無い物ねだりでままならない7

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「あれ? 違いました?」
「全く違う。欠片もかすってない」
「ええ〜」
「恋愛する気がないんだ。というよりは、諦めてる」
「は? 諦めてる?」
「お前も、サークルの女子たちも、俺が望む恋人には程遠いのがわかっているからな。うまく行かないとわかっている相手と、交際する意味なんてないだろ?」
 寂しそうな声の響きに、じゃあいったい先輩はどんな相手を恋人に望んでいるんだろうと思う。思うままに、口に出す。
「先輩って、どんな恋人を望んでるんですか? あ、俺は、」
「いい。知ってる」
 相手の好みだけ聞くのはどうかと思って自分の好みを伝えようとしたけれど、それはあっさり遮られた。そりゃそうだ。恋愛がらみは基本自分の話ばっかり聞かせていたんだから、先輩が知ってるのは当然だった。
 ちなみに、こちらをちゃんと男として見てくれて、頼ってくれるような子がいい。あとまぁこれは必須ではないけど、できれば自分よりも背が低いと嬉しいとは思う。ただの見栄なのは認めるし、小柄とは言っても女子平均身長よりは数センチ高いのだから、自分よりも小柄な女子が少ないってわけじゃないし、そう無茶な要求でもないはずだ。
 頼って欲しいなら頼りがいがあるところを見せなければ話にならないのだってわかっているが、現状、そこがかなり難しい。だって周りに自分よりもよっぽど頼りがいがある男がいっぱいいるんだもん。先輩なんて間違いなくその筆頭だ。
 憧れてるし、先輩みたいになりたいと多少は振る舞いを真似てみたりはするのだけれど、いかんせん見た目が与える印象が違いすぎて、自分が何かしても先輩のように空気が締まるような事は起きない。というのを既に嫌ってほど実感済みなので、やっぱり見た目と中身が伴っていることの重要さってのはあると思う。
 自分の見た目に流されて日和ってるとこがあるのも自覚はしてるけど、打開策がさっぱりわからないのが現状だ。可愛い系の小柄男性で、ビシッと決めるとこは決めるような男が周りに居たらぜひ弟子入りしたいが、もちろん、そんな男と出会ったことはない。
「俺は、お前のことを羨ましいと思ってる」
「え?」
「お前がコンプレックスに感じている、見た目の可愛さも、小柄さも。冗談でも本気でも、お前なら抱けそうなどと面と向かって言えてしまう気安さも、俺にとっては羨ましい。もちろんそれで苦労しているのを知っているし、お前が本当はどんな男になりたいかも知ってるから、羨ましいなんて言われたら怒りしかわかないかも知れないが、それでも、代われるものなら代わってやりたいくらいに、お前の見た目や置かれた環境に憧れてる」
「は? え? 何を突然……?」
 何の話だ。なんでいきなりこんなことを言われているんだ。羨ましいってなんだ。意味がわからない。
「どんな相手と交際したいのか、って話だろう?」
「あ、はい」
 そうだ。そういう話だった。ただ、それと羨ましいって話の繋がりが未だに見えない。
「俺は、こんな俺のことを、可愛い抱きたい付き合いたいって、大真面目に告白してくれるような男がいいんだ」
「ぅえぇっっ????」
 そう繋がるのか、とは思ったが、納得よりも衝撃が強すぎる。
「驚かせて悪かった。俺はゲイで、あいつは当然それを知ってて、それでも付き合いが続いてるから親友なんだ。お前のことは、あんな男に生まれたかった、みたいな意味で話してたから、その実物が見れるっていうんで来たんだと思う」
「ああ、なるほど」
 そこでようやく、心底納得して「なるほど」が言えたけれど、でも突然のカミングアウトに動揺する気持ちは当然まだ残っていた。
「自分が抱かれたい側だから、お前のことを抱きたいという方向で見ることはないが、散々そういう視線にさらされて嫌気がさしてるのも知ってるから、男を恋愛対象に出来る男が不快なら今日限りにしていい。どうせ、後もう数ヶ月で卒業だし、学内で偶然会ってしまう機会もそうないだろう?」
「そ、れは……えっと、ちょ、ちょっと、考えさせて、下さい」
 情報が多すぎてそんなの即答できない。というか、びっくりはしてるけど、今の所不快に感じてはいない。
「わかった。それで、他に聞きたいことは?」
「ない、です」
「それならもう帰っていいな?」
「はい」
 変な話を聞かせて悪かったの言葉を残して、先輩が帰っていく。
 淡々とした口調だったけれど、先輩だって平然と話していたわけじゃないだろう。出来れば明かしたくないと思っていたから、今まで知らされずに居たんだってことはわかる。
 親友のあの人は今日は先輩の家にお泊まりだと言っていたから、帰ったらここであったことを聞いてもらうんだろうなと思うと、胸の奥がもやりとする。
 愚痴って、慰めてもらうのかな。あの距離の近さなら、よしよし大変な目にあったなって、頭くらいは撫でるだろうか。ハグして、背中をトントンするのかもしれない。
 余計なお世話で下世話な想像だという自覚はあるし、そんな想像に気分が悪くなってもいるのに、先輩が帰宅後に親友と何を話すのかが気になってたまらなかった。気にしたって、わかるはずがないのに。
 そんなことよりも、先輩に聞かされた言葉やこれから自分がどうするかを考えなきゃならない。そうは思うが、冷静にそれを考えられる気が全くしなくて、今日はもうさっさと寝てしまおうと思った。

続きました→

 
 
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無い物ねだりでままならない6

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 冬の夜空の下、先輩と並んで自宅へ向かう道を歩く。
 今度埋め合わせすると謝る先輩に、デートだったんだから家まで送ってやればと言ったのは押しかけてきた彼で、思いっきりぶち壊してきたアンタがそれを言うのかと思いはしたが、先輩と2人きりで話したい欲に負けて、たいした距離もないのに素直に送られている。
 先輩は最初少し気まずそうにしていたが、彼が来たことで先輩の過去話が色々聞けたのは楽しかったと言えば、明らかに安堵した様子を見せた。
 先輩が今日のデートについて何がしかを伝えたせいで彼が強襲した、という部分にかなり引け目を感じてくれているらしい。
 正直、彼が来てデートを邪魔されたことよりも、何かを隠されている、先輩が知られたくない何かを彼が知っている、という部分のほうが気持ちを沈ませているんだけど。でもどう聞いたら答えてくれるのかわからないし、これ以上、あからさまにはぐらかされて傷つきたくもなかった。
 結局、2人きりでも本当に聞きたいことは口に出せないまま、自宅アパートが見えてくる。
「じゃあ、次は年明けに」
「あの!」
 きっちり自室前まで送り届けてくれた先輩が帰ろうとするのを、とっさに腕を掴んで引き止めてしまう。
「どうした?」
「あの……あと、ちょっとだけ、俺に付き合って下さい」
 その場で口に出しかけて、でもここはまだ家の外で、やっぱりこんな場所では口にできないと先輩を目の前の自室に誘った。
 逃がすものかという気迫が伝わったか、先輩は素直にわかったと言ってドアをくぐってくれたけれど、でも、ちょっとだけならここで聞くといって靴を脱ぐことはしない。
「で、何が聞きたい?」
 こちらがずっと、先輩に聞きたいけど聞けないと迷いまくっていたのをお見通しだったようだ。
「一番聞きたいのは、先輩があの人に口止めした何か。もしかして彼女は居ないけど彼氏はいて、それがあの人だったりします?」
 先輩の彼女なんて居たことがない話とか、昨日は恋人が居ないゼミ仲間との飲み会だったとかを知っているので、最初は相手が先輩に惚れている可能性を考えたけれど、2人の距離の近さを見てしまったあとでは、すでに2人が付き合っている可能性のほうが高い気がしていた。
「いや違う。あいつは大切にしている彼女がいる」
「え、そう、なんですか……」
 初っ端からはっきり否定されて、でもそれですんなりと納得がいったわけじゃなかった。あの人に彼女がいるって知っても、ちっとも安堵できなかった。
 でも何が気になっているのか、自分自身のことが掴めなくて戸惑ってしまえば、先に先輩が口を開く。
「もちろん、俺があいつに惚れてる事実もないからな」
「えっ!?」
「最初に紹介したとおり、腐れ縁の親友だよ」
「……ほんとう、に?」
 そこまではっきり言われてもまだ何かを疑っているらしい。そうなんですねと流すことが出来なかった。
 同時に、なんだか先輩のほうが、こちらの内面をわかっているんじゃないかと思う。だって先輩が彼のことを好きだって思うと、色々なことにすごくしっくり来てしまうのだ。それを、見透かされている気がする。
「先輩が俺のことそういう目でみないのとか、彼女居ないって言う割にサークルの女子たちのことを全然恋愛対象にしないのとか、好きな人がいたからか、って思ったっていうか……」
 そこまで口にして、ああそうか、と思い至る。
「あ、じゃあ、あの人ではないけど片想いしてる誰かがいる、とか? その相手をあの人は知ってて、先輩とデートしたがる可愛い後輩を観察しに来た……?」
 ああ、うん。これだ。これは納得できる。口止めしたのは先輩に想う相手がいるって部分だ。
 脳内でそう結論づけて、どうだこれで合ってるだろう、という気持ちで見上げた先にあったのは、先輩の呆れた顔だった。

続きました→

 
 
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無い物ねだりでままならない5

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「おい、余計なこと言うなよ」
 低く響いた声に、相手が肩をすくめて教えちゃダメだってと笑う。先輩から何かを聞いて興味を持った、というのは明白だけれど、何を聞いたか言えないとなると、やはり容姿絡みなんだろうなと思って小さくため息を吐いた。
「可愛い自覚はあるんで、どれくらい可愛いか確かめたかったって言われても、別に怒ったりしませんよ?」
「そっかぁ。怒んないか〜」
「もしかして怒らせたいんです?」
「まさか! 君の可愛さ確かめに来た、ってのであってるよ」
 ニコニコ笑顔を絶やさない相手をじっと見つめてしまえば、笑顔がすっと引いて相手もまじまじとこちらを見返してくる。今度は間違いなく、値踏みされている視線だった。
 一気に居心地が悪くなって、でも視線をそらすのは癪で睨みつけてしまう。
「あっ……」
 漏れたのは自分の声だ。
「見るな。探るな。確かめるな」
「はーい」
 先輩に目元を覆われた相手がすぐにやたら素直に了承を返したから、先輩の手もすぐに相手から離されたのに、なんだか胸の奥がもやりとする。
「ごめんね?」
「いえ……」
 また相手の視線が何かを探るように向けられかけて、ハッとした様子で相手が思い切り顔を横にむけた。先輩の言いつけを守るために、顔ごと逸したらしい。
 ただ、口元に手を当てて何かを思案している。……と思ったら、どうやら笑いをこらえている。
 肩が小さく震えて笑いを噛み殺しているらしい様子に戸惑って、助けを求めるように先輩を見遣ってしまえば、小さなため息のあとで相手の頭をパコっとはたいた。
「笑ってないで箸をとれ」
「だってぇ」
「だってじゃない。というかお前、相手が年下だからって失礼がすぎるぞ」
「うん、それは、本当にごめん。ごめんね」
 先輩に謝ったあと、こちらにも再度謝罪をしたあと、相手は一度大きく深呼吸をして気持ちを切り替えたらしい。
「よし、じゃあ、食べよう。俺のせいで待たせちゃったよね。ごめんね」
 またしてもごめんねを繰り返しながら、パンっと音を立てて両手を合わせた相手が、いただきますと声をあげる。
「いただきます」
「いただきます」
 先輩がそれに続いたので、自分も同じように告げて箸をとった。
 その後は鍋をつつきつつ、相手が知らないサークルでの先輩の話や、こちらが知らない先輩の昔話などを取り混ぜながら、基本はやっぱり他愛ない話をして時間が過ぎていく。
 彼が来なければ知ることがなかった先輩の過去話を聞けたのは嬉しかったが、こちらが話す先輩との話を本当に楽しげに聞く相手と違って、こちらはずっと胸の奥に何かが引っかかって心底楽しめはしなかった。
 どうしてもクリスマスデートを邪魔されたって気持ちが残っていたせいで、多分、彼らの過去の楽しげな時間に嫉妬していたんだと思う。
 腐れ縁の親友だって言うんだから、彼らがともに過ごしてきた時間は圧倒的に長く、目の前で繰り広げられる気安い応酬だってなんの不思議もないのに。他人とこんなにも距離が近く接する先輩を見て、いささかショックを受けた部分もあるかも知れない。
 お前は他人との距離感が近すぎると指摘されたくらいだし、先輩ともかなり距離が近いのだと思っていたせいだ。別に全然近くなかった、という現実を突きつけられて、自意識過剰っぷりが恥ずかしい。
 なお、全員お酒が飲める上に、先輩が用意していた飲み物の中にはちゃんとアルコール類も混ざっていたのに、結局最後まで一滴も飲まないシラフ状態を貫いた。飛び入り参加の親友が酔っ払って余計なことを話すのを恐れた先輩が提供を拒否したせいだ。
 先輩はこちらには飲みたければ飲んでいいと言ってくれたが、年上2人が飲まない状況で自分だけ飲みたいとは思えなくて断った。酔っ払って余計なことを口走って困るのは自分も一緒だと、わかっていたせいもある。
 過去の恥ずかしいアレコレだって知られている仲なのだろうから、先輩はそれらの暴露を心配しているんだろう。そうは思うのだけれど、でも、食べだす前に余計なことを言うなと言った先輩と、教えちゃダメだってと笑った相手のことを頭の隅から追い払えない。
 ちゃんと気を遣って貰ってて、2人だけが通じる話なんて一切されなかったのに。そろそろお開きにと言われてめちゃくちゃホッとしたくらいには、しんどい鍋パになっていた。

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無い物ねだりでままならない4

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 出来上がった鍋を前にそれぞれ取り分けて、いただきますと箸を手にしたところで家のチャイムが鳴った。
 思わず見つめてしまった先輩も、来訪者に全く心当たりが無いらしい。それでも無視するわけにもいかず、すまんと一言いい置いて玄関に向かう。
「よぉ! 来ちゃった〜」
 手持ち無沙汰に耳を澄ませてしまえば、随分と軽やかで明るい声が漏れ聞こえてくる。どうやら何かの勧誘とかセールスではなく、知り合いが訪ねてきたらしい。
 部屋のドアに阻まれて先輩の応答する声は聞こえないが、何やら揉めている気配の後、来訪者はどうやら先輩を振り切って上がりこんだようだ。
「おいっ!」
 怒鳴るに近い先輩の珍しい声は、開いたドアの先からしっかりと聞こえてきた。それを全く気にする様子がなく、部屋に入ってきた男はニコリと笑ってヒラヒラと手を振ってくる。
「よっ、初めまして〜てかホントめっちゃ可愛いね、君」
 先輩の知り合いならこちらも挨拶をと思うのに、続いた言葉に開きかけた口を閉ざして眉を寄せる。なんだこいつ。
「あ、可愛い禁句の子? ごめんごめん。自覚ありって聞いてたけど、自称するのはありでも人から指摘されるのは嫌とかあるよね〜」
「おいこらやめろ。少し落ち着け。お前の勢いに明らかに戸惑ってるだろ」
 べらべらと話し続ける相手に圧倒されていると、顔を覗き込む勢いで近づいてきていた相手を、先輩が肩を掴んで引き離してくれた。
「だってこんなのテンション上がりまくりじゃん?」
「煩くするなら帰れ」
「冷たいなぁ。俺とお前の仲なのに〜」
「あの、先輩、そちらはいったい……?」
「ああ、こいつは」
「あ、自己紹介まだだったね」
 先輩を遮って語られた自己紹介によると、先輩とは幼馴染の親友で、他大学の学生らしい。ただの腐れ縁だと嫌そうに言いながらも、先輩はちゃんと相手の分の取皿を用意してよそってあげている。
 まぁ相手が部屋に入ってきた瞬間にはわかっていたことだけれど、先輩と2人きりのクリスマスデートはここで終了だ。
 そんな残念な気持ちに素早く反応したのは来訪者の方だった。
「あ、邪魔者帰れって思ってる?」
「まぁ、ちょっと」
「素直!」
 またしても可愛いと言って笑う相手に、こちらを揶揄する気配も値踏みしている様子もないのだけれど、何がそんなに楽しいんだろうとは思う。なぜだか、なかなかに珍しい反応をされている。
 というか、つい先程「可愛い禁句の子」と判断されたはずなのに、全く控える様子がないところからして、かなり変な人って感じだ。
 ケラケラと笑っている相手を横目に先輩を見つめてしまえば、申し訳無そうにすまんと謝られてしまった。
「二人っきりのお家デート邪魔しちゃってごめんね〜。どうしても君に会ってみたくて押しかけちゃった」
「俺、ですか?」
 後輩の男とお家デートなんて話を聞いて、先輩の貞操の危機を救いに来た的な理由だと思っていた。
 先輩自身の口から可愛がってる後輩と明言されているし、見た目が可愛い系とも知っていたようだし、大事な親友が可愛い男の子に絆されて、求められるまま応じてヤバい道に進んでしまわないか監視するとか。もしくはこの人自身が先輩に惚れてて、他の男にとられてたまるかと乗り込んできたとか。
 そんな方面でしか考えてなかったから、会いたかったなんて言われても意味がわからなすぎる。

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無い物ねだりでままならない3

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 クリスマスデートは結局、25日の夜に先輩の家で鍋、ということに決まった。世間一般でいうところのクリスマスデートのイメージとは明らかに違うが、先輩の家にあがったことがないという好奇心に負けて承諾した。
 お家デートって言葉もあるし、鍋の具材は一緒に買いに行くし、まぁきっとデートには違いない。
 そもそも、先輩が卒業してしまう前にもうちょっと一緒に何かしたい程度の曖昧な誘いだったので、明確に相手と行きたい場所があったわけでもなのだ。もっと言えば、デートという単語を使いはしたが、そこに恋愛要素がないことなんて双方わかりきってもいる。
 なお、24日の夜には何があるのかと思ったら、ゼミの彼女なし連中との飲み会だそうで、説明が面倒で回避できなかったと謝られた。
 確かに後輩男子とのクリスマスデートを、正しく説明するのは面倒だろう。特に、デートであってデートではない部分とか。
 仮にデートだとは言わなかったとしても、恋人なしを公言してる男がクリスマスの集まりを断るだけでも絶対に勘ぐられるだろうし、もし一緒にいるところを誰かに見られた場合は間違いなく誤解されるだろう。言わなくたって、デートだなって思うだろう。
 ただ友達と遊びに行っただけをデート呼ばわりされた過去が何度もあるから、そう思わせる何かが自分にはあるようだ。
 男女関係なく、人との距離感が近いと言われたこともあって、多分それが主な原因なんだろうけれど。でも改善の仕方がよくわからなくて諦めた。
 どうやら、それも女の子に異性として意識して貰えない原因の一つらしい。それを指摘してきたのも先輩だ。
 先輩がデートという単語をあまり追求してこなかったのだって、こちらのそういう過去を多少は知っているからで、先輩からすればただの自虐扱いかもしれない。きっと多少はそれもある。デートしようを相手が誤解しない確信があれば、開き直ってわざとそういう言い方をするのも、先輩相手が初めてじゃない。
 ただ、可愛いのを自覚する容姿ではあるが、気合を入れて女装めいた真似をすればまだしも、一見して女に間違われることはないから、こちらの好奇心とワガママで先輩にゲイ疑惑などもってのほかだ。クリスマスというイベントが誘いやすかっただけで、クリスマスイブに拘る間柄でもないし、実のところ、約束を反故にされないのなら25日ですらなくてもいいくらいだった。
 クリスマスがただの口実でしか無いから、鍋が候補に上がったり、それを笑って受け入れられる。
 そんなわけで、25日の夕方に近くのスーパーで待ち合わせて、鍋の具材をあれこれ買った。
 場所を提供してもらうのと、飲み物類は重いからと先輩が先に用意してくれていたのもあって、支払いはこちらが全て負担する気でいたのに、サークルの後輩に奢れる機会ももうほぼないからと逆に先輩が出してくれた。とはいえ、たかりたくて誘ったわけではないので、ざっくり半額に飲み物代の色を付けて、遠慮する先輩に押し付け受け取らせたけれど。
 だって年明けには初詣デートも承諾されているのだし、こちらのワガママに付き合ってくれるだけで充分で、いくら相手が先輩でも金銭的負担まで強いたくはなかった。
 先輩からすれば、せっかくの奢りを断って無理やりお金を押し付ける行為も、こちらのワガママを受け入れてるって認識だったりするだろうか。だとしても、そこはやっぱり譲れないよなと思う。
「せっかく奢ってやるって言ってるのに、可愛くない後輩だって思ってます?」
 それでも結局、確認するみたいに聞いてしまう。
「いや。お前にたかり気質がないのは知ってる。ただ、デートだの参考だの言ってたから、一応こっちが出すべきかと思っただけだな」
「あー……デートで相手が彼女だったら奢ってた、と」
「世間一般ではそうなんだろう、程度の認識でしかないぞ」
 そもそも彼女がいたことがないんだからと、前にも聞いたセリフを続けた後、恋人が割り勘派ならそれに合わせるとも言われた。
「なるほど。相手次第で臨機応変にって感じっすね」
「恋人に限らずそういうもんじゃないか? まぁ、そういう部分で我を通したいほどの拘りがないだけとも言うが」
 だから奢りを断られたくらいで可愛くないなんて感情はわかないなと、再度はっきり言葉にして伝えてくれる。
「俺、そんな不安そうな顔してます?」
「どういう意味だ?」
「可愛くないとか思ってないよって、わざわざ言い直してくれたっぽいから。先輩に可愛くないって思われたかもどーしよーって顔でも晒してんのかと思って」
「そんなことを思ってたのか?」
 多少は。という事実をわざわざ伝える気はなくて、えへへと笑ってごまかしておく。
「じゃあ素でわざわざ伝えてくれてんだ。そういうとこ、ホント、モテル男っぽいのに」
「俺は絶対お前のがモテてると思うぞ」
「女の子に?」
「異性として意識されてないだけで、実際、仲良くしてる女子は多い方だろう?」
「男として意識されなきゃ意味ないんです〜」
「じゃあ、まずはお前が異性として意識する相手を、本気で口説いてみればいい」
「ええ〜……」
「女友達を異性として意識してないのはお前も一緒だろう。俺を誘った勢いで女子を誘えば、女子とのデートだって容易にできると思うが?」
「そんなことしたら誤解されて面倒なことに、って、あー……まぁ、言われれば確かに、俺も女の子の友達を異性として意識しないようにしてるとこ、あるのかも?」
「ほら、お前が認識できてないだけでお前は充分女子にモテてる。良かったな」
 そうかなぁ。そう言われるとそんな気もするけど、先輩が言うとなんか全部そうっぽい気になるとこもある気がする。
 なんてことを考え込んでいる間に、先輩は買ってきた具材で鍋の準備を始めている。余計なことを考えている場合じゃない。
 慌てて手伝いますと声をかけて、狭いから邪魔だという先輩を押しのけ、先輩を脇において先輩が指示するままに食材を切る作業はけっこう楽しかった。
 ついでに、言う事きいておとなしく待たないのは可愛くないですかと、返答にほぼほぼ確信を持って聞いてみれば、こちらの意図をしっかりわかっているらしい先輩ははっきりと呆れた顔で、充分可愛いと返してくれた。
 可愛くないとは思わないから可愛いに昇格したと、わざとらしく喜んで笑えば、つられたように先輩も笑っていたので、そういう他愛ないやり取りが楽しさを倍増させたと思う。

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無い物ねだりでままならない2

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 月曜2限を学食の片隅で先輩と過ごすのは楽しい。
 4年になるとゼミや就活で参加が難しくなるから、サークルでの活動は3年までがメインになるのは仕方がなく、先輩も同様に、最近はもう滅多にサークルには顔を出さなくなっている。先輩も自分も自宅外通学で大学近くにアパートを借りている身なので、今までもサークル帰りに皆で夕飯をという事は多かったのだが、それも昨年までの話だ。
 だから思いがけず、先輩と一緒に食事する時間が定期的に持てるようになったのは嬉しかった。
 他のサークルメンバーがおらず、2人きりというのもいい。相手の視線が自分にだけ向かっているという緊張もなくはないが、憧れと言って差し支えない相手を独り占めにして、サシで話ができる喜びのが断然大きい。
 先輩は自分にないものをたくさん持っている。
 大柄でちょっと人見知りっぽいところがあるせいか、一見近寄りがたい雰囲気があるものの、慣れてしまえば結構簡単に笑顔をみせてくれるし、なにより落ち着いて穏やかな所作のおかげか、一緒にいるとなんだかとても安心感がある。しょうもない話でも楽しげに相槌を打ってくれる聞き上手なとことか、困り事があったときの的確な助言とか、頼りになる男って感じがする。
 絶対モテそうって思うのに、どうやら彼女は居ないらしい。学部はともかくサークルの男女比はほぼ半分で、先輩狙いっぽい女子にも心当たりがないわけじゃないんだけど。
 ほんと、もったいない。
 自身の恋バナはちょっと苦手っぽくて、なんで恋人を作らないのか明確な理由は知らないけど、その気になればすぐ相手が見つかる的な余裕があるのかも知れない。
 羨ましいって言ったら、そっちこそモテるだろと言われたことがあるけれど、とんでもない誤解だ。女の子は自分とそう背の変わらない可愛い男を恋愛対象にしない。そこそこ仲良くなれるし、男としての意見を求められることはあるのに、異性として恋愛対象にならない矛盾を抱えている。
 男にもてても嬉しくないんすよと不貞腐れついでに、下心のある男の視線や態度の不躾さを愚痴ったら、そういうところが女子に共感されて異性として見てもらえない原因じゃないのかと指摘されたけど。そうかもって思っちゃったけど。
 しかし先輩との貴重なランチタイムは残り少ない。というか今日が最後と言っていい。
 今日が年内最後の講義がある週で、あとはもう冬休みとテストしかないし、先輩は春には卒業してしまう。
「どうした? 今日は元気がないな」
 残念だなという気持ちがだだ漏れているのか、顔を合わせるなり心配されてしまった。
「いやだって、先輩とランチするの今日で最後って思ったら……」
「ああ、そうか。もう講義ラストになるのか」
「ですよ」
「可愛がってる後輩に、元気がなくなるほど惜しまれてる、ってのは素直に嬉しいな」
 ほんのりとはにかんで笑う先輩に、ズルいと思って口を尖らせる。そこそこ可愛がられてる部類な自覚はあったけど、先輩の口から直接言われたのは初めてだ。
 先輩からはこちらの容姿に対する下心を感じないからか、可愛がられても、可愛がってるって言われても、むしろ嬉しいのだけれど、嬉しい自覚があるからこそなんだか恥ずかしい。
「じゃあ、その可愛い後輩に、もっと思い出くださいよ〜」
「思い出?」
「クリスマスデートとか、初詣デートとか。てか先輩、年末年始って実家帰ります?」
「さすがに帰る。てかデートって言ったか?」
「言いましたね」
「俺は男だが?」
「先輩は俺のことそういう目で見ないから、デートも全然ありですね。てかいつか彼女ができたときの参考にでもしようかと」
「参考にならないだろ」
 彼女が居たこともないのにと続いた言葉に、まぁいいじゃないすかと適当に濁しておく。だって別に本気で参考にしようなんてことは思ってない。
 先輩が卒業してしまう前にどっか2人で出かけたいな、という欲をかいてみただけの話で、先輩が可愛がってるだの素直に嬉しいだの言わなければ、こんなこときっと言い出してない。
「ダメですか?」
「ダメ、ではないが……」
「ではないが?」
「男にもてても嬉しくないとか言っておいて、自分で誘うのはありなのか?」
「だって先輩、俺のこと抱けるとか抱きたいとか、一度でも思ったことあります?」
「ないな」
「そういうとこですって。俺をそういう目で見ない男は貴重なんで、先輩のこと逃したくない気になりました」
「お前こそ、そういうところだぞ」
「先輩には通じないと思ってるんでオッケーです」
「いまので充分煽られたが、本気で言ってるなら、どっちがいいんだ」
「どっちも、って言ったら?」
 押せばいける気配の中、最後と思ってわがまま放題言ってみたら、呆れた顔をされたものの、結局両方承諾された。

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