は普通に女が好きなんだろう?」
「そりゃまぁ、そうですけど」
「俺に距離置かれて素っ気なくされても、俺を諦めて女と恋愛しようとは思わなかったのか?」
「だって好きになったの先輩で、先輩が男なのは仕方ないじゃないですか。後、諦めるには、俺は色々知りすぎてます」
「知りすぎてる?」
「向こうの世界でも、俺が積極的に先輩誘ったらしいですし、あまりその気じゃなかった先輩も結局俺を好きになったわけだから、こっちの俺にだってチャンスはあると思うんですよね」
「お前は向こうの世界とこっちの世界を同一視しすぎだ」
 先輩は呆れた様子でため息を付いた後、向こうとは根本的に違うことがいくつかあると言った。

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知り合いと恋人なパラレルワールド7

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 今回は寝ている間に入れ替わったので、鍵も携帯もそのままだった。
 先輩は本当にただのガラクタとなった古い方の携帯をあっさり解約し、こちらに来ていた先輩が新しく契約した方の携帯を躊躇いなく使っている。
 預かっていた合鍵はまだ自分の手元にある。返そうとしたら、もしまた万が一入れ替わる可能性を示唆され、そのまま持っててくれと頼まれたからだ。
 しかし、合鍵を持ったままでいいと言われた時、嬉しさで少々舞い上がり、つい、俺らも付き合いませんかなどと口にしたのはどうやら失敗だった。戻ってきた先輩にそんな気がないことは、確かめなくたってわかっていた。
 避けられるわけではないが、態度がやはりよそよそしい。というよりも、元々の関係に戻ろうとされている。
 先輩と付き合っていた向こうの自分と、ただのサークル後輩でしかなかったこちらの自分は別人、という考えなのはわかっているし先輩らしいと思う。
 先輩はやっぱり先輩だ。そう思うことはちょくちょくあって、けれどそう思うたび、こちらの先輩に対する気持ちが育ってしまうから厄介だった。
「せっかく戻れたんだから、元の状態に戻した方がいいだろ。お前が好きになったのは俺じゃなくて向こうの俺。そこ間違うなよ」
「間違ってませんよ」
「それ、俺に向こうの俺を重ねて好きな気になってるだけだろ。そんなんで俺と付き合ったって、後で幻滅するか後悔するぞ」
 先輩はやっぱり先輩だとか、きっと元々自分たちは惹かれ合う素質があるはずだとか、向こうの俺を好きになったなら先輩だってきっと自分を好きになるはずだとか、言いたいことは色々あったけれど、どれを口にしたところで先輩の気が変わるわけではないことはわかっていた。それどころか一つ一つ否定してくるだろう事まで予測がついてしまう。
 あの日向こうの先輩が触れてくれたのは、メールが繋がらなくなって精神的に相当参っていたからこそなのだ。戻ってきた先輩に、そんな風に付け入る隙なんてあるわけがなかった。
「でも、元の状態になんて戻れるわけ……」
「まぁ、色々とあったのは事実だしな」
 せめてもの抵抗でささやかに抗議したら、こちらを拒絶するようなピリッとした空気を和ませながら苦笑する。
「けど、近くにいたらいつまでたっても勘違いしたままになるだろ。鍵は預けるけど、お前との距離は少し置きたい」
 先輩を包む空気は和んだのに、吐き出されてきた言葉は結局こちらを拒絶するものだった。
「嫌です!」
 咄嗟に叫んでしまったものの、決定事項だと突き放される。
 俺らも付き合いませんか、なんて口にしたことを盛大に悔やんだが後の祭りだった。
 その後、有言実行であからさまにますます素っ気ない態度となった先輩と、それに比例して落ち込みまくる自分に、サークルメンバーは思いの外優しい。少し前、いきなり懐いてどうしたと驚かれたばかりだが、どうやら、一方的に懐いた結果ウザがられて落ち込んでいる、という風に映っているようだ。
 先輩の言葉もわからなくはない。けれど、自分の中にある想いを否定する気にはなれなかったし、冷たい態度を取られてさえ先輩を諦める気にはどうしてもなれなかった。
 詳細をあれこれ聞いたわけではないけれど、向こうの世界だって自分の方が積極的だったらしいし、誘いまくって先輩をその気にさせたみたいだし、その結果先輩が向こうの自分を本気で好きになったという経緯らしいことを知っている。
 それは希望だ。
 サークルで仲の良い同期数人には、先輩を好きになったけど振られたと話してみた。入れ替わってどうこうの事情はさすがに省いたけれど嘘は一切言っていない。
 普段一緒になって、彼女欲しいだとか合コンしてみたいだとか言い合っていた同期は相当ビックリしていたが、諦めたくないのだと言ったら応援するとは言い難いけど頑張れと言ってくれた。
 実はこれも、先輩と恋人として付き合っている向こうの世界でも、変わらず友人で居てくれているらしい相手を選んで話した。
 そう多くを語ってくれたわけではないけれど、向こうの世界の話は興味深かったし印象的だったから、結構色々と覚えていると思う。
 何か出来ることや、向こうの自分との違いを探すように思い返す会話。
 そんな時どうしても引っかかってしまうのが、高校時代から色んな男に抱かれまくっていたという、向こうの自分に関する情報だ。
 自分もどこかで男に抱かれる経験を積んだほうが良いのだろうか。そうしてから、先輩に対しても抱いてくれと迫るべきなのか。
 さすがに先輩を好きだと思ってしまった後では、他の誰かで経験をという気にはなれそうにない。けれどそれでは先輩を落とせないのではと、そこで思考がグルグルめぐって行き詰まる。

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知り合いと恋人なパラレルワールド6

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 先輩を自宅に匿っていた数日はずっと背中合わせで寝ていたが、翌朝は先輩の腕の中で目を覚ました。
 先輩は既に起きていて、どうやらこちらが目覚めるのを待っていてくれたらしい。
「おはよう」
「おはよう、ございます?」
「なんで疑問形だよ」
 おかしそうに笑う先輩は随分と機嫌が良さそうだ。まだ寝ぼけてふわふわとしながらも、ホッとして、それから良かったと思う。けれどそう思う反面、覚醒しきっていない頭では、何が良かったのかがわからない。
 なんでそう思うのだろうと、寝る前のことに思いを馳せた。そうして思い出してしまった色々に、顔が熱くなるのを自覚する。
 ひどい顔をしながら、向こうとの接点が無くなったと落ち込む先輩を、向こうの自分の代わりにしていいとまで言って誘ったのは自分だ。キスをして、服を脱がされ肌を撫でられ、お尻の穴を弄られながら足の間を突かれて、いやらしい声をあげながら先輩の手の中に何度も精を吐き出した。
 先輩がイッて終わった後の記憶はイマイチはっきりしないが、疲れきってぐったりと横たわる自分の体を、先輩に温かなタオルで丁寧に拭かれたことは覚えている。
 恥ずかしさにそっと目を伏せたら、やはり先輩が笑う気配がした。けれどそれは柔らかで優しい気配だった。
「体、大丈夫か?」
「あ、はい」
「久々で辛かったろ? というか、やっぱ下手だったよな」
「えっ? いや、めちゃくちゃ気持ち良かったですけど」
 あれなんかオカシイという既知の違和感がありながらも、開いた口からは思考より先に言葉が滑り落ちる。
「だいたい先輩より先に、俺ばっか3回もイッたじゃないすか」
「は? ってまさか……」
 どうやら先輩も違和感に気付いたらしい。慌てたように体を起こすと、ベッド脇の充電スタンドに置かれた携帯に手を伸ばす。
「戻って、る……」
 暫く2台の携帯を弄っていた先輩は、やがて呟くようにそう告げた。それからこちらに向けた背中が小さく震えだす。
 やっぱりと思いながらも、それを素直に喜ぶことは出来なかった。胸の奥のどこかがシクシクと痛い。
 まさか寝ている間に入れ替わってしまうなんて思ってもみなかった。なんでこのタイミングで戻ってしまうのだと、恨む気持ちをどこへ向けていいのかわからない。
「おかえり、なさい」
 それでもどうにか、震える背中に向かって告げる。
「ああ」
「戻ってこれて、良かった」
 それは自分自身を納得させるための言葉だった。
 こちらの世界に馴染むための、先輩の苦労も苦悩も、一番近い場所で見てきた。元の世界へ帰れたのなら、それはきっと喜ぶべきことなのだ。
 いつ自分の手の一切届かない場所へ帰ってしまうかもわからないような相手を、好きになった自分が悪い。この落胆は、それを忘れて、このままここに居続けるのだと、自分に都合よく解釈してしまった結果だろう。
「バカだな」
「え?」
 携帯を戻して振り向いた先輩は、少し赤い目をしていたけれど、既に泣いては居なかった。
「この状態で目覚めてお互い最初は気付かなかったってことは、お前も向こうの俺と寝たってことだろ」
「まぁ、そうですけど」
「本心は、戻ってくるなよってとこじゃないのか?」
 自虐的な笑みに、なんだかカッと怒りが湧いた。
「先輩こそ、向こうのビッチな俺とヤッて、戻ってきたくなくなってたんじゃないですか?」
「いや。戻ってこれて良かったと思ってる」
 自分でもわかるほど剣のある言葉を投げつけてしまったのに、それを受けても先輩は、むしろ穏やかな声を返してくる。
「向こうのお前には、向こうの俺が必要だ。俺じゃ所詮、よく似た代わりにしかなれねぇよ」
「そんなの……」
 良く似た代わりにしかなれないなんて、そんなのは自分だって同じだ。弱っている所に付け込んで、それでもいいと誘ったくせに、今こうして辛いのは、自分の覚悟が甘かっただけだ。
 泣きそうになる気持ちをグッと堪えたら、伸びてきた手がわしゃわしゃと頭を撫で回した。
「悪い。お前も同じだな」
 苦笑いの申し訳無さそうな顔に、確信してしまう。
 きっと自分は、この人のことも好きになる。

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知り合いと恋人なパラレルワールド5

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 ベッドの上へと引き上げられて押し倒される。
 柔らかなキスは最初だけで、すぐに貪るような激しいものとなって、あっさり翻弄されるばかりになった。
 ドキドキとして恥ずかしくて、肌に触れる手は熱くて気持ち良いけれど、やはり少し怖くもある。そんなこちらの躊躇いと不安は、どうやら先輩にも伝わってしまうようだ。
「逃げ出すならここが最後だぞ」
 キスと肌に触れる手を止めて、怒っているような、それでいて泣きそうな顔をしながら見下ろしてくる。そんな顔で睨まれたって、逃げ出せるはずがない。
「誘ったの、俺ですよ?」
「お前ってやつは、ほんっと……」
 先輩はハッと何かに気付いた様子で、途中で言葉を飲み込んでしまう。向こうの自分と比較されたのだ、ということはわかってしまった。
 自分自身だけを見てもらえないのは、確かに切なくて遣る瀬無い気持ちになるが、わかっていてこのチャンスに踏み込んだのは自分自身だ。
「経験ないんで、向こうの俺ほど楽しませてはあげられないと思いますけど、今は向こうの俺の代わり、でもいいですよ?」
「なんでそう言えるんだ、お前は」
 先程言葉を途中で飲んだのは、向こうとこちらの俺を、似ていても別人として扱ってくれているからだ。似ているからといって代わりにしてはいけないと、ずっとそう思って接してくれていたのだと、踏み込むほどに強く感じている。
 けれどきっと、そう接してくれたからこそ、自分は先輩へ惹かれてしまうのだ。別世界では恋人だったのだからと、先輩への気持ちが育つ前に恋人としての振る舞いや体の関係を求められていたら、それこそ全力で逃げ出していたに違いない。
「だって先輩が向こうの俺を好きなのは事実だから。でもそれは俺にとってそう悪い話でもないですよね」
「どこがだよ」
「向こうの俺も、ここにいる俺も、結局は俺だから、です。だから俺のことも、好きになってください。まずは体から、でもいいんで」
「お前はバカだ」
「でもそんなバカなとこも、好きでしょ?」
 グッと言葉に詰まってしまった先輩に、図星と言って笑ってみた。
「ああ、好きだ」
 途中でやっぱなしはさせないから覚悟しろよ、などと言った割に、やはり先輩は優しくて甘い。後ろを弄られあまりの違和感に身を竦ませて耐えていたら、結局、そこに突っ込まれたのは指だけだった。
 四つ這いになって掲げた尻に指を出し入れされながら、閉じた足の隙間を先輩のペニスに突かれるのが、あんなに気持ちが良いとは驚きだ。それはちょっとペニスを扱かれただけで、あっさり吐き出してしまう程の快楽だった。
 先輩が吐き出すより前に、自分ばかり3度もイッてしまったが、おかげで先輩がイッて終わったのだと思った途端、ベッドに崩れて呆然となった。何度も吐き出してスッキリと体は軽いのに、体の奥の方に快楽の余韻が残っている。

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知り合いと恋人なパラレルワールド4

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 その日は先輩がサークルに顔を出さず、新規契約した方の携帯へ連絡を試みるが返事が貰えず、不安になって先輩のアパートへ向かった。
 何度もドアチャイムを鳴らし、預かっている合鍵を使うべきか悩み始めた所で、ようやくドアが開かれる。ホッとしたのも束の間、先輩のひどい顔に、すぐさま何かがあったのだと悟った。
「どうしたんですか!?」
 勝手に入れと言わんばかりに、あっさり回れ右して部屋の奥へと向かう背に問いかける。しかし返事はやはりない。
「何が起きたんですか、先輩」
 部屋に入ってからもう一度、部屋のドアの少し先で佇む先輩の肩を掴み、体ごと強引に振り向かせながら問う。先輩は泣いていたのかと思うくらいに赤くなった目で、こちらを睨みながら触るなと吐き捨てた。
 そんな拒絶は初めてで、こちらの方こそ泣きそうになる。けれど怯んでもいられない。
「嫌です」
「後悔すんぞ」
 今の俺は冷静じゃないからと自嘲気味に笑うから、絶対に向こうの自分との間で何か揉めているのだと思った。
「喧嘩でもしてるんですか?」
「そんなんだったらどんなにいいか」
 深い溜息を吐き出しながら、肩を掴む手を払いのけた先輩は、よろけるようにしてベッドの端に腰掛ける。
「繋がんねぇんだよ」
 俯いて両手で顔を覆ってしまったから、その表情はわからない。
「繋がらない……って、メールの返事が来ないんですか?」
「違う。返事が来ないんじゃなくて、互いのメールが届かない。その頻度がどんどん上がって、今日、とうとうアドレス不在のエラーが出た。もう、向こうとの接点が無くなったんだ」
 その話に、掛ける言葉がすぐには見つからなかった。
 目の前の先輩はこんなにも落ち込んでいるのに、あちらの世界との関係が絶たれて、仄かな悦びを感じている自分を自覚してもいた。最低で最悪だと思いながらも、これはチャンスだと囁く悪魔の誘惑に惑わされる。
 結局その誘惑に負けて、一歩二歩と先輩との距離を詰めた。
「先輩……」
 ベッドに腰掛ける先輩の目の前に膝をつき呼びかける。
「俺が居ますよ。俺じゃ、だめ、ですか?」
 意を決してかけた言葉に、反応はなかなか返ってこなかった。それどころか先輩は、両手で顔を覆って俯いたまま、身動き一つしない。
 焦れてもう一度先輩と呼んだら、ようやくそろりと顔を覆う手が外される。
「お前……」
「はい」
「自分が何言ってるか、わかってんのか?」
「わかってます」
「お前、ノンケだろうが。いくら似てたって、お前はお前で、俺の恋人のあいつじゃない」
「前に、向こうの俺もこっちの俺もほとんど同じだって言ってたじゃないですか。それ、見た目だけじゃなくて、性格とか、雰囲気とかも、かなり似てるってことですよね?」
 まだ先輩へ向かう恋心を確信する前、恋人だという関係以外に向こうの自分とこちらの自分で違いがあるのかと、興味本位で聞いたことがある。その時の先輩は流石に少し困った様子で、お前はやっぱりお前だよと言った。
「俺に惚れてないとこ以外は、って言ったろ。落ち込んでる今、んなこと言われたら縋りたくなるからヤメロ」
「先輩に惚れてますよ、俺」
 別の世界では恋人として仲良くやっているのだから、元々惹かれ合う素質があるに違いない。
 向こうへ飛んだ先輩とはあまり親しく交流していなかったので、先輩自身も同じなのかはわからない。けれど周りに何の違和感も持たせずサークルに溶け込んでいるから、やはりほとんど同じなのだろうと思う。
 向こうへ飛んだ先輩が男同士にどういうスタンスかなんてこともさっぱりわからないが、向こうの世界でも自分たちは結局恋人に収まっているかもしれない。むしろそうであれば良いなと思いながら、更に言葉を続けた。
「だから良いです。縋られたら、むしろ嬉しいかも」
 本心からだとわかるように、にこりと笑って見せる。先輩はやはり眉を寄せて不満気だけれど、そんな所も好きなのだと、想う気持ちが溢れるだけだった。
 辛くて仕方がないと吐露しながらも、まだこうして自分を気遣い、一線を置こうとしてくれる。
「軽々しくんなこと言うな。俺がその気になって困るのお前だぞ」
「困りませんよ。向こうの俺とこっちの俺がほとんど同じ性格なら、先輩を好きになるのは当然だし、先輩と恋人になれたらきっと俺だって幸せです」
 ベッドの上に落ちている先輩の手へ、そっと自分の手を重ねて置いた。
「先輩が、好きです」
 ぎゅっと先輩の手を握りこめば、先輩の泣きそうな顔が近づいてきて、唇が柔らかに押し付けられた。

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知り合いと恋人なパラレルワールド3

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 何の進展もないまま数日が経過し週末がやってきた。
 先輩は大学をずっと休んでいるが、休みの理由は、家庭の事情で祖父母の田舎へ行っている事になっている。それには、電波の届かないド田舎なので携帯は通じない、というもっともらしいオマケも付いている。
 実際はずっと自分の部屋に匿ったままだった。大学近くのアパートなので、下手に外出して誰かに見られるのも面倒で、気軽に出歩くことも出来ない。
 こちらへ来てしまった先輩と、向こうの自分とはその後も頻繁にメールをやり取りしているようだけれど、その内容はほとんど聞いていない。
 そんな状態の先輩が、週末になってようやく動くことに決めたらしい。というよりは、今後暫く、もしくは最悪このままずっとこの状態が続く可能性があることを、仕方なく受け入れたようだった。
 いつまでも恋人でもない後輩宅へ居座り続けるのが申し訳ない、という気持ちもあるんだろう。まず最初にしたのは鍵交換の交渉と2台目の携帯の新規購入だった。
 学生証も免許もあったし、クレジットカードや銀行のキャッシュカードは問題なく使えたので、それらの作業はスムーズに進み、先輩は世話になったの言葉と合鍵を1本残して自宅へ戻っていった。合鍵を預かったのは、もしまた突然入れ替わるようなことがあった時に、こちらへ戻ってきた先輩に渡すよう頼まれたからだ。
 ホットする反面、どこか寂しいような気持ちになってしまうのは、先輩と暮らしたほんの数日で、先輩に心惹かれるようになっていたからなんだろう。
 大して広くもない部屋の中、先輩と過ごす時間は心地が良かった。
 翌週から先輩は普通に大学へ通いサークルにも顔を出すようになった。平気そうに振舞っているが時折やはり憂いた顔をしている事もあり、何かと気になり自分から話しかける。
 内容が内容なので、結局どちらかの部屋へ寄って近況を聞くことも多く、共に過ごす時間は以前に比べて格段に長くなった。事情を知らない周りは急に懐いてどうしたと、多少驚いても居るようだが、事情は当然説明できないので、話してみたら気が合ったと言って濁している。
 先輩の話によれば、授業内容や周りの人間に多少違いがあるものの、基本的には問題なく過ごせているらしい。向こうとのメールは今も変わらず頻繁に続けているようで、向こうへ飛んだ先輩も、同じように向こうに馴染んで生活出来ているらしいとも言っていた。
 思うところは色々とあるだろうけれど、どこまで踏み込んで聞いて良いのかはやはり迷うことも多くて、結果、先輩の様子見のつもりが自分の話ばかりしている気もする。大変なのはどう考えても先輩の方なのに、他愛無い相談にも丁寧なアドバイスをくれたり、くだらない話を振っても笑って付き合ってくれた。
 ますます心惹かれていることには気づいていたが、走りだした気持ちを止める術なんて知らない。
 別の世界の自分とは恋人なのだと聞かされていたから意識した、という可能性はもちろんあるだろう。そもそも男を恋愛対象としたことがなかったから、それがなければ、気の合う良い先輩止まりだった可能性も高そうだ。
 先輩は向こうの自分とこちらの自分を、しっかり分けて別人として見てくれている。けれどふとした瞬間に気づいてしまう、優しい瞳や、柔らかな笑みや、切なげに寄る眉。
 それらは自分を通して恋人に向けられたものであって、決して自分自身へ向けられたものではないのだ。それに気づいた時のなんとも言えない切ない気持ちは、やはり恋愛感情によるものなんだろう。
 好きな人に既に想い人が居るという状態は珍しい事ではないかもしれないが、それが別世界の自分自身というのは珍しいどころの話じゃない。ライバルが自分自身だなんて、馬鹿げてる上に遣る瀬無いことこの上なかった。

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